恋のダービーステークス   作:カニ漁船

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トレーナーは気づかない

 とある日のお昼。今日もウマ娘達が走るのには絶好の天気だと思いながら過ごしていた今日。僕は理事長に呼ばれて理事長室に来ていた。

 理事長室でたづなさんが真剣な表情で僕を見ている。

 

「高村トレーナー。一つ、お伺いしたいことがあります」

「はい。なんでしょうか?」

 

 間違いなく大事な話をされる。なにか緊急の案件が来たのか、また海外からコーチングの依頼でも来たのか。身構えていた僕に告げられたのは。

 

「最近、担当のウマ娘さんと距離が近いのではないでしょうか?」

「……はい?」

 

 思ったよりそんなことはない質問だった。いや、場合によっちゃ大変なんだけども。

 

 

 素っ頓狂な声を出してしまったけど、これは仕方ない気がする。だって大真面目な雰囲気で担当ウマ娘との距離が近いといわれるなんて思わないだろう。

 しかし、距離が近いか。距離が近い……そうなのかな?

 

「申し訳ありません。おそらく言われるだけの要因はあると思うのですが、身に覚えがなくて」

 

 本当に覚えがない。いつも通りに過ごしているだけのような気がする。たづなさん達のことだから確信的ななにかがあるんだろうけど、僕には想像がつかなかった。

 たづなさんはというと、信じられないようなものを見る目。おっと、思ったより凄いことをやっていたのか、僕は。

 

「トレーナーさん、つかぬことをお聞きしますが……この前サクラバクシンオーさんとお出かけをしていましたね?」

 

 バクシンオーは僕の担当ウマ娘だ。最初にスカウトした子で、一番付き合いが長いといってもいい。誤差みたいなものだけど。

 彼女関係でなにかあったのかな? 記憶を掘り起こしてみても特に何も思い浮かばない。もしかして、たづなさん達は何か誤解をしているんじゃないだろうか?

 疑いをもたれたままなのは良くない。僕の名誉だけならともかく、バクシンオーの名誉が傷ついてしまう可能性がある。そのためにも、弁明した方がいいだろう。

 

「えぇ、はい。サクラバクシンオーにお願いされて、ショッピングモールに買い物に」

「その時の状況、詳しくお話しできますか?」

「構いませんが」

 

 別に隠すようなものでもない。これで疑いが晴れればいいな。

 

 

 

 

 

 

 その日はトレーニングシューズを買いに行く予定でショッピングモールへと行った。天気も晴れていてお出かけ日和だったのを覚えている。仕事の予定を早めに切り上げて、バクシンオーの予定に合わせることにした。

 朝できる仕事を終わらせて、集合時間の30分前には着いていた。けど、バクシンオーは僕よりも早く着いていたらしい。僕を発見すると嬉しそうに手を振っていた。

 

「やや? 集合時間の30分前に集合とは、トレーナーさんお早いですねッ!」

「バクシンオーは僕よりも早いけどね。おはよう」

「はい、おはようございますッ! 模範的な学級委員長は集合時間にも遅れませんッ!」

 

 天気が良いからかいつもよりテンション高めなバクシンオーと一緒にシューズを取り扱っているお店へ。

 早速お店に向かおう。そんな時、バクシンオーからある提案をされた。

 

「トレーナーさんッ! 手を繋ぎましょうッ!」

「なんで?」

 

 手を繋ぐというもの。理由が変わらず聞き返した僕に、バクシンオーはそれはもう良い笑顔で教えてくれた。

 

「ショッピングモールは混雑が予想されます。もしはぐれてしまった場合、また再会するのは困難を極めるでしょうッ!」

「いや、スマホがあるんじゃ」

「しかしッ! そこで手を繋げば全てが解決ッッ!! はぐれることもなければ人波にさらわれることもありませんッ! そしてこれは模範的なお出かけスタイル、ぜひともやるべきかとッ!」

 

 僕の反論をよそにバクシンオーはもう手を繋ぐ気満々でスタンバっている。手を繋ぐ必要性ある? なんて最初は思っていた。

 ただ、よくよく考えてみたらバクシンオーの言うことは一理ある。

 

(スマホがあるとはいえ、はぐれないに越したことはない。無駄な手間が省けるし、スムーズに買い物も済ませられるはずだ)

 

 問題も特に見当たらないし、手を繋ぐなんて誰でもやるだろう。じゃあ大丈夫だね。

 

「いいよ。手を繋ごうか」

「はいッッッ!!!」

 

 随分気合いを入れていたバクシンオーと手を繋ぐ。子供の頃を思い出して微妙な気恥ずかしさがあったけど、なんとか我慢だ。

 隣のバクシンオーはというと、それはもう機嫌が良さそうにしていた。過去見たことがないレベルで。鼻歌も歌っているぐらいだし。

 肝心の繋いでいる手はというと、指を一本一本絡ませるような繋ぎ方。子供の頃ようなものじゃない、なんというか前世も含めて初めてするような繋ぎ方だ。

 

「バクシンオー。この手の繋ぎ方は?」

「これは特に親しい相手にやる繋ぎ方ですッ! 私とトレーナーさんはそれはもう親しい間柄、特に問題はないかとッ!」

「そうなんだ。博識だね」

 

 それは知らなかったな。これもまた新しい学び、覚えておくとしよう。

 

 

 その後は普通に買い物をして終わっただけだ。たまにバクシンオーが手を組んできたりしたけど、それ以外は特にない。バクシンオーが終始上機嫌で鼻歌を歌っていたぐらいか。

 

(天気も良いし、鼻歌を歌うのも分かるな)

 

 担当ウマ娘が嬉しそうで何よりだね、うん。

 

 

 

 

 

 

 この前のバクシンオーとのお出かけを話した。こうして呼び出されたってことは多分、知っているだろうし。

 

「こんな感じですね」

「はい。では高村トレーナー、何が悪かったかお分かりですか?」

 

 何が悪かった、か。さっき担当ウマ娘との距離が近いって言われたから、多分手を繋いだことなんだろう。

 

「すみません、配慮が足りていませんでした」

「分かっていただけましたか。昨今ではむやみやたらに盛り上げる方々もいますので「担当ウマ娘と言えど、友達感覚で手を繋いだらダメですよね。以後気を付けます」いえそうではなく! いや近くはありますけど!」

「?」

 

 そうじゃないのに近い? どういうことだろうか?

 

「えぇと、そうですね……男性と女性が手を繋いでいたら、普通は何を連想しますか?」

「……友達?」

「ち・が・い・ま・す! どう考えても恋人とかそっちの方が先に来るでしょう!?」

「お、落ち着けたづなよ!」

 

 え、違うのか。友達でも手を繋いだりはするからバクシンオーともそんな感じだったのに。

 それにしても恋人、か。

 

「恋人に関しては、ないと思われます。そもそも大人と子供ですよ? まだ兄妹の方が納得いくんじゃないでしょうか?」

「そうは思わない方々もいるんです! とにかく、以後気を付けてください!」

「は、はい」

 

 たづなさんの凄みに押されて頷く。そ、そこまでのことなのかな? ただ手を繋いだだけなのに。

 

(囃し立てる人もいる、か。僕の見た目でありえるのか?)

 

 僕の目は死人とかゾンビとか言われてるし。恋人なんてありえるのだろうか。可能性は0じゃないとはいえ。

 

 

 用件はそれだけ、ではなく。

 

「高村トレーナーにはまだ余罪があります。ホッコータルマエさんの件です」

「ホッコータルマエ、ですか?」

 

 彼女も僕の担当ウマ娘だ。彼女と直近で何かしたといえば……ウマチューブの配信に出演したぐらいか。

 いや、それは冤罪じゃないだろうか。

 

「もしかして、彼女の配信に出演した件についてでしょうか? ですが、そちらに関しては初めてではないというか」

「えぇそうですね。たまに配信に出演していました」

 

 そうだろう。ならばなにも問題はないはずだ。

 

「ですが、念のためお願いします。高村トレーナーご自身の口から話してください」

「たづなさん、何か圧が「早く話してください?」ハイッ」

 

 た、タルマエの配信か。確か直近だと、2人だったな。

 

 

 

 

 

 

 きっかけはいつも通り。タルマエが協力ゲームの実況をしたいから僕に出演を依頼したことから始まった。仕事をしているところを手を引かれて、ゲーム配信に参加することになる。

 

「いつも思うけど、他にやってくれそうな子は? ヴィルシーナとかやってくれると思うけど」

「いえいえ、ここはトレーナーさんにぜひご出演してもらわないと!」

 

 やたらと押しが強いタルマエに根負けして一緒にゲーム実況をしていた。

 ゲームの内容もなんてことはない。どこにでもあるような協力ゲーム。

 

「あ、トレーナーさんそっち行きましたよ!」

「え、あ……ごめん、やられた」

「いえいえ、大丈夫ですよ。“私が”! しっかりカバーしますので!」

 

 あいにくとゲームは得意じゃない。それでもタルマエのカバーもあってか、そこそこいい感じのとこまで進めている。特に問題があるところなんてない。

 

 

 後思い出すことと言えば、ゲームをしている僕達の姿も映し出されている、ってことだろうか? 配信のカメラでゲームをしている様子を撮影する、みたいな。

 ゲーム画面以外に映す必要ある? とは聞いた。けど、タルマエは凄い剣幕で迫ってきた。

 

「とっっても大事です! これが一番大事です!」

「そうなの?」

「はい! 最近はこういうのが需要があるので! 私達のゲームしている姿を、みんなに見てもらいましょう!」

 

 別に構いはしないけど、ホラーでも何でもないし淡々とゲームしている姿を見て何が面白いのか。疑問に思うけどトレンドらしいので乗っかることにしよう。

 タルマエの距離感が近いとか、やたらとこっちに詰めてくるとかいろいろあるけど気にしない。ゲームをしていると自然にそうなる質なんだろう。分からないけど。

 密着する身体と身体。まぁ特になにも思うことはないのでプレイに集中する。その中で、突然タルマエに呼ばれた。

 

「ッ! ほらほら、見てくださいトレーナーさん! コメント欄で私達が仲良しって書かれてますよ!」

「そうなんだ。良かったね」

 

 言われたとおりにコメント欄を覗いてみる……なかなか好評みたいだ。本当にトレンドだったんだな、これ。

 

 

 ゲーム進行は何事もなく終わり。いつものように配信終了。特に何もなかった。

 

 

 

 

 

 

 タルマエのゲーム実況は毎回こんな感じだ。こんな感じなんだけど。

 

「なにか問題があるのでしょうか?」

「逆に問題がないと思っているんですかあなた?」

「き、危機ッ!? たづなが信じられないものを見るような目で見ている!?」

 

 いや、だって。仲良くゲームしているだけじゃないだろうか? 確かに近いかもしれないが、ゲームの癖に関しては個人差があるだろうし。2人ともカメラに収まらなきゃいけない関係上、どうしても近くなってしまうものだ。こればかりは仕方ないと思う。

 

「仲良くゲームをしているだけだと、私個人は認識しているのですが……まずかったですかね?」

「コメント欄を見たことがないんですか? 恋人みたいだと言われてますよね?」

「気にしないようにしているので。いますよね、少し近くにいただけで恋人扱いする人たちって」

 

 そういう人たちは無視するに限る。効いていないアピールをして、要所要所でしっかりと違うことをアピールすればいい。完璧な作戦だ。

 

「あなた方の場合少しじゃすまないんですよ! ゲーム配信の度に近くにいるじゃないですか!」

「カメラに収まる関係上、どうしても必要で。仕方ないことかと思っています」

「なんでそう、自分に関することに無頓着なんですかあなたは……っ!」

 

 呆れたような視線が突き刺さる。視線だけで穴が空きそうだ。

 

 

 その後も詰問は続く。僕の全担当ウマ娘、8人のやり取りを包み隠さず。

 たづなさんはもう諦めたような表情をしていた。こうなると、僕の方がおかしいんだろうな。秋川理事長もなんとも言えない表情をしているし。

 とはいっても、距離感か。

 

(恋人に間違われるなんて、そんなことあるのだろうか?)

 

 繰り返しになるけど僕の見た目はアレだ。死人とかゾンビみたいとか言われるような目をしている人間。恋人なんて発想に至るのだろうか? どっちかというと生贄じゃないだろうか。自分で言ってて悲しくなるけど。

 それに、担当の子達のやる気をキープするためにもお願いを断るのは忍びない。うぅん、板挟みだ。

 

 

 どうしたものか、そう考えているとたづなさんが口を開く。

 

「正直なお話、これが特定の一人だけならまだ良かったんですよ。良くはありませんが、現状に比べれば大分マシになりますので」

「え?」

「ですが、高村トレーナーが問題になっているのは──全員に対して同じように接している、という点です」

 

 それの何がまずいのだろうか? あいにくと分からない。

 たづなさんは僕を咎めるように、忠告するような視線を向けている。思わず姿勢を正しそうになるほど。

 

「ウマ娘のみなさんは独占力が強いです。これは習いましたね?」

「はい。トレーナーになる時、教えてもらいましたから」

 

 この辺の理屈はあまりよく分かっていないけど、負けたくないとかそんな感情だろう。

 

「少し考えてみてください。そう歳が離れていない異性が自分のために尽くしてくれる。そんな状況を」

「ありがたい限りですね。大事にしなければなりません」

「……まぁその認識でもいいでしょう。ですが、それだけではすまない場合もあるんです。確実に分かっていることは、高村トレーナーと彼女達の間では認識のズレがあります」

 

 そうならない場合とは? 認識のズレとは? どういうことだろうか。聞く前にたづなさんが続けたので阻まれた。

 

「高村トレーナーは9人……海外の方を入れれば10人ですね。それだけの数の好意を寄せられています」

「はは、御冗談が上手いですねたづなさん。僕が好かれているわけないと思いますよ」

 

 こんな目が死んだ仕事人間のどこに好きになる要素があるというのか。僕には全然分からない。

 彼女達が寄せているのは信頼。僕をトレーナーとして信じている、そんな感情だ。少しむず痒いものがあるけど、それなりの関係を築けてきたはずだし。

 けどたづなさんの視線は変わらない。僕を咎めるような目が突き刺さる。

 

「高村トレーナーがそう思うのは自由です。ですが、事が起きてからじゃ遅いんですよ」

「そんなまさか。ありえませんよ」

「……なんにせよ、これからは気を付けてくださいね。高村トレーナーの身の安全のためにも」

 

 なんでか最後、僕の身の安全が心配されたがこれでお話は終わりらしい。

 

「申し訳ありませんでした。以降は気を付けるようにします」

 

 頭を下げて謝罪。理事長室を退出した。

 

 

 理事長室の扉を閉めた後、思わず声が漏れ出る。

 

「……なんで僕の身が危険になるのか」

 

 担当の子とお出かけするぐらいは普通だし、ゲーム配信をするのも彼女達の実家にあいさつするのも普通だろう。アプリでもそうだったし、他のトレーナーだってきっとやっているはずだ。僕だけがおかしいなんてことがあり得るのだろうか?

 

「ま、いいか。さて、戻って仕事をするとしよう」

 

 ドリームトロフィーやらなんやら、みんなの調整をしなきゃいけない。後は海外の子達のコーチング依頼とかも確認しないと。

 仕事、頑張るか。




登場人物
高村トレーナー→転生トレーナー。転生特典でウマ娘の適性が分かる。目が死んでいるが本人は割とアグレッシブ寄り。

タグの子達が中心です。オリジナルウマ娘はその内登場予定。
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