お姉さんと僕   作:埴輪庭

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第50話「東京山手医療センター③(御堂聖、早川俊介、木下麻衣、原田浩二)」

 ◆

 

「付き添いの方もどうぞ」

 

 受付の女性がそう言った。

 

 早川さんたちは互いに顔を見合わせ、おそるおそる近づいてきた。

 

 椅子に座っている霊の群れを避けながら、僕らは端のほうの空いた席に腰を下ろした。隣に座っている老人らしき影が僕のほうを一瞬見て、すぐに興味を失ったように俯く。話かけるのは──さすがにまずいか。変に刺激するのもよくないし。

 

 電光掲示板の番号がゆっくり切り替わっていくけど、何番まで進んだら僕の番だろう。そもそも番号札なんて貰っていない。受付票みたいなものも渡されなかった。彼女は僕の名前を呼ぶと言っていたけど。

 

「とりあえず名前呼ばれるまで待つしかねえな」

 

 早川さんの言う通りだ。

 

 十分か二十分か、あるいはもっと長かったかもしれない。とにかく待っていると──

 

「御堂聖さま。二番診察室へお入りください」

 

 立ち上がると、早川さんたちも腰を浮かせた。

 

「付き添いも来ていいのか?」

 

「はい、どうぞ」

 

 助かる。

 

 正直一人だけでっていうのはちょっと怖かった。()()となればもしかしたら守っては貰えるかもしれないけど、いつでもどこでも守れるわけじゃないとお姉さんが言っていたし。それにしても、僕も僕で強くならなきゃいけないけれど、強くなるといってもなあ……。何をどうすればいいのか……。このお仕事が終わったら掲示板に書き込んでみようかな。

 

 ◆

 

 二番診察室は廊下の右手にあった。さっきは全然開かなかったドアが、今は普通に開く。中に入ると白い診察室で、デスクの向こうに白衣の男の人が座っていた。

 

 お医者さんだ。眼鏡をかけていて、白髪交じりの髪を後ろに撫でつけている。痩せた顔に深い皺が刻まれていて、なんというか鋭い印象。名札には「鷲尾」とある。鷲か、確かにイメージ通りかも。

 

 この人も幽霊みたいだ。半透明という感じではないけれど、輪郭がどこかぼやけている。

 

「どうぞお掛けください」

 

 鷲尾先生は診察机の脇の椅子を示した。僕が座ると、早川さんたちは後ろに立った。

 

「本日はどうされましたか」

 

 カルテを開きながら鷲尾医師が尋ねた。カルテ? どこから持ってきたのか、僕の名前が書かれた紙がそこにある。保険証を出した時点で自動的に作られたのだろうか。異常領域の理屈は本当に分からない。

 

 僕が答えに詰まっていると、早川さんが口を開いた。

 

「あー、先生、実は俺らも付き添いってより患者みたいなもんでさ」

 

「ほう」

 

「鎮痛剤とか消毒薬とか、あと風邪薬とか。色々欲しいんだよね。備蓄してた分が切れちまって」

 

 鷲尾医師は眼鏡の奥で目を細めた。なんだか変に圧がある。ちらと見ると、原田さんも居心地悪そうにしていた。

 

「なるほど。物資の調達ですか」

 

「そうそう」

 

 本当にそんな理由でいいのかな? 普通、病院ってそんな目的じゃ薬は処方してもらえないと思うんだけど──と思っていたら。

 

「いいですよ。この病院には大抵の薬がありますから」

 

 と、あっさりした返答だった。

 

「ありがてえ。じゃあ──」

 

「ただ、診察を受けていただく必要はあります。症状を伺って、処方箋を出して──という流れですね」

 

「あー、まあそりゃそうだよな。はいはい」

 

「では改めて。症状をお聞かせください」

 

 早川さんは適当に肩が凝るだの頭が痛いだの言い始めた。木下さんが切り傷の消毒用にとか、原田さんが胃薬もとか、各自が思いつく限りの症状を並べていく。鷲尾医師はいちいち頷きながらカルテに何かを書き込んでいた。

 

「そうですか、そうですか。色々とお辛いようで」

 

「まあそれなりに」

 

「ところで──」

 

 鷲尾医師がペンを置いた。

 

「異能をお持ちのようですね」

 

 空気が変わった。早川さんの肩が僅かに強張るのが見えた。

 

「……分かんの?」

 

「ええ。医者ですから」

 

 どういう理屈なんだろう。木下さんが一歩下がった。原田さんは表情を変えないまま、それでも視線だけが出口を確認しているのが分かった。

 

「いや、別に取って食おうというわけではないですよ」

 

 鷲尾医師は笑って続ける。

 

「むしろ提案があるんです。異能を強める薬というものがありましてね」

 

「は?」

 

 早川さんの声が裏返った。

 

「この病院にはあらゆる薬がある。鎮痛剤も消毒薬も風邪薬もありますが──異能を強化する薬もあるんです。興味がおありでしたら、一つ試してみませんか」

 

「異能を強化って……そんなのあんの?」

 

「ありますとも。ここは病院ですから」

 

 早川さんの目が輝いた。木下さんはその反応を見て眉を顰めている。

 

「ちょっと待って。そんな都合のいい話──」

 

「いやいや木下、聞くだけ聞いてみようぜ」

 

「聞くだけって、早川くん……」

 

「大丈夫大丈夫。なあ先生、それってどういう仕組みなんだ?」

 

 鷲尾医師は嬉しそうに椅子を回してデスクの引き出しを開けた。

 

「理屈は単純です。霊子を凝縮した錠剤を服用すると、体内の霊子濃度が上昇する。すると異能の出力も比例して上がる。念動力ならより重いものを動かせるようになりますし、治癒能力ならより深い傷を癒せるようになる」

 

「へえ……」

 

「副作用は?」

 

 木下さんが鋭く聞いた。

 

「特にありません。強いて言えば服用直後に軽い眩暈を感じる方がいる程度です」

 

「そんな都合のいい薬があるわけ──」

 

「試しに飲んでみますか?」

 

 鷲尾医師が早川さんを見た。

 

「え、いいの?」

 

「ええ。半錠だけ。効果を実感していただければ、あとは処方箋をお出しします」

 

 引き出しから青い錠剤の入った小瓶が出てきた。鷲尾先生は一錠を取り出し、机の上でカッターナイフを使って綺麗に半分に割る。

 

「早川さん、やめたほうが……」

 

 僕は思わず口を挟んだ。

 

 何が変って何もかも変なんだけど、僕が感じたのはある種の気持ち悪さだった。なんというかご都合主義というか……そう、都合が良すぎるのだ。よくよく考えてみればそんな風には物事進まないだろうっていう風に進んでいるというか……。中々上手く言語化できない。

 

「大丈夫だって御堂」

 

 早川さんは笑っていった。

 

「これは報酬なのさ」

 

「報酬?」

 

「ゲームでもあるだろ? 謎を解いたり試練を乗り越えたらアイテムがもらえるってやつ。俺らは受付っていう謎を解いて中に入れた。だからこれはその報酬だよ。RPGでダンジョンクリアしたら宝箱があるのと同じ」

 

 そうだ、ゲームだ。

 

 漫画でもなんでもいいけど、創作物の登場人物ってよく考えたらそんな事をはしないよねっていう事を平気でしたりする。ホラー映画の登場人物とか、なんで一人でそんなところにいくの? みたいな行動を取ったりするけど、そんな感じだ。まあ“物語”ってそういうものだから仕方ないのだけど……。全体のルールがあって、登場人物はそれに従わなきゃいけないっていう制限がある。

 

 なんだか()()を押し付けられている──そんな気がする。言っている意味分かるだろうか? まぁ僕にもよくわからないけど。

 

「いやでも、ここはゲームじゃ……」

 

「まあまあ」

 

 早川さんは青い半錠を指で摘まみ上げた。

 

「半錠だぜ? 様子見だよ様子見」

 

 木下さんが止めようと手を伸ばしたけれど、早川さんは既にそれを口に放り込んでいた。

 

空白行について。現在、句点「。」で終わる文章一つにつき空白行が一つありますが、これは読みづらいですか?

  • ①問題ない
  • ②少し詰めて欲しい
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