感謝の極みです!
雲ひとつない青い晴天。
クワ・トイネ公国軍第六飛竜隊に所属する竜騎士マールパティマは、相棒のワイバーンと共に港湾都市マイハークの北東方面を飛行していた。
ロデニウス大陸北東地域に位置するクワ・トイネ公国。大地の神に祝福され、食料となる草や穀物は手を入れず放って置いても生えてくることから食料自給率は100%を超えている。
公国の北東方面は海ばかりが広がり、大した小島も見当たらない。なら何故こんな場所を飛行しているのか、それは、クワ・トイネ公国と同じ大陸に属するロウリア王国との緊張が高まっているからだった。
ロウリア王国は人間至上主義を掲げ亜人を排斥し、いずれロデニウス大陸を統一せんと目論む国家だ。クワ・トイネ公国はエルフや獣人の国民も多くいる。
そのため、軍船による偵察や奇襲攻撃に即座に対応する為に哨戒の数を増やしていた。
一瞬、空の彼方に何かが光った。
「ん?なんだ?」
自分以外が居ないはずの青い空に、自分以外の何かがいる。
友軍騎の可能性も考えたが、この時間帯に飛行する予定はなかったことを思い出す。
ロウリア王国の可能性も考えたが、ロウリア王国のワイバーンでは飛行可能距離が圧倒的に不足している。
文明国には竜母なる滑走路を運搬できる軍艦が存在するらしいが、こんな東の蛮地にいるとは思えない。
やがて、それはグングンととんでもない速さでこちらに近づき、やがてその全貌が顕になった。
「___なっ、なんだあれは!」
ワイバーンより大きく、そして羽ばたいて居ない。
緊急を要すると考え、通信具を取り出し本部に連絡を取る。
「こちら第六飛竜隊マールパティマ。我、未確認騎を確認。これより要激し、確認を行う」
報告を終え、通信用魔道具をしまうと、彼は再度向かってくる未確認騎を見据え、速度を上げようとする。
が、未確認騎は、マールパティマの横を轟音を響かせて通り過ぎてしまった。
その物体は、灰色ののっぺりとした不気味な体をしていて、後ろから火を吹いている。羽ばたいていない翼の先の一部が緑や赤に点滅していた。
口や目のようなものは確認できず、足も生えていない。
彼は速やかにワイバーンを反転させて追いかけようとするが...
「はっ速い!速すぎる!」
ワイバーンの最高速度は235kmであり、生物の中で最速を誇る。文明国には更に速度をあげた改良型が存在するらしいが、それよりも速いかもしれない。
「司令部!未確認騎はマイハーク方面に侵入!繰り返す、未確認騎はマイハーク方面に侵入!
『こちら司令部。未確認騎に接触出来るか?』
「無理だ!速度が違いすぎる!追いつけない!」
竜騎士マールパティマは、その未確認騎から引き離された。
「くそっ...!」
自分に悪態をついた。
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マールパティマの報告を受け、マイハーク司令部は蜂の巣をついたような大騒ぎとなった。
ワイバーンにも追いつけないような飛行物体が、よりにもよってここマイハークに飛んできているのだ。
もし新たなる第三国が侵略してきて攻撃を受けたのなら、クワ・トイネ空軍の威信は地に落ちる。
未確認騎は速度からして、おそらくすでに本土領空に侵入してるはず。
「これは訓練ではない!第六飛竜隊は速やかに全騎発進せよ!未確認騎がマイハークへ接近中、発見次第撃墜せよ!繰り返す、発見次第撃墜せよ!」
スクランブルを受け、滑走路からどんどんワイバーンが発進する。
第六飛竜隊は、運良く未確認騎の正面に正対した。点ほどの大きさの未確認騎は、みるみるうちに大きくなる。
「なんと面妖な....」
「羽ばたいていないぞ!」
その姿を見て、隊員達は声を上げる。
「速いな.....聞け!これより、導力火炎弾の一斉射撃を行う!未確認騎はワイバーン以上の規格外の速度で接近中だ!故に、チャンスはすれ違う一瞬だけだ!各自、最大限の注意を払え!日頃の訓練の成果をここで見せよ!」
ワイバーン14騎が口を開ける。ワイバーンの基本攻撃技である導力火炎弾の一斉射撃。これが当たれば、落ちない飛竜は存在しない。ワイバーンの口に火球が形成され始める。
ところが、発射準備が整いつつあったその時、未確認騎は急上昇を始めたのだ。
「なっ....!」
彼らは既にワイバーンの最高高度である4000mに達しており、これ以上の上昇はできない。
「第六飛竜隊より緊急通達!我、未確認騎を発見し攻撃態勢に入るも、未確認騎は限界高度を超えて上昇し、我々の射程外である超高高度でマイハーク方向へ進行した!追尾中なるも未確認騎は超高速のため捕捉できない!」
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クワ・トイネ公国の国土でいうと、中央の北部沿岸に存在し、公国の中では屈指の規模を誇る経済都市マイハーク。そこは今、大混乱に陥っていた。
砦にいた守備隊隊長の女性騎士イーネは部下たちに指示を出しつつ愛弓を手に砦でも最も高い見張り台に登る。
街では警報が鳴らされ、人々は大慌てで商店や住居の中に隠れる。
鎧を着た魔導士や弓師が城壁の上に並び、未確認騎が来るであろう北東の空を見上げる。
イーネは第六飛竜隊がもたらした情報から相手の行動理由を予測する。
向かってくる未確認騎は飛竜よりも速く、見慣れない姿をしているとのこと。
(マイハークを攻撃するならもっと数がいてもいいはず、なのに相手は一騎のみ.......攻撃するつもりはないってこと?)
そうイーネが考えていると、聞いたことがない物々しい音が聞こえ始め、意識を切り替えて愛弓を構える。
「き、来たぞぉぉ!!」
誰かが大声で叫び、空を指差す。
直後、マイハークに一騎の飛行物体が侵入してきた。
ソレは圧倒的な速度で、聞いたことのない轟音を鳴らしながら迫ってきた。
未確認騎は高度を下げ、マイハーク上空を旋回するように飛ぶ。
誰もが耳を塞ぎ、頭を守るように伏せたが、攻撃してくる様子はない。
弓を射る者もいたが、高高度で飛ぶ未確認騎に当たるはずもなく、そのまま海に落ちて行った。
「一体...何だったの...?」
未確認騎は、暫くマイハーク上空を旋回すると、満足したかのように北東方面に飛び去っていった。
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大日本皇国 官邸 会議室
翌日、偵察機からもたらされた情報を元に討議する為に、沖田を除く政府官僚は会議室に集まっていた。
「本日未明、空軍は南西大陸(仮)に偵察機及び哨戒機を発進させました。そして、例の南西大陸に中世ヨーロッパに近い文明を確認しました。
偵察機から撮影された画像がありますので、表示します」
スクリーンに映されたのは、上空から撮られたその街並み。風車に小麦畑、ガレー船らしきいくつかの船。
そして.....
「ワイバーン...」
「ワイバーンだな...」
前脚と翼が一体化していて、前世界において主力の航空戦力として各国が使用していて、尚且つ異世界でないと有り得ない生物が写った。
「大きさから鑑みるに、前世界における品種改良など為されていない一般的なワイバーンと同程度の性能だと考えられます。速度も200km程度だったとのこと」
画像を切り替え、そのワイバーンをアップにしたもの、複数体のワイバーンが偵察機の前方に展開する画像が表示される。
「ご覧の通り、首元に国章のようなものが確認できました。詳細はわかりませんが、何らかの所属を示すものであると考えられます」
「つまり、このワイバーンは国家が管理するものの可能性があると」
「はい。更にこの後、地上から複数体のワイバーンが離陸し接近してくるのが確認できました。恐らく、彼らが我々に気づき迎撃に動いたと考えられます。
つまり、地上には組織として動く集落、又は国家が存在する可能性が高いです」
そう言い終わり、席に座る。藤城は考える。この新しい世界に国家と見られる組織集団の存在を確認できたのは行幸だった。
しかし、だとしたら今我が国がしたことは不当な領空侵犯に他ならない。
果たして、まともに取り合って貰えるだろうか。
すると、外務大臣が立ち上がり進言する。
「先日の会議から分かる通り、この未開拓の世界で我が国だけで生きていくのは非常に困難です。既に株価の下落や買い占めが始まっており、このまま孤立していては我が国の体制は確実に崩壊します。
加えて、新たな資源や技術を入手できる可能性もあります。
ここは孤立的外交ではなく、積極的に他国と接触するべきだと進言します」
先日、臨時国会が開催され、緊急事態宣言と有事物資統制法の発令が議決された。
国民に苦労を強いることになる為、できるだけ早く解除したいのが本音だった。
「我が国だけでは成り立たなくなるか」
「はい。食料は持ったとしても、資源が底をつけば、我々の生活は江戸時代以前にまで逆戻りするでしょう」
藤城は決断する。
「わかった。外務大臣、謝罪も兼ねてその新興大陸に外交官を派遣させろ。
メナスバーンのような危険国家だった場合に備え、艦隊の派遣も許可する」
「了解しました」
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ずるずるずる
部屋中にラーメンを啜る音が響く。
日本の叡智、カップ麺を啜るのは、外務省に所属する川波優矢だ。
誰にでも敬語で話す系の人物で、 食後の紅茶は欠かさない。
肩書は特別・特務外交官で、新たな国との国交開設や、危険レベルに達した敵国との交渉に出向く役割を持つ。
「よお。転移して早々仕事だなんてお前も大変だな」
「全く、人使いが荒いものです。転移によって各国大使館の在中大使や外交官を軒並み軒並み損失したことでバタバタと対応に追われようやくそれが一息つけたというのに。おかげで食事を食べ損ねましたよ」
「まあそう言うなって」
沖田と川波はそれなりに長い付き合いがある。
彼の物言いはお世辞にもいいとは言えない為、他国に出向いた際には命を狙われることもある。
その時は、皇国にて最強の戦闘能力を持つ沖田を護衛として連れていくこともあった。
「さて、貴方がここに来たのは私が乗る艦艇についてですか?」
「そうだな。まあ流石に戦艦を連れてはいけないがな。メナスバーン帝国の前例があるとはいえ、いきなり砲艦外交はまずい」
「中世文明の国だったら駆逐艦でも十分ですよ」
「違えねえな」
かの黒船来航でも、戦列艦や蒸気船でさえ我が国は度肝を抜かれたのだ。
完全鉄製装甲の200m間近の船など、最早意味不明の産物だろう。
「それで?私は誰に乗るんですか?」
「ああ、一応乗船してもらうのは空母出雲になる。随伴艦は・鳳翔・古鷹・吹雪・叢雲・夕立・綾波・黒潮だ」
「軽空母2、巡洋艦1、駆逐艦5隻ですか」
「心配するな。吹雪と叢雲、古鷹の3隻は前世界でクラーケン討伐に貢献している。もし化け物に遭遇してもどうにかなるだろ」
「そうですか。では、一先ずは彼女たちを信じましょうか」
「そうだな。出航は明後日の朝8時だ。紅茶の在庫も確認しとけよ」
「はいはい、わかりましたよ」
翌々日、艦隊は異世界の大陸へと出航した。
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クワ・トイネ公国 公都クワ・トイネ
その中央に位置する首相官邸。
蓮の葉が浮かぶ庭園のような場所にて、公国の首脳陣が集まり会議を開いていた。議題はもちろん、先日マイハークに侵入した未確認騎についてである。
クワ・トイネの防衛、軍務を司る軍務卿のハンキ将軍から報告書が全員に配布された。
その内容を見て、公国首相の若くハンサムなエルフ、カナタは頭を抱えている。
「皆の者、この未確認騎についてどう考える」
情報分析部が手を挙げ、発言する。
「情報分析部の報告としては、この未確認騎は五代列強国の一つ、列強第二位のムー国が持つ飛行機械に酷似しているとのことです。しかし、ムー国の飛行機械は最新鋭の物でも最高速度350km程度で、今回の未確認騎は明らかに時速800kmを超えています」
誰もが信じられないと言った表情を見せる。
「しかも、ムー国までの距離でさえ我が国から20.000km以上離れています。極秘で作られていた物だとしても、今回の物体がムー国のものだとは考えにくいです」
「つまりこの未確認騎を持つ国家は、下手をすれば列強国をも上回る技術を持っているということか」
「はい」
結局は、あの未確認騎の正体はわからず、会議は振り出しに戻る。
その未確認騎には、赤い丸が描かれていたというが、そんな紋章を持つ国はこの世界に存在しない。
「唯一の救いは、その未確認騎が攻撃的ではないことか.....」
ただでさえロウリア王国との緊張状態が続いていてストレスが溜まっているというのに、官僚達は頭を抱えていた。
と、その時だった。
政治部会に、外交部の若手幹部が息を切らしながら入ってきた。
「何事か!?」
外務卿のリンスイが声を上げる。
「報告します!マイハークの沖合に全長200mを超える超大型艦を含む艦隊が出現しました!
臨検した海軍によれば、『大日本皇国』を名乗る国家の特使が乗っており、我が国への謝罪と会談を望んでいると!」
ここまでの話は、まだ彼らにも理解できた。だが、その後の報告で、彼らは耳を疑った。
意味がわからなかったので、要約すると、
・大日本皇国という国は、突如として異世界から転移してきた。
・元の世界との国交が全て断絶された為、周囲をテイサツキなる物で付近の偵察をしており、その際に我が国への領空を侵犯してしまった。
・領空侵犯に対して改めて謝罪をしたい。
・日本から貴国に敵意はない。
・クワ・トイネ公国と会談を行いたい。
突拍子もない話に誰もが信じられない思いでいた。
しかし、先日マイハーク上空にあっさり進入されたのは事実であり、全長200m越えの巨大船の報告もある。
国ごと転移など、神話では聞いたことはあるが現実にはありえないと思っている。
しかし、大日本皇国という国は礼節を弁えており、武力を持っての高圧的な態度は一切見られなかったとのこと。
対ロウリアの為に少しでも戦力を増やしておきたいカナタは、特使と会うことを決めた。
・川波 優矢
役職 特別外交官
誰に対しても敬語で話す系の人物。
仕事時とそれ以外、良心的な国家と敵対的な国家で言動が別人レベルで変わる。
紅茶の国直伝の中々の毒舌を持ち合わせており、格下の敵性国家(パ皇みたいな)を煽り散らかしている。その為、外交先で良く命を狙われ、護衛として沖田を連れていくことがある。
一応護身術を習っている。
紅茶とトマトが好き。