恋のダービーステークス   作:カニ漁船

4 / 17
わっしょい。

あ、感想はしっかりと見ています。泣いて喜んでいます。時間が取れたらまた感想返しをする予定です。


キタサンブラックはお世話したい

 天気は微妙な曇り空。トレーナー室にて、高村トレーナーは仕事をしていた。

 書類仕事を淡々とこなし、身を粉にして働いている。

 

 そんな仕事が一段落した頃。

 

「そろそろ休憩するか」

 

 休憩を取ろうと立ち上がった。飲み物とお菓子を取ろうとしたその瞬間。

 

「休憩ですか? あたしに任せてください!」

「……なら、うん。お願いしようか」

 

 どこからともなくキタサンブラックが現れた。さっきまで姿が見えなかったはずなのに、トレーナーが休憩を取ろうとした瞬間出てきた。

 この機会を狙っていたかの如く、あまりにも素早い登場。トレーナーはもはや慣れたことなのかツッコまなかった。

 

「トレーナーさんはこの銘柄のお茶好きでしたよね? 補充しておきました!」

「よく知ってるね。お茶菓子も僕がよく食べてるものだし」

「はい、ちゃんと見てますから。あ、でもロイヤルビタージュースはダメですよ? 飲みすぎは身体を壊しますし、お仕事やろうとしますから」

 

 しっかりと釘を刺す。心当たりしかないのか、少しだけバツの悪い表情をするトレーナー。キタサンブラックにやや押され気味だった。

 

 

 なお、ここで重要なことが一つある。

 

「ところでキタサン。一ついいかな?」

「はい、なんでしょうか?」

 

 不思議そうにこてんと首を傾げるキタサンブラック。トレーナーは顔色一つ変えずに疑問を投げかける。

 

「今日ってトレーニングもだし学園も休みだけど。なんで僕のトレーナー室にいるの?」

 

 そう、キタサンブラック……なんと休みの日にも関わらずトレーナー室へと足を運んでいたのである。サトノダイヤモンドやシュヴァルグランといったメンバーと遊ぶこともなく、なぜかトレーナー室へと来ていた。休みの日に仕事をしているトレーナーも大概だが、キタサンブラックもキタサンブラックで大分おかしい。

 トレーナーの疑問。キタサンブラックは笑顔で答える。

 

「トレーナーさんをお助けしたかったので!」

「僕をお助けしたかったかぁ」

「はい! お助けしますよトレーナーさん!」

 

 なんか諦めたような表情をしているトレーナー。キタサンブラックの性格をよく知っているからこその反応かもしれない。

 

 

 なお、お助けしたかったといったキタサンブラックだが。半分正解であり半分間違いだ。

 

(みなさんに予定があるのは把握済み、今日この時間はあたししかいない!)

 

 今日この日はチームメイト全員に予定があることを知っており、自分一人だけ空いていることを把握していた。その予定も早めに終わるものではなく、時間がかかることも分かっている。この日は自分一人がトレーナーを独占できると思い、こうしてトレーナー室に来ていたのだ。まぁ独占できなくてもトレーナーに会うために来ていたが。

 

 トレーナーはいつも仕事に精を出している。これは自分がお助けをする絶好の機会。迷うことなくトレーナー室へとやってきた。

 さっそくトレーナーをお助けするキタサンブラック。お茶の用意に資料の取り出しなど精力的に尽くしていた。

 

(トレーナーさんはいつもお仕事を頑張っていますから、あたしがお助けしますよ~!)

 

 そこに打算的なものはなく、純粋に彼女の人柄からくるもの。疲れている人を助け、必要な時に力を貸す。お助け大将の名に恥じない働きっぷりだ。

 

 しかし、そこは乙女部分もある。時折トレーナーの方へ視線を向け、自分を見てはいないだろうかと窺う。

 

(トレーナーさん、意識してくれないかな)

 

 室内に男のトレーナーとウマ娘が一人ずつ。キタサンブラックは結構意識しているのだが……当の相手は全くと言っていいほど意識している素振りが見られない。

 

(まぁそうだよね。トレーナーさんだし)

 

 もはや諦め気味の模様。だからと言って自分を意識してほしいなどとワガママも言わず、ひたすらにお助けをこなすキタサンブラック。なんとも健気な子である。

 

 ただ、神は彼女を見放していなかった。

 

「……さて、キタサン」

「はははひゃい!? な、なんですかトレーナーさん!」

 

 呼ばれると思っていなかったキタサンブラックは慌てる。手をわたわたさせてトレーナーの方へと向き直り、何を言われるのかとドキドキしていた。

 トレーナーはただ一言。

 

「仕事も一区切りついたし、今日は一緒にゆっくりする?」

「……はえ?」

「いや、キタサンには頑張ってもらったし。後はもう一緒にゆっくりしようかなって思って」

 

 トレーナー室で休まないかと誘ってきた。仕事も終わって何もすることはない、かといってこのままキタサンブラックを帰すのはトレーナーとして、一人の人間として許せない。だからトレーナーは一緒にゆっくりしないかと誘った。

 

(僕とゆっくりすることがご褒美になるかは分からないけど、これぐらいしか今はできないし)

 

 後日改めてお返しをしようなんて思っていたトレーナーである。

 

 なお、言われたキタサンブラックは思考停止。素敵な提案に固まっていた。

 

(ととと、トレーナーさんと一緒にゆっくり過ごす!? そ、そんな時間が、そんな時間が!?)

 

 元々お助けするためにトレーナー室へとやってきた。そりゃ少しはいい思いをしたいな~なんて考えてはいたが、一番はトレーナーを助けるためである。ご褒美を狙っていたわけではない、断じて。

 脳内で今後の展開に予想を膨らませる。

 

(あ、あんなことやこんなこと……膝枕したりとか、されちゃったりとか!? そんなことも許されるかもしれない、ってこと!?)

 

 なんとも微笑ましい妄想にときめき、そんなことにはならないだろうと内心思いつつも胸の高鳴りは止まらない。一緒に過ごせることにキタサンブラックの脳内は暴走寸前だった。

 

 それでもなんとか平静を保ち、トレーナーの提案に頷く。

 

「よ、よろしくお願いします……っ」

「なんでそんなに緊張しているの? ひとまずジュースを用意するね」

 

 トレーナーのお助けから始まった2人きりの時間。キタサンブラックは心が保つように祈っていた。

 

 

 

 

 

 

 トレーナー室のソファで向かい合う2人。隣に座る勇気はなかったキタサンブラックは緊張した様子でジュースを飲んでいる。

 忙しなく視線をあっちに動かしこっちに動かし。さすがのトレーナーもキタサンの様子がおかしいことを察していた。

 

「どうしたの、キタサン? なんか落ち着かない様子だけど」

「ひゃい!? そそ、そんなことないでござるますよ!?」

「なにその口調」

 

 冷静にツッコミを入れるトレーナーだが、キタサンブラックは落ち着かない様子。それも仕方ないだろう。

 意中の相手と2人きり。トゥインクル・シリーズ現役時代では幾度となく経験したシチュエーションだが、今となっては話が違う。

 気持ちの変化に状況の変化。いろいろな変化が起こっていた結果、キタサンブラックと言えども対応は難しい。

 

 それでも、目の前の相手が平静を貫いていることからキタサンブラックも倣う。深呼吸をして、気持ちを落ち着かせようと努力する。

 

「そういえばさ」

「は、はい。なんでしょうかトレーナーさん」

「キタサンってよく僕の手伝いをするようになったよね」

 

 トレーナーから振られた話題。今日のように手伝うことが多くなったことに対するものだ。

 

「結構な頻度で僕のところに来るし。ありがたい限りだけど、サトノダイヤモンドやシュヴァルグランたちと遊びに行かなくてもいいの? 遊び盛りだろうし」

「あ、あはは~。その、みんなと予定が合わなくて」

「そうなんだ」

 

 実のところその通りで、今回手伝いに来たのも友達と予定が合わなかったからである。まぁ、事情を知っているサトノダイヤモンドからは応援されたキタサンブラックだが。

 

(ダイヤちゃん、あたし頑張るよ!)

 

 心の中で握りこぶしを作って気合いを入れる。今日こそは進展させると目標を立てた。

 

「そ、その、トレーナーさん!」

「うん、なにかな?」

「ととと、トレーナーさんは、その……好きな相手とか、いますか!?」

 

 ド直球火の玉ストレートで聞くキタサンブラック。心臓はバクバクしぱなっしであり、言ってしまった後に直球で聞きすぎたと後悔しそうになっていた。

 これで好きな相手がいるといわれたらもはやゲームセットだが、トレーナーは意外そうな表情をしつつも。

 

「いないけど」

 

 心の中でガッツポーズを決めるキタサンブラック。どうやら特定の相手がいないということに喜びを覚えた。

 

「どうしたの突然。あまりキタサンからは出ない話題だけど」

「うえっ!?」

「でもまぁ、キタサンも年頃だしそういう話にも興味が出てくるか。ごめん、なんでもないよ」

 

 お前は親かみたいな言葉が出てくるが必死に飲み込む。必要な情報は抜き出せたのだから構わない。

 ひとまず好きな相手はいないことを知ることができたキタサンブラック。ここから徐々に段階を刻んでいこうと決意を固める。

 そんなキタサンブラックは。

 

「そ、それなら今度からもずっとお世話できますね!」

「え?」

「さすがに恋人さんがいたら悲しいし苦しいですけど……いないならあたしがお助けしても大丈夫ですね!」

 

 笑顔で階段を飛び越えていった。一段一段昇るのではなく2つも3つもすっ飛ばして駆け上がろうとしていた。キタサンブラック、恐ろしい子。

 

「何言ってるの?」

「なにって……あ、でも恋人さんがいてもお助けしますね!」

「え、え?」

「トレーナーさんはすぐ無茶をしますから。あたしの力で、トレーナーさんの負担を軽くします! なんといってもお助け大将ですから!」

 

 今度は心の中だけではなく、実際にガッツポーズをする。胸をドンと叩いて、これからも頼ってくださいと言わんばかりの表情でトレーナーを見つめる。

 

 さすがのトレーナーもたじろぐ。それは悪いと、そこまでしてもらうのはちょっとと尻込みしていた。

 

「いやいや、キタサンにも都合ってものがあるだろうし」

「はい。なので自分の都合を優先しつつ、トレーナーさんをこれからもお助けします!」

「いや、それでもなぁ」

 

 学生の身である担当に助けてもらうのはどうなんだ? そんな思いに駆られるトレーナー。周りから見てもヤバいやつ認定されること間違いなしである。

 

 しかし、嫌がっているようにも見えたのだろう。キタサンブラックは目に見えてしょんぼりしていた。

 

「もしかして、ご迷惑、でしたか?」

 

 担当ウマ娘が悲しんでいる。それを見過ごすような奴はトレーナーではない。慌てながらも必死に弁明する。

 

「いや、そんなことはないよ。迷惑じゃないし、いつも助かってる」

「……本当ですか?」

「本当本当。キタサンのおかげで凄く助かってるよ」

 

 必死に褒める高村。元気を出してほしいと後先のことを考えずにキタサンブラックの手助けはありがたいと口にした。

 

 褒められたキタサンブラックは見る見るうちに調子が上向く。絶不調から絶好調になったかの如くツヤツヤと輝いていた。

 

「なら、これからもお助けして大丈夫ですね!」

「……え?」

「トレーナーさん、凄く助かってるみたいですし。トレーナーさんが気に病んでいるなら控えるつもりでしたけど、これからも頑張っちゃいます!」

 

 笑顔で、それはもうとびきりの笑顔でトレーナーを見る。どことなく暗いものが見えたような気がするがきっと気のせいだろう。

 

 なお、これはキタサンブラックの策略通り。これからも遠慮なくお助けしてもいいように少しばかり演技をしていたのだ。

 トレーナーが朴念仁であることは知っての通り。そんな彼を振り向かせるにはどうしたらいいか? とサトノダイヤモンドに相談していた。

 その際に提案されたのが、今回の演技。

 

(一緒にいる時間が増えればトレーナーさんがあたしを意識する時間も増える。その間に、みなさんよりも一歩先を行きます!)

 

 トレーナーから手伝いのことを切り出されるのも織り込み済み。恋人の有無を聞いたのも、お助けする大義名分を得るため。近くにいても問題ないことを確認するためだ。

 騙すのは気が引けたが、キタサンブラックにも譲れないものがある。ライバル達は全員が強敵、勝つためならば我慢しなければならない。

 

(これからお助けしていけば、少しでも意識してもらえるはず!)

 

 全ては自分が振り向いてもらうために、トレーナーと一緒にいられる時間を増やす。トレーナーを独占するために、キタサンブラックは策を張り巡らせていた。

 

 そんなことは知らないトレーナー。一瞬やってしまったか? と考えるが、キタサンブラックがニコニコしているので良いかと思考停止した。

 

 

 これからもお助けしていくことが決まったキタサンブラック。ただ、普段の疲れかそれとも作戦が成功したことで気が抜けたが。

 

「ふわ……」

 

 一つあくびをしてしまった。気づいて慌てるがもう遅い。

 

「疲れたのかな? キタサン」

「あ、そ、そんなことないですよ!? あたしはまだまだ元気いっぱいです!」

 

 トレーナーが心配した表情で見つめる。取り繕うキタサンブラックだが、ここで驚きの提案が飛び出てきた。

 

「じゃあここで寝る? 後、僕が仕事しないようにするために……そうだな、膝枕でもしようか?」

「ヒュッ」

「僕が仕事してるんじゃないかって思ったら、キタサンも休めないだろうし。僕の膝で休めるかどうかは知らないけど、その間は本でも読んでるからさ」

 

 自分の膝をポンと叩いて促すトレーナー。準備は万端だとばかりに。

 

 だがキタサンブラック。彼女は別だ。

 

(ととと、トレーナーさんの膝枕ぁ!? そ、そんなことが許されていいんですかぁ!?)

 

 まさかまさかの提案に歓喜の咆哮をあげるキタサンブラック。勿論心の中で。

 いいのか、本当にいいのか? そんな贅沢が許されていいのか? 葛藤するキタサンブラック。

 

「まぁ嫌ならこの後も仕事するけど」

「お願いしますッ! ぜひとも、絶対に! お願いします! では失礼します!」

「早いねキタサン。そんな俊敏さがあるなんて知らなかったよ」

 

 なおトレーナーから膝枕をやめようかという話が出てきた瞬間秒で彼の膝に飛びついた。1ハロン10秒すらも切りそうな瞬発力を見せる。

 

 トレーナーの膝で眠るキタサンブラック。

 

(柔らかくはない。でもっ)

「しあわせ~……」

「まぁ、それならよかったよ」

 

 顔は緩みきっておりとても他人に見せられるような顔じゃない。ここには2人しかいないので構わないのだが。

 

 しかも、膝枕だけではなかった。

 

「おやすみ、キタサン」

 

 子供をあやすように、頭を撫でることのセット付である。

 

(ここ、こんなことが、こんなことが許されていいんですか!?)

 

 正直トレーナーは子ども扱いしているだけだが至上の喜び。尻尾は忙しなく動いており、褒められている犬のようにブンブンと振っていた。

 膝枕してもらうだけではなく撫でてもらうことのセット付。脳から幸せのドーパミンがあふれ、幸せ指数が極限まで高まる。

 

(ここが、ここがあたしの天国……!)

 

 キタサンブラックは、気絶するように眠った。それはもう至上の喜びを嚙みしめて。

 

 

 後日、サトノダイヤモンドにこの話をしたところ。

 

「やったねキタちゃん、これで一歩前進だよ!」

「うん! この調子で、どんどん意識してもらおう!」

「頑張ろうねキタちゃん!」

 

 大変喜んでいたそうな。




これはキタサンブラック一歩リードか。外堀を埋めるのではなく城内に直接侵入してきたぁ!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。