ドラゴンボール Cove R Comics 10   作:やま おさ

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Comics 10 2

 

「Welcome to Nihonbashi Department Store!」

 要約すれば、「ようこそ!日本橋デパートへ」である。

 と、いう店名を持つデパートであるが、物語上は店舗の名前が何であろうが関係はない。

 しかし、悟空にとっては、初めて見る巨大な建築物であることには違いがなく、店舗内に入る前に立ち止まり、見上げる建物は空を仰ぐほどに高い。

「凄ぇな。何だぁ、この家は?」

「家じゃあないわよ。でも、大きいのは当然でしょ。この国で一番の百貨店なんだもん」

 その国一番に相応しい巨大な扉が自動で開き、1階部分の化粧品売り場が二人の眼に入る。

 店内に脚を踏み入れるなり、ガラスケースの向こうから頭を下げてくる店員。

「これはブルマ様、お久しぶりとなります」

 と、頭を下げてくる販売員に、ブルマは軽く会釈を返して通りすぎると、

「ブルマ様。本日は御入り用の品はありますか?」

 今度は、ガラスケースの向かうから通路に出て来てまで、声を掛けてくる。

「ううん、今日は食材を見に来たの」

 この店員にも愛想程度の返事をするブルマ。

「左様となりますか。では、お買い物を楽しみ下さい」

 たびたびの応対を受けて、返事代わりに手を振りながら、地下の食品売り場に向かう。

「なぁ、ブルマ。今の姉ちゃん達と知り合いなのか?」

「知り合いっていうか、店員さんよ。たまに買い物にくるから話し掛けてくるの」

 とはいえ、店員は顔を覚えているから、名前を呼ぶのだから、ブルマが百貨店にとって、上客であることは分かる。

 それも物語上は関係が無く、そのまま二人は食品売場のある地下へと進む。

「なんだ、これ?。階段が動いてんのか・・?」

 初めてのエスカレーターに戸惑う悟空。

 そして二人は食品売り場に到着。

「すげぇな、食い物だらけだ」

 エスカレーターを降りるなり、色鮮やかな野菜類が眼に入る。

 赤く、緑に輝く野菜達。

「野菜も欲しいけど、先に保存のきく食材を見たいわね」

 そう言うブルマは、瑞々しい野菜達を後にして、食品売り場に向かう。

 悟空にから見れば、野菜と果物だけでも、有り余る位の量に思えて、十二分を過ぎる食材に見えるのだが、ブルマが言うには奥の方は更に食べ物があるという。

「この先にも、食い物があるのか?」

 その向かう先には、二人の身長を遥かに越える棚があり、缶詰めから袋に詰まった食品まで所狭しと並んでいる。

 その内の1つを手にする悟空。

「何だ、これ?」

 と、おそらくは食材であろう物を珍しそうに眺める。

 それは肉の挿し絵が入っている缶詰めで、なぜ固い箱に肉の絵が描いてあるのか分からない。

「固てぇ」

 と、言って、噛ってみるが、当たり前のように噛みきれる訳がない。

「ちょっと、孫君。まだ食べちゃあダメよ!」

「食べちゃあダメって。じゃあ、これって食い物なのか?」

「そうよ。でも、まだ支払いが済んでいないんだから、食べちゃあダメ」

 と、言いながら、ブルマは悟空が手にする缶詰めを受け取り、カートの中に入れる。

 その様子をも不思議に想う悟空。

 手にした食べ物を一旦カートに貯めていく行為にも疑問を覚える。

「支払いって、何だ?。何で、食い物を籠に入れる?」

 と、聞く。

「あれ?、孫くんって、買い物したことないの?」

「無ぇ、こんなに食い物がある所にも来たことが無ぇし」

 悟空と行動を共にして数ヶ月経つが、どうやらお金を対価にして物を手に入れる事に、馴染みがないらしい。

 とはいえ、今日の朝方までの野宿を鑑みれば、世間と欠け離れた悟空の様子は想像が出来て、それでもドラゴンボールを探す旅に支障は無いが、今回のように都会へ脚を運んだ際には問題があるようには思う。

「ふ~ん・・・、それは初耳ね。じゃあ、後でお金を渡すから、自分で会計をしてみるのもいいんじゃない?」

 と、悟空が気にしていた食材をカートに入れる理由と、それが自分達の物になる手順、それを通して都会というものを教える機会を与えようと思うブルマ。

「良く分かんねぇけど・・・。それで、さっきの固ぇのが食えるようになるのか?」

「そうよ。と言うか、支払いが終わるまで、この食べ物は私達の物じゃあないから」

 と、買い物いう行為の基本を教えるブルマ。

 しかし、悟空の頭の中では、話の内容を理解するには少しばかりの時間がいるようだ。

(何だか、良く分かんねぇな・・・。じゃあ、ここにある食い物は誰のもんなんだ?)

 素朴な疑問である。

 無論、会計前の商品は店舗側の持ち物なのだが、それが分かれば支払い前の缶詰めに囓りついたりはしない。

 そして、ブルマの言うことが間違っていないのならば、目の前に並ぶ食材は、支払い後で無ければ自分の物にはならないと言うのは理解が出来る。

「ふ~ん・・。じゃあ、支払いって奴をしてみるか・・」

 と、未だ僅かな疑問を残しながらも、未知への体験をする事には納得をするらしい。

「OK!。でも、買い物が終わったら、勝負するんだから大人しくしておいて」

「分かった、静かにしてれば良いんだな」

 これまでの会話を思い出すと、ドラゴンボールを掛けての勝負を忘れているような感覚に囚われるが、当然のように勝負の事は覚えていて、それは買い物の後に行われるのが分かる。

 そんな状況ではあるが、思いの外に悟空からは素直な返事を聞ける。

 そんな感じで頭の後ろに手を組みながら、カートを押しながら歩くブルマの後ろを付いていき、

「え~と、牛乳はいるわね。それと、チーズ」

 ブルマは買うべき物を口走りながら脚を進めて、向かう先は乳製品売り場。

「孫くん、そこの牛乳を取ってくれる?」

 と、言って、棚の下段に並ぶ牛乳パックを指差す。

「牛乳?」

「そう、そこの白くて四角いやつ」

「?」

 初めて見る牛乳パック。

「これか?」

 戸惑いながらも、指で差された物を手にする。

「何だこれ、冷たてぇ」

 初めて見る紙容器に入った液体、それが冬でも無いのに冷えている事に驚く。

「あと、チーズもね」

 と、言って、牛乳と同じ棚にあるビニールパック入りのチーズにも指を向ける。

「チーズは食ったことあんぞ!。黄色くて旨ぇやつだな」

 と、言って、冷蔵棚の端から端まで眼を向ける。

「この細けぇ奴か?」

「そう、それ。良く、分かったわね」

 パック入りのチーズを手に取る。

「オラが食ったのは、丸くて大きなやつだ。けど、同じ黄色い奴だから分かった!」

 先ほどまでの疑問を持った様子から、一転して無邪気な様子を見せる悟空。

 先に手にした冷たい牛乳で、支払いという謎の行為よりも好奇心が勝ったらしい。

「大きいのもあるけど、いちいち削らなくちゃあいけないから、それでいいの」

 と、言う意見を聴きながら、袋に詰まったチーズを、感心するように見つめる悟空。

「ふ~ん」

 と、言って、袋詰めのチーズを見つめてから、ブルマに渡す。

 そして、悟空が差し出したチーズ受け取り、カートに入れていくブルマ。

「牛乳とチーズか・・・」

 カートに入ったのは缶詰め、牛乳、チーズの僅か3点であるが、悟空の感心を買うのは充分であったらしい。

「どうしたの?、孫くん?」

「いや、何でも無ぇ」

 とは言うが、これまでに見た食材は、なぜか缶に詰まっているらしい肉、そして紙の箱に詰まった牛乳と、すでに細かくなっているチーズ。

 それらが数えきれないほどに並び、棚によっては商品が冷えている。

 悟空にとっては、新しく知る事ばかりである。

 それを示すかのように、今の気持ちを言葉にする。

「凄ぇな・・、デパート・・・」

 感動を通りすぎて、言葉が詰まる。

 それは強く興味のある食べ物であるから感じるだけではなく、いままで知ることもなかった世界があると知ったことからくる感情であり、この時点で買い物という知らぬ行為より、新たに知る食材などへの興味が悟空の気持ちを突き動かす。

「あっ、そうそう、孫くんがお気に入りのパンも買わなくちゃ」

 そして、二人が進む先は惣菜売り場。

「孫くん、パンで良いのよね」

 と、言いながら、後ろを付いてくる悟空へ振り返る。

「ん?、あぁ、そうだな」

 今度は様々なパンがケース内に並ぶパン屋。

 黄金色に輝き、ケース内に収まるパンが珍しいのか、棚を眺めながらの悟空は再び口を開く。

「凄ぇな、こんなに種類があんのか?!」

 見るものが変わる度に、声を上げる。

 しかし、大げさに騒ぐ訳でも無いようだ。

 そんな様子を不思議に思うブルマ。

(何だか、随分と大人しいわね)

 ブルマにしてみれば、見知らぬ土地の繁華街と、初めて見るような食品のあれこれに興奮を抑えられない悟空を想像していたのだが、静かに後ろを付いてくる姿を意外に思う。

 もっとも、悟空にしても次から次に新しい物が目に入り、初めて知る物ばかりなのだから、気持ちの中では興奮をしているはず。

 しかし、いくつかの品物を手にして、それらが自分達の物になる事を示すようにカートへと収まっているのだから、いちいち騒ぐ必要もないという程度の分別はつくのだろう。

 ならば、ブルマとしては、共に歩く相手に、余裕を与えようとするくらいの気持ちは起こる。

「そうね。とりあえず、私は必要な物を買い出しするから、孫君も自分が食べるものを観てくれば?」

 という、提案が出る。

 不思議くらいに大人しい様子を見せる悟空に、別行動をしても良いと思ったのだろう。

「良いのか?」

 と、聞く悟空。

「良いっていうか、今日の勝負に勝てば、孫君の御飯になるけど、私が勝ったら毎日少しだけ食べるだけよ」

 と、返事をしながらも、初めて尽くし都会の暮らしを教える機会であるとも思う。

 無論、そんな提案は悟空も嬉しく思うのは当たり前で、

「あぁ。それは、分かってる!」

 と、手を上げながらの返事をしてから、

「じゃあ、自由に見てきて良いんだな?」

 早速とでも言うように、すでに思う方向へと身体が向いている。

「良いわよ。でも、迷子になるからデパートの外には出ちゃあ駄目よ」

「おう!、分かってる」

 と、言い終わると同時に走っていく。

「孫くん、デパートの中で走っちゃあダメよ!」

「おっと、走ってもダメか。大人しくしてなくちゃあいけねぇんだった」

 そして、周りを見回しながら、悟空の1人歩きが始まる。

 先ほどまでの乳製品売り場から缶詰め売り場を通りすぎて、野菜と果物。

 そして、飲料水売り場。

「これ・・、水か?」

 ペットボトル入りの水に驚く。

「水なんて、川で飲めば良いんじゃねえのか?」

 悟空の日常と、都会の常識とのギャップが分かる商品である。

「へへっ、どんだけ食い物があるんだろうな?。ここって・・」

 上機嫌な悟空。

 進む先々まで両脇に棚があり、品物が積まれている光景は、悟空でなくても楽しいものである。

「これが支払いって奴をすれば、オラの物になるのか?」

 などと、時折立ち止まって、無邪気な考え事する。

「でも、お金って奴がいるんだったな・・・」

 と、思って、ズボンのポケットや上着の懐を叩いてみる。 

 そのお金という物を、既に身に付けているやも知れないと思ったのだろう。

「やっぱり、持って無ぇな・・」

 と、言うとおり、金は持ってはいないのだが、そのまま脚を進めていくと、少し開けた場所に出る。

 そこはエレベーターホール。

【チーン】

 と、エレベーターが到着した音。

 丁度、悟空が通り掛かった時に、扉が開くエレベーター。

「こちらは、地下一階となります」

 エレベーターガールのアナウンス。

 そして中から買い物客が出てくる。

「何だ、これ?。出口か?」

 デパートに入る時もドアが自動に開き、目の前にあるエレベーターの扉も自動ドアなのだから、出口と勘違いしても無理はないのだろう。

 そして、再びエレベーターガールが口を開く。

「上に参ります」

「上?。出口じゃ無ぇのか?」

 と、思わず、聞き返す。

「はい。こちら、エレベーターになります」

「?」

 当たり前のように、悟空にはエレベーターという言葉の意味は分からない。 

 しかしながら、それは外に出るなと言ったブルマに対して、上に行くというエレベーターガールの返事は、ブルマの忠告には反していない。

 と、なれば・・・、

「出口じゃなけりゃあ、乗ってもいいか・・・」

 そう、エレベーターは出口ではない。

 で、あれば、悟空はエレベーターに脚を進める。

 そして、扉は静かに締まる。

 ブルマがいる食品売り場から消える悟空。

 思いがけない行為である。

 しかし、初めて知る食材を見て騒ぐほどもない分別程度はあるのだから、エレベーターに乗る行為は大した問題ではないと思いたい。

 しかしながら、悟空にとっての初体験であるデパート巡りは、無知という悟空の存在と偶然というエレベーターの到着によって始まった。

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