クワ・トイネ公国から正式にダイタル平野の使用許可が得られた大日本皇国軍は、マイハークから資材を輸送し基地の建設を開始した。そして、2週間ほどで、突貫工事ではあるが、小型滑走路などを含む異世界初の日本軍基地である『ダイダル基地』が完成した。
「閣下、第7師団。全部隊集結しました」
「うむ」
クワ・トイネ救援に派遣された第一陣である第7師団を率いる大内田和樹(おおうちだかずき)小将は、指揮所にて師団全部隊の集結と配置が完了した報告を受ける。
ピストン輸送にて運ばれてきた数々の戦車や装甲車が、点検の末待機している。
ヘリパッドではAHF14-隼や、AH22-飛翔などの陸軍の主力ヘリが点検を兼ねて暖気運転を行っており、滑走路方面ではRF3-紫雲が偵察の為に飛び立っていく。
「そういえば、クワ・トイネからの情報によるとギム方面から避難してくる難民がこちらに向かってきているとの事ですが、どう対応しますか?」
副官を務める軍人が大内田に質問する。
「無論、保護する。彼らはロウリア王国から被害を受けた同盟国人だからな」
「分かりました。では偵察に出る各部隊には避難民を発見した場合は保護を最優先にするよう伝えます」
「頼む。それと保護した避難民達の受け入れ態勢も怠るなよ」
「了解!」
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同日
ギムの街から30km離れた地点の草原に、動く物陰があった。
「はぁ、はぁ、はぁ」
「ほら、頑張れ。エジェイまではもうすぐだぞ」
エルフの少年パルンは、妹であるアーシャの手を握りながら歩き続ける。
彼らはギムの東方20kmの山の中にある名も無い小さな村で暮らしていた。しかし、山の中という立地のため情報伝達が遅く、ギムの街が陥落したことを2週間たってようやく知ったのだ。
その時には、クワ・トイネの軍も後方に下がっており、自分たちが住む村とその一帯は、既にロウリア軍の行動圏内に入っていた。
村人たちは慌てて荷物をまとめ、最も近いエジェイの街に避難を開始した。
その数200名。その内、若い男は大半が戦いに出向き、避難しているほとんどは女性や子供、老人だった。
丈の短い緑の草が生える草原。小鳥のさえずりが響き、実に平和的な光景に見える。.....ここが戦場でなければ。
草原はだだっ広く、木も生えていない。それは言い換えれば、遮蔽物がなく身を隠すことができないということだ。
そのため、村人達はのどかな景色とは裏腹の、生死を賭けた行進を続けていた。
すると、突如集団の後ろを警戒していた村人から悲鳴のような叫び声が聞こえた。
「ろ、ロウリアの騎兵隊だぁ!!」
パルンはその声に振り返ると、はるか後方から土煙が迫ってくる。
エルフたちは悲鳴を上げ、全力で走り出した。
「獲物発見....」
血のような赤いマントをなびかせながら、ホーク騎士団に所属する第15騎兵隊隊長である”赤目のジョーヴ”は視界に入った獲物に舌なめずりをする。
赤目のジョーヴはロウリア王国でも名のしれた生粋の極悪人であった。自身に歯向かった者の指を全て切り落としただの、捕まえた女を魔獣に犯させただの、子供を男女問わず犯した後尻からハラワタを焼くなど、その悪行を挙げればきりがない。
「隊長...本当に好きにして良いんですかい?」
「ああ、当然だ!奴らは死ぬまで好きにして構わねぇ!」
「ぎゅフフフ。こちとら偵察で飽きてきてんだからよ、せいぜい楽しませてくれやァ」
そんな彼に率いられる第15騎兵隊も、素行不良者の寄せ集めであり、元々は海賊や山賊だった者が成り上がった者達で構成されているのである。
「いくぜぇ!突撃ぃぃ!!」
「ヒャッハァァァァ!!」
第15騎兵隊は、奇声とともにエルフたちの集団に向けて馬を走らせた。
「走れ!! 早く逃げろ!」
「俺達のことはいいから、早くエジェイに向かえ!」
若い村人は持っていた鎌や斧を構え、他の者達を必死に逃がそうとする。
「や.....やだっ!お兄ちゃんっ....!」
「大丈夫。何があってもお兄ちゃんが守ってやるから!」
不安気に縋り付く妹の手を握り、パルンは必死に走る。
後ろから、自分たちを本気で殺そうとする悪魔が猛スピードで迫ってくる。
僕達は何か悪いことでもしたのか?
走りながらも、パルンは心の中で必死に祈り続けた。
(神様、神様!どうか....どうか助けて下さい!。僕はどうなってもいい!けど、せめて、妹のアーシャだけでも!)
後ろから迫りくる脅威に怯えながら、パルン達は走った。
お互いの距離は500mを切った。
必死になって逃げようと走っているが、どうあがいても馬に乗っている彼らのほうが早く、その距離をどんどんと縮めていく。
ジョーヴは下劣な笑みを隠しもせず、今まで幾人もの命を奪ってきた長剣を振り回す。
「まずは手前のガキ二人からだ.....とつげ__」
そして、突撃、と叫ぼうとした瞬間。
ゴォォォォォォォッ
どこからか、轟音が鳴り響く。雷轟のような音を鳴らしながら空を黒い影が飛び去った。
咄嗟に、ジョーヴは馬の動きを止めた。
「何だぁ!?」
騎兵隊どころか、逃げていたエルフたちも思わず空を見上げる。視線の先にいたのは濃い灰色をした鉄の飛竜の群れだった。
「クワ・トイネのワイバーンか!?」
ジョーヴは棒立ちで叫んだ。だが、すぐにおかしいと気づく。母国のワイバーンを見たことがあるが、あんな品種のワイバーンは見たことがない。
「なっ! 隊長!飛竜から何か光が__っ」
そんなことを考えていると、部下から声が飛んできて自分が棒立ちしていることに気づく。
だが、もう遅かった。
突然の大音響。宙を舞う己の体。敵の飛竜?から放たれた攻撃により、赤目のジョーブはこの世を去ったのだった。
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数分前
「空が澄んでるな」
上空を飛ぶ機内でつい呟く。
"A7-彗星II"陸上攻撃機3機と偵察ヘリ2機で編成された哨戒部隊は、ギム方面の偵察を行っていた。
避難民の早期発見のため、定期的に偵察機を飛ばし、発見した避難民を輸送機で街まで送り届けていた。
航空機がついてきているのは、ここ最近はギムを制圧したロウリア軍の雑多な騎士団が物資調達や偵察として、逃げている避難民を襲う事が多々発生しているためである。
すると、先行していたヘリから通信が入った。
『こちらカルビ。10時方向に避難民と思わしき一団を発見。それと、ロウリア兵らしき集団が避難民を攻撃している、民間人保護の為攻撃を求む』
「こちらホルモン。了解。急行し攻撃を行う」
戦闘に関係ない偵察ヘリは離脱し、ダイダル基地に輸送機を手配し、すぐに避難民を収容できるよう準備する。
「よし。レバー、トントロ。敵を見つけ次第、まずはブラスター砲で蹴散らしてやる」
日本が開発に成功した次世代の兵器。その象徴の一つである、高エネルギー粒子を収束し光弾として放ち、局地的破壊をもたらす兵器であるブラスター砲。
その牙が今、ロウリア兵に向けられた。
空を見上げるロウリア兵に照準をあわせ、操縦桿のトリガーを引く。
「ふっ、エルフに手を出そうとした罰だ。せいぜい地獄で悔い改めな」
放たれた光線が着弾し、連続で爆発が起こる。その度に騎兵は纏めて消し飛んでいく。馬ごとバラバラに砕け散り、盾を構えても、無意味だと嘲笑うようにお構い無しに消し飛んでいく。
「なんだこれは!? アレが敵の導力火炎弾なのか!!」
「くそっ! 退却だ退却!俺は逃げるぞ!」
どうにか逃げようと馬を走らせる者もいたが、エルフ達から距離を取ったことが災いし、翼下のランチャーから放たれたロケット弾が命中し爆炎に包まれる。
あっという間に、ロウリア兵に立っている者はいなくなった。
地上は真っ黒に焦げて大穴があき、周囲には壊れた兜や鎧だった鉄板が散乱している。
「た....助かったのか?」
パルンは辺りを見渡す。助かったのは理解できるが、文字通り騎兵隊を消滅させた存在を前に呆然と腰を抜かしている。
「またなにか来るぞ!」
村人が東の空を指さし、それにパルンも釣られて視線を向ける。
「空飛ぶ船.....」
バタバタバタと奇妙な音を鳴らしながら草原に着陸する。扉が開き、中から見慣れぬ服装をした人物たちが降りてくる。
ダイダル基地より飛び立った輸送機、V44-蒼空である。
「お怪我のある方はおられませんか?」
その中の一人が、突如大きな声を上げる。拡声器を使用したものだったが、人のものと思えない程のその声にエルフ達は恐怖を覚え動けなくなる。
そんな中、パルンはその人に話しかける。
「あの.....」
「ん?なんだい?」
「おじさん達は、その.....太陽神の使いですか?」
突然の質問に困惑する。
(太陽神の使い...?天皇陛下の先祖は天照大御神だが、確かに見方によってはそうとも見えるな)
「そうだよ。おじさん達は太陽神の使いだよ。我々は君たちを守る為に使わされたんだ」
そう答えると、声が聞こえたところから村人達がざわめき始めた。
「ん、何か変なこと言ったか?」
すると、突然村人達がひれ伏した。そして、彼らを称える祈りを送る。
「お、おい。これどうすんだ」
「どうしようって...」
「とりあえず話を合わせたほうが良いんじゃないでしょうか...」
「仕方ない。そうするか」
その後、彼らをV44-蒼空に乗せて避難させようとするが、「神様の使いの船に乗るなど恐れ多い」と中々乗ってくれず、説得に時間をかけることになった。
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ロウリア王国 東方征伐軍司令部
クワ・トイネ公国の国境都市ギム。
ギムの街はロウリア軍の占領下に置かれ、クワ・トイネ公国侵攻の為の基地として陣を敷いていた。
しかし、司令部として使われている大きめの屋敷の中で作戦を練る将校達の顔には、暗さが陰っていた。
ロデニウス沖海戦での多数の軍船とワイバーンの損失という大敗北の情報は、前線の士気の低下を招く危険があったため、ロウリア王、将軍パタジン、パンドールといった軍の上級幹部を除いて秘匿された。
しかし、いつまでたっても本格的な大規模侵攻が開始せず、ギムの要塞化が進んでいることに、兵士達は違和感を抱いていた。
そんな中、その前線に立つ部隊の1つであるロウリア王国東部諸侯団クワ・トイネ先遣隊では衝撃が走っていた。威力偵察に出たホーク騎士団第15騎兵隊の約100名が、エジェイ近隣にて消息を絶ったのだ。
消息を絶ったのだ。
騎兵というのは、陸戦において重要な兵科の一つである。馬の速力を活かした機動力で、瞬く間に敵を襲撃、制圧することができる。速力がそのまま力となり、槍をぶつけるだけで敵にダメージを与えることができるからだ。
そんな優秀な兵科である騎兵が100名も消息を絶つなど、考えられなかった。
「何かおかしいとは思わないか? 我々は本当にクワ・トイネの亜人共と闘っているのだろうか....ワシューナよ、どう思う?意見を述べよ」
クワ・トイネ公国を侵攻中の部隊の一つである東部諸侯団。その指揮官であるジューンフィルア伯爵が、魔導師ワシューナに意見を聞いた。
「生存者がいないので詳細はわかりかねますが、魔力感知に反応がなかったので、ワイバーンのような高い魔法力を持つ生物の使用や、高威力の魔法の使用はなかったと考えられます。
「では何だ。我々の兵は亜人共にやられたというのか?奴らにはそれほどの兵団がいるというのか?」
「それについてですが.....」
ワシューナは何か思うところがあるのか言葉に詰まる。
「もったいつけるではない。申してみよ」
「では、最近魔導師の間で噂になっているのですが....どうにも信じられないような内容でして...」
「うむ。構わん」
ワッシューナは深くため息を吐くと、顔を伏せ気味のままで語った。
「....ギムの粛清後、大日本皇国を名乗る国が参戦してきて、それによって派遣されていた東部征伐艦隊。そのうちの約8割が撃沈、破壊され、救援で派遣されたワイバーン350騎は1騎残らず全滅。マイハーク攻撃作戦は失敗したと...」
「は....?全滅したと?そんな馬鹿な....!」
「350騎全騎がだと!?そんなことがあるか!!」
その言葉に会議室に集まる諸侯達は慌てふためく。
「今回の派遣船団は、それだけでクワ・トイネを征服できるほどの大戦力だったと聞いている。それが辺境の国家が一つ増えたぐらいで、壊滅するのか?」
あまりにも現実離れした話で、ジューンフィルアは信じることができない。
「それなのですが、どうやら敵は魔導兵器を使用しているようです。轟音と共に船を一撃で破壊する破壊魔法を連続で放ち、ワイバーンに関しては追尾する光の槍と空中で爆発する光弾を使って肉すら残さず吹き飛ばしたとのことです。私の知り合いの魔導師から聞いた話ですが....」
「魔導兵器....ギムを落とした時にあった無数の鉄の筒も、か.....」
自分達の部隊に配備されたワイバーンの内50騎を本軍に戻せと命令が出た。急に減らされたことを疑問に思ったが、日本に対しての王都防衛戦力として再配備したと考えれば納得できる。
東部諸侯団の将たちを悩ませる要素は他にもある。既に本隊から次の作戦の指令書が届いている.....のだが、その発行者は恐怖の将校アデムなのである。
その内容は、
『東部諸侯団はエジェイから西3kmの所まで進軍し、陣を構えよ。そこで本隊到着まで待機し、合流と共に本格的侵攻を開始する』
ジューンフィルアは指令書を読んで、ハァとため息をつく。
ホーク騎士団第15騎兵隊が全滅したのは、現在地から東に20kmほど進んだ地点。つまり、エジェイへ行くための半分の地点に高速移動のできる騎兵隊を1人も逃がさずに全滅させるほど強力な敵がいる。
しかし、アデムの命令に逆らおうものなら、自分自身の身もだが、本国においてきた妻子や家族が反乱分子として惨たらしい死を迎えることになるだろう。
次の日には、東部諸侯団とクワ・トイネ先遣隊合計2万の軍勢は、城塞都市エジェイに向けて進軍を開始した。