変なモノ、保管します。 作:喋る観葉植物
シャーレのビルは素晴らしいところで、景色は良く観葉植物も多い。ゆえに今日もまた、新しい物語が始まる。
「こんにちは…先生…。今日は、何ですか……?」
「“やぁ。今日はちょっと手伝ってほしいことがあって呼んだんだけど、…もしかして疲れてる?”」
「いえ……とくには…。」
それよりもめんどくさいから早く終わらせませんか。と気だるげに吐いたアオイは、態度によって「手短に済ませろ」と伝える。一方の先生は微笑んだまま、ソファへ寝っ転がるを通り越して固着した彼女へとある一通の手紙を手渡す。
「ん~……。」
「“…気持ちはわかるけど読んでほしいかな。きっとなにか、アビドスでの経験が良い刺激になるかもしれない”」
「わかった……読みます……読みますって、…なんで、そんなに……読んで…ほしいんですか…。」
「“君がメロンソーダを好きな理由と似てるかな。「なんとなく」ってやつだよ”」
「あ゙ー……なんとなくね、はいはい、……わかりました…。」
"アビドス" から、生徒の名前は "奥空アヤネ" 。アビドス高等学校の一年生の筆跡は実に達筆で、けれども随分とかわいらしい。
曰く、アビドスがピンチらしい。曰く、学校が狙われているという。曰く、物資が必要であるという…………切羽詰まった状況にある事は把握できた。ただ、態々どうしてこんな量の文字を書くのかが解らない。
佐藤アオイは首を傾げた。彼女の書く文章やチャットは非常に怠惰なもので、『カラオケ〇〇:〇〇 必要:~~』や『〇〇〇(合流場所の共有、実質的な「〇〇〇へきて」)』だけで終わることがもっぱら。酷いと文章の体を成していない記号祭りだったりもする。
「こんな…書く……?」
「“手紙だからね。ちゃんと伝えたいことが伝わるように書かないと、でしょ?”」
「……うちの、後輩ら……どう…思ってるんだろ…。」
そのころ保管部の部室では。
「解読班!!解読班は何を!?」
「こんなのわかるわけないよ、何なのかな『シャーレ』って何なのかなぁすっごい混乱するよオ!?!?!?!?」
「こちらエージェントノックダウンー!!!繰り返しますエージェントノックダウン!!!誰か新しい
「………ひょえっ…。」
「“アオイ?!どうしたの、顔が真っ白だよ!?”」
「真っ青、通り越して……真っ白?……白、白、い鉢植え……うっ!?」
「“アオイ!?!?”」
先生は急いで受け止めようとしたものの、間一髪で間に合わない。人から爆発音が鳴ったらば、誰であっても一瞬か数舜くらいは動きが止まる。
「……痛い……!」
「“ほんとに大丈夫?!人から鳴っちゃいけない音がしたけど今!!!”」
爆発音。
肉体から生じた音の発生源は二人の耳が狂っていなければ確実に背中のあたりで、すわ骨折か、すわ粉砕か。あるいはヘルニアか何かをやったか。
嫌な予感ばかりが頭をよぎる。心なしかゆっくりと立ち上がるアオイの背も以前の倍、曲がっているような…。
「多分、大丈夫…な気が、する……」
「“そ…そう?なんだか、その割にはその、背が曲がってない…?”」
胴体を持たれた猫が上昇と共に伸びていくかの如く、アオイはゆっくりと姿勢を伸ばす。直立する姿はエル伝な輪っかに出てくる蛇の少女さながらだ。
「それは普通に……姿勢が悪い、だけ……でしょ…。」
ゲームキャラのデフォルトポーズ。
T字のアレの体勢をとり、勢いよく腰をひねる。バゴッ!と、またしても人ならざる音が出た。
ここまでくると流石に言い訳がしにくい。
何が言い訳しずらいかって運動不足だ――否、動いたりは異物確保や脱走した奴らの再収容で死ぬほどやっている。だがあれは、いうなればスタントアクション映画並みにきつい、『あゝ無常☆社畜ルナティック☆肉体破壊』といった具合の重労働で、決して運動と呼べる行為ではない。極秘エージェントもしくは特殊部隊仕草を断じて、断じて運動と宣ってよいものか。
シャーレからの協力要請の建前のもと、ここにアオイの休暇先は決まる。
「“アビドス行こう、ほら動いた動いた”」
「やだ~……保管部の方が、もっと…もっと面白いのに……!」
部屋を出た先の観葉植物の枯れ葉が、薄灰色のパーカーにくっついた。
うるさい。
{部屋を出た先の観葉植物の枯れ葉が、薄灰色のパーカーにくっついた。}
やかましい。
{エレベーターの中で――――――。}
しゃべるな。
いつからこうなってしまったのか正直覚えていない。でも原因ははっきりしてる、たぶん過労だ。気にしないでおこう。
「んー……。」
「“ひょっとして、痛くなってきた?”」
「や、腰の方は、まぁ……大丈夫……なんです…けどね。」
「“…そういえばユウカがいってたっけ。確か『アオイは体調を崩しても倒れるまで突っ走るタイプだ』とか云々”」
「あぁ……高熱でも、脱走したパンちゃんを…しばき倒して……ました…。」
「“何度くらいだったの?”」
「よん…じゅういちぃ……くらい、だった……ような…。」
「“41度は重症だよ!!!!”」
そういや先生って男なのか女なのかどっちなんだろ。
声も中性的でしかも見た目もボーイッシュというか、男装の麗人Lv9999.というか。世間じゃこういう面をイケメンと呼ぶと聞いたけど。
まぁいっか、それよりこっちの方が重要だもん。
「――なんか…ずっと……砂ばっか…。んで先生……よく…そんな、少ない…荷物だけできました…ね……。」
「“アオイの荷物の方はすごい重そうだね。そのバックパック、重くないの?”」
「……慣れ、ました。登山用の、クソでか……なのは…いざってときのため……」
あたしのは必要な分のみの荷物、あなたのは無謀なバックパッカー。砂漠の水は貴重、なのになんでペットボトルの一本も持たずに歩いてるのこの人!?
「正気を疑う。」
「“えっ、どういうこと?!”」
「いえ…なんにも…」
あたり一面銀世界ならぬ金世界。ここアビドス地域は人が住んでいる場所の近くにあるレストランやコンビニ、飲食店なんかを除いては、廃墟か砂の方が多い異色の自治区。
歩きまわるには十二分どころか万全以上の準備と対策が必要とされる試される大地――へ向かう先生に巻き込みを宣言された私は、シャーレのビルを出た直後、とあることに気が付いた。
そういや今持ってるカバンの中、最低限の物しか入ってないじゃん。
惰性に従い雑に軽い物や持って帰るべき物だけがつっこまれた中身は、特にこれといった有用な品が無い。
発掘された毒水が入っているらしき古水筒と新しい方の水筒という二分の一のデス・トラップ、古い方のはひどい臭いだった。
いちいち薬箱から出すのも面倒だからと年がら年中ポケット待機の花粉症薬。ボロッボロの筆箱とお財布。モモトークの通知がカンストしているスマートフォン。他、数多の有象無象。
こんな荷物で砂漠に行ったらどうなるかなんて言うまでもない。何処かで乾ききった私が見つかって、カバンに入っていた道具やスマホの惨状から自殺と決めつけられるだろう。
ついでに万が一に後輩たちか誰かが自室というか寮をガサ入れした場合、決めつけは更に強固な動機とみなされるだろう。というのも、この身は軟弱者ゆえいつ過労が祟るかもわからないので、勉強机の引き出しに遺書まがいの指示書を保管してあるのだ。
つまり、死亡→書類発見→お通夜のクソコンボが
「(後輩を使いっぱしるようで悪いけど頼んどこ…。)」
文章も何も考えず、いつも通りモモトークを開き、いつも通りユイへ惰性500%のメッセージを送る。
⦅ユイ アビドス用、荷物 あと任せる⦆
道中で待ち構えていたユイが渡してきた荷物は、まさかの遭難前提の豪華仕様であった。
「……遭難前提、だったんですけど…ねぇ。」
「“ありがとうシロコ”」
「え…あっ、うん…別に、大丈夫」
前提ってなんだっけ。
アビドス高等学校の人から渡されたスポーツドリンクをまさかの直で飲んだ先生。
「ほんと…前提って、なんだっけ……」
その情けないザマを見て心が叫んだ、いやダメでしょうがと。
これで女性であればまだ許される。
問題は男性だった場合、このままではゲヘナの風紀案件待ったなし。
ここは一つダウトといこうか。先生よどうか女性であってくれ。
「そういや……先生の、性別って――」
「“――でね、アビドス高校がどこなのか教えてほしくって”」
「それならついてきて、これから私も学校に行くつもりだったから」
「“わかった、ありがとう”」
待った、なんか変だ。
おかしい。だって私が意識を逸らしたのはコンマ数秒だけ、熟考の時間込みでも7秒前後…なのにどうして話が進んだ?
以前に廃都市のショッピングモールで見つけた【永久エレベーター】*1のような挙動が起きたとしか考えられない、会話の内容は何処に行った。
内容だけじゃない。「でね、」と話を変える素振りがあることから、前半で別の話題が出ていた可能性が非常に高いと推測できるけど……その肝心の前半は一体どこへと消えてしまったのか。
あるいは私と違い、二人ともこの短時間の内にグッドコミュニケーションを成し遂げたのだろうか?
もしコミュを短期間でってんなら、あたいジェラっちゃう!!
私ゃコミュ強には人一倍ジェラシー感じちゃう性格でね……許さないよこんの王子様系と狼ヤローがこんちくしょう。
「ん、この子ってば敵対心むき出し」
「死にたいらしいな。」
「“なんだか怒ってる…?”」
キレてないよ。
嘘、ほんとは九割九分くらいバチギレだよ。
でもいいもんね、二人が私を置いてけぼりにするんならこちらも手を打つまでです。
「“アオイ、アオイ……顔が怖いよ!!あとスマホのキーボード操作が早い!!”」
「鬼の形相ってこういうことを言うんだね」
*佐藤 アオイ は 仲間 を よんだ!
しかし フレンド は 誰一人として アオイ の 無理難題に 答えること が できない!
「“アオイ??ねぇちょっと、アオイ??”」
「――帰ります…。」
「泣かないで、わたしがいるから」
「キレていい?」
「なんで!?」
【佐藤アオイ】
天狗じゃ…天狗の仕業じゃ!!
ちな天狗じゃなかったらおまいらぶん殴るかんな。
ポルナレフ状態的なナニカを食らった結果、すでに分かり合っていた先生とシロコに嫉妬。理不尽にも憤慨し友人達を呼ぼうとした。
【先生】
ちゃんとコミュニケーションができる人であったばかりに、予想外の形でアオイを置いてけぼりにした人。何故かアオイが怒っているので困惑した。
なお、基本的にアオイは感情表現が薄いマイペース社畜の極みなため、一時的にではあるものの感情表現を復活させたファインプレーでもある。
【シロコ】
おまえはなにをいっているんだ。
先生は飲み物に口をつけ、アオイは乱心してなんかやりだす混沌の出会い。
もう面倒臭いのでこれ以上まともに考えるのをやめた。思い切りのよい思考放棄である。
アオイのパーカーにくっついた、熱にあおられた鰹節の如く揺れる枯れ葉が気になってしょうがない。
【めいびー観葉植物】
脱 走 で き ま し た ☆(by枯れ葉)
なんかすごいことをしてる生徒が大好きな暫定ゲマトリア。
子供たちの持つ可能性に崇高のヒントを見出しており、その辺の観葉植物を経由して青春をのぞき見している男。
余談としてモチーフはヤドリギ。ほかの植物に寄生するアイツ。
こんなネタバレしていいのかって?
『またまた御冗談を』、これがネタバレなものですか。