宮野志保に幼馴染を用意してみた   作:コ哀推進派委員会

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バスジャック巻き込まれ事件

赤井秀一を尾行していたはずが、気づけばバスジャック事件の真っ只中に巻き込まれていた。

 

――我ながら、何を言っているのかと思う。

 

しかし、現実は常に想像を凌駕する。まさかこんな唐突な形で非日常に放り込まれるとは、予想だにしなかった。

 

バスを乗っ取ったのは、つい先日、リーダー格の矢島邦男が警察に逮捕されたばかりの宝石強盗団の残党だろう。奴らの狙いは明白だ。人質を盾に、勾留中の仲間を取り返そうという魂胆。使い古された手口だが、だからといって油断はできない。

 

正直、この程度の三流チンピラどもを制圧するのは造作もない。だが、問題は――バスの中の“顔ぶれ”だった。

 

車内には、コナン君率いる少年探偵団の子供たち。FBIの捜査官である赤井秀一とジョディ・スターリング、そして――あの女、ベルモットの姿まである。

 

この面子の中で下手に動けば、ただの制圧では済まなくなる可能性すらある。

 

「大丈夫?」

 

とりあえず、隣の座席で震える歩美ちゃん、光彦くん、元太くんの3人に声をかけてみた。小さな肩がわずかに跳ねたが、光彦くんが胸を張って答える。

 

「だ、大丈夫です。今回もコナン君がきっと解決してくれます!」

 

その言葉に、元太も歩美ちゃんも小さく頷いた。

 

恐怖と緊張に包まれているはずなのに、どこか落ち着いている――それは、彼らがコナン君をどれだけ信頼しているかの証だろう。

 

いったい、今までに彼はどれほどの事件を彼らの前で解決してきたのか。子供たちの中で、コナン君はすでに「名探偵」としての立場を確立しているのだと痛感させられる。

 

ふと通路を挟んで反対側の席に目を向けると、コナン君が鋭い眼差しで何かを考えていた。彼の隣には、一人の少女が座っている。赤いジャンパーのフードを深く被り、その顔を完全に隠すように。

 

――誰からも顔を見られたくない、とでも言うような佇まい。

 

「ねぇ、光彦くん。コナン君の隣にいる子も、君たちのお友達?」

 

小声で尋ねると、光彦くんは笑顔で頷いた。

 

「そうです。彼女が灰原さんですよ。」

 

灰原哀。その名は、少年探偵団の面々から何度か聞いたことがあった。だが、会うのはこれが初めてだ。

 

深く被ったフードのせいで、顔はおろか髪の一筋さえ見えない。けれど、不思議な既視感が胸を突く。

 

――この目は、忘れていない。俺は彼女をどこかで……。

 

その感覚の正体を思い出せないまま、視線は彼女の隠された横顔に留まった。

 

(事件が片付いたら、確認させてもらおう――そのフードの奥にある正体を)

 

そのとき、不意に荒々しい声が飛んだ。

 

「こら、お前ら。何コソコソしてやがる!」

 

ジャック犯の一人が俺の方へ近づき、拳銃の銃口を無造作に突きつけてくる。歩美ちゃんたちの身体がビクッと震えた。

 

「すみません、この子たちが怯えていたので……。泣き叫ばれたら、あなた方も困るでしょう?」

 

落ち着いた口調で言うと、男は舌打ちをして引き下がった。納得したのか、再び運転席へと戻っていく。

 

そのときだった。

 

「Oops! So sorry〜〜!」

 

間延びした英語とともに、ジュディ・スターリング捜査官の足が、絶妙なタイミングで男の足を引っかけた。

 

「この外人女が……ッ!」

 

よろめきながら振り返った男に、ジュディはとぼけた顔で英語をまくしたてる。

 

男は意味が分からず苛立った様子で彼女を元の席に戻したが、彼女の目は決して笑っていなかった。

 

あの一瞬、ジュディの手が確かに拳銃に触れていた。あの謝罪の動作の中で――彼女はセーフティを“入れた”のだ。

 

知らずに拳銃を構えているジャック犯の姿が、少し滑稽にすら見えた。

 

あの男――バスジャック犯がこちらに来るとき、わざわざ後ろを振り返ることなく一直線に近づいてきた。

 

――つまり、客席の状況を誰かが伝えている。

 

運転席の近くにいる犯人が、後部座席の仲間と“視線ではない方法”で連携しているということは、彼らはバックミラーを使って合図を送り合っているのだろう。

 

このバスの後方に、“共犯者”がいる。

 

赤井秀一、補聴器をつけた高齢の男性、そしてガムを噛んでいる女。後部座席に座っているのは、この3人。

 

赤井を除外すれば、候補は二人に絞られる。

 

――そしてこの目が、忘れるはずがない。

 

組織のデータベースで何度も見た顔――ガムを噛んだあの女だ。

 

彼女は、強盗団の一味に違いない。

 

推理が確信に変わった瞬間だった。

 

「なんだこれ?」

 

思考の渦中、コナン君が何かに気づいたように、通路に置かれたスキー板を見つめている。まるで、それが今回の事件の鍵であるかのように。

 

だが、その動きを見逃すバスジャック犯ではなかった。

 

「早く殺してほしいんなら、望み通りにしてやるぜぇ……」

 

男は苛立ちをあらわにし、コナン君の額に拳銃を突きつけた。

 

――一瞬で、車内の空気が凍りつく。

 

その刹那、間に割って入ったのは、新出先生――の姿をしたベルモットだった。

 

「止めてください! ただの子供のイタズラじゃないですか!」

 

彼女の声は震え、だがどこかで凛と響いていた。

 

コナン君を必死で庇うその姿に、俺の胸の中で、ひとつの疑惑が確信に変わっていく。

 

(ベルモット――なぜ、そこまでして彼を守ろうとする?)

 

一線を越えた表情で少年の前に立ちふさがるその様に、ベルモットの“弱点”が誰なのか、否応なく見せつけられる気がした。

 

「何だと、この青二才がっ……!?」

 

怒りに任せてベルモットを威嚇しようとしたバスジャック犯に、今度はもう一人の仲間が声を荒げた。

 

「やめろ! 弾がそれて、アレに当たったらどうするつもりだ!」

 

――アレ、とは?

 

思わず視線がスキー板へと戻る。

 

その瞬間、すべてが繋がった。

 

(……あれに、爆弾が仕掛けられているのか)

 

車内で最も目立つ場所に置かれた“異物”。あまりに不自然な存在だった。

 

彼らはスキー板の爆弾を「切り札」として車内に設置し、人質と警察を封じ込めようとしていたのだ。

 

そして、これで全ての“鍵”が出揃った。

 

制圧に必要な情報は得た。あとは――タイミングだ。

 

(さて、どう出る……コナン君)

 

すべてを解き明かしながらも、まだ動かない小さな探偵の横顔を見つめる。

 

――その表情には、焦りも恐れもなかった。

 

「コナン君のお手並み拝見といきましょうか」

 

思わず呟いたその声は、俺自身の期待を映すように静かに響いた。

 

(頼んだぞ、“名探偵”)

 

事件は、コナン君の冷静かつ的確な推理によって見事に解決へと向かった。

 

新出先生の姿を借りたベルモットが、ガムを噛んでいた協力者の女を拘束し、ジュディ捜査官がバスジャック犯の一人を完璧に制圧――ここまでは順調だった。

 

だが問題は、もう一人。拳銃のセーフティが外れたままの状態で手にしたままの犯人が、まだ車内に残っていたことだ。

 

「このガキ、いい加減にしろっ!」

 

怒声と共に、そいつは客席を駆け上がり――

 

震える少女、灰原哀をその腕に抱え上げ、そのこめかみに冷たい銃口を押しつけた。

 

「動くなっ! 動けばこの子供の頭、ぶっ飛ばすぞっ!!」

 

車内が、時を止めたように静まり返った。

 

(……爪が甘いな、コナン君)

 

協力者の女を見抜いた判断は見事だったが、それだけでは終われない。この場を制圧するには、最後の一手が残っていた。

 

――まあ、いいか。今回はその推理力に敬意を表して、ひとつ“ご褒美”をくれてやろう。

 

静かに立ち上がると、歩美ちゃんが驚いたように声を上げた。

 

「マ、マスターさん……?」

 

俺はただ、一歩だけ前へと足を踏み出した。

 

「バカか? 引き金に指をかけてんだぞ……!」

 

「だから、その指を砕くよ。」

 

低く静かに呟いたその瞬間、俺の体は風のように走り出していた。

 

目にも留まらぬ速さで距離を詰める。灰原哀を庇うように滑り込み、拳銃を構えた男の腕へ、鋭く正確な一撃を叩き込んだ。

 

骨が軋む音とともに、男の握力が抜ける。宙を舞った拳銃を空中で掴み取り、すかさず銃口を逆手に構えて男の額に突きつける。

 

男は、目を見開いたまま、膝をついた。

 

「……銃を向けるなら、自分だけにしろ。子供に頼った時点で、お前の負けだ」

 

誰もが言葉を失っていた。

 

沈黙を破ったのは、拘束されていた協力者の女だった。

 

「ちょ、ちょっと……!? さっきの衝撃で起爆装置が作動しちゃったみたい! あと30秒もないわよ!」

 

「今すぐ車外へ出ろ!!」

 

コナン君の声が、鋭く車内に響いた。

 

乗客たちは我先にとバスの外へと飛び出していく。俺も歩美ちゃんたちを外へと誘導し、最後に車内を確認する。

 

……だが、彼女が、まだそこにいた。

 

通路に座り込んだまま、動かない灰原哀。

 

彼女は、ただ小さく呟いていた。

 

「このまま死ぬのが、最善策。……これが私にできる、唯一の償い……」

 

目の前にいるのは、ただ怯える子供ではない。罪と贖いを背負った少女だった。

 

――だが、それでも。

 

「こんなところで終わってたまるかよ」

 

彼女を抱きかかえ、残り10秒を切ったバスの車内で、俺は奪った拳銃を窓に向けて引き金を引いた。

 

砕けた運転席のガラスを突き破り、そのまま外へと飛び出す。

 

背後で、爆音と爆風。巻き上がる熱風の中、彼女をしっかりと腕の中で守りながら、地面に転がるように落ちた。

 

「大丈夫か!?」

 

すぐに安否を確かめようと、彼女の頭に被さったフードを取ろうとした瞬間――

 

「やめて!」

 

小さな手が、俺の手を払った。

 

「警察が、事件関係者の事情聴取を始めてるんだ! マスターも、早く行って!」

 

「でも……この子の安否を……」

 

「僕が責任を持って、病院まで連れていくから」

 

不思議なほど、強い口調だった。……それに、何かを隠すような。

 

コナン君の違和感に一瞬だけ眉をひそめたが、それ以上は追及しなかった。

 

「……わかったよ」

 

名残惜しさを抱えつつ、警察の方へと歩き出した。

 

後日、コナン君が赤いマフラーと一通の手紙を持って現れた。

 

中身は、実に形式的な感謝の言葉だけが並んでいた。

 

――だが、それでも。

 

たった一行だけ添えられていた走り書きに、彼女の“本当の声”が滲んでいた。

 

「……あの時、助けてくれてありがとう。もう少し生きていて良いって言われた気分だったわ。」

 

 

ーーーーーー

 

 

「今日はもう、店じまいですよ」

 

夜も更けた頃、常連だけが知る合図を口にすると、扉の奥からヒールの音がゆっくりと近づいてくる。

 

「……いつものを、お願いするわ。カシャーサ」

 

カウンターの席に腰を下ろした女は、艶やかな声でそう告げた。

 

白ワインに香草のリキュールを数滴。銀のシェイカーを軽やかに振り、グラスに注ぐと、淡い琥珀色の液体が彼女の前に滑らかに置かれた。

 

「どうぞ、ベルモット」

 

彼女はグラスを手に取り、わずかに傾ける。酒の香りを確かめる仕草ひとつすら、まるで舞台のワンシーンのように美しい。

 

「それで――依頼していた“件”の進捗はどう?」

 

声は微笑みを含んでいたが、眼差しだけが鋭かった。

 

「工藤新一の現在の所在ですね。目星はもうついています。あとは確認作業を残すだけ」

 

「ふぅん……じゃあ、早速教えてもらおうかしら」

 

「そちらも“報酬”を支払ってくれるなら、ね。こちらの依頼の件は?」

 

わざと視線を合わせぬまま、グラスを拭きながら問い返す。

 

「若いくせに、生意気な子ね」

 

ベルモットは薄く笑い、ポーチから折りたたまれた一枚の書類を取り出す。

 

「あなたが欲しがっていた情報。赤井秀一と――宮野明美の接触履歴よ」

 

差し出された紙に手を伸ばすその一瞬、思考が止まりかける。目を通す前から、心がざわついた。

 

「……どうするつもり? そんなものを手に入れて」

 

ベルモットの声は、軽やかだがどこか含みを持っていた。

 

「さあ……それは“秘密”です。あなたこそ、なぜそこまで工藤新一を探る?」

 

「……おあいこってことね。私も秘密が好きよ」

 

笑顔の奥に、何重もの仮面を感じる。

 

ベルモット――この女の真意を見抜くには、まだ何枚も幕を剥がさなければならない。

 

「ふふ……その傲慢さ、いずれ足元を掬われないといいけど」

 

ベルモットはそう言って、グラスを一気に飲み干す。グラスの底に残った香草の芳香が、ほのかに残る。

 

「また来るわ、“カシャーサ”」

 

そう言い残し、彼女は艶やかなヒール音を響かせて、闇夜の中へと消えていった。

 

残された書類を開き、目を通す。

 

(もしも俺の考えていることが、志保ちゃんにバレたら、怒られちゃうのかな。)

 

「……それでも、最期にもう一度だけ会いたいな。」

 

誰にも聞こえない呟きが、グラスの底に静かに溶けていった。

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