数時間前 マイハーク沖合
「我が国の領海に接近する未確認大型船団を発見!」
魔信で艦隊全体に情報が行き渡る。
クワ・トイネ公国第二艦隊、軍船ピーマは大型船に向けて航行していた。
その船長であるミドリは、双眼鏡を覗きその大型船を眺める。
「ふむ、大型船は帆を下ろして停泊しているようだな」
そもそも帆は積んでないのだが、彼らの常識的にはあり得ないので、皇国派遣艦隊をそのように解釈した。
帆をいっぱいに貼り、風を動力として進むと共に、オールをこいで大型船に接近する。
しばらくして、どれだけ近づいても相手に辿り着かず、輪郭だけが大きくなる事実を認識した。
「なんという大きさだ....まるで砦ではないか!」
漸く接近し、200mを超える船体を見てミドリは驚愕の声を上げる。
「船長...私はパーパルディア皇国に研修で行ったことがありますが、そこで見た100門級戦列艦よりもこの船はでかいです」
船員の一人がそう呟く。
「副船長、大型船についている旗....見たことがあるか?」
船長が甲板上の構造物を指差す。そこには白無地に赤い丸が中心に描かれた旗と、その赤い丸に向けて赤い集中線が入っている二つの旗が翻っているのが見えた。
「いや、あのような旗を持つ国家も船団も見たことがない」
その時、不審船の横についてある大きな甲板が下に動いた。
「甲板が降りてきたぞ!」
「新手の魔法道具か!?」
「船長!人が!人が手を振っています!」
オールを漕ぎ、降りてきた甲板に近づくと、近くに居た人間が港の荷物運搬用の機械のようなものを動かして、即席の階段を作り上げた。
「あそこから乗れと言うことか....?」
ミドリは艦首で振り返り、険しい表情を崩さず乗組員に伝える。
「もしかしたら新興国の船かもしれん。皆の者!これよりあの船の臨検を行う。だが、新興国の使節を乗せている可能性がある為、臨検隊員諸君には不用意に高圧的な態度は取らないように頼む!!では行くぞ」
ミドリは恐る恐る階段を上がり、付いてきた水夫もそれに従う。
船に乗船し大型船の船員についていくようにして甲板に出た。
「なんだこの広さは!甲板の上で騎馬戦が出来てしまうではないか!」
船の上は驚くほど平坦で、竜だと思われるものや、謎の細い筒や棒が無数にあった。
これほどの大型の船ならば、乗っている船員の数もかなりのものだと思われる。無闇に危害を加えたら自分たちは帰れないだろうと推測した。
すると、屋内から人が出てきた。
おそらく自分たちと話すピシッとした黒い服(スーツ)を着た男と、海軍の将校服を着た男が先頭に立つ。
「私はクワ・トイネ公国海軍第二艦隊、ピーマ船長のミドリだ。
現在、クワ・トイネ公国は厳戒態勢であり、あと数キロで我が国の領海に侵入する。貴艦隊の所属、及び航行の目的を教えてもらいたい」
ミドリの言葉に、黒服の男が驚いたように声を上げる。
「なんと!言葉がわかるのですか!?」
何に驚いているのかわからず、ミドリ達は首を傾げた。
「失礼。私は大日本皇国外務省所属、特別外交官の川波優矢です」
川波はミドリに名刺を差し出す。読めない謎の字を書かれた薄い紙を渡されて戸惑うミドリだが、もらったほうがいいのだろうと空気を読んでそれを受け取った。
「外務...と言うことは、貴方達は他国の使者ということだな?」
「ええ。この度は大日本皇国政府を代表して、貴国と国交を樹立したくこの様な方法を取らせて頂きました」
「大日本皇国?聞いたことがない国だな」
「それも当然でしょう。我が国は、突然国土ごとこの世界に転移してきてしまったのです」
「それは....」
「哨戒機や偵察機による情報収集の結果、そう判断しました。」
「それでは、先日我が国のマイハーク上空に現れた未確認騎というのは...」
「はい。あれは我が国の偵察機です。あれは予期せぬ領空侵犯でありました。
我々の航行目的は、先日の領空侵犯についての謝罪と、貴国との交流....状況によっては国交を持ちたいと考えています」
国が丸ごと転移するなどあまりにも馬鹿げている。ただ冗談を言っているとも思えないので、ひとまず今聞いたことを報告することにした。
「そうでありましたか。ですが、我々は他国との国交の開設の権利は有していない。一度本国に連絡を取りたいので船に戻っても?」
「....わかりました。何日ほどお待ちすれば良いでしょうか?」
国家のため、何より川波が嗜むアレのために迅速に国交を開設したいと考えていた。だが、中世ほどの技術力では連絡を取るだけでも数日かかることがある為、川波は顔を曇らせながらそんな問をかけた。
しかし、ミドリの返答はそれを良い意味で裏切るものだった。
「いや、魔信で連絡するので、すぐに終わります」
その答えに安堵した。
10分程して、日本艦隊のマイハークへの入港許可が出た。艦隊は第二艦隊の後に続く形で進んでいき、港湾都市マイハークへ入港した。
この決断がクワ・トイネ。引いてはロデ二ウス大陸全体の運命を変えることになろうとは、この時は誰も思いもしなかった。
数時間後
クワ・トイネ公国 公都クワ・トイネ 首相官邸応接室
部屋の中で、公国の首相であるカナタと外務卿リンスイがこれからやってくる未知の国との会談に緊張していた。
本来なら、初めての会談でいきなり首相や外務卿が直接参加することはないが、クワ・トイネ公国は現在人間至上主義を掲げるロウリア王国との緊張状態が続いており、少しでも味方となる戦力が欲しいと考えていた。
また、大日本皇国が覇権主義だった場合、理不尽な要求や不平等条約の締結を回避しなければならない。
見たことのない飛行機械なる鉄竜や、要塞のような巨大艦を運用する国。大日本皇国。
そんな国を相手にするのに、緊張せずにはいられなかった。
「日本の外交団の皆様入られます!!」
二人は席を立ち、扉が開いて日本の使者が入ってくる。
宝石や華々しい装飾はついていないが、布の質感は良く凛とした印象を与える。
「初めましてカナタ首相。本日はこのような会談を設けて頂き、ありがとうございます。私は大日本皇国外務省の特別外交官の川波と申します」
「クワ・トイネ公国首相のカナタです」
「クワ・トイネ公国外務卿のリンスイです。本日は司会進行を務めさせて頂きます。よろしくお願い致します」
大日本皇国とクワ・トイネ公国の会談が始まった。
「まず最初に、先日の我が国の偵察機が貴国の領空を侵犯したことを深く謝罪致します」
カナタは真っ先に領空侵犯について深く謝罪した上に、頭まで下げて謝罪する姿に好感を覚えた。
「クワ・トイネ公国の代表として、正式に謝罪を受け入れます」
カナタも、努めて穏やかに、そう言う。
「次に、我が国としては貴国についての誠実な説明を求めたい」
「ごもっともです。なので、会談に先んじて我が国の資料を作成いたしましたので、配布いたします」
側に控えていた職員がカバンから資料を取り出し、配布する。
すると、公国の参加者は羊皮紙とはまるで違う紙の質に瞠目した。
(なんだこの紙の質は!なぜこんなにも滑らかなんだ!)
驚くままリンスイは、資料を読み始めようとするが、すぐに顔を顰める。
「........失礼。この文字、読めませんぞ」
「え?流暢に我が国の言語で話しているので、てっきり文字も読めるのかと」
「私達からすると、其方が世界共通語を話しているように聞こえますぞ?」
言葉が通じているが文字は違うようだ。
(なるほど。どうやら言語は自動で相手が理解できる言葉に翻訳されるらしい。初接触した時にコミュニケーションに困らない為の世界からのせめてもの配慮なのか)
前世界においても原住民への謎翻訳が働いてたので、そういうもの何だろうと考えるのをやめた。
「わかりました。では口頭で説明させて頂きます。我が大日本皇国はここから東へ約1500キロに位置し、面積凡そ68万2000平方キロメートルの国土と、約1億9000万人の人口を有する幾つかの島々で構成される海洋国家です」
「待ってください!あの海域にそんな大きさの島はなかったはずです!精々100人住める程度の小島が少しある程度です!」
「原因は不明ですが、我が国は偵察機やその他様々な方面からの情報を分析し、”国土ごと別世界に転移した”と結論づけました」
川波の言葉に、リンスイは疑り深い視線を向ける。
「馬鹿な!国ごと転移など、あなた方は御伽噺を語っているのですか?」
「信じていただけないのは当然でしょう。しかし我々にとっては実際に起きた出来事であることは事実なのです。
........参考までに、こちらを御覧ください」
川波は、そう言うともう1枚のパネルを提示した。
「こ、これは!」
そこには、ロデニウス大陸。そして東方に存在する見慣れぬ島々を移した
「こちらは、偵察機及び衛星写真から捉えた現在の我が国を上空から写したものです。この右側にあるのが、我が国の国土です。この場所に、このような島々はありましたか?」
「うぅ.....」
リンスイが思わず行き詰まる。
すると、カナタが敵意はないものの、真剣な表情で川波に問い返す。
「ですが、そのような地図はいくらでも作れます。より我々が視覚的にそれを確認する方法はありませんか?」
「そのことですが、皆様には実際に我が国に足を運んでもらい、ご自身の目で見てもらうというのが、もっとも確実で手っ取り早い方法かと、我々は考えています。我々が嘘を語っているのではないと理解してもらえるはずです」
「つまり、使節団を派遣してほしいということですね」
「はい。もちろん移動手段や滞在に掛かる部分は我が国が責任をもって行わせて頂きます」
「しかし....」
リンスイは難色を示した。当然だろう。なんせ彼等も国民の一人なのだ。得体のしれない国家に人員を派遣し、何か問題が発生、最悪の場合死亡でもしてしまったらたまったもんじゃない。
「リンスイ。私はこの提案を受けるべきだと思う」
使節の派遣という提案にリンスイが悩んでいるのを見かねて、カナタが割って入った。
「卿の悩みもわかる。だが、彼等は非常に誠実で礼節を弁えておられる。なにより我が国を簡単に攻め滅ぼせるであろう軍事力を有しながら、その力を背景に威嚇してくる事もない。条件次第ではあるが、私は国交を結ぶことを前提に付き合っても良いと考えている」
「わかりました。一週間後に出発いたしますので、それまでに派遣される人員等の準備を進めといて下さい」
「わかりました。では、これでお開きとしましょう。本日はこちらで部屋を用意させておりますので、旅の疲れを癒してください」
「御心遣いに感謝致します」
その後、外交団はクワ・トイネ側の持て成しを受け、ゆっくりと休息を取った。会談の内容は、打ち上げられた通信衛星によって速やかに日本政府へ報告された。
川波が真価を発揮するのはまだまだ先です。