小鳥遊ホシノは自分を常に数ある選択肢の中から最悪のものを選ぶ女だと思っていた。
私の犯した罪は…一体どうやって精算すれば良いのだろうか
彼女は常に心の奥底に鉛の様な罪悪感を抱えて生きて来た。
だからこそ、次こそはと…常にそう思っている。
「それでは、定例会議を始めたいと思います」
後輩の声がホシノの鼓膜を震わせた。
ホシノは突っ伏した体勢から僅かに顔を起こした。
いつも通りの仲間達と…2人の異物が混じっている。
片方は数日前にシロコが連れて来た翔一という名の男、もう片方はアヤネの救援願いを聞き入れてやって来たと言うシャーレの先生。
ホシノは表面上は2人を受け入れるかの様な態度を取っていたが、実際には全く信用していなかった。
特に翔一の方には強い警戒心を抱いていた。
彼はシロコと出会った直後にオルフェノクの襲撃に遭い、偶々所持していた兵器でオルフェノクをたった1人で撃退せしめたと言う。
あまりにも都合が良すぎるのでは無いか?
ホシノはその疑いを晴らす事ができず、彼が校内にいる間は常に監視していた。
彼は全く不審な動きを見せなかった。
それが返ってホシノの疑念に拍車をかけた。
彼は校内にいる内は自室で横になって音楽を聞いているか、対策委員会の誰かと会話しているかのどちらかだった。
時折、バイクに乗ってホシノの把握できる境界線から出て行ってしまう事もあったが、セリカによれば柴関ラーメンでバイトしているらしい。
だが、本当にそれだけなのだろうか。
私や皆が気づいていない内にカイザーと繋がっているのでは?
いや、最初から繋がっていたのかも知れない。
ホシノの心に巣食う疑念は大きくなり続けていく一方だった。
今でも翔一から目を離す事はない。
同じ空間にいる時は常に自分の視界の中に入れている。
自分しか入れない旧生徒会室内には、監視カメラの映像が映し出された機材が並んでいる。
もし、彼か彼を信じている仲間の誰かにあの光景を見られたら…
そうなれば対策委員会はまたばらばらになってしまいそうになるかも知れない。
それでもホシノは彼を監視し続けていた。
彼女は常に自分の行いが最悪の結果をもたらす事に怯えていた。
何度も何度もやっぱり止めようと突発的に思い、その度に止めた事で最悪の結果がもたらされたらどうしようと頭を掻きむしった。
ホシノはもう何を信じればいいのか分からなかった。
「見てこれ!ゲルマニウム金属で運気アップだって!」
マジかこいつと翔一は思った。
念の為、この場にいる全員の顔を見渡した。
セリカ以外の全員が呆れた顔や何とも言えない微妙な表情を浮かべている。
良かったと翔一は心の底から安堵した。
一瞬、9億の借金の原因はコレではないかと疑った。
もし、セリカだけでなく全員がこうだったら逃げ出していたかも知れない。
例え、恩知らずとか薄情者とか言われたとしても。
「アイドルをやるのはどうでしょう?」
「ア、アイドルですか!?それはちょっと…」
ノノミの提案にアヤネはあからさまに難色を示した。
「ねぇ、あんたの…えぇと、何だっけ?」
「…ファイズの事か?」
「そう、それ!ファイズにさ、学校の顔になってもらうってのはどう?」
「あぁ!?ファイズに変身してアイドルやれってか!?」
成り行きを黙って見守っていた勇介が吹き出した。
「違うわよ!?」
「ん…ちょっと面白そう」
ふと、机に突っ伏していたホシノと目が合った。
彼女の瞳には到底好意的とは言えない感情が浮かんでいる様に感じられた。
俺、ホシノに何かしたっけ…
あるいは、未だに信用されていなかったのか…
セリカとシロコはある程度心を開いてくれている様に感じる。
しかし、ホシノやノノミ、アヤネとはまだ交流を深めきれていないのは確かだ。
「いい加減にして下さいッ!」
考え事をしていた所為で翔一は反応がワンテンポ遅れた。
アヤネのちゃぶ台返しによって宙を舞った机が翔一の頭頂部を叩いた。
椅子から前のめりに倒れて翔一は気を失った。
「あぁぁ!すみませーんっ!」
最後に聞こえたのはアヤネの上擦った声だった。
この世界に来て、シャーレの先生を任されてから10日程経っただろうか。
思えば随分と遠くまで来たものだ。
勇介には生まれた時から母親がいなかった。
学校には行かせてはもらえなかったし、塾にも行った事は無かった。
今思えば当然だ。
なんせ勇介は5歳の時点で18歳程度の身長になっていたのだから。
最初の内は情緒も5歳のままだったが、様々な本を読んでいく内に圧倒的な速度で成熟していった。
あらゆる本を読んでいく内に勇介は人間とは酷く愚かな生き物であると思った。
今にして思えば、随分と短絡的な発想だった。
父親である啓太郎にはそんな事を思っていた時期があるとは口が裂けても言えなかった。
勇介が教師を志していると話した時、啓太郎は飛び上がって喜んだ。
勇介はアフリカから帰って来た啓太郎と一緒にクリーニング店を経営していた。
真理は勇介がファイズの力を男から託されたあの日、男と共に何処か遠い所へ行ってしまった。
母親代わりだった真理がいなくなってしまったので、啓太郎は慌てて日本に帰国したのである。
空港で待っていた勇介の姿を見て、啓太郎は驚愕にお土産を落としてしまった。
当然だろう。
何せ、たったの数年の内に自分よりも背が高くなっていたのだから。
それでも、直ぐに彼が勇介である事に気づき、人目も憚らず泣きながら抱擁したのは啓太郎の人格のなせる技か。
啓太郎には黄金の人への変身のみ伏せて、ファイズの力を託された事とその経緯を説明した。
「その力は、苦しんでいる誰かの為に使ってあげて」
啓太郎はそう言った。
ファイズやオルフェノクについて啓太郎が語る事はそれ以来一度も無かった。
瞼を開くとよく知った天井だった。
与えられた自室に運ばれていた様だ。
「あ、目が覚めた?」
横になっている翔一の顔をコーヒーカップを持った勇介が覗き込んだ。
ソファーから体を起こしながら翔一は返事を返した。
「えぇ…何が起きたんでしたっけ」
「アヤネが机をひっくり返しちゃってね。それが直撃したんだよ。ファイズなら、変身してなくてもそれ位は躱さないと」
「面目ない…」
翔一は気まずそうに頭をかいた。
「…所で、気付いてますかね?」
「何を?」
「ホシノの事なんですが…」
勇介は真剣な顔になって立ち上がりながら続きを促した。
「彼女はあからさまとまではいかないですが、俺たちを警戒していますよね」
「…そうだね。彼女の過去が関係していそうだけれど」
湯気が立っているコーヒーをちびちびと啜りながら勇介は窓辺から外の景色を眺めた。
「どうすればホシノの信頼を勝ち取れますかね?」
「…今は難しいんじゃないかな。地道にやっていくしかないね」
「そうですか…所で、先生は外の世界から来たにしてもオルフェノクの事もファイズの事もよく知っている…知りすぎていますね。それにまるで歴戦の戦士の様に一つ一つの言葉に重みがある…」
勇介は振り向いて翔一の瞳を見据えた。
「貴方は…いったい何者なんですか?」
「私は…オリジナルのファイズの継承者だよ」
セリカは柴関ラーメンに来ていた。
大将へミツコは事情があってもう来ないことを伝えると、そうかと一言だけ言って湯切りをしに厨房へと戻っていった。
もしかしたら、なんとなく察しているのかも知れない。
今はそっとしておこうとセリカは思った。
制服を着て掃除を始めた頃、午前中に気絶していた翔一が対策委員会の仲間たちと一緒にやって来た。
「もういいの?」
「あぁ。もう平気だ」
アヤネは平身低頭、ぺこぺこといつまでも謝り続けている。
何とも彼女らしい光景だ。
「じゃあ、今日は先生のおごりでお願いねぇ~」
「…まぁ、いいでしょう」
勇介は額に大粒の汗を浮かべながら渋々といった表情で頷いた。
「あ、あの!」
戸が控えめに開いて紫色の軍服のような格好の少女がおずおずと店内を覗き込んだ。
「こ、こちらで一番安いメニューっておいくらですか…?」
「水。ゼロ円」
翔一は至極真面目な顔で言った。
瞬間、セリカが後ろから翔一の膝下を蹴った。
ぐおおと苦悶のうめき声を上げて翔一は轟沈した。
その光景を見ながら勇介は鼻で笑った。
「この馬鹿の事は気にしないでいいわ。入ってらっしゃい」
「は、はい…失礼します」
軍服の少女は困惑しながらも店内に入っていった。
その後ろからぞろぞろと3人の少女がついてきた。
どうやら、4人組の団体客だった様だ。
「こちらにどうぞ~」
セリカはにこやかに彼女たちを案内していく。
「ありゃりゃ、お兄さん大丈夫~?」
床にうずくまった翔一を通り過ぎながら一番背の低い少女が言った。
翔一は歯を食いしばりながら指でOKの意思を示した。
「…こんな場所でちゃんとした食事にありつけるなんてね」
「ふふふ、だから大丈夫だって言ったじゃない」
「さ、流石です。アル様」
「えぇ~?アルちゃんがお金の管理をちゃんとしてたらもっと前に食べれたと思うけどなぁ」
「う、うるさいわね!結果良ければ全て良しよ!」
勇介は彼女たちを警戒しているかの様に鋭い目で見つめていた。
そのことに気づいていたのは横目に勇介の様子を伺っていたホシノだけだった。
これ書いてる途中に気がついたんですけど、今まで「〜の所為で」を「〜の性で」って書いていましたね…
お恥ずかしい限りですorz
一応、覚えている範囲で修正しておきましたが…まだ残っているかも知れません(>人<;)
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