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思ったより長くなった。
今、僕の目の前では奇妙な景色が映っている。
「おぉ~、これがひじりんの身体か~。うん、めっちゃヘビー!」
「身体が重い? もしやトレーナーさんッ! 学級委員長に黙ってお仕事をしていましたねッ!」
「いや、おそらくだが人とウマ娘の身体の違いが現れているんだろう。身体能力の差とかいろいろとあるからね。重く感じるのも仕方ない」
目の前にいる死んだ目をした成人男性。他ならない、僕だ。さらにはバクシンオーみたいな口調で喋るヤン子。唯一タキオンだけは変わらない。
キャラ変でもしたの? と言いたくなるような景色。今ここで人が入ってきたら、困惑すること間違いなしだろう。
「え、え? えぇ!? トレーナーさんがなんかヤングさんっぽい口調に!?」
実際、部屋に入ってきたキタサンが凄い困惑していた。僕がキャラ変していると思ったんだろう。いや、うん。さすがに僕でもキャラ変でギャルは選ばないかな。
困惑しているキタサンのために、タキオンが事情を説明する。とはいっても、大体想像はつくと思うけどね。
「なに、いつもの実験の延長線さキタ君。今トレーナー君の身体にはヤング君の意識が入っている。同様に、ヤング君の身体には委員長君が、委員長君の身体にはトレーナー君の意識が入っているよ」
「あ、いつもの実験でしたか! びっくりしましたよ~」
「それでアンダースタンできるキタサンも、やっぱこのチームのメンバーだよね」
タキオンの実験だ。たまたま居合わせたこの3人で実験することになって、面白そうだからと僕以外の2人も了承。現在に至る。
それにしても、僕はバクシンオーの身体なんだけど。
(別の実験でウマ娘になったことあるからな。特に変わり映えみたいなものは感じない)
とはいえ、だ。実際に推しのウマ娘の姿になるなんて貴重どころじゃないだろう。一生に一度もあり得ない機会だ。
(……別に何をしよう、なんて思わないな。むしろ、イメージダウンになるような真似はしないようにしないと)
「それにしても、バクシンオーさん静かですね。いつも元気いっぱいだから、これはこれで新鮮かもしれません!」
「はいッ! 模範的な学級委員長は常に元気いっぱいッッ! みんなを明るくさせるのも委員長の務めですからッッ!!」
「いや、今のバクシンオーはアタシっしょ。ひじりんは物静かだもんね~」
確かに、僕とバクシンオーはほぼ真反対と言ってもいいくらいに違う。バクシンオーはいつも元気いっぱいに走り回っているけど、僕はどちらかといえば室内で静かにしている方だ。大体仕事をしているせいなんだけど。
「まぁでも、さすがにバクシンオーのイメージを変えるような真似はしたくないかな。だから、頑張って演じてみるよ」
「やや? トレーナーさんが、私をですか?」
頷く。みんなは……怪訝というか無理しない方がいいよ、みたいな顔だ。僕にそんなことができるはずないと思っている、そんな顔。なんならタキオンも同じ表情をしていた。
「トレーナーさん、あんまり無茶しない方がいいと思いますよ? バクシンオーさんとトレーナーさんはまるっきり性格が違いますし」
「アタシもキタサンにアグリーかな。さすがにキャラがディファレンスだって」
「無理をなさらなくても大丈夫ですよッ!」
全員止めてきた。その気持ちは分からないでもない。
けど、問題はない。
「……スゥー、ハァー」
息を整えて、気合いを入れて。目をカッ、と見開く。
「バクシンバクシーーーンッッ! 学級委員長は今日も元気いっぱいのハナマル笑顔ッ! さぁさぁみなさん、今日も元気にバクシンしますよーッ!」
「ちょわぁっ!?」
「えぇ!?」
「お、これはアンエクスペクトな才能!」
「えぇ?」
僕はバクシンオーを、全力で演じる。
サクラバクシンオーは僕の前世での推しウマ娘だ。彼女の育成シナリオは全部見てきたし、イベントシナリオもしっかりと目を通している。台詞なんかもそうだ。
今世では一番付き合いが長い担当だ。最初の担当ウマ娘で、お互いに導いて導かれての関係。助け合ってきたわけだ。
だから、バクシンオーを演じるくらいはできる。細部の違いこそあるかもしれないが、初見で通用する自信がそれなりにある。
「ややっ? どうされましたかみなさん変な顔をして。そういう時は委員長の笑顔を見ましょうッ! たちまち元気になりますよ~!」
「いや、待って、待ってください! 中身を知っているからギャップが……っ!」
お腹を抱えているキタサン。中身を知っていたら確かに面白いかもね。言ったら僕がバクシンオーを演じてるわけなんだから。キャラが違いすぎるなんてレベルじゃない。
ヤン子とタキオンは興味深そうにしている。困惑から一転して、僕に目をつけていた。
「トレーナー君にそんな才能があったなんてね」
演じる才能、か。
「さすがにそれはないかな。これはあくまでバクシンオーだからできることだし」
「あ、戻った」
「いきなりスンってなるとびっくりしますね。それにしても、凄いですトレーナーさん! あんな特技があったなんて!」
「ありがとうキタサン。特技、ってよりは付き合いが長いバクシンオーの真似だからできるんだ。なんとなくどういう子かは知ってるから」
役者の才能はないけど、身近な子達を演じることぐらいはできる。それに、僕がやらかしたらバクシンオーのやらかしに直結する。それだけは避けなければならない。
「僕が下手なことをして、バクシンオーの評価が下がったらまずいからね。だから、全力でバクシンオーを演じさせてもらうよ」
「う~む」
評価が下がる、と口にしたらタキオンがまたも考え込んだ。何を考えているのやら。
「いや、トレーナー君の変なこと程度では委員長君の評価は下がらんだろう。またなにか委員長君がやってる、で終わると思うがね」
「あ、アハハ……ちょっと否定しきれない」
「そうでしょうそうでしょう! なんせ委員長は大変模範的ですからッ!」
「うん、プレイスはされてないよバクシンオー」
……ちょっと僕もそう思ったのは内緒だ。
「ちなみに何の実験なんですか? 体を入れ替える実験がどうレースに?」
「何、【性格の違いによってレースパフォーマンスにどういった影響を及ぼすか?】、の研究でね。しかしいざ性格を変えるとなると厳しい……ならば中身ごと入れ替えてしまおう、というわけさ!」
「その場に居合わせたので参加しましたッ!」
「アドレナリンドバドバじゃん? こんなエキサイティングなこと!」
「はいッ! 実験に付き合うのはいつものことなので些細なことかと。むしろこういう場で手をあげてこその委員長ですッ!」
「と、トレーナーさんの演技がっ、す、すごい……っ!」
キタサンのツボに入ったのか、ずっとお腹を抱えている。面白いようで何よりだよ。
ちなみにこの後、他のメンバーも来る予定だ。もう少ししたら集まるだろう。
そんな折にタキオンからとある提案が。
「そうだトレーナー君。せっかくだからどれくらい騙せるか試してみないかい?」
「……僕がバクシンオーの身体に入ってるってことを?」
「その通り。委員長君とヤング君は速攻でバレるだろうが、君のその演技ならバレない可能性が非常に高い。この機会に試してみないか?」
騙す、って言われると躊躇するけど。
「面白そうです! やりましょうよトレーナーさん!」
「フェイクを見抜けるか、面白そうじゃん?」
キタサンとヤン子が乗り気、バクシンオーも期待の籠った目で僕を見ていた。やってくれ、と言わんばかりに。
(まぁ、こういう機会は中々ないからね。たまにはいいか)
「分かった。それじゃあ、騙せるか試してみよう。全員揃ったらネタ晴らし、みたいな感じで」
「ハッハッハ、良いねトレーナー君! さてさて、最初の犠牲者は誰かな~?」
こうして始まる、僕によるバクシンオーが偽物と見抜けるかクイズが始まった。ちょっとワクワクしているのは内緒である。
で、結果のほどはというと。
「ぜ、全然分からなかった……! てっきりいつものバクシンオーさんかとっ」
「そうやって、私を騙そうとしているのでしょう? え、嘘ではない? 冗談ではなく?」
「……分からなかった」
「エー!? ゼッタイうそです! いつものバクシンオー、です!」
「何言ってるのよタキオンさん。いつものバクシンオーさんじゃない。むしろヤングさんはどうしたんですか? 変なものでも食べましたか?」
イクイ以外の全員を騙せた。なんならネタ晴らししても信じてもらえなかった。それだけ完成度が高いということなんだろう。ちょっと誇らしいな。
「本当のことだよ。今タキオンの実験中でね。僕の身体にはヤン子が、バクシンオーの身体に僕が、バクシンオーはヤン子の身体に入ってるんだ」
「う、嘘!? 全然分からなかったわ!」
「分かる、分かるよアイちゃん。でもそれ以上に、トレーナーさんがバクシンオーさんの真似をしてると思うと……っ! ぷくくっ!」
「や、やめてくださいキタサンっ。想像したら笑いが……っ!」
気に入ってもらえたようで何よりだよ。
イクイに関しては。
「なんとなくで分かりますよ。トレーナーさんはこっちだ、って……ふふふ」
「ッ!?」
「い、イクイちゃん。笑顔が怖いよっ?」
「そうでしょうか? キタさん。ふふふ」
よく理解したらいけない気がした。背中がゾクッとしたし、多分深く考えたらいけない類のものだと思う。気にしないのが正解だ、うん。
◇
昼間はとても充実した日を送っていた。実験自体も順調に終わったし、特に何事もなく終わったんだ。このまま平和な日々を過ごせる、そう思っていた。
その考えが吹き飛んだのは、タキオンの一言。
「あ、そうだ。薬の効果時間は一日だからそのつもりでね」
「……え?」
「聞こえなかったのかい? 薬の効果は一日続くんだ。つまり、トレーナー君達が戻るのは明日の朝だね」
明日になるまで元の身体に戻れない、だって? いや、ちょっと待ってほしい。そんなの聞いてない。
「き、聞いてない」
「今言ったからね。そういえば言ってなかったなと思い出したところだ」
「ほほう、薬は明日までですか。まぁいいでしょうッ! 明日になれば元通りですッ!」
「ひじりんの身体もジャストムーブできるようになったんだけどな~」
バクシンオーとヤン子はいいかもしれない。いや、ヤン子はちょっとどうかと思うけど、僕はまずいだろ!?
「待って、今すぐ解毒薬を作ってタキオン! さすがに僕の意識のままで栗東寮に入るのはまずい!」
「大丈夫だよ、君の見た目は委員長君なんだから」
「そういう問題じゃない! お、お風呂にすら入れないじゃないか!」
バクシンオーの身体だとしても、僕が女子寮のお風呂に入るのは大変まずい! そんなこと許されていいはずがない!
ど、どうすればいいんだ? お風呂に入るのを我慢するか? いや、女の子なんだからダメだろ。お風呂に入らない手段がない。
となると、寮の部屋にユニットバスがあることにワンチャン賭けるか? いや、そっちもダメだ。ば、バクシンオーの裸を見ることになってしまう……!
(つ、詰みじゃないかっ!? どう足搔いても逃げ道がない!)
「私は構いませんよ。どうぞ私の裸を存分に見てくださいトレーナーさんッ!」
「バクシンオーはもっと恥じらいをもってッッ!! ダメに決まってるでしょそんなことッ!!」
「傍から見たらわけ分からない光景ですね、これ」
「バクシンオーさんとヤングさんが意味不明なこと言っているようにしか聞こえませんからね」
どうにか逃げ道を探すしかないのだが、ふとドゥラが。
「ならば、外泊届を出すのはどうだ? 事情を説明すれば許可してもらえると思うのだが」
「……あ」
「戻れない焦りで忘れていましたわね? 貴方」
外泊届の存在を思い出させてくれた。ありがとうドゥラ、本当にありがとう。今度しっかりとお礼をしなければ。
どうにか突破口を見つけることができた僕達。大人数で押し掛けるわけにはいかないので、人数を厳選して外泊届を提出した。
入れ替わっているメンバーで。つまり僕、バクシンオーの2人で外泊届を提出。僕の身体に入っているヤン子と一緒に帰ることに。
「鍵は財布の中に入ってるから。小銭入れの中にあるよ」
「オッケー、っと、これかな? それじゃ、オープンザドア~」
扉を開けて自宅へ。一時はどうなることかと思ったけど、どうにかなったな、うん。
(さすがに栗東寮に入るわけにはいかないからな。外泊届の存在を思い出せてよかった)
「それじゃあ入ろうか。ご飯の材料もあるし、問題はないよ」
安心していた。もう何事もなく終わるだろうと、そう思っていた。
だからこそ。
「ええ、そうですね。早く入りましょうか」
「オッケ~。ふふん、楽しくなりそう」
バクシンオーとヤン子の怪しい微笑みに気づかなかった。
元はミーティア全員が入れ替わる予定でした。書いてるうちに私もこんがらがったので没になりました。