恋のダービーステークス   作:カニ漁船

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クリスマスということで。シングレオグリもステゴも引けたから勝ち組です(右手を上げる)


ミーティアはお邪魔したい

 世間はクリスマスムード。トレセン学園も例に漏れず、生徒トレーナー問わず浮足立っていた。

 

 その中でミーティアのトレーナー、高村聖はというと。

 

「ウインタードリームトロフィーも終わったし、次はサマードリームに向けての調整プランを立てないと。新しい子のスカウトもどうしようかな? 近々選抜レースも開催されるし、観に行くか」

 

 仕事をしていた。それはもう見事なまでに。世間のクリスマスムードなんて関係ないとばかりに、これからの仕事について考えているのである。多分今日がクリスマスであることすら忘れているだろう。

 

 なお、そんなトレーナーを担当ウマ娘達が見逃すわけがなく。

 

「トレーナーさんッ! クリスマスですよクリスマスッ!」

「……あれ、そうだっけ?」

「そうですよトレーナーさん! いつも頑張ってるんですから、今日くらいお仕事お休みしてください!」

「いくらなんでも仕事をしすぎだ。休むということを覚えたまえ、君は」

「ひじりんにはホリデーってコンセプトがないの?」

 

 サクラバクシンオーを筆頭に、彼が担当しているウマ娘がトレーナー室へと押し寄せてきていた。ちなみに全員、迷いなくこのトレーナー室へと来ている。どうせ仕事をしているだろうと踏んでいたからだ。案の定、クリスマスということを忘れて仕事をしていたので、彼女達の読みは当たっていたことになる。

 気まずそうに頬を掻く高村。さすがに現場を押さえられたからには、これ以上仕事をするわけにはいかないと悟ったのだろう。

 

「分かった、分かったよ。じゃあこの辺で仕事を切り上げようかな」

「そうしなさい。全く、クリスマスでもどうせ仕事をしているだろうと思って来てみたら」

「案の定でしたね。タキオンさんも言ってますけど、休むことを覚えてくださいトレーナーさん。またたづなさんの雷が落ちますよ?」

「……それは勘弁願いたいかな」

 

 たづなさんに怒られるのも嫌なので、仕事道具をさっさと片付けた。その光景に担当ウマ娘達は満足げに頷く。

 

 

 さて、世間はクリスマスなのだが。あいにくと高村は特に考えていなかった。さっきまで忘れていたのだから当然である。

 

「部室でパーティでもする? 買い出しが必要になるけど」

「悪くはない案ですが、時間が限られています。少し、厳しいものがあるかと」

「だよね。校舎が閉まる時間は門限よりもずっと早いし、どうしたものかな……」

 

 あぁでもない、こうでもないとブツブツと呟く。せっかくのクリスマス、忘れていたお詫びも込めて、なにか特別なことをしたいと考える高村。

 その時、不意に漏れる。

 

「いっそのこと、僕の家でパーティする? なーんて」

 

 そう口にした瞬間、全員が一斉に詰め寄った。9人のウマ娘が、一斉にである。冗談で口にした一言を、全員が真に受けた。

 

「トレーナー! それは本当かしら!?」

「え、いや」

「トレーナーさんのご自宅にお邪魔できるなんてとても名誉なことですそうしましょう今すぐ行きましょう外泊届をすぐに出してきます」

「落ち着いて、落ち着いてイクイ。まだ決まったわけじゃ」

「ヒジリのオウチー!」

 

 全員が行く気満々になった。まさか不意に漏れた言葉が全員にクリティカルヒットするとは思わなかったのだろう。高村は困惑した表情でサクラバクシンオー達を見ている。

 それも仕方がない。なにせ全員、トレーナーの自宅に行ったことがないのだから。知ってはいるかもしれないが、家に上がったことはない。そう、誰一人としてだ。

 

 まさかこんな反応をされるとは思っていなかった高村。心底不思議で堪らない様子を見せる。

 

(そんなに僕の家が気になるのかな? 誰も上げたことなかったし、気にもなる、のか?)

「まぁ、そんなに気になるなら……ウチに来る?」

「行く!」

 

 全員の口が揃った。ならばと、今更断る理由もない。

 

「じゃあ、僕の家でクリスマスパーティしようか」

 

 高村は担当ウマ娘10人を自宅に上げることにした。友達感覚で。

 サクラバクシンオー達は内心、ガッツポーズを決める。ついに、ついにトレーナーの家にお邪魔できると心の底から喜んでいた。

 

(トレーナーさんのお家にバクシンですッ!)

 

 普段通りのサクラバクシンオー。

 

(さてさて、さりげなく合鍵を作っておこう。いつでもお邪魔できるようにねぇ)

 

 とんでもないことを画策しているアグネスタキオン。

 

(トレーナーさんのお家……き、緊張する~!)

 

 体が強張っているキタサンブラック。

 

(考えてみれば、トレーナーの家に上がったことはない。気になる)

 

 興味津々のドゥラメンテ。

 

(部屋の構造を把握しておきましょうか。いずれは、私の家にもなるのですから)

 

 すでに住所変更を済ませそうな勢いのジェンティルドンナ。

 

(配信で既成事実……は、さすがに止めておきましょう。プライバシーの問題がありますし)

 

 どうにかして既成事実を作れないか考えているホッコータルマエ。

 

(トレーナーさんのご自宅トレーナーさんのご自宅トレーナーさんのご自宅……フフフ)

 

 不気味に笑うイクイノックス。

 

(ふふん、ようやくトレーナーもその気になったのね。トレーナーとわたしの愛の巣よ!)

 

 いろいろと飛躍しているアーモンドアイ。

 

(ヒジリのお家~。師匠に良い報告ができます!)

 

 モンジューにいらんことを言いそうになるヴェニュスパーク。

 

(ひじりんのホーム……ホーム……え、えへへ)

 

 微妙に顔を赤くしてなにかを想像しているフォーエバーヤング。それぞれの思いを胸に、高村の家へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 買い出しを済ませ、高村宅へと向かう一行。ちなみに道中、キタサンブラックは気になったことを聞いていた。

 

「ところでトレーナーさん。誰かお邪魔する予定はあるんでしょうか?」

 

 それとなく、緊張した様子で聞く。まさか自分達以外にいるのではないか? もしかしたらそういう関係の相手がいるのではないか? 牽制の意味合いを込めて聞いた。

 返ってきた答えは。

 

「元々は虎太郎が来る予定だったんだけど、みんなが来るって言ったら急用思い出したとかで来れなくなったんだ。なんか、最後に楽しめよ、って言われたけど」

「ッ!」

 

 この報告に喜びの表情を浮かべるキタサンブラック。自分達以外はいないという事実に喜んだ。

 

 ほどなく歩いて高村宅に到着。1人で住むにはかなり大きめの一軒家だった。

 

「立派だな。ここに1人で住んでいるのか?」

「そうだねドゥラ。本当はもっとこじんまりとしたところでよかったんだけど、防犯の観点からおススメできないって言われて。たづなさんのアドバイス通りにこっちを買ったんだ」

「いいじゃんいいじゃん。セキュリティもパーフェクトそうだし」

 

 なお、危惧していたことが起きている、というよりは本人が勝手に家に上げているため、たづなさんの気遣いは無駄に終わっている。なんとも悲しいことだ。ちなみに外観は豪邸一歩手前、といった感じだ。

 

「それじゃあ上がって。ご飯作るから、みんなは好きに寛いでていいよ」

「トレーナーさんのご自宅にバクシーンッ!」

 

 我先にと飛び出したのはサクラバクシンオーにキタサンブラックとヴェニュスパーク。無言でドゥラメンテがくっついていった。他メンバーは正妻の余裕とばかりに悠々と入っていく。

 

「ここがわたしとトレーナーの愛の巣ね!」

「何言ってんの」

 

 アーモンドアイは全員から無言で睨まれた。本人は威風堂々としていた。

 

 そして、トレーナーの家に上がった感想は。

 

「なんというか、使ってない部屋が多いですねトレーナーさん」

「まぁね。正直持て余し気味だし」

「空き部屋がいくつかありますわね。使っていないのであれば、私が有効活用して差し上げま」

「なにを置く気ですかジェンティルさん。そんなことさせませんよ」

「……ッチ」

 

 空き部屋が多いということ。何もない部屋が多かった、というのが全員の感想だ。それを知って全員が私物を持ち込んできたのはまた別の話。

 

 

 料理を作り終える頃には日は沈み。全員でクリスマス料理に手を付ける。

 

「トレーナー君の料理は毎日でも食べられるねぇ! というわけで毎日作ってくれ、私のために」

「今も毎日作ってるでしょ。おかわりはたくさんあるから、欲しい人は言ってね」

「今気づいたけど、凄く大きいオーブンがありますっ!」

「あんまり使ってないけどね。こういうパーティぐらいでしか使わないし」

 

 豪華な料理にプレゼント交換。ゲーム大会にトレーナーの家の探索など、楽しいひと時を過ごす。

 

「……僕の家なんか散策しても、面白いものは出てこないよ」

「二ホン、マンガみました! ベッドの下、本ヲ隠すっテ!」

「なんも隠してないよ……気になるなら見てきてもいいし」

 

 さらっと寝室の場所も教え、ベッドにダイブするウマ娘が数名。無言で布団に顔を埋めるウマ娘が若干名。それを不思議そうな表情で眺める高村が1名。楽しい時間を過ごしていた。

 

「ちなみにだけどみんな泊まって」

「泊まります! 泊まらせていただきます!」

「だよね。そのために外泊届出すように言ったんだし。布団とか用意するから、誰か手伝ってくれる?」

「ヒジリのベッドで」

「僕のベッドは1人用だから2人はキツいかな」

 

 しかも泊まりがけとなった。担当ウマ娘達からすれば天国のような時間を過ごせているのである。

 

 楽しい時間はあっという間に過ぎていき、気づけば日付も回りそうな頃。時間に気づいた高村が見渡す。

 

「それじゃあ、そろそろお開きにしようか。良い時間だし、眠そうにしている子達もいるしね」

 

 すでに瞼が半分落ちかけているヴェニュスパークにキタサンブラック。サクラバクシンオーも少し元気がなくなっていた。この辺が限界だと悟った高村は、全員に眠るよう促す。

 

 異議はない。パーティはここで解散となり、全員が寝室へと移動。

 

「それじゃあみんなおやすみ。明日は休みだし、好きなだけ休んでもいいよ」

「えぇ。貴方もしっかりと休むことね」

 

 ジェンティルドンナが代表して言葉を交わし、別れる。各自自分の布団に入り、眠りにつこうとしていた。

 

 こうして楽しい聖夜は終わりを告げる……はずがなかった。

 

「……さて、全員眠ったわね」

 

 電気を消してしばらく経った後、全員が寝静まっているのを確認する人影が1つ。アーモンドアイだ。起こさないように忍び足で歩き、部屋を出る。

 部屋の扉を静かに閉め、真っ暗な廊下で彼女はほくそ笑む。

 

「ふっふっふ……ここでアイだけがトレーナーの布団に入り込む。トレーナーの寝室は確認済み、アイの勝ちよ」

 

 ひそひそ声で夜這いを画策していた。頬は少し赤みがかっており、これから先のことを想像してキャーキャー言いそうになっている。みんなを起こさないためにも、絶対に口に出さないようにしているが。

 

 そう。全てはトレーナーの家に招かれた時に決行を決めていた。トレーナーの布団に潜り込むことを。

 

「他のタイミングじゃ、みんながいるんだもの。眠っている今が最大のチャンスっ」

 

 全員が寝静まったこのタイミングならば、トレーナーの温もりを独占できる。一歩リードできる。そう考えたアーモンドアイは、家に上がると決めた瞬間この夜這いを計画していた。

 なにせ今のところこれといった進展がない。なのに、サクラバクシンオーの告白によってリードを取られている状況。それがアーモンドアイには我慢ならなかった。

 

「最後に勝つのはわたしよ。加減はっ、なしよ!」

 

 勇み足で、それでも足音を立てないようにトレーナーの寝室へと移動する。勝った、そう確信して。

 

 まぁ。

 

「あっ」

「あら」

 

 夜這いを画策していたのはアーモンドアイだけじゃなかったのだが。ジェンティルドンナと鉢合わせ、お互いに目をぱちくりさせている。

 否、ジェンティルドンナだけではない。

 

「増えたな」

「……トレーナーさんの温もりを独占するチャンスだったのですが」

「抜け駆けはダメだよイクイちゃん。よよよ、夜這いなんて、ほほ、本当はダメなんだからっ」

「ここにいる時点でキタサンもギルティだよ」

 

 ミーティアメンバー全員ここにいた。考えることは一緒である。全員、トレーナーの布団に潜り込もうと画策していた。

 

 考えてみれば当然だ。好きな異性の家にいて、寝室の場所を把握していて、なおかつベッドは狭いと来た。このチャンスを逃さない恋の乙女がいるだろうか? いや、いない。

 そう、全員が同じことを考えていたのだ。トレーナーと一緒のベッドで寝ることを。

 

 トレーナーの寝室の前で顔を見合わせる乙女たち。全員が自分が、いや自分がと部屋の扉を開けようとしている。寝ているだろうトレーナー本人を起こさないように。

 

「なんでみんないるのよ! アイだけじゃないの!?」

「おいおい、トレーナー君が無防備に寝ているんだぞ? この機会を逃すわけにはいかないだろう?」

「なんなら、アーモンドアイは一番遅かった。一番先に来たのは」

「模範的な委員長はココでも一番ですっ!」

「夜這いは模範的じゃないですよバクシンオーさん」

 

 扉の前でやいのやいの騒ぐ彼女達。もはや起こさないようにということさえも忘れて、声を出しそうになっていた。

 

 そこで気づく。イクイノックスが。

 

「……待ってください。なにか、声が聞こえませんか?」

「えっ!?」

「ふむふむ……確かに、なんかモノローグが」

 

 声が聞こえるというイクイノックスの言葉。お化けかと思い怖がるキタサンブラック。全員が固唾を飲んで黙り込んでしまった。

 

 静かに、そっと扉を開けるイクイノックス。その先にあったのは──

 

「え~っと、この子は中距離が最適性だからメニューはこれで……この子は短距離だからこっちのメニューを流用して……」

「……」

 

 仕事をしている高村の姿だった。この男、パーティが終わった後なおも仕事をしていたのである。

 

 ぶちっ、と。なにかが切れる音が聞こえたような気がした。イクイノックスが代表して背後に立ち、高村の肩を叩く。

 ギギギ、と。冬の寒さが嘘みたいな汗を流す高村。ニッコリ笑顔の担当ウマ娘達と目が合った。

 

「……」

「なにか申し開きはありますか? トレーナーさん」

「……見逃してくれると」

「見逃すわけないでしょうがッッ!! なに仕事してるんですかあなたはァァァ!!」

 

 担当ウマ娘達の天誅が下った。この仕事人間、もはや仕事をしていないと死ぬ病気にでもかかっているんじゃないか? といわんばかりのワーカーホリックっぷりである。

 

 

 なお、その結果として高村は客間で寝ることになった。サクラバクシンオー達と一緒の寝室で。

 

「……別の意味で寝れない」

 

 隣を勝ち取ったのはキタサンブラックとイクイノックス。2人にがっちりと腕をホールドされ、むにっとした弾力や女の子特有の柔らかさを堪能することになる。気が気でない状況に、高村は眠ることができなかった。




後日頭を抱えるたづなさんである。
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