エーテルの女王はホロウにて 作:._.
それは旧都崩壊よりも少しだけ前のこと
「…………ここは、どこ?」
一人の少女がとあるホロウの奥深くで目覚めた。
しかし、少女はその場所がホロウという名であることすら知らない。
無知な少女が少し歩いているうちに、四つ足の異形の群れが彼女の前に現れる。
それは後にホロウ調査協会がハティと命名するホロウの怪物の一種だった。
「─────!!!」
「……ついてこいって、言ってるの?」
しかし、ハティは彼女を襲わず、どこかに案内しようとするかのように何度も彼女に向かって吠え、彼女の服の端を咥えて引っ張った。
引っ張られて行った先はホロウの最奥。
そこには、まるで玉座のような形のエーテル結晶が存在した。
ハティはまるで座れと促すかのように玉座の横で座り込んだ。
「……すわっていいの?」
「─────!」
少女の言葉に応えるように、ハティは一度だけ吠えた。
少女はしばらく迷って、その末に玉座に座った。
座ったその瞬間、少女の元に大量のエーテルが彼女の下に集まり、その体に吸収されてゆく。
「っ!あ、ああアアァ──!」
エーテルを吸収した彼女の体は、腰ほどもなかった身長が180cmほどの長身に伸び、メリハリのある身体へと変わってゆく。
エーテルが物質化し、彼女の新たな衣服が造られてゆく。
黒い表に、黄緑の蛍光色の裏地を持つその衣服は、エーテリアスの色味を想起させるものだった。
それと同時に、彼女の脳内に彼女に必要なすべての知識が刻み込まれる。
「私は、女王……?虚を統べ、破滅を……」
与えられた情報量に耐えきれず、彼女は気絶した。
今ここに、ホロウの内部にて絶対の王権を持つ女王が誕生した。
零号ホロウが旧都陥落を引き起こす、僅か三年前のことである。
──────────
それからの三年間、彼女はホロウの内部で日々を過ごした。
エーテルの扱い方を体得し、エーテリアスを操る術を身に付けた。
そんなある日の事だった。
「……エーテルの流れが、おかしい」
彼女はホロウ内部に漂うエーテルの流れの不安定さに気がついた。
この三年間、彼女はこのような異常──即ち活性化の兆候──を見つけるたびに抑えつけていた。
ホロウと人間の争いは双方にとって望むことではないと考えたからだ。
その日も、彼女は同じように異常な兆候のあるホロウへ、裂け目を通じて向かった。
だが、向かった先はすでに戦場だった。
人間の兵士が数多のエーテリアスを消滅させ、ホロウの鎮圧を図っている。
しかし、それでは効果がないことを彼女は理解していた。
「……退がれ」
彼女のその一言で、エーテリアスが動きを止めた。
兵士たちの中から、一人の隊長らしき男が前に出た。
前に出た兵に彼女は問いかける。
「お前たち……ここで何をした?」
「……ホロウの鎮圧が俺たちの任務だ」
「そのようなことは聞いていない。……この場所は、このように暴れ出すはずじゃない」
「……お前、何を言って──」
「お前たちが手を加えなければ、このようなことは起こらないと言っている」
「……お前、もしかして……エーテリアスか?」
「私の同胞をお前たちがそう呼んでいるのなら、私はそれを統べる力を持ち合わせている」
兵士たちの中に動揺とざわめきが広がった。
前に出た男は兵士たちを落ち着かせようとした。
だが時すでに遅く、兵士たちの間から一発の銃声が響いた。
「……?おまえ、なにを──?」
彼女の衣服を腹から滲み出た血液が染めてゆく。
彼女の表情が、事態を把握していない疑問の表情から、痛みによる驚愕に変わる。
そして
「お、おまえ、わたしをころそうと……?なぜ?私は、わたしはただ─────」
その表情は段々と怒りへと変わった。
「許さない、お前たちを許さない……!ここで死ね!」
彼女の叫びに呼応するように、動きを止めていたエーテリアスたちが一斉に動き出し、さらにホロウ内の他の地点で軍と戦闘していたエーテリアスまでもがこの場所に集い始めていた。
エーテリアスが兵士たちを次々と惨殺する中で、身体と心に傷を負った彼女は一人、足を引き摺って自らが元いた場所に戻ろうとしていた。
足を引き摺る彼女の身体から、徐々に彼女を形成するエーテルが剥がれ落ちる。
自らを維持する力すら失いかけた彼女の体は徐々に元々の子供の姿へと戻るが、その瞳には消えない憎悪が渦巻いている。
「ゆる、さない。いつか、かならず……!」
憎悪の中で、彼女は意識を失った。
『零号ホロウ内にて出現、数多のエーテリアスを使役。この個体の攻撃により、約5分の内に一大隊が消滅』
これが防衛軍と調査協会に唯一残されている「特殊統括型エーテリアス・コード:モルガン」の記録である。