…………………
4月30日 9時50分
アクセル裁判所 控室
「うう…。緊張してきた…。」
「ナルホドくん大丈夫?顔が青いを通り越して真っ白だよ?」
(どんな顔色だよ!)
成歩堂が控室で、ぐったりしていた。初めての異世界での裁判。自分の力がどこまで及ぶのか…。異世界に来てまだ間もない上に取り扱う事件が殺人事件、まだよく掴めていないこの状況でまともに裁判できるのだろうか…。
「ナルホドくん、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ!お姉ちゃんだって言ってたでしょ?ピンチなときこそふてぶてしく笑うって!」
マヨイちゃんの言葉に励まされナルホドは顔を上げる。千尋さんもきっとこの状況なら同じ事を言っていたと思う。ピンチな時こそふてぶてしく笑ってやる…。久しぶりに聞いたな。
「うんそうだねマヨイちゃん。何だか自信が出てきたよ。」
とりあえず状況を整理しよう、ナイフにはアクアさんの指紋が付いていた。これだけ見ればアクアさんが刺した可能性が高いくなる、だけどアクアさん曰く、ただ拾っただけみたいだ。今回の裁判ナイフをアクアさんが使っていないことを証明できれば何とかなるかもしれない。
「本当に大丈夫なんでしょうね!私無罪になるのよね!」
「で、できる限りのことはやってみます…。」
「アクアさんやってないならきっと無罪になれますって!」
「そうよね!私やってないんだから!」
…アクアさんがやっていないなら僕はそれを信じて弁護をするだけだ。カズマくんやダクネスさんもアクアさんのことを信頼していた、きっと大丈夫なはずだ。
「弁護人!被告人!もうすぐ開廷時刻です!迅速に入廷を願います!」
入口の衛兵が大きな声で言う。
「時間ね…私のこと任せたわよ!」
アクアはすぐに法廷に入っていく。
「うう…大丈夫かな…?」
「うなだれててもしょうがないよ!それじゃあいっちょやるよ!ナルホドくん!」
僕とマヨイちゃんも続けて入隊する。
………………………
同日 10時00分
アクセル 第二法廷
ガヤガヤガヤガヤ…
カン!
乾いた木槌の音が法廷に響き渡り、先ほどまで騒がしかった傍聴席が静かになる。
「これより被告人アクアの審理を始める。」
「弁護側、準備できています。」
「検察も同じく。」
「さて…弁護人は異国の弁護士と聞きましたが…。」
「は、はい。」
「この国の裁判の仕組みはご存じで?」
「え…えっと…」
「弁護人このくらい知っておいてください。」
「ナルホドくん!言われてるよ!」
「しょうがないだろ…、僕ここの法廷初めてなんだから…。」
「…まあいいでしょう。軽く説明させてもらいます。ここでは一度の証言で複数の証人に出て貰う場合があります。」
「…?一度に複数?それっていいの?ナルホドくん。」
「確か明治時代の裁判もそんな感じだったらしいよ。複数の証人を尋問して陪審員で最終的な評決を取って判決を決めてたらしいよ。」
「へぇ〜。」
「必ずしも複数とは限りませんが、順調に裁判を進めるための制度ですな。」
「分かりました。」
(…ここでもやり方はそんなに変わらないはずだ。自分のやり方でアクアさんの無実を証明するだけだ!)
「ふむ、それでは検事、事件の概要を。」
「仰せのままに…。事件は昨夜とある路地裏で起こった。被害者はトラエゴ、旅をしていた冒険者パーティのリーダーだ。死因は腹部を強く切られた失血死、それ以外の外傷はなく争った形跡も見られなかった。」
「…なるほど。検察側は被告人の動機をどう捉えているのですかな?」
「被告人はその日事件直前までギルドで酒を飲んでいたそうだ。そして被害者と喧嘩になっている。」
「喧嘩ですかな?」
「内容は、アクシズ教徒を貶したことによる怒り。被告人は熱心なアクシズ教徒でありそれを貶された怒りによる犯行だと思われる。」
「ふむぅ…その程度で人を殺すのでしょうか?」
「被告人は相当なトラブルメーカーのようです。酒場のつけグセや、器物損害を起こすことも少なくない。その日も酒が入っていたため酔いも相まって殺害に及んだんでしょう。」
「その程度で殺さないわよ!」
「被告人勝手にしゃべらないように。」
裁判長はアクアを一喝して裁判を進める。アクアはそれを不服そうにむくれている。
「そしてこれが被害者と被告人の位置関係を示した上図面です。」
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上図面
被害者と被告人の位置関係を示した図。路地裏の周辺が再現されている。
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上図面か…これを見る限り通りの方から路地裏を見るのに邪魔なものはなかったのか。現場にもそれらしいものは置いてなかった。死角はなかったわけか。
「さて、では最初の証人を召喚してもらいましょう。」
「分かった。最初の証人は現場を調べた警備兵たちのリーダーだ。」
………………………
最初の証人が呼ばれ、証言台の上に立つ。その姿はまさしく騎士。槍を持ち、鎧を着ている。…槍と鎧は裁判にいるのか?…いや、中には光線銃を持ち込むおばちゃんがいるくらいだし何らおかしくないかもしれない…。おかしくないのか?
「証人、名前と職業を。」
「はっ!私の名前はツメガ。警備兵のリーダーを務めさせていただいています!」
ツメガはビシッ!と敬礼をする。
「それでは証人、事件当時の状況と被告人の動機について証言を。」
「はっ!このツメガ!謹んで証言をさせてもらいます!」
………………………
証言開始
〜事件当時の状況と動機について〜
「事件は夜遅くに起こりました。」
「その当時被害者は酒を含み酔っていて判断力が鈍っていたものと思われます。」
「そこに被告人がやってきて腹部を刺したものだと思われます。」
「被告人の動機は喧嘩の怒りと酒の酔いも相まって衝動的な犯行と思われます。」
「それに凶器には被告人の指紋が付いていることから被告人の犯行は揺るぎないものであります!」
………………………
「ふむぅ…やはり何度聞いても動機がふわっとしてますな。」
「仕方ないでしょう。被告人は酔っていたのですから。目撃証言もあるので酔っていたのは間違いないでしょう。」
アクアさんは確か酒癖が悪いってカズマくん達も言ってたな…。そう言えば酒の勢いで暴れてギルドの装飾を壊してたっけ。…これだけ聞くとやってもおかしくなさそうだな。
「ちょっと!あんた今失礼なこと考えたでしょ!」
「被告人、勝手な発言は控えなさい。次はありませんよ。」
「くっ…分かったわよ…。」
「全く…では弁護人尋問をお願いします。」
「分かりました。」
別の世界に来て初めての尋問だ。今は情報が少ない、ゆさぶって情報を引き出すしかない。大丈夫だ、いつも通り必要なものを引き出して矛盾指摘すれば自然と事の真相が見えてくるはずだ!
成歩堂は気持ちを入れ直し自分のネクタイを締め気合を入れる。
………………………
尋問開始
〜事件当時の状況と動機について〜
さて何から聞こうか…。まず聞くべきは正確な時間か…
「証人、事件発生時刻は何時くらいなのでしょうか?」
「事件発生は11時周辺でございます!」
「その時間帯の人通りは?」
「その時間帯は店の営業も終わっており目撃者が少なかったようです!」
「証人もう少し声量を下げなさい、そんな大声でなくても聞こえています。」
「そうですか!以後気をつけます!」
それで下げたのかよ…。にしてもその時間帯は店も閉まってて目撃者が少なかったのか。その中で目撃者が3人…その中で1人は行方が分かっていないのか。
「証人、被害者が酔っていたのはどうした分かったのですか?」
「パーティメンバーの方々の証言です。御三方の証言によると酔いが回ったから帰ると言ってギルドをでたそうです。」
(そこはあの三人が言っていた通りか…)
成歩堂は証言を分析して事件当時の状況を考える。
この証言…まだ気になることはあるか?
成歩堂は考えた末ある疑問が浮かぶ。
そう言えば被害者はお酒に強い方だとも言っていた、そして酔わない程度に飲むほどそこら辺はしっかりしていたはずだ。よほど飲んだのか………
「証人、僕の調査によると被害者はあまり酔わない…酒には強い方だったと聞いています。その被害者が酔うということは大量に飲んだということなのでしょうか?」
「いえ、被告人はあまり飲んでおりません。ビン1本の半分程度と聞いています。そのため度数の強いお酒を飲んだと思われます!」
「ありがとうございます。」
「うーん…本当にそうなのかなぁ?」
「どうだろう…誰も被害者が飲んでいたお酒のこと教えてくれなかったし分からないかな。今はとりあえず証言を聞こう。情報が多いに越したことはないからね。」
「証人、証言を続けてください。」
「はっ!」
ツメガは綺麗な敬礼を再び決めて表現に戻っていく。
「証人、ここには腹部を強く切られた失血死と書かれています。腹部を刺されたと言っていましたが…。」
「はい!腹部を深くまで刺されておりました!そのため臓器にまで損傷が及んでおり我々がついた頃には死亡が確認されました!被害者は駆け出しの時に一度死んでおりリザレクションが不可能だったとのことです!」
裁判長は深くうつむき再び顔を上げて首を横に振る。
「…。何とも不運な男ですな。」
「死を覆せるのは一度まで、それ以上はありません。」
…てことはあの時リザレクションをかけようとしていたアクアさんの行動は無駄足だったわけか。
「アクアさん、結局捕まってたかもね。」
「だろうね、でもアクアさんがやってないならそれを証明するだけだよ。」
「そうだね!」
さて引き続き証言を聞かないとな。
…
「証人、動機がけんかの怒りと酒の勢いとは少し根拠としては薄いのではないでしょうか?」
「被告人は酒癖が悪いことで有名です。」
「酔って問題ごとを起こすのはもはや御家芸ともとれるものですね。」
「な、なるほど…」
アクアさんどんだけ酒癖が悪いんだよ!!
…ん?待てよ?
「証人が酒に酔っていたのだとしたら正確に被害者だと判断して刺殺するのは不可能ではありませんか?それに力も上手く入らないはずです。」
「!た、確かにであります!」
「証人、認めないでください。被告人は"程よく酔っていた"そうです」
「ほ、ほどよく?」
「はい、程よく。判断力も保てており被告人は被害者を正確に判断して殺害できることは可能なのです。そして彼女はアクセル随一のアークプリースト、攻撃力も被害者を死に至らしめるには十分すぎると言えるでしょう。」
うぅ…ここを潰そうと思ったけど既に想定済みだったか!と言うかギルドの装飾を壊すくらいには悪酔いしてたんじゃないのか?…いや、壊したギルドの装飾を捨てに行くくらいには冷静だったのか。多分装飾を壊して酔いが覚めたんだろうな。と言うかアクアさん悪い噂しか聞かないぞ!
「弁護人?ほかに何か言いたいことはある?」
「い、いえ…ありません…。」
「それでは証言を続けるであります!」
…ここまでの、証言を聞いて今のところあまりいい情報が引き出せてないな。次が最後の証言、何か見えるといいんだけど。
「証人、あなたは指紋がついていたから被告人しか犯行できないと言いましたね?」
「はい!指紋が付いていたということは被告人以外の犯行はありえません!」
「指紋という決定的な証拠が出た以上被告人の有罪は揺るぎないでしょう。早くこのような茶番終わらせてしまいましょう。」
「どうするのナルホドくん!矛盾を突きつけないと裁判終わっちゃうよ!」
「落ち着いて、マヨイちゃん。矛盾はもう見つかってるから。」
「そうなの!?じゃあ早く突きつけようよ!」
「うん、証人もう一度聞きます。凶器には被告人の指紋が付いており凶器を使ったのは被告人で間違いない…。たしかですね?」
「はい!それを使ったのは被告人で間違いありません!」
やっぱり矛盾点はここだ!僕は指を突き出し声を張り上げて言う
「異議あり!!」
僕の声は法廷を駆け抜ける。さて、反撃開始と行こうか
「証人、それはありえないんですよ。指紋はどういう時につくか考えてください。」
「それを素手で持った時につくであります!!」
「そうです、今回重要なのは指紋がいつ付いたのかです。」
「いつ、付いたのか?」
「はい、まず凶器を見てください。」
成歩堂は凶器のナイフの柄を見せる。
「このナイフには被告人の指紋が付いています、それもベッタリと。」
「鑑識結果でも被告人のもので間違いないと出ていますな。」
「ではこのナイフに飛び散っている血の部分を見てください。」
「…この血の跡がどうしたというのですか弁護人?」
「指紋の位置を見てください、この指紋はナイフの柄についている親指の指紋の位置が矛盾しています。」
「どういうことですかな?」
「被告人が被害者を刺してこのナイフには血が飛び散ったとしましょう、この位置に親指があったとして血が飛び散った時にこのナイフに付着する血はどうなるでしょうか?」
「…。…!そ、そんなところに血などつきませんぞ!」
「そうです、そこに親指があった場合血が付着するのは不可能です。被告人がナイフに触った回数は指紋を見る限り一回、被告人がこのナイフを触ったのは犯行後なのです!」
「な、なんですと!?まさかそんな見落としがあったなんて!」
「被告人が刺したというのなら指紋の位置に血の跡があるのはおかしい!被告人の犯行ではないのです!」
「異議あり!」
成歩堂がアクアの犯行を否定していると検察側からも異議が上がる。
「指紋の位置が何ですか、あの時被告人は取り押さえられてナイフを落としています。その時に下に溜まっていた血溜まりに落ちだだけでしょう。」
「ですが血の上から指紋がついたことは明らかです!」
「それこそ血がたれてそこで固まっただけかもしれない、弁護人あなたの根拠は薄いんですよ!」
「うぐっ!」
「バッサリ切られちゃったね。」
うぅ…流石は王都の凄腕検事、一筋縄では行かないか。
「さて、弁護人の無意味な時間は終わりました。次の証人に入っていただきましょう。」
「け、検事殿!私の時間は…。」
「ありません、ここでのんびりしてる暇があるならさっきみたいに難癖つけられない完璧な証拠品を持ってきなさい!」
「は、はっ!失礼致しました!」
ツメガは急いで退廷していく。…なんだろう何だか見覚えある姿が浮かぶな…。
「では、次の証人に移るとしましょう。次の証人は目撃者なのですので被告人の有罪は揺らぎないものになるでしょう。」
…目撃者。あの時話しかけてくれたウィズさんか…。ここで崩さないとまずい。何としても食い止めないと!
アクセルに裁判所ってありましたっけ?
ツメガ警備隊長…みんなはフルネーム分かるかな?