ロウリア王国 東部飛竜飛行場
シャークン率いるロウリア艦隊からの救援要請を受け、350騎ものワイバーンが出撃しておよそ3時間がたった。司令部には重苦しい空気が漂う。合流の報告もなければ、帰投時間になっても1騎たりとも竜騎士は帰ってこなかった。司令部は焦燥に包まれている。
「なぜ1騎も帰ってこないのだ?」
その疑問に答える者はいない。むしろ、誰もがその理由を知りたがっていた。
(まさか.....全滅?)
ロデニウス大陸の歴史において、ワイバーンは最強の生物である。馬より速い速度で空を飛び、口から発射することのできる導力火炎弾は、あらゆるものを焼き尽くすことが出来る。しかし、それゆえに貴重であり、数を揃えるのは難しい。
ロウリア王国の揃えた500騎という数は、ロデニウス大陸統一を前提にパーパルディア皇国から軍事援助も受け、6年の歳月をかけて漸く用意できたものだった。
圧倒的な大戦力であり、確実にロデニウス大陸を統一できるはずだった。
しかし、現実はそうではなかった。既に日は落ちかけているが、ワイバーンは1騎も戻って来る気配はしない。
それどころか、戦果報告の通信すらこない。
考えたくはないが、全滅した可能性が極めて高い。
まさか、敵は神竜でも味方につけたというのか」
(ああ....王にどう報告すればいいのだ.....)
その日は、誰もが暗い気持ちを宿したまま、うつむきながら冷めきった食事を食べることになった。
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クワ・トイネ公国 公都 政治部会議場『蓮の庭園』
蓮の花が水に浮かぶ、いつもの会議場では、参考人として呼び出されたブルーアイが先の海戦の詳細の報告をしていた。官僚達には、海戦の結果やブルーアイの観戦報告、ロウリア軍の今後の進軍予想などの様々な資料が配布され、机に広げられていた。
「.......以上が、ロデニウス沖海戦に関する報告になります」
ブルーアイが報告を終える。
「....では何かね?大日本皇国はたった20隻の艦隊で、敵艦隊4400隻の半数を破壊し、撃退したというのかね?それに加え、ワイバーン300騎以上の空襲も30機程度の上空援護のみで切り抜け、それどころか敵ワイバーンを全騎撃墜したと? しかも損害もなく、一人の死傷者も出さずにだと?」
「い、いえ...火矢を受けて、少し塗装が剥がれたと.....ハハハ...」
リンスイからの問いかけに、ブルーアイはどう答えたらと考えたものの、引きつった笑みを浮かべてしまう。
「そんなの損害の内に入らんではないか!!」
思わずそう怒鳴り声を上げるリンスイ。
「観戦武官である君が嘘をつくとは思えないが.....どうにも戦果が大きすぎて実感が持てないのだよ...」
「全て私がこの目で見たものです。間違いはありません」
閣僚からの質問にブルーアイはきっぱりと答える。
この事を信じ切れない者から野次が飛ぶ。
本来なら勝てるはずのないロウリアの大軍勢の侵攻を防ぎ、国の危機が去ったので喜ぶべきことなのだが、常識外れの大戦果に政治部会にはある種の恐怖が宿っていた。
喧騒に包まれる政治部会を、カナタが片手で制し、発言する。
「いずれにせよ、これでロウリア軍の海上からの侵攻は防げたわけです。まだ敵の戦力は残っていますが、これだけ手酷くやられたのですから、再侵攻には時間がかかるでしょう。
では次に、ヤヴァン軍務卿。敵の陸軍の動きはどうなっていますか」
「はい。日本から寄付されたドローンや密偵からの情報によると、ロウリア軍はギムの街を中心に陣地の構築と物資の調達を行っているようです。海からの攻撃に失敗したので、ギムの守りを固めてから再度進軍してくると思われます。よって軍部は、ロウリア軍の電撃的侵攻の可能性はほぼなくなったと、判断しています」
ヤヴァンは手元にある資料を見ながらそう説明する。
「日本から、何か今後の動きについて通達はありますか」
「はい。日本政府からはロウリア軍の東進阻止と、今後の作戦展開基地の建設のため、ダイタル平野の貸出を求めています」
「あそこは何もない平野で、土地も痩せていましたね.....わかりました。外務卿、至急大日本皇国に伝えてください。土地は自由に使ってくれてかまわないと。必要ならば、我々も資材などの協力をするとね」
クワ・トイネ公国政府から承諾を得た大日本皇国軍は、マイハークから輸送してきた陸上戦力をダイタル平野に展開し、飛行場の建設を始めるなど準備を始めたのであった。
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ロウリア王国 王都ジン・ハーク 王城
ロウリア王国を治める大王であるハーク・ロウリアは、いつものように大理石の浴槽につかりながらも、拳を握りながら震えていた。
ロデニウス沖海戦において、突如として大日本皇国を名乗る新興国が参戦し、4400隻あった軍船の内半分以上を沈められたのだ。なんとか生き残った船も損傷が大きく、無傷の船は1000にも満たない。さらに、出撃した竜騎士団350騎が1騎たりとも帰ってこず、一刻ほど前に行われた御前会議では全滅したと結論付けられた。
歴史に残る大敗北であった。
ハークの頭を抱えさせるのはこの惨状だけでなく、生き残った者からの報告によるものも大きかった。
その報告だが、荒唐無稽なところが多くあった。
曰く、避けても追ってくる光の矢が竜騎士団を襲い、それによって殆どのワイバーンが撃墜され、敵船が爆発したと思ったら上空に巨大な蒼い太陽が現れワイバーンを飲み込み、消滅させたという。
これらの情報を下に推測すると、敵は新しい魔導兵器を投入したと考えられる。
しかし、次の敵の軍船についての報告は意味がわからないものが多くあった。
まず、敵の船は遠目で見る限り鉄でできているように見えるとのこと。鉄は重く、水に沈むはずだ。それを浮かべることなんてできるのか?
そしてその敵船は、轟音と光とともに、一撃でこちらの船を木っ端微塵にする攻撃を連続で放ってきたらしい。
これらが魔導だとすれば、一体どれほどの魔力が必要になるか想像もつかない。
神話にその名を残すい古の魔導帝国でも復活したのだろうか?我々はその軍隊と戦っているのだろうか。疑問が尽きない。
ロウリア王国は昔からとにかく人口だけは多かったが、人的な質はお世辞にも良いとは言えなかった。
しかし、列強であるパーパルディア皇国の援助を受けて、6年の歳月をかけてようやくこの圧倒的な数を揃えることができた。
しかし、こうなるとこちらの兵器が通用せず、手も足も出ないまま殲滅される可能性が出てきてしまった。
質がものを言う海と空。しかし、陸戦は数がものを言う。戦ならば何とかなるかもしれない。王はその日、想定外の敗戦に苛まれ、寝床で震えながら眠れない夜を過ごすことになった。
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第三文明圏 列強国 パーパルディア皇国
ところかわって、ロデニウス大陸の北に存在するフィルアデス大陸。そこの大部分を支配する列強国の一つであるパーパルディア皇国。
薄暗い部屋の中にほのかなオレンジ色の光が灯る。源は精霊の力で輝かせたガラスの玉で、その光は二つの影を映し出していた。
影を作る2人の男たちは、国の行末に関わる話をしていた。
「.........大日本皇国?なんだその国は?...」
「どうやら、ロデニウス大陸の北東方向にある島国だそうです」
「いや、それは報告書を見れば理解できるが、こんなところにこんな国あったか?大体、ロデニウス大陸から1000km程度離れた場所にある国なら、我々が今までの歴史で一度も気付かなかったとは考えられない」
「あの付近の海域は、海流や風が大変乱れておりますので、船の難所となっております。なるべくこの海域に近寄らないようにしていたので、発見に至らなかったのではないでしょうか?」
「ふむ....我が国の許しも得ずに皇国を名乗る国がそんなところにあったとは....」
そして、話しは先のロデニウス沖海戦についてのことになった。
「しかし、文明圏から離れた蛮地であり、海戦の方法も敵船に乗り込み戦うという前時代的なロウリア王国とはいえ、たった数10隻に半数以上も撃沈されるなんてありえるのか?おとぎ話でももう少しマシだと思うぞ」
「報告書によると、ムーの軍艦のように完全鉄製の船に見えたと記されていますが、蛮族がそんな船を持ってる訳ありませんし、100発100中の大砲なんてむしろ我が国がほしいくらいです。きっとヴァルハラさんも長い蛮地での生活に絶えられずに精神がおかしくなったのでしょう。今度交代させて、ゆっくり療養でもさせたほうがいいでしょう」
「そうだな。一度交代させて慰安旅行でもさせたほうがいい。....それにしても大砲か」
「ええ。もし我が国のフィシャヌス級100門級戦列艦がロウリア王国と戦えば似たような状況になるやもしれません」
「ふむ。その理由は」
「高さも装甲もあり、相手から沈められることはまずないでしょう。距離2kmから、大砲の弾の続く限り一方的に攻撃できます。大日本皇国が何隻の船を使ってロウリア軍を撃退したのかはわかりませんが、軍船の破壊状況を見るに、彼らも大砲を作れる技術水準に達していると判断すべきでしょう」
「蛮族の分際で大砲か....今までロデニウス大陸や周辺国に接してきて来なかったのは、ようやく大砲を作れる技術に達したと判断するのが適当かもしれんな。
ところで、まさかロウリアが負けることはあるまいな?我々の資源獲得の国家戦略に支障をきたすぞ」
「陸戦は海と違い数がものをいいます。ロウリアは人口だけはとにかく多いので、、大砲を持ち始めた程度の国に負けることはないでしょう」
「とにかく、今回の件は、いったん極秘事項として扱い他言無用とする。真偽を確かめるまでは、皇帝陛下への報告も保留とする。わかったな」
「承知しました」
今回の件に関わったパーパルディア皇国第三外務局と国家戦略局に所属する面々は、観戦武官の交代と真偽の確認を行うことにした。だが、真偽の確認はあまり積極的に行われず、ヴァルハラは精神疾患があるとして処理されてしまった。
後の歴史書では「この時、大日本皇国についてもっと詳しく調査していれば、パーパルディアの在り方は大きく変わっていただろう」と記されている。
しかし、その事に彼らが気づいたときには、全てが手遅れの状態になってからだった。