セリカは廃墟のビル街の路地裏に座り込んでいた。
周囲には悪臭を放っているごみ袋や、投棄され錆ついている原付などが散乱している。
セリカの脳裏には対策委員会の仲間たちの顔が浮かんでいた。
一人一人の顔が浮かぶたび、楽しかった思い出が再生されていく。
だが、奥底から這い上がってくる実体のない殺意がセリカの感情を上書きしていく。
殺したい…殺さないと…
っ!違うっ!皆は大切な仲間なんだから!
だから皆殺して一緒にオルフェノクになれば…
…ッ⁉だから違う!
思考が上書きされていってる…何とか自我を保たないと…
セリカは自分の身体を抱きしめた。
どうすればいいの…どうしたら…
「よぉ、お嬢ちゃん。こんな所で何してんだ?」
声の主はいかにも不良といった格好の学生だった。
奥から仲間と思わしき人影が近づいてきている。
「関係ないでしょ…放っておいて」
「てめぇ…誰に口きいてんだ、あぁ⁉」
セリカはこみ上げてくる衝動を抑えようと自分を抱きしめる手に力を込めた。
「…早く行きなさい。じゃないと…死ぬわよ」
「は?…なんつった、今?」
セリカはぶっきらぼうに相手を案ずる発言をしたが不良には逆効果だった。
「もう…ほんとに抑えが利かなそうなの…」
「マジで何を言ってるんだよ?訳の分からない事をごちゃごちゃと」
「死にたくなかったら今すぐどっか行きなさいって言ってるの!」
「ざけんな!死ぬのはてめぇの方だよ」
スケバンは銃を振り上げた。
「楽しそうだな。俺も混ぜてくれよ」
男の声が響いた。
「うそ…」
「あぁ⁉なんだぁてめぇは!」
「俺か?俺は…通りすがりのバイク乗りだ」
翔一は肩をすくめながら戯ける様に言った。
「失せな…それともてめぇも一緒に死ぬか?」
「それは嫌だな…」
「だったらしっぽ巻いて逃げな」
「あぁ、そうさせてもらう…この娘と一緒にな!」
翔一はセリカの手を掴んで走り出した。
「てめぇ!ふざけんな!」
スケバンの怒号と共に背後から銃声が響いた。
ひゅんひゅんと音を立てて銃弾が二人の傍をかすめていく。
「あんた、何考えてんのよ⁉」
「こうでもしなきゃ不貞腐れて座ったままだっただろ⁉」
「私のせいにするの⁉」
「良いから走れ!こちとら一発当たっただけでも致命傷なんだよ!」
「あぁ!もう!どこまで走るのよ!」
「この先にホーク11を停めてある!俺が乗ったら後ろに乗れ!いいな⁉」
細い路地を障害物と迫りくる弾丸を避けながら二人は走った。
青い大型バイクの影が視界に入った。
「急ぎなさいよ!もうすぐそこまで来てるわよ⁉」
翔一はヘルメットもつけずにエンジンをふかした。
「乗れ!」
セリカは翔一の腰に手を回して強く抱きしめた。
ぐおんと大きな唸りを上げてバイクは走り出した。
二人を乗せた俊足の鷹は夜闇に消えた。
「あんた…本当に馬鹿じゃないの?」
「だからああするしかなかったんだって…それよりどうだ?」
「どうって…?」
「バイクに乗った感想は…最高だろ?」
「…」
セリカは体の感触に意識を集中させた。
顔に叩きつける風、澄んだ空気のにおい、目まぐるしく通り過ぎていく景色
全てが感じたことのない感覚だった。最高だった。
「確かに…そうね」
「人生の悩みなんて大したことがないって思い知らされるよ…」
「大したことがない…?友達を…殺したいって感じるのが…?」
セリカは感情を爆発させた。
「あんたに何が分かるのよ⁉怪物になって!友達に怖がられて!傍にいたら大切な人達を殺しそうになる!」
「それがオルフェノクの宿命だ」
「だから受け入れろって⁉そんなの嫌!これからずっと一人で生きていくなんて…」
「なんで一人で生きていく話になってるんだ?」
「…は?」
セリカは思わず顔を上げて翔一を見つめた。
後部席からは後頭部しか見えず、彼がどんな表情をしているかは分からない。
「対策委員会の奴らってそんなに薄情な連中なのか?」
「それは…」
「セリカ。人生に迷ったらな、バイクに乗れ」
「…」
「人生の大体の悩みってのはな、バイクに乗ったら気にならなくなる」
「…何も解決してないじゃない」
「そうだ。でも、それでいい。それしか方法はないんだ」
「解決できないって言うの…?」
「あぁ、出来ない。だがな、問題をなかったことには出来る」
「…消極的な姿勢ね」
「いや、寧ろ積極的なスタイルさ。人生には意味なんてない。命に価値なんてない。その一点においてのみこの世界は平等だ」
「…かっこいいと思ってるの?」
「あぁ!最高にクールだろ?」
「そういう所が一番ダサいわ…でも、ありがと」
翔一はそれには答えずアクセルを捻りアビドス高校へと進路をとった。
カチカチと秒針の動く音だけが対策委員会の部室に響いていた。
特にショックの大きかったノノミとアヤネはずっと俯いたまま、一言も発さないでいる。
「…シロコ先輩とホシノ先輩は知っていたんですか」
「…うん」
「ん…」
「どうしてっ!」
アヤネは椅子から立ち上がった。
「どうして…黙っていたんですか」
「…知ってたら…どうしたの?」
ホシノはアヤネの目を見据えて問い返した。
「どうって…私達は人を殺していたんですよ!?それを知らされずに!」
「知ってたら…殺さなかった?」
「っ…そうじゃないでしょう!?」
「辞めましょう。アヤネちゃん」
ノノミは俯いたまま絞り出すように言った。
「辞めましょうって…ノノミ先輩は何とも思わないんですか!?」
「だから、辞めましょう?そんな事を言ったってもう仕方ないんですよ…」
「…一ついいかな」
壁にもたれかかって事の成り行きを見守っていた勇介が言った。
「私もね…オルフェノクが人間だと知っていたんだ。それを分かった上で彼らを殺した事も何度もある」
「それは…強要されて…ですか?」
「違う。自分の意思で殺した。オルフェノクになると殺人衝動に苛まれるんだ…それに飲み込まれたら…生かしては置けない」
「そんな…」
「皆は…アヤネとノノミはこれからもセリカと友達でいられる?」
「それは…はい、勿論です」
「たとえオルフェノクになってもセリカちゃんは私達の大切な仲間です!」
アヤネとノノミの宣誓にシロコとホシノも重々しく頷いた。
「殺人衝動にさえ飲み込まれなければ、オルフェノクもただの人間と変わらないんだ。人間と同じ様に笑って、泣いて、喜んで、苦しんで…だからね、皆にはお願いしたいんだ。セリカがもし衝動に飲まれそうになったら、君達で止めてあげて欲しい」
「それって…セリカちゃんを、殺せ…と?」
「違うよ。衝動はそれよりも強い感情で上書きできる。だから、セリカが皆と一緒にいる事で衝動を上書きできるなら…」
「…分かりました。セリカちゃんをこれ以上辛い目に遭わせません!」
「そうですね。一番辛いのはセリカちゃん自身なんですから…」
窓の外から明るい光が差して、バイクのエンジン音が響いた。
「じゃあ…行こうか」
対策委員会の面々は力強く頷いた。
ホーク11のシートから降りるなり、セリカは走ってきたアヤネに抱きつかれた。
「えぇ!?ち、ちょっと!」
「ごめんなさい…本当にごめんなさい」
「なんで謝ってるの!?わ、悪いのは突然出て行った私の方で」
「はいはい、反省は後でね?」
手をぱんぱんと叩いてホシノが場を沈めた。
勇介は翔一に近づいて向かいあった。
「上手くやったみたいだね」
「そっちこそ」
どちらからともなく二人は拳を打ち合わせた。
「セリカ、もし衝動に飲まれそうになったら私達が止める」
シロコは真っ直ぐにセリカを見据えて言った。
「大丈夫ですよ。私達がついてますからね」
「そう言う事…おじさんも皆も、セリカちゃんの事が大好きだからねぇ」
「…面と向かって言われると恥ずかしいわね。でも…皆、ありがとう」
「あれ…俺らは?」
翔一がわざとらしく言った。
その隣で勇介がにこやかに、しかしいつもと違う悪どい笑顔を浮かべている。
「な!だ、だから!…その、先生と翔一も…ありがとう…」
最後の台詞は少しずつ尻すぼみになっていった。
「セリカちゃん…うぅ…ぐすっ」
アヤネはセリカの肩に顔を埋めて嗚咽を漏らしている。
「ちょ、ちょっとアヤネちゃん。一旦離れて」
「うぅぅ…」
アヤネはシロコに半ば無理矢理引き剥がされていった。
「…所で、衝動を抑える為には趣味に没頭したりするのが良いらしいけど、セリカにはそう言うのはあるのかい?」
セリカは勇介の台詞に振り返って翔一とホーク11を見つめた。
「…私、バイクの免許取るわ!」
セリカははにかみながらそう言った。
お気に入り登録者二人も減っちゃった…
うわぁぁぁなんでぇぇぇorz
ちなみに、最初はパラリゲ式解決法(例のアレ)にしようかとも思ったんですが、この二人はまだそこまでの関係性じゃないなと思ったので辞めました。
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