Puriφ's 方舟の花々   作:ばりるべい

2 / 17
転移 3A-DB

 

叩きつける風が強張る身体を冷ましてくれている。

ヘルメット越しに何台ものバイクの排気音が近づいているのが聞こえる。

翔一は唇を強く噛んでスロットルを引いた。

ぐおんと一際大きな雄叫びを上げて愛車は加速した。

身体にぶち当たる風が更に強くなった。

半ば無意識に左手の二本指がクラッチを切った。

同時に左足がシフトペダルを軽く蹴り上げて、ギアが5速になった。

スピードメーターが示す速度はどんどん上がり続けている。

 

既に壮大な鬼ごっこが始まってから30分が経過している。

少しでも隙を見せれば一発でアウトな状況がそれだけ続いているので、精神をかなり消耗していた。

 

 

翔一は幼少期に預けられた施設から逃亡したのだった。

決して何か不満があった訳ではない。

施設が後ろ暗い事をしているのは何となく感じていたが、職員の言う事をきちんと聞いていれば充分に恵まれた生活が送る事ができた。

この愛車であるホーク11も施設を運営している組織が翔一の20歳の誕生日に購入してくれた物だった。

 

しかしながら翔一は自分の母親であるオルフェノクが世間で迫害されている事を知っていた。

だから施設を運営しているオルフェノク対策委員会と言う名の組織を最初から信用していなかった。

いつかこの施設から脱走する事を計画し続けていた。

 

施設に預けられて十数年が経った今日、ついに絶好の機会が訪れた。

施設近辺にオルフェノクが出現し、施設の警備部隊なども現場へ出動していた。

翔一はかねてより目をつけていた警備部隊の備品のアタッシュケースを盗み出し、どさくさに紛れてまんまと逃走せしめた。

何故盗みまで働いたかと言うと、翔一はアタッシュケースの中身が何であるかを知っており、いざと言う時は交渉に使うつもりだった。

 

しかし対策委員会は交渉などしない様だった。

武装した警備部隊がオフロードバイクに乗って追ってきた時、翔一はそれを悟った。

こうなったら何とかして追手を撒くしない。

 

翔一は愛車を峠へと走らせた。

 

 

そして今に至る。

 

 

得意のシフトワークで峠道を攻めていくが、追手も同等の技量を持っている様だった。

瞬間的に引き離す事はできるが、直ぐに追いつかれてしまう。

サイドミラーに黒地のスーツの上に黄色い光を放つ鎧【カイザ】を纏った警備隊の姿が映った。

山頂を過ぎて下りになり直線の道が増えてきた。

ミラー越しにカイザがΧ字を模した武器【カイザブレイガン】をこちらに向けているのが見えた。

 

まずいっ

 

反射的にブレーキレバーを引いてスピードを落とした。

追いつかれない様に適度にスピードを出しながら、ふらふらと蛇行して狙いをつけられない様にした。

背筋に冷たいものを感じる。

体が今まで以上に強張って思考が上手くまとまらない。

 

カーブが近付いてきた。

 

しめた!

 

ミラーを見るとカイザも狙い撃つのを諦めた様だった。

前後輪のブレーキをかけつつ、ギアを落として体をギリギリまで倒し、急なカーブを攻めながら曲がった。

 

 

曲がった先に人影が見えた。

 

瞬間、視界がスローモーションの様にゆっくりと流れるようになった。

 

影の正体は黒衣の青年だった。

男性にも女性にも見える端正な顔立ちをしていて、格好によっては性の判別はつかなかっただろうと思えた。

 

青年はこちらに向けてゆっくりと手を伸ばし手のひらを向けた。

青年の手のひらから眩い光が放たれ、翔一は気を失った。

 

 

 

 

続いてのニュースです。

本日午後2時ごろ、オルフェノク対策委員会が運営している施設からオルフェノクの個体が脱走した事が明らかになりました。

また、この個体を追跡した対策委員会の隊員が、全員木の幹に埋められた状態で発見されており、消防によって救助されましたが全員死亡が確認されました。

警察は脱走した個体以外の何者かによって犯行が行われたと見て調査を進めています。

 

 

 

 

目を覚ますと俺は砂漠の中で愛車と一緒に倒れていた。

 

一体何があった…?

そうだ、俺は施設から脱走して…追手から逃れるために山に入り…それからどうなったんだっけ?

 

峠道に入って追手との距離を離そうとした事は覚えているが、そこから先が記憶にもやがかかった様に思い出せない。

だが、こうしていると言うことは追手を撒いたんだろうか。

しかしここは何処なんだ。

こんなだだっ広い砂漠が広がっている場所なんて日本には鳥取砂丘位しかないんじゃないだろうか。

だが福岡からいきなり鳥取に移動するなんてあり得ない。

 

俺はもしかして記憶喪失になったんだろうか。

追手を撒き続けて鳥取まで来たが、何かの拍子に頭を打ったりして記憶喪失になった。

 

ちょっと納得できないな。

 

暫く頭を捻っていたがどうにも思い出せそうにない。

と、俺は愛車が地面に横たわったままである事に気がついた。

 

いけねっ。

 

左側から倒れているのでサイドスタンドを下ろす必要はない。と言うか出来ない。

まず倒れている方の車体を掴んで身体全体を使って起こした。

ハンドルをしっかりと握り、バランスをとって安定させサイドスタンドを下ろした。

 

ついている砂を払い落として車体の傷を確認する。

左側のバーエンドとブレーキレバーをはじめ、細々とした傷がついているが全体として見れば大した事はない。

 

良かった…

 

マフラーのついている右側から倒れていたら最悪だった。

追手も撒けているし、負った傷も大したものではない。

 

運が良いぞ。

やっぱり今日にして正解だった。

 

…でここは何処だろう。

 

幸いきちんと舗装された車道の上なので、砂の心配はしなくて良い。

オンロード車両で舗装されてない砂漠を走るのは勘弁して欲しい。

 

とりあえず走り続ければ人里に出られるか。

 

そう考えて愛車にささったままのキーを回した。

デジタルメーターが点灯し、ギアがニュートラルに入っていない事を訴えてきた。

 

という事は俺は何かの拍子に派手にこけて頭部を強打し、記憶を失ったのだろうか。

俺は慌てて被っているフルフェイスのヘルメットを外して傷を確認した。

 

特に傷は見当たらない。

 

どう言う事だ…?

 

頭を打つ以外の理由で記憶と意識を失って倒れたのだろうか。

しかし走りながら倒れたにしてはバイクも俺自身も大したダメージを受けていない。

 

さっぱり分からん。

 

兎に角、人のいる方へ行ってみよう。

 

俺はサイドスタンドを起こして、シートに跨りエンジンをかけた。

ぶおんと心地いい音を立てて約1100ccのエンジンが唸り声を上げた。

 

ちゃんと動くな…

 

正直ホッとした。

動かなかったら完全にお手上げだった。

恐らく…と言うかまず間違いなく俺はお尋ね者なので、警察は呼べないしロードサービスだって受けられない。

 

さて、行ってみますか。

 

ギアを1速に入れてスロットルを軽く捻り、俺は見知らぬ砂丘を貫く道を走り出した。

 

 




文体を井上敏樹氏に寄せて書いたつもりで読み返したら全然似てなくて草。
ちなみに何故バジンでは無くてホーク11かと言うと、リゲインドに出てきたからと小説版にバジンが出てこなかったからです。
ただ自分の趣味じゃないのでその内乗り換えさせます。

1話ごとの字数

  • もっと多く(5000字以上)
  • もう少し多く(4000字以上)
  • 今のまま(3000字程度)
  • もうすこし少なく(3000字以下)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。