恋のダービーステークス   作:カニ漁船

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最強女王のお出ましじゃい!


アーモンドアイは負けたくない

 恋愛は先に好きになった方が負け、とはよく言ったものである。惚れた弱みというべきか、追いかける側になることが多いからかもしれないが。

 そもそも恋愛に勝ち負けもない。意中の相手とゴールインするために、相手に振り向いてもらうために努力を重ねるのだ。

 

 しかし、ことアーモンドアイに限れば話は別である。

 

「わたしは負けていないわ。だってトレーナーの方がわたしを先に好きになったんだもの!」

「なにいうてますのアイさん」

 

 勝負事には負けたくない性分、これは恋愛においても発揮される。それはもう見事なドヤ顔を披露して変なことを宣っていた。ラッキーライラックも怪訝な顔である。

 

 

 アーモンドアイとラッキーライラック、そしてブラストワンピースが話していたことは自身のトレーナーについて。トレーナーってやっぱり凄い、みたいな話をしていたのである。

 ラッキーライラック、ブラストワンピースと来て、アーモンドアイ。ただ、アーモンドアイの番になった瞬間変なことを口にし始めたのだ。

 

「わたしはミーティアでも新参、けれどトレーナーが惚れているのはわたし。これはもう確定事項よ」

「凄い自信だなー!」

「どっから湧いてますのその自信」

 

 ふんすふんすと鼻息荒く語るアーモンドアイ。なおあまり信じられていない。

 

 ミーティアのトレーナーは2人もよく知っている。というか、知らない人間などいないレベルの人物だから当然ではあるが。

 絵に描いたような真面目人間、どう考えてもアーモンドアイみたいな生徒に手を出すような輩ではない。そもそも恋愛ごとにすら興味が湧いてなさそうな人物である。変なこと言ってる、と切り捨てられてもおかしくないことだ。

 

 なおアーモンドアイは自信満々。自分の言ってることに間違いはないとばかりに胸を張る。

 そんな彼女の肩にラッキーライラックはポンと手を置く。

 

「アイさん、現実直視したないのは分かります。やけど嘘はあきまへんで?」

「嘘じゃないわよララ! トレーナーはわたしのこと大好きなんだから!」

 

 優しく諭すものの逆効果。むしろムキになって否定する。

 

「トレーナーはね、わたしをスカウトしたのよ? 逆スカウトメンバーが多いミーティアで、スカウトされたのはわたしとバクシンオーさんだけ」

「まぁ、有名な話やね。キタさんもドゥラさんも半ば逆スカウトみたいなもんやし」

「もうこれだけでもアドバンテージ。それに常日頃からわたしに注目していたんだもの。釘付けだったわ」

 

 饒舌に語り、誇らしいことであるかのように舌が回る。ただし聞いているラッキーライラックの目は白けている。

 

「この前のデートだってそう。トレーナーはわたしのことが好きで好きでたまらないってことがよく分かったわ!」

「どんなことしたんだー?」

「ふふ、良いわブー。2人にも教えてあげる」

「さらっとうちも頭数に入れるのやめてもらえます?」

 

 アーモンドアイは語る。この前のデートもといお出かけを。

 

 

 

 

 

 

 2人のお出かけは最初からフルスロットルだった。

 

「それじゃあアイ、はぐれないように手を繋ごうか」

「!?」

「今日は人が多いし、離れたりでもしたら大変だからね。ほら」

 

 ショッピングモールに着くや否や、トレーナーから手を繋ぐことを提案される。アーモンドアイへと差し出し、はぐれないようにと手を繋いだ。

 

 アーモンドアイは感づく。これはもう、そういうことだと。

 

(仕方ないわねトレーナー。わたしと手を繋ぎたいから建前を使うなんて)

 

 己のトレーナーは恥ずかしいから建前を使ったのだ。はぐれないように、などというが言い訳に過ぎない。自分と手を繋ぎたいだけなのだと。

 無論断る理由などない。勇み足でトレーナーと手を繋ぐ。

 

「さぁ行きましょうトレーナー。新作の映画、楽しみね!」

「うん。いこうか」

 

 リードするように手を引っ張るアーモンドアイ。耳と尻尾が忙しなく動いており、この日を楽しみにしていたことがよく分かる。

 

 

 映画館では思わず見入っていた2人。画面に集中し、隣に座っていることを忘れそうなくらいに熱中していた。

 

(ッ! と、トレーナー?)

 

 話はここから。アーモンドアイは、隣に座っているトレーナーが自分の手をぎゅっと握っていることに気づく。

 すぐに気づいた。全てを理解したとばかりに握り返す。

 

(ふふ、仕方ないわね)

 

 映画に興奮していても隣にいる自分を忘れていない。存在を刻みつけるかのように強く、深く握る。

 映画の面白さに加えてトレーナーのいじらしさに有頂天。まだ正午にもなっていないというのに、アーモンドアイの気分は有頂天だった。

 

 

 映画を見終われば食事の後ウインドウショッピングへ。特に欲しいものなどはないのだが、隣にトレーナーがいるだけでも楽しい。トレーナーと歩いている事実が大事なのだと、ウキウキ気分で歩いている。

 

「見て、トレーナー! 新作モデルのシューズよ!」

「本当だね」

 

 レースシューズに目を奪われたり。

 

「どうかしら? トレーナー。わたしはなんでも着こなせるわよ」

「似合ってるね」

 

 洋服を見て回ったり。

 

「ふふ、こうしているとわたしたち、新婚さんみたいね?」

「……ノーコメントで」

「恥ずかしがらなくてもいいのに」

 

 一緒に晩御飯の買い物をしたり。それはもういろんなことをしていた。

 

 傍から見て、自分たちの姿は恋人のように見えただろう。そう信じて疑わない。

 加えてトレーナーは明らかに自分のことを意識している。いじらしい反応が多く、間違いなく自分が好きなのだと理解するのは難しくなかった。

 いつも以上に口数が少ない。握った手は離さない。

 

「この時間が永遠に続けばいいのに」

「……そうなの? まぁ、それなら今度また行く?」

「えぇ。勿論着いていくわ」

 

 夕焼けに照らされて学園に帰るまで。アーモンドアイは幸せいっぱいの気分でデートを満喫していた。

 

(ふっ、これでわたしが出し抜いたわ! ミーティアのみんなに勝った!)

 

 確信したアーモンドアイだった。

 

 

 

 

 

 

 興奮気味に語っていたアーモンドアイの話が終わる。

 

「どうかしら? トレーナーがわたしのことを意識しているのは丸わかり、結婚というゴールインまでもはや秒読み段階! いくらララでも反論できないんじゃない?」

「うちが毎回反論してるみたいやわぁ。風評被害はあきまへんで」

「仲良しなのは良いことだよなー! ブーも行きたいぞー!」

「ダメよブー。トレーナーは渡さないわ」

 

 ブラストワンピースは目をキラキラさせて、ラッキーライラックは呆れた目で。違った反応を見せる2人。

 

 ……なお、ラッキーライラックは知っている。

 

(やっぱ分かってへんやんアイさん! 自分に都合のええように解釈しとるやんけ!)

 

 偶然、本当にたまたまアーモンドアイのお出かけを目撃していたラッキーライラック。彼女の目から見た光景は、アーモンドアイが語っていたものとはまるで違う。

 

 

 まず、最初に見たのは2人が手を繋ぐ場面。この時は別に気にも留めなかった。

 

(ん? アイさんと、アイさんのトレーナーさんやん。こうして見るんは珍しいわぁ)

 

 アーモンドアイの気合の入った服装に大体のことを察したラッキーライラック。ウマ娘に蹴られたくはないのですぐさま退散する予定だった。

 ちなみにこの時、アーモンドアイの視点からだと恥ずかしそうにしていたなどと言っていたが。

 

「しっかし、アイさんも他のみなさんも難儀やなぁ。手ぇ繋ぐのに全く意識されてへんもん」

 

 全然そんなことはなかった。どっちかというと子供を引率する大人のような印象を抱かせた。

 アーモンドアイはめちゃくちゃ意識していた。すんなり手を握っていたものの、頬は僅かに赤みがかっていたのが遠めでも分かるくらいには。

 対するトレーナーはどうか?

 

「……無やん。なんも意識してへんやんあのトレーナー」

 

 なんも変わってない。ちょっとアーモンドアイを憐れに思った。

 

 偶然会っただけ、この先は目撃することはないだろうと高を括っていたラッキーライラックだが。

 

(映画も一緒になるなんて思わんやん! しかもなんでうちの前やねん!)

 

 まさかの見ようとしていた映画の真ん前がこの2人である。どんな確率だよと嘆いていた。

 

 もっとも、偶然一致しただけ。映画を見るのに支障はないので声を上げずに我慢していた。

 映画が進む中でたまに前の様子を窺っていたのだが。

 

(あーあー、アイさんめっちゃ手ぇ握っとるやん。熱中しすぎて気づいてへんわ)

 

 アーモンドアイはトレーナーから手を握っていた、と語っているが真相は全くの逆である。アーモンドアイの方から、トレーナーの手を握っていた。なお、加減はしてあるのかトレーナーの手は無事だった。

 なんとも微笑ましい光景に思わずラッキーライラックの顔もほころぶ、が。映画が終わった後の発言でそんな気持ちは吹き飛んだ。

 

「トレーナーったら、夢中になりすぎてわたしの手をあんなに握るなんて。可愛いところあるのね」

 

 ウインクしながら茶目っ気たっぷりにからかうアーモンドアイ。

 

(いや逆ぅ! 手ぇ強く握ってたんアイさんの方や! トレーナーさんはいたって普通や!)

 

 一部始終を見ていたラッキーライラックは心の中でツッコミを入れていた。どんだけ自分に都合の良い解釈をしているのかと。目の前にいるトレーナーの表情が見えてないのかと声を大にしてツッコみたかった。

 ちなみにトレーナーからは不思議そうな表情で見られていた。それはそう。

 

 その後も行く先先で会うものだから、ここまで来たら最後まで付き合ってやろうと尾行を開始。ウマ娘に蹴られること覚悟でのぞき見していた。

 その結果見られたのは。アーモンドアイが語っていた内容とは全くの別物。いじらしい反応と言っていたが、そんなものは微塵もなかった。

 

「……憐れや」

 

 思わずそう漏らすくらいには、あのトレーナーはなんの反応もしていなかった。しいて言うなら楽しそうにしているアーモンドアイを見て微かに微笑むぐらいである。

 

 まさに教え子と生徒、子供を引率する大人といった様子。恋人の甘酸っぱいロマンスなどそこにはなく、非情なまでの現実が待ち受けていた。

 

(ちょっとは意識してもええやろうがあの朴念仁が~ッ! アイさんの服装みてみぃ! G1の26勝目がかかったレースよりも気合い入っとるわ!)

 

 終盤にはもはやアーモンドアイを応援するかの如く念を送っていた。周りからしたらラッキーライラックは変人扱いされていたことだろう。そんなことが気にならないほどに熱中していた。

 

 

 いろいろと思い返しても、トレーナーはアーモンドアイに対してなんの反応も示していなかった。

 

(可哀想にアイさん。現実を直視できひんのやね……)

 

 思わず憐れむくらいには。

 

 ここで指摘することは簡単だ。トレーナーにそんな意図はないと、意識しているのはアーモンドアイだけだと知らせるのは誰にでもできる。

 しかし、それでいいのか? その先に待っているのはアーモンドアイによる癇癪。そんなことはないと、絶対に自分が好きに違いないと反論するのが目に見えている。

 

(そうなったらめんど、厄介や。アイさんが意固地になってもうて、トレーナーさんに危害が加わるんが一番まずい)

 

 さすがに実力行使には出ないだろうが、既成事実を作りかねない勢いがある。後絶対に面倒くさいことになるので避けたいところ。

 

 悩みに悩んだ。友達として指摘してあげるべきか、それとも偽るべきか。ラッキーライラックが出した結論は。

 

「まぁでも、アイさんが幸せそうならええわぁ。式には呼んでな?」

「勿論よ。ブーもみんなも呼ぶわ!」

「本当か!? 楽しみだなー!」

 

 なんかもういろいろと面倒くさくなったので適当に流しておくことである。

 

 

 アーモンドアイ。トレーナーは自分を好きだと確信しているが、全然そんなことはないウマ娘である。




悲しい悲しいね。
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