ドラゴンボール Cove R Comics 10 作:やま おさ
エレベーターに乗り込んだ悟空。
巨大デパートの建物内とはいえ、右も左も分からない今。
元々分からぬ右左に加えて、上下に動く現状。
たかがエレベーターではあるが、初めて尽くしの悟空であることを知っているならば、不安が詰まった箱でしかない。
しかしながらエレベーターの中には案内役の女性がいる。
「次のフロアは化粧品売り場になります」
と、行く先まで伝えてくれる。
元々、物怖じをしない性格の悟空ではあるが、思い付くままにエレベーターガールにも声を掛ける。
「姉ちゃんも、ブルマの知り合いなのか?」
「はっ?・・・、はい。本日、ブルマ様の来店は存じております」
突然に声掛けられても、多少の沈黙を伴いつつ、見慣れぬ相手に確かな対応をしてくれるのは、流石は国一番のデパートである。
「ブルマ様には、当店を御贔屓頂いております」
悟空をブルマの知り合いだと認識したエレベーターガールは、丁寧な口調で返事をしてくれる。
「そうか、ブルマってのは有名なんだな・・」
店員の全てがブルマの知り合いであると思ってするような節がある。
そこまでの上客であるブルマの連れ合いと知れれば、悟空の1人歩きも多少の安を伴う。
「次は紳士服売り場です」
と、言うように、各階の案内もしてくれるならば、より一層の安心感だ。
「服?」
「はい、男性用衣類のフロアとなります」
その会話が終わる前に、エレベーターの扉が開いて、立ち並ぶのはスーツにネクタイ姿のマネキン達。
「そう言やぁ、勝負は服でするとか言ってたな」
そう、買い出しが終わった後に行われる勝負はファッションセンスの善し悪しが関わるものだ。
そして今、悟空が着ているのは、左胸の辺りに亀という文字が入った薄手のVネックのスリーブレスとズボン。
それはブルマが履いているダメージジーンズに比べて、ファッションセンスで言えば、明らかに劣っているのは悟空自身でも分かる。
「じゃあ、オラも、あんな格好しなきゃなんねえのかな?」
と、スーツ姿のマネキンに興味を持ちつつ、上着を引っ張りながら一丁裏を眺めて見ると、気付く事がある。
「・・・オラの服、汚れてんな?」
と、エレベーターガールの顔を見上げながら聴く。
「・・はい、少々」
多少の戸惑いもあるが、嘘偽りなく応えるエレベーターガール。
客の問いかけに、正直であるのも優れた証しだ。
しかし、フォローも忘れてはいけない。
「必要ならば、お召し換えになった衣類のクリーニングも承ります」
丁寧かつ親切な応対である。
そして、
「お客様ならば、次のフロアの召し物はいかがでしょうか?」
ショッピングを薦める事も忘れてはいない。
痒い所に手が届く応対。
だからこそ、客の心は動くのだろう。
それは、悟空にとっても同じ事なのか。
「そんなら、ちょっと見てみっか」
と、良しも悪しもエレベーターを降りる機会を得る。
そして、フロアに到着。
「いってらっしゃいませ」
そして、ブルマのいない売り場に降り立ち、眼には入るのは紳士服売り場で見たようなネクタイにスーツ。
勿論、子供用ではあるが、ファッション性に変わりはない。
「やっぱり、こんな服になるんか?」
眼につくのは、正装かつファッショナブルな衣類。
それらが自分が着ている物とは対極にあるのは、悟空自身でも分かるのだろう。
「・・・。勝負に負けちまったら、ドラゴンボールを取られちまうぞ・・・」
と、賭ける物を思えば、ネクタイとスーツは考慮すべきに値するのか。
そんな思案をしている悟空の所に、店員はやってくる。
「いらっしゃいませ、お子様一人でしょうか?」
悟空の身長を鑑みて、子供が1人かと聞かれる。
「お子様っていうか、オラの歳だと子供なのか?」
と、悟空は十代であるが、10~19歳では世代の幅が広い。
10歳では子供の世代に含まれて、19歳は大人に含まれる直前と言ったところか。
そのように思うのか、指を曲げつつ、自分の歳を数えてみる。
(1.2.3・・・)
片方の指を折り曲げ終わって、もう片方の指を曲げていき、
(7.8.9・・、15・・)
曲げ終わった所で、店員が口を開く。
「これは失礼致しました。15
歳でしたか」
声にしなくても、年齢が伝わる以心伝心。
「しかしながら、お身体に合う品は、当フロアで宜しいかと思えます」
この階は子供服売場らしい。
しかし、身長○ならばサイズは子供用なので問題は無い。
「でも、オラはこんな感じのしか着ねぇからな」
上着の両端を引っ張って、自らの好みを店員にアピール。
その行為の訳は、ドラゴンボールを賭けた勝負とは言え、出来る事なら自分の好みに合わせたファッションで勝ちたいという気持ちから来ているのだろう。
「武術に関する胴着に見えますな」
「同じやつがあんのか?」
「申し訳ありません。生憎、胴着は取り扱っておりません」
流石に武術用品は無いようだ。
「しかしながら、運動に適した品々の用意はあります。少々、お待ち下さい」
と、言い残して、一旦 バックヤードに消えて、3・4着はあろう衣類を抱えて戻ってくる店員。
「まずは、こちらはいかがでしょうか?」
薦められた服を、試着室にて着替えると、
「何だ?、これ?」
小襟の付いた半袖に涼しげな半ズボン。
その服に付随するラケットとボールを不思議そうに眺める。
最初の服はテニスウエア。
爽やかに過ぎる悟空である。
「お似合いですよ」
「そうか?。でも、ボールと変な網みてぇな奴はいらねぇんじゃ意ねぇか?」
「ふむ、確かにファッションとして考えれば、ラケットとボールは必要ありませんな。なるほど、しかし用具は単なる付属品です。、次の品も用意してありますから、お試し下さい」
再び、試着室へと消える悟空。
そして、横縞模様の服装で現れる。
出てくる。
「こんな動物、どっかで見たことあんぞ・・」
それは、見る者によっては、虎を想わせる黄色と黒のデザインだ。
そんな服はラグビーウエアしかない。
懐かしのラガーマンを想わせる、青春に過ぎる出で立ち。
それは良いが、またしても付随するものがある。
「この帽子みてえのは何なんだ?」
悟空が言う帽子とは、頭に被るヘッドギアの事。
悟空の髪型は正面から見ると角でも生えているかのようなヘアスタイル。
それがヘッドギアの隙間から飛び出ていて、益々の不自然を醸すのが気にはなる。
「お客様の髪は相当な癖毛ですな。ヘッドギアのせいで全く収まりの無い髪型になっております。個性と言うには有り余る様子になってしまいましたね。では、次の物は如何でしょうか?」
と、言われて、着てみたのはシンプル過ぎる運動着。
腕と脚のサイドに縦ラインが入ったジャージである。
「寝間着みてぇだな」
「はい。お客様の中には、寝間着代わりにする方もいるようです。しかし、ファッションセンスで言えば、明らかに機能性が突出していますな」
それは運動着の代表と言える服装なのだから当然である。
「・・・?。それは格好が良いってことか?」
「いえ、真逆になります。言葉を変えれば、ダサイと評される逸品です」
ならば、何故に薦めてくるのかは不明だが。
「レトロと、言う言葉もあります。ファッションという物の中で、廻りが着ない物を敢えて身に付ける行為は、新たな価値を生む事があります」
なるほど、理屈は分かる。
「でも、格好良くは無ぇんだろ?」
「はい・・・」
「それじゃあ、駄目だ。格好が良い奴じゃあねぇと、ブルマに負けちまう」
と、ここでブルマの名前が出る。
「ほう・・・、ブルマ様の知人でしたか。しかもファッションにて、あの方に勝たなければいけないとは・・」
今日のブルマはラフな服装と言っても、優れたセンスを持ち合わせている。
それは、目の前にいる店員からの言葉でも分かる。
「では、丁度良く最後になりますが、こちらはいかがでしょうか。これならばファッショナブルを名乗っても問題はありません」
そう言って、最後になる試着は、色とりどりのハイビスカスが美しい。
しかし、パンツのみで上着が無い。
「ヘッ!、クッショッン!。寒みぃな、これ」
パンツだけの服装は、海水浴用の水泳パンツだった。
「これは失礼致しました。夏の装いには早すぎましたね。しかし、それは今年の流行りを先取りした品物です。ブルマ様に勝つには、人が眼にする前に自らが身に付けるようなファッションリーダーとなるセンスが必要不可欠となります」
なるほど、理解は出来る。
「いや、オラには良く分かんねぇな・・・。それに、寒みぃし・・」
ハイビスカスが映える輝かしい夏の前とはいえ、空調が効いている店内で海水パンツ姿は涼しげに過ぎる。
「それは、いけませんな。お客様に風邪をひかせては一大事。早々に着替えましょう」
と、いった感じで、悟空の服装は元の武道着に戻り、ちょっとしたファッションショーは終わる。
「いかがです?。お召しになった衣類の内から、入り用の物はありますでしょうか?」
「みんな動きやすいのは分かんだけど。思っていたのとは気がする」
と、良く良く思えば、ファッション勝負をするために、服を検討していた訳で、特別にスポーツをしたい訳ではないのだから、当然である。
「確かに、申す通りですな。いささか武道着にこだわり過ぎて、ファッション性に偏りがあったようです。では、いっそのことフォーマルウエアを新調するはいかがでしょうか?。常日頃、武術を鍛練するのも素晴らしい事ですが、正装を大事とする事も心の鍛練に繋がるものがあります」
精神論ではあるが、素晴らしい言葉である。
「ちょっと待ってくれ。どっちにしても、オラは金を持っていねぇから、ブルマに聞いてみねぇと、分かんねぇ」
と、ファッションショーに時間を取られた分、悟空の気持ちは紳士服売り場から離れる気が起きる。
「なるほど・・・、畏まりました。しかし、ブルマ様と共に検討するとなると、敵に手の内を知られてしまう恐れがありますな・・・」
と、腕を組んで、考え事でもするかのような店員。
いつの間にか、商売そっちのけで勝ち気満々な雰囲気を滲ませている。
「では、いっそのこと現状の武道着にて、正々堂々と勝負に挑み、死中に活を見いだしましょう。それが、更なる上達を目指す事になり、それこそが真の武道家と言えます」
それは、ファッションを超えて、益々の精神論でしかなく、デパート店員の言葉からは欠け離れているようにしか思えない。
しかし、アドバイスと接客トークなりのと面白味はあり、
「おぉ!。何だか、分かんねぇけど、格好良いな。それ!」
と、このように悟空にとっては効果的であはるらしい。
「理解頂けましたか。では、ブルマ様とのファッション勝負の健闘を祈っております」
一応の結末を得る事は出来た。
「おう!。何だか勝てるような気がしてきた!。ありがとな!」
そして、再びエレベーターに脚を踏み入れる。
「おっ、また姉ちゃんがいる」
丁度良く、先ほどの女性が案内をするエレベーターに乗る事が出来た。
「おかえりなさいませ。紳士服フロアはいかがでしたか?」
「あぁ。何だか、凄ぇ楽しかった!」
何だかんだで、ファッションフロアを楽しんだ悟空。
「それは何より、それでは再びエレベーターは上に参ります」
エレベーターは更なる上階を目指して動き出す。