大日本皇国に来日して日本についての説明を受けた使節団の面々だが、もうすでに驚き疲れてしまっていた。
「川波殿、川波殿。少しよいか?」
クワ・トイネのものとは比べ物にならないほど座り心地のいい椅子に深く座りながらハンキが話しかける。
「ええ、何でしょうか?ハンキ様」
「このフクオカ市は随分発展しているが、首都はもっと発展しておるのか?」
「勿論。まず人口が比較になりません。なので、高層建築物もここより高いものが沢山あります。地下鉄も、網の目のように張り巡らせています。広い範囲で都心部が広がった結果ですね。ただ、街並みは地方都市のほうがきれいです。東京は、雑多な感じがすると言われていますので」
「うーむ、早く見てみたいですな。ああ、それと、軍を見学することは可能じゃろうか?」
「大丈夫です。皇国海軍横須賀基地にて見学予定があるので、ご安心を」
2日後
使節団はリニア新幹線で東京に向かうために、福岡駅に集まっていた。
(600km...ワイバーン以上の速度で陸を走るのか...)
ハンキは不安に思いながらリニア新幹線の座席に座った。
川波は特に変わりなく、普通の椅子に座るかのように平然としている。
そして、予定時刻通りに出発した。
「速い!それにこれほどの速度で走っているのに、全く揺れがない!」
窓から次々と景色が代わり、ヤゴウは自分の駆るワイバーンより速く走るリニア新幹線に驚愕した。
東京についた一同は、福岡よりも更に発展した都市に驚愕した。全てが正確に動き、夥しいほどの人間が規律を守って活動している。クワ・トイネのどの街よりも、それどころか文明圏の都市ですらこれほど発展はしてないだろう。
彼等は電車を乗り継ぎ、横須賀まで移動した。
横須賀基地。
現代においては在日米軍などと共に使用しているが、第一次異世界転移時に国内の外国人、例えば大使とか旅行者、そしてここ基地で生活していた者達が消え、更に第七艦隊までもが消滅した(ハワイに飛ばされた)
結果誰もいなくなったので、これ幸いと国内の基地は皇国軍が利用した。
ドックはそのまま少し改修し、施設なども日本仕様に改造し、一部施設は潰して海軍航空隊の滑走路を建設した。
川波は使節団を連れて横須賀基地へと向かう。すると門の前にアイツがいた。
「よぉ川波。順調そうだな」
「そうですね。たった今順調じゃなくなる気がしてきました」
「何だそれどういう意味だ」
馴れ馴れしく話しかける男、沖田である。
(こ、この者.....かなりの手練.....っ!)
ハンキは使節団の中でただ一人、沖田の強さを本能で感じ取り頬に冷たい汗が流れるのを感じた。使節団の中で唯一の武人だからだろう。
「川波さん、こちらの方は?」
ヤゴウが質問する。
「こちらは、大日本皇国統合軍最高司令長官の沖田帝治という軍人です」
使節団の顔は驚きに包まれた。それもそうだろう。何故ならこの国の軍のトップのがここにいるのだから。
「最高司令長官......つまり、軍のトップということですか?」
「ええそうです」
と、ここでハンキが話に入ってくる。
「失礼だと思うが、軍の総指揮官が護衛の一人も付けずにうろつくのは、いささか不用心だと思うのじゃが」
「確かに普通なら護衛が付くべきでしょう。ですが彼は『剣聖』の二つ名を持つ皇国最強の剣士なので、ご安心を」
「ほう.....それは心強いのう」
ハンキはそう言うが、見極めるような慎重な視線を沖田に向けた。
使節団は、沖田先導のもと横須賀基地に入っていった。途中すれ違う軍人が彼に敬礼をする。
「あちらにあるのが我が国の最新鋭主力戦闘機”F8-零II”です。巷では”ゼロ”と呼ばれてますね。これから機動飛行を行いますので、良く御覧ください」
沖田がインカムでパイロットに合図をすると、F8-零IIは轟音を立てて加速し、滑走路を飛び立ち、あっという間に空の彼方へと消えた。
「お、沖田閣下......あの鉄竜は一体どれほどの速度で飛んでいるのじゃ?」
「そうですね。零ならば最高でマッハ4、時速で凡そ4900kmといったところでしょうか」
その沖田の言葉に、ハンキどころか誰もが唖然とした。そして、零は彼等の頭上を通過すると遠くで反転し、幾つかの空中戦闘機動(マニューバ)を披露した。
ハンキの頭の中に浮かぶのは、我が国の精鋭のワイバーン部隊が、成すすべもなく火の玉となって撃ち落とされる姿。
彼等は言葉が出なかった。
だが、まだ紹介は終わらない。
今度は、皇国海軍の紹介が行われた。
一行は埠頭に案内される。そして、目に写った光景に再び目を見開いた。
「手前にあるのが紀伊型航空戦艦一番艦”紀伊で、奥にあるのが翔鶴型航空母艦二番艦”瑞鶴”です。どちらも300mをこえ、瑞鶴に至っては400mをも超える我が国の主力の一角です」
もはや城とも呼べる建造物が船の上に乗っており、塔のように巨大な砲が3門2つついている。
あの巨大砲の砲撃を受ければ、マイハークなど一日とかからずに瓦礫に変わるだろう。
「あの奥の平坦な船はどのような用途で使われるのでしょうか。見たところあの巨大砲も積まれていないようですが」
使節団の一人であるオランゲが質問する。
「あれは空母と言って、先程の航空機を海上で使用する為に滑走路を運搬する軍艦です。空母があれば、どこでも航空戦力が展開できる為、非常に重要な船なのです」
「そ、それは文明国が持つ竜母のようなものか!?」
ハンキが慌てて反応する。
「この世界の竜母がどのようなものかは存じ上げませんが、恐らく同じようなものなのでしょう」
「ち、因みにだが、貴国はこのような戦闘艦をどれほど持っておるのか?」
「我が国では現在500隻以上の軍艦が就役しています」
「「「500隻!!」」」
その事実に、彼等は顔を見合わせる。
彼等はただ、この国がとても平和的な国であることに神に感謝した。
それと同時に、大日本皇国とは絶対に敵対してはならないと確信した。
帝国ホテルにて、
「なあ、ヤゴウ殿」
「なんでしょうか。ハンキ将軍」
「貴公は、この国をどう思う」
「そうですね......一言で表すと、豊かですね。呆れるほどに」
そう言うと、ヤゴウは息を吸って話し始めた。
「ホテルの中は、あの巨大客船のように温度が一定に保たれている。これほどの規模の建築物全体を温めるのに、一体どれ程の燃料が必要なのか想像もつきません。しかも、我々がいるから特別にそうしてるのではなく、ほぼ全ての建物が空気を調節されている。
捻るだけお湯が出る機械がある。トイレも非常に清潔に保たれている。
外に出れば、無人販売機械が存在し冷えた飲み物や、場所によっては酒も提供される。夜間開いている店舗では調理済みの料理や衣類が提供され、その品質も高い。大きな店の食品売り場では、常に新鮮な食材が並んでいる。夜間の大通りも非常に明るく、カンテラ無しでも問題が無い。
全ての生活レベルが、我が国と比べ次元が違う。悔しいですが、国力の違いを感じます」
一旦区切り、かぶりを振るうヤゴウ。その目には畏怖が浮かんでいる。
「基地見学には驚かされました。圧倒的な力の差を見せ付けられた思いです。絶対に大日本皇国を敵に回してはならないと、そう感じました」
「やはり同じ思いか.....あの戦闘型鉄竜の前ではワイバーンの空中戦術は無意味じゃろう。それにあの巨大軍艦。
あれは戦艦と言う物らしい、列強国が保有していると言うあの戦艦を保有しているのだ。アレが我が国に侵攻した場合は我が国の海軍は全滅し、陸軍も海沿いにいた場合も全滅する可能性がある。陸軍は見ていないが、海軍がアレなのだからきっと想像もしない強力な兵器を保有しているのであろう。
まったく、この国は心臓に悪い」
「私も恐ろしいですが、一方でわくわくしてますよ。列強国に引けを取らないような国が突然現れ、我が国が最初に接触できた。
それに、この国は文明圏の国々とは違い我々を蛮族と見下さず対等に接してくれるんですから」
「そうだな。だが、この国が覇を唱えるかもしれんから、まだわからんぞ。
だがまあ、そうなったら我が国は成すすべもなく滅ぼされてしまうが」
ヤゴウとハンキは、深夜まで大日本皇国について語り続けた。
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翌日
東京にある官邸にて第二回日桑会談が行われた。
川波以外にも各種大臣が対面する。
「我が国が貴国に求めるものですが、食糧です」
「食糧ですか?」
「はい。聞くところによると、貴国では農業が盛んに行われていると。我が国は転移以前は複数の国から資源や食料を輸入していました。しかし、転移によってそれら輸入国との繋がりが断たれてしまい、現在国民の生活に必要な物が不足しつつあります。このままでは近い将来に国民が飢えに苦しむ事になります」
「貴国だけで補えるとは思っておりませんし、他の国からの輸入も検討しますが、それでも貴国がどれほど輸出できるのかを知りたいのです。勿論、我が国も貴国に対し相応の対価を支払う用意があります」
そう言って、必要な農作物のリストを渡す。ヤゴウ以下使節団員はそれに目を通す。
そして、ニヤリと笑みを浮かべた。
「いやはや、あなた方は運が良い。最早神に祝福されているとまで言えます。
我が国は大地の神に愛されており、種を蒔かずとも自然と高品質な作物が生え、それによって国民はタダで食事ができ、家畜でさえ美味いエサが食べられるのです」
「おお、タダで食事ができるとは、我が国では考えられない...」
日本側はクワ・トイネの食力自給率の高さに驚く。
「聞いたこともない品物もありますので、もしそれらを除く代用品でいいのであれば、貴国が欲している商品は我が国だけで全て補えます」
「「おぉぉ!!」」
彼らの知るところではないが、クワ・トイネ公国は大地の女神の祝福を受けており、食物など種さえ蒔けば、なんなら種を蒔かなくても勝手に高品質な食物が生えてくる土地なのだ。そのおかげで食料自給率は400%を超えており、住民は勿論家畜にまで美味い飯が与えられ、周囲の国に売りつけて文明圏外にしては高い文化レベルを会得し、それでも尚余っているのだ。
彼らにとっては、有り余るほどどころか実際余って使い道のない作物を売り払えば、それだけで列強レベルのインフラと技術が手に入ると言う、まさに夢物語のような話なのだ。
「ただし!ただしですよ、これ程の量を輸出するにしても、それを定期的に、尚且つ安定して運び出すだけの資材や設備を我が国は保有しておりません。海路ならば貴国の巨大船があるでしょうが、あれほどの船が止まれる港もありません」
「では、それらを解決できれば、食糧輸出は可能なのですね?」
「本国への確認が必要ですが可能かと思います」
すると、川波は近くの職員に耳打ちをし、職員は部屋から出ていった。
「我が国としては、貴国の食品は国民のためにも必ず手に入れなければならない物です。
ですので、我々が貴国の農作物を買い上げる以上は責任を持って、政府開発援助の制度を利用し港湾施設の増強や、国内の鉄道や街道整備などのインフラ整備を行いたいと思いますが、よろしいでしょうか」
「そ、そんな好条件でいいのですか!?」
「ええ、我が皇国も国民達を守るために、いかなる手段も尽くすつもりでおりますので」
「........わかりました。今回の件については我々が責任を持って首相にお伝えいたします!」
「ありがとうございます」
その後、幾度かの会議の末、10日後にクワ・トイネ公国首相カナタが来日し、首相官邸で藤城と挨拶をかわし正式に日桑友好条約が結ばれた。
以下はそれを要約したものである。
○大日本皇国とクワ・トイネ公国は対等な条件で国交を樹立する。
○クワ・トイネ公国は、大日本皇国に対し必要量の食料を継続的に輸出する。
○ クワ・トイネ公国と、大日本皇国は相互不可侵条約に向けての話し合いを継続する。
○大日本皇国は、食料輸出の為農耕地から港にかけてのインフラ整備、増強工事を行う。
○ 大日本皇国は食料の一括購入の見返りとして、生活インフラの整備を向こう1年無償で行う。
為替レートの整備後はレートの食料額に応じて対応を行う。
○日桑安全保障条約に向けての話し合いを継続する。
○為替レートを早急に整備する。
クワ・トイネ公国側からすれば願ってもないほどいい条件で、日本と友好的な関係を構築することができた。
これを期に大日本皇国とクワ・トイネ公国はとても親密な関係を築き、この後この世界に訪れる荒波を共に渡って行くこととなる。
更に、公国の仲介の元、至る所に鉄や石油などの資源が眠るクイラ王国とも国交を樹立。上記の条約と同様のものを締結できた。
これを機に、三カ国内で人々の移動が活発になり、文化の交流や風習を学び合い、相互理解の道が確立されつつあった。
一先ず一区切りです。