恋のダービーステークス   作:カニ漁船

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今回はちょっとした番外編です。アオハル杯が採用できなかった理由みたいな回。


アオハル杯は禁じたい

 アオハル杯。昔トレセン学園に存在していたチーム対抗戦であったが、トゥインクル・シリーズと並行して開催されることから参加者が激減、開催されなくなった。

 しかし、スポーツ大会であるU.A.F.の発展もあり、学園内でアオハル杯を復活させる動きが活発化。最終的には理事長である秋川やよいと理事長代理である樫本理子の手によって復活、学園の一大イベントとして年に数回開催されることになる。

 

 毎年6月末と12月末の2回開催され、優勝賞品もちゃんとある。中には理事長の畑で取れた野菜1年分だったり、予約待ちのレストランの優待券、果てにはリゾート旅行のチケットが配られるなど、豪華なラインナップとなっている。

 景品の存在もあってか、生徒も本気で勝ちを狙いに行く者が多数。トゥインクル・シリーズに勝るとも劣らない熱気を生み出す、トレセン学園の一大イベントだ。もっとも、本質は生徒同士の交流。大抵は和気藹々とした雰囲気で進行している。

 

 アオハル杯最大の特徴はチーム戦であること。最低でも5人のメンバーで勝負に臨むことになる。

 短距離・マイル・中距離・長距離・ダートの5つの部門で競い合い、チームの合計勝利数によって勝敗が決定する。誰がどこを走るかは自由であり、一戦ごとに変えることも可能。このあたりで駆け引きが生まれるのもまた、アオハル杯の醍醐味だ。

 普段から仲の良いウマ娘と組むのもいいが、適性距離が被っていた場合は苦労することになる。時には知らないメンバーとの交流も必要不可欠であり、生徒間の交流の促進にも繋がる。アオハル杯にもいろんな狙いがあるのだ。

 

 仲間と一緒に、勝利を目指して頑張る。時に泣き、時に笑い、友情と絆を育むイベント。それがアオハル杯なのである。

 

 

 ……ただ、このアオハル杯には一つ、禁止とされていることがあった。レースのルールに抵触することは勿論NGだが、それとは別に一個だけ、特別ルールが設けられているのである。

 そのルールが生み出されることになったのはアオハル杯が復活して間もない頃。同じトレーナーのチームに所属する担当ウマ娘でも組めるからこそ起こってしまった、後に【アオハルの悲劇】と呼ばれる事件の話である。

 

 

 

 

 

 

 樫本理事長代理がトレーナーを務めるチーム・ファースト。個々の実力もさることながら、チーム間の絆も友情も他と比べてダントツ。アオハル杯の優勝候補に名を連ねるチームだ。

 

 代表ウマ娘は2人。ビターグラッセとリトルココン。この2人が牽引することで、この時のアオハル杯も無敗を貫いていた。

 

「よ~し、今日も絶好調だ! この調子で連勝していくぞココン!」

「気を引き締めて、つってもあんたなら大丈夫か。樫本トレーナーのためにも、アタシたちの力を見せつけるよ」

 

 トゥインクル・シリーズの第一線で戦うウマ娘にも負けず劣らずの実力を誇る2人。また、2人だけに限らず、他のウマ娘も重賞制覇者が多数在籍している。文句なしの強さだ。

 そんなファーストの強さは個人の役割がしっかりとしていること。さながら統率の取れた軍隊のような動きを見せてくる。

 どの距離にもエースとデバフ役を用意し、勝つための作戦を徹底する。ことチーム戦において右に出るものはいない、そう言われるだけの実力を兼ね備えていた。

 

 さらにはトレーナー。樫本トレーナーに拾ってもらった身である彼女達は全員慕っており、樫本トレーナーのためにと奮起している。士気も軒並み高いのが特徴。

 

「樫本トレーナー、最近お疲れみたいだからね。今回の優勝景品はリゾートスパの旅行券!」

「みんなで樫本トレーナーを労おう! おー!」

 

 チームメンバーも士気を高める。全ては樫本トレーナーのため、自分たちを拾ってくれた恩を返すため。今回のアオハル杯もまた、ファーストは高い士気を保ったまま挑んでいた。

 

 

 そんな彼女達はコースにて次の対戦相手を待つ。観客も増えてきており、いよいよ始まるという空気を醸し出していた。

 

 リトルココンは不思議な表情を浮かべ、次の対戦相手を確認する。

 

「そういえば、次の相手どこだっけ?」

「え~っと……ゲッ!?」

 

 始まる前の最終確認。その程度の軽いノリで聞いた。しかし、思い出そうとしたビターグラッセの顔色が真っ青に染まる。まるで、開けてはいけないパンドラの箱を開けたかのように。

 

 なぜ顔を青ざめさせたのか。その理由は、ちょうど目の前に現れた対戦相手になる。

 

「はぁ? なに青くなってんの。別になんのもんだ……い、も……」

 

 つられるように前を向いたリトルココン。彼女も、目の前の景色に卒倒しそうになる。チームメンバーも同じ様に、中には泡を吹いて倒れそうになっている者まで現れていた。

 理由はシンプルだ。

 

「次の対戦相手は優勝候補だそうですッ! ですが我々のバクシンをもってすればなんの問題もありませんッ! 今日もバクシンで行きましょうッッ!!」

 

 SMILE区分全制覇のサクラバクシンオー。

 

「君のその熱いノリはなんとかならないのかい? ま、優勝候補と言われるくらいなんだ。とても良い研究成果を出してくれるだろう! ハーッハッハ!」

 

 世界の評論家が定めたレーティングで140を記録した超光速の貴公子アグネスタキオン。

 

「あらあら、いったいどんな方々かと思えば……私を楽しませられるのかしら?」

 

 あらゆるウマ娘をパワーで粉砕する剛毅なる貴婦人ジェンティルドンナ。

 

「ジェンティルさん、無暗に挑発しないでくださいね。それよりも……今日はよろしくお願いしま~す! 苫小牧ロコドル、ホッコータルマエだべ~!」

 

 ダートの魔王、砂のシンボリルドルフと名高いホッコータルマエ。

 

「よ~し、次も頑張るぞー! 勝てばトレーナーさんとリゾートデート、勝てばトレーナーさんとリゾートデート……!」

 

 同じくSMILE区分全制覇、加えてダートも制したお祭り娘キタサンブラック。

 

「チーム戦だろうと負けはない。あらゆる分野において最強を刻む……それが私の使命だ」

 

 どれだけ離されようが最後の直線だけで全てを捲り置き去りにする最強の体現者ドゥラメンテ。

 

「それはわたしだって同じ。どこだろうと絶対に負けないんだから!」

 

 G1・26勝超えというバケモノじみた記録を保持する新時代のプリンセスアーモンドアイ。

 

「勝てばトレーナーさんに褒めてもらえる勝てばトレーナーさんに褒めてもらえる勝てばトレーナーさんに褒めて貰える……ふふふふふふふ」

 

 世界のレース場のレコードタイムを塗り替えた無双の閃光イクイノックス。

 

「ひじりんとデートはいつでもできるけど、バトって勝ち取ったリゾートデートってのもいいね~。うんうん、ワクワクする!」

 

 アメリカ四冠とBCクラシック連覇に加え世界のダート路線を席巻したパーフェクトモンスターフォーエバーヤング。このメンバーが対戦相手になったからだ。

 

 そこそこ走って汗をかいているチーム・ファーストのメンバー。だというのに、全身から汗が噴き出すような感覚を覚える。目の前に現れた対戦相手に、ファーストのメンバーは恐怖していた。

 それも仕方がない。なんせ、相手チームは全員がG1を10勝以上している猛者ばかり。さらには、魔境と呼ばれるドリームトロフィーでも結果を残す怪物たちなのだ。この反応も仕方がない。というか、すでに終わったかのような顔をするメンバーもいる。

 

(あぁ……そういえば、参戦してるんだっけ)

(災害じゃんこんなの……)

 

 ビターグラッセとリトルココンも内心終わったと思っていた。やれるだけのことはやるが、相手があまりにも強すぎることを知っていたから。

 

 極めつけに、サクラバクシンオー達は唐突にじゃんけんを始めだす。

 

「それでは、誰がどの距離を走るか決めましょうッ! これまで通り、不公平のないようじゃんけんですッ!」

 

 聞こえるじゃんけんの音頭。各々が得意とする距離ではない、自分たちが出走する場所をじゃんけんで決めている。

 普通ならばふざけたことだと思うだろう。一番得意とする分野で走らず、対戦相手を舐め腐っていると思うだろう。

 違う。サクラバクシンオー達は全員、どこだろうが自分の実力を十全に発揮できる。短距離だろうがダートだろうが何だろうが関係ない。それだけのことができてしまうのだ。彼女らチーム・ミーティアのメンバーは。

 加えて、彼女らは自らの実力に絶対の自信を持っている。だからこそ、彼女らはじゃんけんで決める。どこだろうと変わらない、どこを走ろうが自分たちは強いということを証明するために。

 

「委員長が勝ちました~! では、私は長距離をいただきましょう!」

「う~ん……なら、あたしはダートをもらいますね。今回マイルみたいですし」

「仕方ありませんわね。短距離に出て差し上げましょう。私の強さをお見せしますわ」

「キタサン先輩と同じく、ダートで。被りが出るのは仕方ないですね」

「芝のマイルでヨロ~。さてさて、エキサイトさせますか!」

 

 どの距離でも全力を発揮できる。距離適性なんて知ったことじゃない。とある首謀者の手によって適性を魔改造されている彼女達は、距離区分など関係ないとばかりにポップしてくる。

 

「う、うぅ~……! アイがじゃんけんで負けるなんて……! 中距離よ、中距離に出る!」

「……負けた。マイルでいい」

「ここまで調子よかったんだけど……あ、長距離貰いますね。久々の芝の長距離です」

「ドベの私に対する当てつけかい? どこでもいいが短距離でいいよ。もう埋まってることだしね」

 

 そう、どこでも走れるからじゃんけんで決める。どこだろうと実力を発揮できるからじゃんけんで決めることが許される。それが、チーム・ミーティアという集団の恐ろしさだ。誰がここまでやってしまったのか。

 

 ただ、じゃんけんで出る距離を決めているミーティアのメンバーに、リトルココンとビターグラッセはやる気が満ちるのを感じる。

 

「……やってやろうじゃん。どこでもアタシたちに勝てると思っているその鼻っ柱、へし折ってやる!」

「あぁ、そうだなココン! どの道、このチームに勝てなきゃ私たちは優勝できないんだ。やるしかない!」

 

 闘志を滾らせ、絶対に負けないと決意を固める。出る距離をじゃんけんで決めるやつらに負けるわけにはいかない、理事長代理のためにも負けるわけにはいかない。その思いを背負って、2人のやる気は満ち溢れていた。

 触発されるように、ファーストのメンバーも気合いを入れる。最強最悪の天災相手に勝つために、持てる力を全て出し尽くそうとしていた。

 

 その気合を、ミーティアのメンバーは察知する。代表するように、ジェンティルドンナが笑みを深めた。

 

「あら、随分と気合いを入れているのねぇ。これは、とても楽しめそうだわ」

「私の実験にも大いに役立ってくれるだろう。さぁて、検証開始だ!」

「みなさんの本気、あたしが受け止めます! その上で、あたしが勝ちます!」

 

 最強の個人群ミーティアVSチーム戦最強のファースト。2つのチームの激闘が始まった。

 

 

 なお、結果は。

 

「え~……チーム・ミーティアが全勝です」

「ありがとうございましたッ! 大変素晴らしいバクシン、ですが私達のバクシンがさらに上をいきましたねッ! 次の対戦を楽しみにしていますよッ!」

「二度とごめんだよ!」

 

 ミーティアの圧勝で終わった。チーム戦で挑もうが小細工を弄そうが、力業で粉砕するミーティア。あらゆる策が潰される状況に、ファーストのメンバーはいっそ笑いがこぼれるほどの強さを見せつけられたのである。

 

「なんなんあのチーム。どうなってるの?」

「……さて、次頑張ろう」

「あぁ!? ココンが虚無の目をしている! 帰ってこいココン! そっちは校舎だぞ!?」

 

 結果、ファーストのメンバーはトラウマに近い感情を植え付けられた。ちなみにこれはファーストだけじゃない。ミーティアと当たったチームは大抵トラウマを植え付けられたのである。

 

 最終的に、圧倒的強さをもってミーティアはアオハル杯を優勝した。全員が全ての距離を1回ずつ走って、それでも勝ち続ける恐ろしい強さを発揮しての優勝である。

 

 

 

 

 

 

 これが、アオハル杯で起こった顛末。【アオハルの悲劇】と呼ばれる事件の詳細だ。ちなみにこの時ミーティアは全勝している。

 そして、この結果によってある特殊ルールが追加された。ミーティアを狙い撃ちにした、1つのルール。

 

「出ッ禁ッ!! ミーティアのメンバーはミーティアのメンバー同士で組むことを固く禁ずるッッ!」

「なにか異論はありますか? 高村トレーナー」

「……ないです。後、本当に申し訳ありませんでした」

「いえ、高村トレーナーが悪いわけではないのですが……なんというか、その、仕方ない処置として受け取ってください」

 

 チーム・ミーティアに限り、同じチーム間で組むことを禁じられたのである。どの距離でも走れるエキスパート集団、2人以上で組めばろくなことにならないから設定された、アオハル杯の特殊ルールである。

 

 まぁ、この結果を受けてもミーティアのメンバーは涼しい表情をしていた。

 

「今度走る時はみなさん敵同士ですねッ! 委員長のバクシンは誰にも負けませんッ!」

「くっくっく、良~い実験材料(モルモット)になってくれよ? あいにくと私は手加減できないタチだ」

「あら、吠え面をかくことになっても知りませんわよ。誰であろうと勝つのは私……勝者はただ一人、この私ですわ」

「そうですか。では、今度戦う時は徹底的に情報を洗い出しましょう。あ、他のみなさんも同様です」

「次は敵同士……! 負けません!」

「むしろ、相手にとって不足はなしだ。私の全霊をもって相手をさせてもらう」

「いい機会じゃない。アイが一番強いってことを証明できるわ!」

「若輩の身ゆえ、先輩たちの胸を借りるつもりで挑ませていただきます。無論、負けるつもりはありませんが」

「アッハッハ! みんな超ボルテマックスじゃん! ま、ウィナーはアタシだけどね」

 

 むしろチームメンバーと戦うことに歓喜しているバトルジャンキーしかいなかった。これがチーム・ミーティアである。




名誉出禁チーム、ミーティア誕生の瞬間である。
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