Puriφ's 方舟の花々   作:ばりるべい

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対策委員会

 

シロコは初めての並走に僅かな高揚感を抱いていた。

残念ながら相手はロードバイクではなく大型自動二輪だが。

 

誰かと一緒に走るの、初めてだ…

 

少し楽しくなってスピードを上げる。

後ろのエンジン音がほんの少し大きくなった。

 

楽しい…

 

シロコも、おそらく彼も、走ることの楽しさに魅入られているのだ。

心なしか目に映る景色がいつもと違って見える。

対策委員会の仲間とは一緒に走ることはこれまでなかった。

 

ちらりと首をひねって後方のライダーの姿を見る。

気のせいかもしれないが彼もやはり楽しそうだ。

 

…私もバイク、試してみようかな

 

これまでは自分でペダルをこぐ事にしか興味がなかったが、バイクに乗ってみるのもいいかも知れない。

きっと今までと違う景色が見えてくる。

 

シロコはさらにスピードを上げた。

 

 

 

アビドス高校の正門から校庭に入って、まずは彼を駐輪場に案内した。

いつもの定位置でロードバイクから足を下ろす。

 

隣に停車した彼はバイクにまたがったまま、慣れた動きでスタンドを下ろしてヘルメットを脱いだ。

キーを回すと小刻みに振動していたエンジンが停止し、バイクはしばしの眠りについた。

彼はほっと一息つくとシロコの方を向いた。

 

「…」

 

「…」

 

目が合ったまま互いに動こうとしない。

しばらくの間、二人は見つめ合っていた。

 

「…あの、移動しないの?」

 

「?…っ⁉」

 

シロコは自分のニアミスを悟った。

急に恥ずかしくなって速足で歩き出した。

後ろから慌てた様子でついてくる足音が聞こえる。

 

「ん…恥ずかしい…」

 

シロコは彼に聞こえないようにつぶやいた。

 

 

 

端に砂の積もった廊下をどんどん進んでいく。

3階まで階段を上っていき、一本道の廊下の奥の「対策委員会」と書かれた標識の部屋へとたどり着いた。

 

「ん…ここ。皆がいるから挨拶して」

 

シロコは扉に指をかけながら振り返った。

翔一は小さくうなずいた。

 

シロコは扉をガラガラと開けた。

 

「おかえり〜シロコちゃん」

 

年長者のホシノがそう言うと皆口々におかえりと言った。

 

「ん、ただいま。お客さん連れてきた」

 

「お邪魔しまーす…」

 

姿勢を低くして翔一は遠慮がち部屋にに入った。

部屋の空気が凍ったのをひしひしと感じた。

 

「ど、どうしましょう…ホシノ先輩…シロコちゃんが、お、男の人を連れてきちゃいました…」

 

「…うへ…シロコちゃん…色を知る年に」

 

「違う」

 

シロコは食い気味に否定した。

 

「シロコ先輩、その方は…」

 

「ん。私を助けてくれた人。行く所が無いんだって」

 

「えっと…」

 

「シロコちゃぁん、それだけじゃ分からないよ〜」

 

「ん…この人、オルフェノクを倒せる」

 

再び空気が凍った。

部屋の面々の翔一を見る目に疑念と困惑が映り込んでいた。

 

「…シロコちゃん、それ、ホント?」

 

口火を切ったのはホシノだった。

ゆったりとした口調のまま、翔一を見据えた瞳はさながら猛禽類の様に研ぎ澄まされている。

 

「ん、本当。翔一、あれやって」

 

「あ〜、悪い。下に置いてきた…」

 

翔一はバツが悪いと頭をかいた。

 

「…私は信じないわよ」

 

セリカは突き放す様な口調でそう言うとつかつかと部屋を出て行った。

 

「ありゃりゃ…ごめんね。セリカちゃん、最近気が立っててさ」

 

「いや、構いませんけど…教師の方は…?」

 

「いないよ?」

 

「へっ?」

 

さも当然と言わんばかりに否定されたので間抜けな声が出てしまった。

 

「えっと…泊めていただけると聞いて伺ったんですが…」

 

「いいよ。あ、でも夜は誰もいないから気をつけてね」

 

あっさり了承が出た。

しかし先程からこの場を仕切っている桃髪の少女が年長なのだろうかと翔一は思った。

一番年下の様に見えるのだが。

 

「っと、自己紹介がまだだったね。私はアビドス高校3年の小鳥遊ホシノ。宜しくね?」

 

「アビドス高校2年の十六夜ノノミです。あとでシロコちゃんと何があったかゆっくり聞かせてくださいね〜」

 

「えっと…アビドス高校1年の奥空アヤネです。宜しくお願いします」

 

「…で、さっき出て行っちゃった娘が黒見セリカちゃん」

 

翔一はホシノが年長者という事実に面食らっていた。

慌てて自己紹介を返す。

 

「あぁ、いや、これはどうもご丁寧に。えぇと…巽翔一です。本日はお世話になります」

 

何度か噛みながらもそう言って頭を下げた。

 

「ん…私も自己紹介、する?」

 

「いや、さっきしたじゃん…」

 

 

 

「あの、本当にオルフェノクと戦えるんですか?」

 

「ん。本当」

 

「シロコ先輩に聞いてるんじゃなくて…」

 

アヤネは困った様に言った。

 

「まぁね…でも、シロコ…ちゃん…がいないと危なかったよ」

 

翔一はシロコの呼び方を決めあぐねていた。

 

「ん。シロコでいい」

 

「えぇ…呼び捨てはなぁ」

 

翔一にとってはハードルが高い様だ。

 

「私達も呼び捨てでいいよ。年上でしょ?」

 

ホシノがさも全体の総意の様にそう言ったが、他の者はそれで良いのかと翔一は思った。

 

「うん。まぁ…大学生ではあるよ…今はもう違うけど」

 

「うへ、なにやらかしたのさぁ」

 

「…対オルフェノク用の兵器をぶんどって逃げた」

 

「うへぇ…思ったよりやるねぇ」

 

翔一は褒められているのか分からないので安易に返事しないでおいた。

 

「じゃあこれまでもオルフェノクと?」

 

「いや、戦ったのは今回が初めてだ。さっきも言ったけどシロコがいなかったらヤバかった」

 

視界の端に胸を張るシロコが見えた。

 

「初めてで倒したの?上出来じゃない」

 

頬杖をついたホシノは目を細めながら言った。

どうも警戒されているなと翔一は思った。

 

「…とりあえず荷物を整理したいんで部屋を案内してくれないか?」

 

「シロコちゃん、案内してあげて。校長室だった所ね」

 

「ん、分かった」

 

シロコと翔一は部屋を出た。

去り際に振り返るとホシノと目が合った。

黄と青のオッドアイが一瞬、獲物に狙いをつける猛獣の様に変化した様に見えた。

 

適当に手をひらひらと振ると僅かに驚いた様な顔をして彼女は手を振り返した。

 

「何してるの?」

 

「いや…思ったよりノリがいいな。お前んとこのリーダー」

 

 

 

案内された部屋はそれなりに埃被っていたが、無償で提供された寝泊まりできる部屋としては文句はないレベルだった。

恐らくここが学校として機能していた時から置かれているのであろう古ぼけたソファーはぎしぎしと音を立てて翔一の腰を受け入れた。

軽く掃除をしていけば、2、3日後には存外まともな部屋になるかも知れない。

 

「この近くにコンビニとかある?」

 

「ん…結構遠い。行くならバイクで行った方がいい」

 

「そうか」

 

食事は自分で用意しなければならない。

彼女達がこれ以上好意を振りまいてくれるとは思わない方が良いだろう。

なんせ俺は金を払った訳ではないし、客というには余りにも彼女達と無関係すぎる。

 

そう言う意味ではシロコに感謝だな…

 

俺は部屋の隅で埃を指にとってふっと吹いているシロコを見つめた。

 

「ん…なに?」

 

「いや、お前さんのお陰で助かった。あの時提案してくれなかったら今も砂漠を彷徨っていただろうからな」

 

「ん。困った時はお互い様」

 

シロコはそう言ってブイサインを見せてきた。

 

「そうか…じゃあ俺もお前達が困ったら手伝うよ。居候のままってのも居心地悪いしな」

 

笑いながらそう言うと俺は駐輪場に放置していたファイズギアを取りに向かった。

 

 

 

「何もかもが違うんだな…」

 

俺はアビドス高校の“図書館だった場所”から本を拝借して読み耽っていた。

時刻は9時を下回っていて辺りはかなり暗くなっている。

長い事交換していなかったであろう電灯はつかなかったので、致し方なく窓を背にして月明かりを頼りに読み進めていた。

まさか車胤みたいな真似をする事になるとは夢にも思わなかった。

 

本の中にはこの世界、キヴォトスに関する事柄が事細かに書かれている。

どうやら以前は俺がいた「外の世界」から定期的に人が移り住んでいた様だ。

そう言った人達が右も左も分からない状況の中で、同じ様に外の世界から来た者にために書き記していたものらしい。

 

「著者の名前は…花形…誰だ?」

 




なんかシロコがヒロインみたいになってますがヒロインは現状未定です。
あと登校ペースは週4〜5回くらいにしようかな(前言撤回)

1話ごとの字数

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  • もう少し多く(4000字以上)
  • 今のまま(3000字程度)
  • もうすこし少なく(3000字以下)
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