Puriφ's 方舟の花々   作:ばりるべい

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恩知らずの便利屋

 

4人の客は1人前しか頼まずに箸を4膳欲しいと言う奇妙な頼み方をした。

何でも全員分注文するだけの金が無いのだと言う。

 

「お金がないなんて生きる資格なしです!虫ケラ以下ですみません!」

 

「そんな事ないよ!」

 

最初に入って来た軍服の娘は自分自身を罵る様なことを言っている。

対するセリカは持ち前の優しさと面倒見の良さから励まそうと激励していた。

 

しかし、気に入らない。

翔一は真摯に励ましているセリカを横目にそう思った。

 

彼女は人数分の食事を注文するだけの金は無いのだろうが、少なくとも身なりはきちんとしている。

話を聞いていると、常に金が無い訳でもない様だ。

偶々、人数分の食事を注文できるだけの持ち合わせが無い彼女が虫ケラ以下なら、身だしなみもきちんと出来ていない者は、1人前すら頼めない者は一体なんだと言うのか。

 

あの娘の発言は自分自身を下げているだけでなく、彼女より社会的地位の低い者に対する侮辱になっている。

彼女はそれを理解しているのだろうか。

 

きっとしていないのだろう。

ああいう手合いは自分の事しか見えていない。

実は誰よりも傲慢なのだ。

 

だから、気に入らない。

決してそれを表には出さないが。

 

そんな翔一の心情を他所に、セリカは10人前はあろうかという量のラーメンを提供した。

柴大将とセリカはかなり似通ったタイプのお人好しだ。

 

自分はああは成れないなと翔一は思った。

 

「あ、あの!これって…オーダーミスなのでは」

 

「いやいや!これで合ってますよ、柴関ラーメンの並!ですよね、大将?」

 

「あぁ、ちょっと手元が狂っちまってな。気にしないでくれ!」

 

「と、まぁこの通りなので。それじゃごゆっくりどうぞー!」

 

翔一は人数分のお冷を注ぎながらため息をついた。

 

彼女達が同情を誘う事で無銭飲食を繰り返している様な輩だったらどうするのか。

セリカは兎も角、大将はだったら困ってなかったって事で良いじゃねぇかなんて言うのだろう。

そんな確信がある。

 

「よくわかんないけどラッキー!いただきまーす!」

 

彼女らは余程腹が減っていたのかがっつく様に箸を伸ばした。

 

全くもって騒がしい客だ。

 

「お冷でーす」

 

翔一は盆に乗せたお冷を一つ一つ置いていった。

ふと白地に黒の混じった特徴的な髪色の娘と目が合った。

じろりと翔一を睨む様に見つめている。

 

「…ごゆっくり〜」

 

驚いた、相当感の鋭い娘だ。

顔に出しているつもりは無かったのだが…

 

背後からため息をついた音が聞こえた。

 

やっぱり接客業向いてないな、俺…

 

翔一は厨房へと隠れる様に入っていった。

例のお客達とアビドス高校の生徒達が何やら会話しているらしく、和気藹々とした声が聞こえてきた。

翔一は大将の横で黙って調理器具の片付けを始めた。

 

 

 

「それじゃあ、お気をつけて〜!」

 

セリカは手をぶんぶんと振りながら便利屋を見送った。

カヨコとムツキは周りに誰もいなくなったタイミングを見計らってアルに話しかけた。

 

「…ねぇ、社長。気が付いた?」

 

「えっ?何が?」

 

アルは小首を傾げながら聞いた。

 

「あいつらアビドスだよぉ〜」

 

アルはピタリと歩みを止めて肩を震わせた。

 

「な、な…何ですってぇ!?」

 

アルの驚愕に満ちた声がこだました。

 

 

 

「…何も無かったし、まぁいいか」

 

勇介はアビドス高校の面々を引き連れてアビドスへの帰路を進みながら独りごちた。

 

「うへ、何がいいかなのぉ?」

 

「おっと…」

 

いつの間にやら真後ろについていたホシノに聞かれてしまっていた様だ。

彼女に誤魔化しは通用しないだろう。

信頼を勝ち得る為にも正直に話したほうがいい。

 

「いや、さっきの彼女達の事さ」

 

「さっきの娘達がどうかしたの?」

 

「彼女達は…まぁまぁ有名な娘達でね…悪い意味で」

 

「へぇ…知ってたんだ?」

 

ホシノは立ち止まって勇介を見上げた。

 

「うん。だから警戒したんだけど…ただ、食事しに来ただけだったみたいだね」

 

「どうして言わなかったのさぁ」

 

ホシノはいつもの様なふにゃけた表情で、しかし目つきだけは鋭くなった状態で勇介を見つめた。

 

「あの状況では言えないでしょ。本人達が聞こえる距離にいるんだから」

 

「うへ…そうだね。ごめんねぇ、変な事言って」

 

ホシノはいつもの“仮面”を被り直すと、とことこと再び歩き出した。

 

相変わらず御し難いなぁ、彼女は…

 

勇介は後方の4人に意識を向けた。

 

一見今まで通りに見えるが、やはり何処となく会話がぎこちないと言うか態度が他所他所しくなっている様に感じられた。

恐らく、ホシノや翔一も気付いているだろう。

問題は当人達が気付いているかどうかだ。

 

問題は山積みだな…

 

勇介は燦々と輝く太陽を見上げながら思った。

 

 

「校舎より15キロメートル南方に大規模な武装集団が出現しました!」

 

平穏なままでいられるかと思っていた安息の時間はアヤネの報告によって消え去った。

 

「ん…ヘルメット団?」

 

「いえ、日雇いの傭兵かと思われます」

 

「傭兵かぁ…高くつくんじゃなかったっけ?」

 

「何はともあれ皆、出動しよう」

 

勇介の鶴の一声によって全員が武装を開始した。

 

「あとは…翔一にも連絡しておかないと」

 

 

 

洗剤に塗れた手の所為で皿を落としそうになった時、翔一のズボンのポケットが振動した。

 

「…セリカか、先生か」

 

恐らくどちらかだろうと当たりをつけた翔一は後で返信しようと考えた。

翔一はポケットのバイブレーションを無視して仕事を再開した。

 

 

 

対策委員会の全員が校門まで出て待ち構えていた。

 

「前方より接近する集団あり!先頭の集団は…え?」

 

アヤネはドローンの映像を見て困惑の声をあげた。

 

「あれは…ラーメン屋さんの…」

 

勇介とホシノの目つきが鋭くなっていく。

対する便利屋のトップは僅かに苦悩の表情を見せた。

 

「あんた達…ラーメン無料にしてあげたのに!この恩知らずッ!」

 

激情に駆られたセリカの顔に灰色の紋様が浮かび上がった。

 

「セリカちゃん!それはダメっ!」

 

「セリカっ!踏み止まるんだ!」

 

「っ」

 

アヤネと勇介の叫びがセリカに理性を取り戻させた。

セリカは自分が何をしようとしてたかに気がつき、呆然とした表情で自身の両手を見つめた。

 

「…ねぇ、今のって」

 

衝撃を受けたのは対策委員会側だけでは無かった。

カヨコの呟きにムツキが真面目な表情で頷く。

 

「…多分そうだね。あの黒猫ちゃん、自分の意思である程度コントロールしてる」

 

「ハルカ、大丈夫?」

 

ハルカはアルの問いに答えず、青ざめた表情で体を小刻みに震わせていた。

 

「だ…大丈夫です、アル様…うっ」

 

ハルカは自分の体を抱きしめる様に手を回してうずくまった。

 

「しっかりしなさい、ハルカ!」

 

アルがハルカの肩を抑えながら強く抱きしめる。

 

「ぅ…あ…わ、私は…」

 

「大丈夫、大丈夫よハルカ。私が傍にいるから」

 

「あちゃぁ…これはそれどころじゃなくなっちゃうかな?」

 

ホシノが便利屋の元へとゆっくりと近づいていった。

 

「そっちの娘もそんな感じだしさ。今日の所は引いてくれない?」

 

ホシノの発言は優しさのある内容だったが、その声は凄まじい威圧感に満ちていた。

 

「…そういう訳にもいかないのよ、私達も依頼できてるんだから!」

 

アルは立ち上がりながら宣言した。

毅然とした彼女の表情を見てホシノはうっすらと微笑んだ。

 

「…そっか。じゃあ」

 

ホシノはアルに向けてショットガンを突き付けた。

 

「後悔しないでね」

 

 

 

翔一ははやる気持ちを抑えながら愛車を走らせていた。

皿洗いが終わった後、携帯の画面をのぞき込むと傭兵を引き連れた集団の襲来を告げるメッセージが表示されていた。

大将に事情を説明して早めに切り上げさせてもらい、愛車に飛び乗って急いでアビドス高校へと向かっているのだった。

 

砂を巻き上げながら高速でバイクは走り去っていく。

 

瞬間、翔一は凄まじい悪寒を感じ反射的にブレーキをかけた。

眼前のアスファルトを黄色の光弾が吹き飛ばした。

 

車体は衝撃で横倒しになった。

咄嗟の事で受け身を取りきれず翔一はごろごろと転がった。

ぐわんぐわんと揺れる頭を振って、攻撃の飛んできた方向を見た。

熱砂の彼方に黒い人影が映っている。

 

「は?」

 

何故あれがこの世界に存在する?

 

もう一人の超人カイザがこちらに銃口を向けていた。

 




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