非常に、由々しき事態ですね。
先日あったトレーナー間の交流を兼ねた飲み会で、トレーナーさんの好みのタイプを割り出すことは出来ました。
ですが、その好みのタイプは……私からかけ離れています。
(自分を引っ張ってくれて、明るくて、お尻の大きいギャップのある子……)
思わず自分の体つきを見てしまう。
胸はないとは言えず、あるとも言えない普通より。
腰つきは、まぁいいでしょう。今回に関しては関係ありませんし、ベストをキープしている。
お尻は……ふくらみがまるで足りません。安産型と呼ばれるレベルに達していない。
外れている。見事なまでに。
「フフ、フフフ……トレーナーさんトレーナーさんトレーナーさんトレーナーさん」
「ねぇ、イクイがまたトリップしてるんだけど」
「どーせトレーナーのこと考えてんだろ。放っておけばいいさ、ジオ」
「ご飯美味しー!」
どうしてですかトレーナーさんそんなにお尻の大きい子が好きなんですかスレンダー体型は好みではありませんかそれは少し寂しいですね私はどうしてもスレンダーに分類されてしまいます今から大食い路線に目覚めたとしても太るのはお腹周りばかりお尻に還元されるとは限りませんですがあなたならばお太りになった私さえも好きになってくれるでしょうあぁやはりあなたはお優しい醜く太った私でさえも気にせず優しさを振りまいてくれるのですからだからこそ到底許せませんただ太ってしまうだけなど私は私を許せないどうにかして効率的にお尻だけ太る方法はないのでしょうかタキオンさんに相談しますかそれは悪手ですね副作用を考えたら得策ではありませんタキオンさんも同じような結論に達しているはずではやはり大食い路線にそうなるとここにいるおドウに頼むがいいでしょうそうでしょうそうしましょうあの子は大食いですからきっと良いアドバイスをくれるはずそれにおドウはトレーナーさんの好みに合致した体型かもしれませんから彼女のような体型を目指せばいい方針は決まりましたね普段はライバルと言えど盗めるものは盗むおドウに秘訣を聞きましょうか。
「おドウ、少しいいですか?」
「なに~? イクイちゃん。わたしに何か聞きたいの?」
幸せそうにご飯を食べているおドウを邪魔するのはしのびないですが、これも今後のため。
少しでもタメになる情報を引き出しましょう。
「おドウのようにたくさん食べるにはどうしたらいいのでしょうか? 良ければ秘訣を教えていただけますか?」
「やめとけイクイ。おドウレベルは無理だ」
「うん、ぼくもそう思うよイクイ。さすがにおドウレベルは」
ビクターとジオが何か言ってますが、これは死活問題です。
私の今後に関わること。引くわけにはいきません。
おドウは、きょとんとしていますね。
けれど、すぐに人懐っこい笑みを浮かべて。
「よく分かんないけど、イクイちゃんは大食いって感じじゃないから無理じゃない?」
「……」
「それに、無理しちゃうと逆に体調悪くするよ? わたしはイクイちゃんが体調崩しちゃったらやだな~」
やんわりと断られました。
はぁ、やはり無理なのでしょうか? トレーナーさん好みの体型にする、というのは。
なんて、気を落としていた矢先のことです。
「急に大食いがしたいなんて、イクイちゃんのトレーナーさんが関係してるの?」
鋭く、おドウが切り出してきました。
トレーナーさんのことは一言も話題に出していないのに、天性の勘で気づいた。
いえ、おそらく私が分かりやすいだけかもしれませんね。急に変なこと言ったわけですから。
嘘を吐く必要はありません。正直に話しましょう。
「そうです。どうも、トレーナーさんの好みの体型に私は合致していないようで……どうにかしてお尻を大きくしようかと」
「ねぇビクター。急に高村トレーナーの癖を暴露されたぼくらはどんな反応をすればいいんだろう?」
「私が知るか。気づかないふりをしてやれ」
どうすればお尻を大きくできるのか? その解決策があるかもしれないと、おドウたちに相談する。
ジオとビクターは、呆れた目で私を見ていますけど。
肝心のおドウはというと。
「ん~、よく分かんないけど」
ご飯を食べて、幸せそうな顔で、予想外の一言をくれた。
「ご飯食べてる時ってみんな幸せだと思うんだよね。それはきっと、高村さんも同じだと思う!」
「はぁ。それがどうかしました」
「だから、胃袋を掴んじゃえばいいんじゃないかな? ほら、よくいうでしょ? 好きな人はまず胃袋を掴め、って!」
まさに青天の霹靂。思いもしなかった、考えから外れていたアドバイス。
私が、トレーナーさんの胃袋を、掴む?
「ご飯食べてると幸せでしょ? 幸せなご飯を作ってくれる人とは一緒にいたいよね? だから、まずは胃袋を掴めばいいんじゃないかな!」
「……成程。胃袋、ですか」
「私は今感動しているよ。真っ当なアドバイスをしているおドウに」
「多分食い意地張ってるだけだと思うよビクター。でも、意見自体はとても参考になるね」
雷に打たれたかのような衝撃。
おドウから受けたアドバイスは、私にとって予想外のものでした。
そうです。どうしてトレーナーさんの好みのタイプに合わせようとしていたのでしょうか?
振り向かせるため……そうかもしれません。
ですが、あくまで好みは好みでしかない。付き合いたい、結婚したい人の一部分でしかありません。
確かにディスアドバンテージ。ヤングさんが一歩リードしているかもしれませんが。
(私には勝負できる分野が残されている。トレーナーさんを私色に……フフ、フフフ!)
「ありがとうございます、おドウ。とても参考になるアドバイスでした」
「そう? じゃあイクイちゃんのご飯食べさせて! わたし気になるから!」
「えぇ。それは勿論。お礼として、たくさん振舞いますね」
「やったー!」
やりようはある。そう教えてくれたおドウに、心よりの感謝を。
◇
次の日。さっそく実行に移しました。
「トレーナーさん。今お時間はよろしいでしょうか?」
早朝よりトレーナー室に足を運びます。
仕事、はしておらず、ストレッチをしていたトレーナーさん。
身体を解していたのでしょう。この先影響が出ないようにと。
きょとんとしているトレーナーさん。よく分かっていなさそうですが。
「大丈夫だけど。どうしたの? イクイ。こんなに朝早くから」
私の話を聞いてくださるみたいです。お優しい方……素晴らしいお人。トレーナーの鑑。
おっといけません。用件を手短に伝えましょう。
「実はトレーナーさんのためにご飯を作ってきました。いつも頑張ってくれるトレーナーさんに感謝を込めて」
「そうなの? そこまで気にしなくてもいいのに」
「いえ。私なりの感謝の形ですから。どうぞ、お受け取りください」
寮で作ってきたものをトレーナーさんに手渡します。
タッパーを1つ。
「へぇ、肉じゃがか。うん、美味しそうだね」
タッパーを2つ。
「こっちはハンバーグなんだね。こっちも美味しそうだ」
タッパーを3つ。
「……随分作ってきたね。こっちはサラダなんだ」
タッパーを4つ。
「イクイ、イクイ? 随分作ってきたね? もう大容量のタッパーが4つも出てきたんだけど」
タッパーを5つ。
「ストップ、ストップイクイ。僕を大食いだと思ってるの? 人並にしか食べないよ僕。こんなに食べられないよ?」
タッパーを6つ
「その辺にしておこうか、イクイ。さすがにそれ以上は食べられない。僕の1週間分に相当するよ、この量は」
まで出したところで、トレーナーさんに止められてしまいました。
仕方ありません。では、この辺で止めておきましょう。
「随分作ってきたね。作る時間はどうしたの?」
「トレーナーさんのため、ですので。仕込み自体は夜に終わらせておいたので、それほど時間はかかっていませんよ」
「そうなんだ。ちなみに、今ちょっと食べても」
「構いませんむしろ今すぐ食べてください」
「あ、うん」
確認は必要ないのに。あなたのために作った私の手料理、いつ食べようがあなたの自由ですから。
手を付けたのは……肉じゃが。
箸を用意して、一口。
「……凄く美味しいね。僕が作ったものよりもはるかに美味しいよ」
心の中でガッツポーズ。お気に召してもらえたようです。
ニヤニヤが抑えきれません。私の筋肉をフル活用して、なんとか耐えていますが、それもいつまで保つか。
おっと、無言はいけません。トレーナーが心配します。
「お口に合ったようで何よりです。トレーナーさんを想って作りましたので」
「そうなんだ。うん、ありがとうねイクイ」
そのまま、少しずつ肉じゃがに口をつけるトレーナーさん。
……あぁ、なんと素晴らしいことでしょうか。
(トレーナーさんが私の手料理を食べている。つまりこれは……トレーナーさんの血肉が私で満たされている!)
トレーナーさんの体がどんどん私の手料理で埋め尽くされていくなんとも筆舌し難い甘美なる響きなのでしょうか身に余る光栄これほどの栄誉があるのでしょうかいえありませんこうしてはいられませんすぐさま次の料理にとりかかなければあぁでもトレーナーさんが美味しく頂いている姿をこの目に収めるのが先決です料理はその後でも間に合いますとにかく次はどのようなお料理を作るかを考えましょうトレーナーさんが幸せになるようなものをトレーナーさんの好みの料理を知るべきですねそうしましょう今すぐ聞くいえそれは悪手食べ終わってから聞くべきですがっつくべきではありません時間はまだあるのですから我慢を覚えましょう私は天才と呼ばれたウマ娘この程度造作もありませんおっとそろそろ食べる手が止まる頃ですね。
食べる手を止めたトレーナーさん。
今はアレで十分、ということでしょう。
では、このタイミングで聞きますか。お好きな料理はなにか、と。
「ところでトレーナーさん。つかぬことをお聞きしますが……好きな食べ物はありますか?」
「好きな食べ物、か。う~ん」
首を傾げて考えるお姿すらも様になる。脳内のメモリーに保存しつつ、答えを待つ。
「結構好き嫌いなく食べるけど、ハンバーグが好きかな? 母さんがよく作ってくれたから」
「ハンバーグ、ですか」
待っていたのは意外な答えでした。トレーナーさんはハンバーグがお好き、と。
フフ、フフフ! 丁度、作ってきているではないですか。私も、ハンバーグを!
(とはいえ、さすがにトレーナーさんのお母さまには勝てないでしょう)
実家の味には勝てません。思い出というのは、そういうものですから。
……いえ、待ってください。
今私に、天啓が舞い降りてきましたよ。
(トレーナーさんのご実家にお邪魔して、味を教えてもらうというのはどうでしょう?)
なんという妙案自分の頭の良さが恐ろしいですねしかし今すぐにはできません今度の休日お邪魔しましょうそうしましょうフフフ安心してくださいトレーナーさんあなたのイクイノックスがあなたのためにご実家の味を再現いたしますので。
「どうしたのイクイ。体が震えてるけど」
「……あぁいえ、大丈夫です。体調に問題はありません」
「そう? 風邪を引かないように気をつけてね。それと、もうすぐ授業だし、そろそろ向かった方がいいんじゃないかな?」
私の体調にもしっかりを気を配る。なんと素晴らしいトレーナーなのでしょうか?
ご安心ください。体調を崩すようなヘマは致しませんから。
「そうですね。では、私はこの辺りで。また今度、お料理を持ってきますね」
「大変そうだし、いつもじゃなくても」
「大変ではありませんこの程度のこと造作もありませんトレーナーさんのためならば惜しまず作れます」
「……うん。まぁ、無理しない程度に頑張ってね」
名残惜しいですが、トレーナーさんと別れて教室へ。
フフ、待っていてくださいね、トレーナーさん。
これからもたくさん……お料理を、あなたのために、作りますので。
あ、そうだ。
「おドウ。これはこの前のお礼です。おドウサイズに作ってきましたよ」
「わーい! たくさんの肉じゃがだー!」
「デケェなおい」
「逆にどこに入れてきたのさ、こんな大きさのタッパー」
「むしろどこで買ってきたかだろこれ。売ってる場所すら見当つかねぇぞ」
おドウへの感謝も忘れずに、ですね。とても大切なことを教えてもらいましたから。
「ジオとビクターも食べますか? 勿論、お2人とも別のタッパーに詰めてきましたので」
「貰えるなら戴こうかな……あ、美味しい」
「ホントだ、これは美味いな。お前って料理もできるのな」
「これくらいはまぁ。料理はレシピ通りに作れば大丈夫ですので」
ジオとビクターの分も忘れずに。2人も大切なライバルで、友達ですから。
ちなみに私の癖はヤンデレです(唐突な性癖開示)