ドラゴンボール Cove R Comics 10   作:やま おさ

4 / 6
Comics 10 4

 扉上部の数字が点滅しながら、エレベーターが上がってゆく。

「オラは一歩も動いていねえけど、これって、やっぱり上に向かってんのか・・?」

 漸く気付き始めたエレベーターの仕組みに少しばかり不安を覚えるのか。

「あんまり、ブルマから離れんと何か言われそうだな・・」

 デパートの中から出ないように、そして大人しくしているようにと、言われているだけに、外には出てはいないが、フロアを移動しているのは、大人しくするという約束に反しているような感覚を覚える悟空。

「なぁ、姉ちゃん。オラは飯が売ってるところに、戻りてぇんだけど」

 と、エレベーターガールに聞いてみる。

「食べ物?、でしょうか?」

「あぁ、食いもんだ」

「お食事処は最上階になっております」

「食事?」

 何か、微妙な認識違いを感じる。

 そんな、意味が通じない雰囲気に、もう少しだけ詳細を付け加えて説明をしてみる。

「オラが見たのは、固ぇ入れ物の奴なんだけどな」

 と、悟空の言う食べ物とは缶詰めであるという表現を付け加えてみると、

「ははあ・・」

 エレベーターガールの方も自らが認識と行き違いがあることに気付いたのか、

「食器でございますね」

 と、食器売り場を薦めてくれる。

 無論、それは悟空が望むフロアとは異なるのだが、

「ならば、次のフロアで降りていただくと、ご希望の品があると思います」

 と、教えてくれるエレベーターガールを疑う事は無い。

 悟空が望む服は無かったが、ドラゴンボールを掛けた勝負に重要なファッションフロアへと導いてくれたのだから。

「じゃあ。そこで、下ろしてくれ」

「畏まりました」

 と、再びのエレベーター下車を決定する。

 しかし、 たどり着いた先で目にするのは、色とりどりの器。

「皿・・・か」

 和食器に洋食皿。

 更には、茶道具まであるが、流石に紳士服売り場とは違い、興味が向く物は無い。

「たしかに、固ぇのには違ぇねえんだけどな・・・」

 食器も缶詰めと同様に固い事には固いが、流石に自分の言っている事がエレベーターガールに伝わっていない事の理解が出来てくる。

「しょうが無ぇな。一番上まで行ってみっか」

 と、当初に薦められた最上階へと向かう事にして、事態の回復を試みる。

 その最上階は、エレベーターガールが言ったようにレストラン街。

「凄ぇ・・・、いっぺえあんな」

 かなりの回り道をしつつ、しかも戻るべく目的の階とは違ったが、悟空の食欲を誘うには充分過ぎるフロア。

「こんなに飯があんだな・・・」

 展示ケースに並ぶサンプル相手に、よだれが垂れて、上着の首廻りが大いに湿っぽい。

 いったい、どれだけの食欲をそそるメニューがあるのか。

 しかし、悟空の関心はよだれで黒く染まった服に向く。

「不味ぃな、もっと服が汚れちまったぞ」

 元々の薄汚れに、よだれの染みが加わって、ファッション性の欠片も消えた自らの服。

 そんな、自分の上着を眺めていると、再びデパートの店員が声を掛けてくる。

「ようこそいらっしゃいませ。お一人様でしょうか?」

 その店員は、給仕役が身に付けるような白いエプロンをしている事から、レストランの店員なのだろう。

「ああ、オラ1人だ」

「宜しければ、待ち時間無く案内が可能です」

 と、食事を薦めてくれる。

「だけどよ。ここも支払いってやつがいるんだろ?」

 ファッションフロアで説明したように、悟空は手持ちの金は持っていない。

「はい」

「お金って奴は、ブルマが持ってんだ」

「!っ・・・、ブルマ様のお知り合いでしょうか?」

 最早、当たり前のように、ブルマの名前は知れ渡っている。

「あぁ、そうだ」

「少々、お待ち下さい」

 と、言って、奥へと消えていく店員。

 恐らくは、悟空がブルマの連れ合いであるかを確認する為だろう。

 そして、確認が済んだのち、戻ってくる。

「お食事をしながら、ブルマ様を待つということも出来ます」

 と、ブルマの知り合いである事が確認出来たのか、再び食事を薦めてくれる。

 しかも、支払いはブルマが来た後で良いと言う悟空にとっては嬉しすぎる展開。

「喰っていいのか?」

 上着がよだれで汚れるほどに魅了した、色とりどりの誘惑。

 その魅力に負けそうになる。

 それと同時に悩む。

「いや、待てよ・・、オラが戻らねぇと駄目なんじゃねえか?」

 図らずも、地下の食品売り場から、最上階のレストラン街に移動した事で、やはりブルマの機嫌を損なっている気がする。

 しかしながら、ガラスケースの食品サンプルを横目で見る自分もいる。

「・・・・、」

 食品売り場に戻るべきなのであろうが、ガラスケースから目が離れない。

「でも・・・、ブルマもオラを探してんなら、ここで待っていたほうが良いのか・・?」

 と、食欲に負けそうな自分への言い訳をしつつ、店員の薦めに従えと言う気持ちが湧いてくる。

「う~ん、ここで待っていたほうが良いか・・」

 悩む・・。

「いや、ここにいたら、怒られっかも知れねぇんだけど・・」

 両腕を組んで、頭を傾げるほどに悩む・・。

「う~ん、どうすりゃ良いんだ?」

 当然、食品売り場に戻った方が良いのだが、ガラスケースの中身が自分を魅了する。

「必要であれば、ブルマ様をアナウンスにて呼ぶ事も可能です」

 と、悩む悟空に店員からの提案が入ると、

「そうか?。やっぱ、ここで待っていた方が良いいんかな?」

 誘惑に負ける悟空がいて、その結果はブルマから何かしらの文句が出るのは、眼に見えている。

「良し!、ここで待つ事に決めたぞ!」

 食事に魅了される自分に抗う事が出来ない。

 しかさ、救世主は現れる。

「何じゃ、悟空。お主、ドラゴンボールを探してるんじゃないのか?」

 と、聞き覚えのある声。

 その声の方向を見ると、サングラスとアロハシャツの老人がいる。

 それは、声を掛けてくる位だから、悟空の知り合いであるのは分かる。

「なんで、亀仙人のじっちゃんがいるんだ?」

 救世主の名は亀仙人。

 亀仙人と呼ばれる老人は悟空の師匠で、以前にドラゴンボールを探していた時に知り合い、天下一武道会という大会に出場する際に武術を習った間柄。

「オラ達は食い物が無くなって、買い出しってやつに来てんだ。亀仙人のじっちゃんは、何でこんな所に来てんだ?」

 亀仙人が住んでいる所は、遥か南の小島であり、はるばる日本橋デパートに訪れるような生活スタイルには見えない。

「こんな所と言い方は無いじゃろ、儂だって買い物位はする。それにしても、お主はブルマちゃんと一緒なはずじゃろ?。それにドラゴンボールは見つかったのか?」

「ブルマは食い物の処にいるし、まだドラゴンボールは見つかって無ぇ」

「そうか」

 お互いにデパートにいる理由が分かって納得はするが、亀仙人の視線は悟空の胴着へと向く。

「それにしても、お主の服は汚れ過ぎじゃろう。儂の胴着が台無しじゃ」

 悟空が武道着に付いているの亀マークは亀仙人の名前から来ている。

 黒の亀マーク、よだれの染みも黒。

 既にファッション性の欠片も無いと書いたが、師匠の名が入る胴着の威厳も見る影は無い。

「そう・・、だな。これじゃあ、勝負に負けちまうかも知んねぇな・・」

「何じゃ、その勝負というのは?」

 と、ここでブルマとの勝負について説明する。

「ははあ、そんな事をするのか」

「それでな、パンツが見えるのが、おしゃれとか言ってんだ」

「パンツ?!」

 割れる理由は驚きにより、眼が飛び出して亀仙人のサングラスが割れる。

 少しばかり驚き過ぎではないかとは思うが、

「パッ、パンツって。ブルマちゃんがパンツを見せるのか?」

 サングラスを突き割るほどに、驚きと興奮が亀仙人を襲っているのは事実らしい。

「あぁ、そんな事を言っていた気がすんぞ」

 と、悟空は返事をするが、勿論、そんな訳がある筈もない。

 しかし、何かに興奮するのか、小躍りをする亀仙人。

「ひゃっほう!」

 しかし、自らがパンツに興奮する男であることに気付き、同時に女性店員からの印象を気にする亀仙人。

「はっ!、ゴホン!。悟空よ。そんな訳が無かろう。こんな大きなデパートでパンツを見せるなんて、有り得んぞい」

 咳払いの後に、体裁を整えるべく、大人の対応らしきセリフが出るのが救いだ。

 そして、デパートの店員に対しても体裁を整えるべく、同意を求める。

「なぁ、店員さんよ」

「はい、女性用下着売り場には試着室がありますので、そちらで試着はして頂けます」

 多少の品性を欠いた客にも、デパート店員の立つ瀬を保つ、見事な言葉を頂ける。

 素晴らしい応対だ。

 しかし、

「し、下着売り場?」

 と、欠けた品性は下着売り場という言葉により、今少しだけ続くらしい。

「悟空、ブルマちゃんはおしゃれなパンツって言っておったんじゃな?」

「あぁ、言ってたぞ」

 言っていない。

「パンツで勝負と言っていたんじゃな」

 言っていない。

「パンツで・・・?」

 流石に返事を戸惑う悟空ではあるが、

「ま、まあ良い。店員さん、そ、そこはセクシーなパンツもあるんじゃろうか?」

「はい、当店で揃わぬ物は無いと思えます」

「そ、そうか!・・」

 パンツ勝負と言う、あやふやな事実は先走りをして、亀仙人による店員との会話の末に出るガッツポーズ。

 無論、それは亀仙人からのガッツポーズであるが、何に対するガッツポーズなのかは、考える気も起きず、その品性と思考は興奮を通り越して、恍惚の表情。

 そんな亀仙人の赴きに悟空の一言。

「なぁ、亀仙人のじっちゃん。オラ、腹が減ってんだけど・・・」

「お、おぉ。腹が減っておるのか、じゃあ飯でも喰うか?」

 冷静に戻る亀仙人。

「いや!。ちょっと待て、お主は飯を大量に喰うよな」

 と、言いつつ財布の中を数える。

「店員さん、こ奴に肉まんの2.3個をくれてやってくれんか」

「こんだけか・・、足んねぇな」

 食品サンプルの並んだガラスケースに眼が向く。

「あとはブルマちゃんに食わせて貰え。そんなことより、おパンツ勝負の事を忘れてはいかんぞ!」

 と、言いつつ、その場を離れようとする様子が見えて、

「亀仙人のじっちゃんは、どこに行くんだ?」

「儂?。儂は、ほれ!。お前らの胴着を仕立てに行かにゃあならんのだ」

 何やら、取って付けたような理由であるが、先程の興奮と恍惚の先にある物を求めて、フロアを移動するとは言えまい。

 しかしながら、

「て、店員さん。そう言う訳で、女性の下着売り場は、ど、どこじゃったかな?」

 胴着の仕立てを女性の下着売り場で請け負う訳もなく、男の老人が女性用の下着売り場を尋ねる結果となる。 

 しかも、それが興奮気味であれば、少しばかりの嫌悪感を覚えても仕方がないが、そこはそれ国一番のデパートに勤める店員のプライドがオブラートで包み込む。

「5階になります」

 この場合のオブラートによる包みは、単刀直入にフロア階だけを伝えるのが正なのか。

 しかしながら、客の尊厳を損なう事も無く、向かう先を指し示す事が出来るのだから、良しとするのだろう。

「そっ、そうか。じゃあな、悟空。儂は、行かなければならん」

 と、言って、己れの品性に従って亀仙人はフロア5階へと消えて行った。

「何だか良く分かんねぇけど、どっかに行っちまった。亀仙人のじっちゃんにブルマの所に連れて行って貰おうと思ったのによ・・・」

 なるほど、名案である。

 しかしながら、当てにしていた亀仙人は下着売り場に消えた後。

「ブルマ様を探しているのでしょうか?」

 と、女性店員が聞く。

「ああ、そうだ」

「恐らく、食品売り場にいると想われます」

「だけどよ。エレベーターの姉ちゃんに聴いたら、ここに来ちまったんだけどよ・・」

「それは、妙ですね・・・。宜しければ、経緯を聴いても宜しいでしょうか?」

 何かしら、元のフロアに戻る糸口が見えてきた。

「あぁ、良いぞ。あのな、最初は・・・」

 そもそもが、初めてのデパート及び、エレベーターと、何も知らない悟空により意図しないフロア巡りが始まったのだから、デパートの全てを知る店員に内訳を話せば、解決へと導いてくれるはず。

「ふふふ。なるほど、そのような訳でしたか。ならば、エレベーターガールに地下一階と伝えれば、ブルマ様がいるフロアに辿り着きます。ここは最上階なので、一番下の階と伝えれば大丈夫です」

 想定したように、解決策を伝えてくれる。

「本当か!、そう言えばブルマの所に行けるんか」

 と、喜びと確信を示すかのように、悟空は両手に握り拳を作って聞き返すと、

「えぇ」

 と、店員からの返事が聞ける。

 恐らくは、これにて無事に食品売り場へと帰る事が出来るのだろう。

「ありがとな、飯屋の姉ちゃん!」

 足早にエレベーターホールへと向かう悟空。

 それを見送るデパート店員、その顔は当然のように笑顔であり、その気遣いが気持ち良い。

「どういたしまして、次はゆっくりと来店下さい」

 と、手を振って悟空を見送る女性店員。

 それに応えるように、悟空も手を挙げつつ、最後になるであろうエレベーター乗車へと向かう

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。