1ヶ月程前からキヴォトスではとある噂が度々ネット上で語られていた。
キヴォトス全域で白い怪人が度々出現し人々を襲っている…
初めの内はネット上の低俗な書き込みに過ぎなかった。
だが日が経つに連れて白い怪人の目撃情報が増えていき、やがてはそれなりに有名な都市伝説になった。
しかし多くの人間はただの都市伝説、噂話だと一笑に付しまるで相手にしていなかった。
それでも怪人の目撃情報は日に日に増加し、中には怪人が人を灰に変える映像や自分が怪人であるという書き込みが投稿されるようになると、いよいよ学園の運営を担う生徒会までもがその真偽を確かめる為に動くようになった。
不思議な事に連邦生徒会やヴァルキューレ警察学校などはこの噂に対し、何らリアクションを示さなかった。
その事が余計に不確かな憶測を呼び、情報が交錯してますます真偽を確かめる事が困難になっていった。
やがて誰が言い出したか、白い怪人はオルフェノクと呼ばれるようになった。
ギリシャ神話に登場する詩人「オルフェ」と創世記に登場する詩人「エノク」の名をくっつけた造語の様だ。
そのワードセンスからして言い出したのはトリニティの生徒に違いないなどと言われているがこれもまた真偽は不明だ。
アビドス廃校対策委員会の面々も実際に目にするまでは全く信じていなかった。
それどころか、セリカやホシノは都市伝説の存在すら知らなかった。
だが彼女達の前に白い怪人が現れた時、ただの噂は紛れもない現実へと変貌した。
アビドス自治区におけるオルフェノクの出現率は異常だ。
週に1回以上は確実に現れる。
幸い、アビドス自治区に住んでいる一般人は限られてくるのでこれまで犠牲者は一人も出ていない。
しかしそれは助けの来ない状況で対策委員会の5人、場合によっては誰かが抜けた5人未満の戦力だけでオルフェノクの対処をしなければならないという事だ。
連邦生徒会に事情を説明し助けを求める連絡を送ったが一切の返信は無い。
ホシノは冗談混じりにアビドス廃校対策委員会からオルフェノク対策委員会に改名しようかなどと言っている。
いつしかアビドスの面々はキヴォトスの中でも突出した戦闘力を誇る集団になっていた。
砂漠の道を走り続けて30分経った。
流石に広過ぎやしないかと翔一は思った。
鳥取砂丘に行った事はなかったがこんなに広かったのだろうか。
ガソリンは先日満タンにしておいたので当分ガス欠の心配はしなくていいが。
砂漠の道は果てしなく続き地平線の先まで続いている様に見えた。
もはやエジプトって言われた方がまだ信じられるぜ
だが、偶に視界に映る廃墟と化した家屋やビルは日本のものに見える。
白昼夢でも見ているんじゃないかと疑いながら愛車の速度を上げていった。
ふと前方に自転車に乗った人影が見えた。
日本人らしからぬ銀髪がヘルメットから覗いている。
後ろ姿しか見えないが恐らく女の子だと思う。
しめた!あの人に聞いてみよう
翔一は自転車を漕いでいる少女の後ろ姿を追いかけた。
1分と経たずに翔一はとてつもない違和感を覚えた。
彼我の距離が全く縮まらないのだ。
むしろ少しずつ離されている。
そんな筈はない。
だって前方の彼女はバイクではなく自転車に乗っているのだ。
翔一は愛車のデジタルメーターを見た。
75キロと表示されている。
人間が自転車に乗って75キロで走れるだろうか。
答えは否だ。
翔一はひどく混乱したが冷静さを失ってはいけないと思い直した。
アクセルスロットルを捻り、愛車をさらに加速させた。
メーターの数字はどんどん変化し、ついに100キロをオーバーした。
自転車を漕ぐ少女の背中がぐんぐん近づいていき、遂に追い越す事に成功した。
だがそれは、逆説的に少女が100キロ近い速度で自転車を走らせていた事を証明していた。
翔一は後方についた彼女に止まれと手で合図を送った。
少女がブレーキに指をかけたのが見えたので翔一も愛車を停止させた。
シートに跨ったままサイドスタンドを下ろしてヘルメットを脱いだ。
エンジンを切ってシートから降り、少女に話しかけようと振り返った。
ヘルメットを外した少女の頭に獣の様な耳が生えていた。
翔一は言葉を失った。
どうしたんだろう
砂狼シロコは目の前で硬直している男性を見ながらそう思った。
いつもの様にアビドス砂漠の道をロードバイクで駆け抜けていたら、後ろからバイクのエンジン音が聞こえてきた。
珍しいと思いつつも特に気にしていなかったが、バイクはシロコを追い抜かすと止まれと指示してきた。
道に迷ったのかな
降りて来た男性はキヴォトスではまずお目にかかる事のないロボットでも獣人でもない人間だった。
道を聞かれるかと思っていたのだが、男性はヘルメットを外したシロコを見るなり固まってしまった。
こちらから話しかけるべきだろうか。
「…あの」
「っ、あぁすいません。道をお聞きしたいのですが…」
思った通りの回答が返ってきた。
硬直していた理由は謎だが、まぁ気にしなくていいだろう。
「まずここはどこなんでしょうか…」
どうやらここが何処かすら分かっていないようだ。
ひどい道の迷い方をしたものだ。
「ん、ここはアビドス自治区。人が多い所に出たいなら後10キロ位真っ直ぐ走って」
「アビドス…?」
アビドスを知らないようだ。
確かにアビドスは人がいなくなって久しいが、名前すら知らないとは余程遠くから来たのだろうか。
「貴方は何処から来たの?」
「いや、山奥を走ってたんですが気づいたらここにいて。ここに来るまでの記憶が無いんですよ」
道に迷ったと言うよりは突如記憶を失ったようだ。
なんだか私みたい
シロコは若干親近感を覚えた。
「ん…大丈夫?一人で帰れる?」
「あぁ…帰る場所か…」
男性は何か困った様な顔をして頭をかいた。
どうしたんだろうか。
「この辺…と言うか日が落ちるまでに行ける範囲内で何処か泊まれる場所あります?」
口ぶりからして帰る場所がないのだろうか。
いや、道中の記憶がなくなったと言う事は家に帰るまでの道のりが分からないのか。
「…良かったら私達の」
台詞を最後まで紡げなかった。
男性の後ろから猛烈な勢いでこちらに走ってくる白い影が見えた。
「危ない!」
反射的に男性の肩を強く押した。
男性は2、3歩よろめきながら下がって尻餅をついた。
直後、男性がいた場所にオルフェノクの攻撃が振り下ろされた。
オルフェノクは虎の様な特徴を持っている。
さしずめ、タイガーオルフェノクと言ったところか。
「「オルフェノク!」」
シロコと男性は同時に叫んだ。
タイガーオルフェノクはまるで二人の台詞に答えるかの様に咆哮した。
「逃げて!」
シロコは男性に叫ぶとロードバイクにマウントしていたケースから愛銃を取り出した。
男性に目を向けると彼はバイクに向かって行った。
それでいい。
一人じゃ足止めすら厳しいだろうな…
シロコは死を覚悟しながらオルフェノクに立ち向かった。
タイガーオルフェノクは男性には目もくれずシロコと向かい合った。
シロコの愛銃が火を吹いた。
タイガーオルフェノクは大きく跳躍して殺到する弾丸を躱した。
落下に合わせてタイガーオルフェノクの鉤爪がシロコに振り下ろされる。
シロコは反射的にに飛び退ったがタイガーオルフェノクの鉤爪は突然何倍にも伸びた。
躱しきれない
死を覚悟したその時、真紅の光弾がタイガーオルフェノクの背中に命中した。
光弾が飛来した方を見ると男性が銃を構えていた。
いや、銃ではない。
銃だと思ったものの正体は一昔前の携帯電話と同型の機械だ。
携帯電話を無理やり折って銃の形状に変形させた様な奇妙な道具だ。
まさか、あれから先の光弾が発射されたのか。
そのまさかだった。
男性が引き金を引く動作をすると再び光弾が発射され、呆けていたシロコに襲い掛かろうとしていたタイガーオルフェノクに命中した。
男性は携帯を折りたたむと腰の機械仕掛けのベルトにセットした。
「変身」
シロコの視界は真紅の閃光に包まれた。
今回は結構寄せられたんじゃないかなと思います。(自画自賛)
現状、週に2回位のペースで更新しようかと思っています。
ちなみに、アビドス対策委員会は毎週の死闘で強化されているので、原作のアリウススクワッド位の練度になっています。
それでもオルフェノク単体とどっこいどっこいです。
1話ごとの字数
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もっと多く(5000字以上)
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もう少し多く(4000字以上)
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今のまま(3000字程度)
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もうすこし少なく(3000字以下)