恋のダービーステークス   作:カニ漁船

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チャンミはオルフェしか勝たん。


ホッコータルマエは匂わせたい

 ホッコータルマエは登録者700万人超えの大人気ウマチューバーである。

 

「したっけ今日はこの辺で! 明日もおらの配信を見てくれると嬉しいべさ!」

 

 企画ものからトレーニング講座、歌配信や他のウマチューバーとのコラボにも積極的であり、たまに出てくる方言と愛嬌に魅了されるファンが多い。

 それだけではなく、チームのメンバーと一緒に配信することも多い。彼女が所属するチームは世界最強と名高いミーティアというだけでなく、様々な分野のエキスパートが在籍していることでも有名だ。

 

「ふぅン、それじゃあ今回はタルマエ君と一緒に科学講座をやろうじゃないか!」

「いっときますけど、トレーナーさんみたいに光らせないでくださいね」

「それは薬の副作用次第だ」

 

 科学分野のアグネスタキオン。

 

「では、今日は家でも手軽にできるトレーニングを学んでいこう。アスリートも取り入れている最先端のトレーニング法だ」

「あら、それは楽しみね。私も取り入れてみようかしら?」

「今日はジェンティルさんとドゥラさんと一緒に、お家でもお手軽にできる身体の動かし方を学んでいきましょう! これで運動不足も解消、ダイエットにも効果的です!」

 

 スポーツ分野のジェンティルドンナとドゥラメンテなど、実に様々なコンテンツを取り扱うチャンネルだ。

 さらには随所で挟み込まれる苫小牧の情報CM。こちらもまた人気が高い。ホッコータルマエの編集技術によって作成された、苫小牧の豆知識は非常にタメになるともっぱらの評判である。

 

 幅広い分野を取り扱い、フットワークも軽く、世間のトレンドを積極的に取り入れるスタイル。そこに加わる地元苫小牧への深い愛情。ホッコータルマエは老若男女問わず、大人気のウマチューバーなのである。

 

 

 そんな彼女は最近、自身のトレーナーと一緒に配信することが多い。

 

「はい、それでは今日はトレーナーさんに来てもらいました! 一緒にゲーム配信をしようと思います!」

「……どうも、トレーナーです。なぜか今回も呼ばれました」

「もしかして、ご迷惑でしたか? トレーナーさん」

「別にそういうわけじゃないよ。あまりにも頻度が多いから疑問に思っているだけで」

 

 ジャンルはもっぱらゲーム配信。それもホラーゲームが多かった。

 

「と、トレーナーさん怖いです……っ!」

「……じゃあなんでホラーゲームをチョイスしたの。それも僕がやる時だけ毎回」

「怖いもの見たさってあるじゃないですか! このゲーム評判良いですし、でも一人でやるのは怖いですし……」

「同室なんだからヴィルシーナとか誘えばいいと思うんだけど」

 

 怖い場面が来る度にトレーナーへとしがみつくホッコータルマエ。当のトレーナーはマジレスしているものの、担当ウマ娘のためならと深くは追及しない。言及程度に留めていた。

 コメント欄からの反応は上々。2人のやり取りに微笑ましさを覚えるファンが多数である。

 

「あ、見てくださいトレーナーさん! コメントの反応も良いですよ!」

「え~っと……ねぇタルマエ。怖がりキャラ作ってて草ってなんのこ」

「忘れてくださいトレーナーさん。後今言った人覚えててくださいね」

 

 変なコメントに無の表情で対応するホッコータルマエ。なお、その表情に【助かる】だの【蔑むような目たまんね~】なんてコメントがついていたのは別の話。

 

 ホラーゲームを特に怖がる素振りを見せずに淡々と進めていく高村。そんな高村に必死にしがみつくホッコータルマエの図。見る人が見ればカップル配信のようにも見えるだろう。事実、コメントも大体の人がそう思っている。

 

「あ、トレーナーさん! そっちの部屋に何かありそうですよ!」

「本当? 行ってみようか」

 

 むぎゅ、っと。自分の身体をトレーナーへと押し付けるホッコータルマエ。トレーナーはというと、少し困ったような表情をしていた。

 

「……タルマエ。あんまり密着しない方がいいと思うよ。タルマエにもファンがいるんだから、勘違いされると思うし」

「え、え~!? でも怖いんですよぉ……ダメ、ですか?」

「うぐっ」

 

 目をウルウルさせて怖がるホッコータルマエ。担当のこの姿を見て、断れるトレーナーではなかった。

 仕方なしに密着状態でゲームを続ける。頭の中では必死に理性を働かせて反応しないように気を付けていた。

 

(無心、無心だ、僕。ゲームにだけ集中しろ)

 

 そう考えるものの、ホッコータルマエの胸やらなんやらが押し付けられて気が気でないトレーナー。頭の中で般若心経を唱えつつ、ゲームの画面に集中していた。

 ゲームをするトレーナーと、時折コメントを読み上げるホッコータルマエ。

 

「トレーナーさん。私達の配信大人気ですよ! 同接もこんなに伸びています!」

「分かった、分かったからそんなに密着しないでくれると助かるかな」

「いいじゃないですか。このゲーム結構怖いですし……猫被りじゃありませんが? 本当に怖いんですが?」

 

 そんな2人のやり取りを、5万を超える人数が見ていた。それだけの人数が見ていることにホッコータルマエはほくそ笑む。計画通り、とばかりに。

 

 あっという間に過ぎる時間。気づけば配信終了の時がやってきた。

 

「そろそろ戻らないといけないし、この辺でお開きにしようか」

「そうですね。結構な時間やってましたから……したっけ今日はこの辺で!」

「……ようやく解放された」

 

 いつものあいさつをしてトレーナーを見送る。トレーナーも配信のカメラの前で一礼した後、どこかへと立ち去って行った。

 

 

 トレーナーが去った後、ホッコータルマエは配信を切り、コメントでの反応を見返す。

 

「ふむふむ、評判は上々ですね」

 

 先ほどのホラーゲーム配信の同接数とコメントの流れを見て、満足そうに笑顔を浮かべる。微妙に悪い笑みを。

 ホッコータルマエがトレーナーをホラー配信に誘う理由。それは単純にして明快。

 

「ふっふっふ、これでトレーナーさんと私の既成事実を作ることができる……!」

 

 トレーナーと自分が親密な仲であるという事実を作るためだ。

 

 

 ホッコータルマエはトレーナーのことが好きである。勿論LIKEではない、LOVEである。そんな彼を落とすために、試行錯誤をしていた。

 ただ、これまでの経験、道のりから自身のトレーナーについてよく理解している。とんでもない唐変木であり、普通に接しているだけでは全く振り向いてもらえないことを。

 

(告白したところで無意味に等しい。行動に移したところで、あの人は鋼の理性で耐えるに決まっている)

 

 所詮は大人と子供。自分たちの気持ちを伝えても、やんわりと断るのが目に見えている。世間体もそうだし、なによりそういう目で見られていないことなど分かり切っているから。

 状況は絶望的。自分が学生である限り、トレーナーは恋人の対象として見てくれない。そう確信していた。

 

 だが、それで諦められるはずがない。そんな程度の障害で諦めるのであったら好きになどなっていないのだ。

 それに、トレーナーのことが好きなのは自分だけではない。同じチームのメンバーは全員がトレーナーを好意的に見ている。チームに限らずとも、トレーナーのことを好意的に見ている人がいることも確認済みだ。

 戦わずに逃げるなどできない。勝つために最善を尽くす。それがホッコータルマエの導き出した結論。

 

(どうにかしてトレーナーさんを手に入れたい。そのためにはどうするのが最善か……)

 

 考える。どうすればトレーナーと恋人になることができるのか。そのレーススタイルから【ダートの魔王】だの【砂のシンボリルドルフ】だの言われてきたホッコータルマエは、自らの脳みそをフル回転させて作戦を練っていた。

 

 そんなホッコータルマエが考え出したのが、自分だけが持っている独自の強み──配信だ。

 

(トレーナーさんと2人きりの配信を増やすことで、外堀を埋め続ける! 私は、既成事実を作るんだ!)

 

 カップル配信を装うことで外堀を埋めてしまおう、作戦だ。

 ホッコータルマエのチャンネルは登録者700万人超え。それだけの人数が認知すれば、いくらトレーナーと言えど逃げようとはしないだろう。これは将来を見据えた作戦である。

 

「トレーナーさんはグイグイ押したところで、鋼の理性で耐える。私がどれだけ身体を押し付けても無反応……いえ、少しは反応している……えへへ」

 

 配信のことを思い出してにやけ面を披露するホッコータルマエ。すぐに我に返って考えに没頭する。

 

「大事なのは積み重ね。私とトレーナーさんが親密な仲であることをリスナーさんに分かってもらうことが必要。トレーナーさんが逃げられないような状況を作ればいい」

 

 地道にコツコツと。周りを取り囲むように包囲していく。全てはトレーナーを手に入れるために。

 

 これだけならば、ホッコータルマエのことを行動に移さない意気地なしとも思うだろう。だが、彼女はそこまで考え無しではない。

 

「それにしても、どうすればトレーナーさんにもっと意識してもらえるか……」

 

 配信の度に身体を密着させている。自分の肉体を惜しみなく使っているのだ。使える武器をすべて使ってトレーナーを誘惑している。

 効果のほどは微々たるもの。さりとて確実に効果は出ている。

 

「効果は上々。いくらトレーナーさんの理性がオリハルコンでも、完全に意識していないわけじゃない。ふふふ、日々の積み重ねは無駄ではないですね」

 

 タルマエほどの肉体を押し付けられて無事でいられるはずもなく。なんでもないようにゲームを進行しているように見えても、その実しっかりと反応はしているのだ。

 恥ずかしさから上気した頬、ゲームの操作にも影響を及ぼしていた。冷静さを取り繕うとも、ホッコータルマエはしっかりと認識している。

 

「ただ、そろそろパンチの効いたものが欲しいですね。身体を密着させるだけなのは限界がありますし」

 

 それだけではない。トレーナーが刺激に慣れてしまわないように、日々研究を重ねている。お出かけでもトレーナーが反応しそうな場所をチョイスし、人目の多い場所を狙ってデート。じわりじわりと獲物を追い詰めようとしていた。

 

「一番意識したのは……トレーニング後に密着……お出かけもプールとか……」

 

 ノートに書きだして情報を整理。このウマ娘、自分のトレーナーを落とすのにかなりガチになっている。

 

 自分の事だけではない。情報は、チームメイトのことも欠かさない。

 

「この前のお休みは盲点でした。おかげで、イクイノックスさんに先を越されてしまった」

 

 学園もトレーニングも休みだった日、イクイノックスはトレーナーを膝枕していた。どこでそんな情報を、と思うが企業秘密である。

 

「トレーナーさんを膝枕なんて、うらやまけしからんです! 私もやりたいのに!」

 

 どこかずれた発言をしているがよほど羨ましかったのだろう。地団駄を踏んでいる。

 

「むぐぐ……! ま、まぁいいでしょう。イクイノックスさんは引き続き警戒、ジェンティルさんとタキオンさんは……まぁいいか。あの調子なら問題ないでしょう」

 

 チームメイト2人に対してあまりにも酷い発言をしているが、それほど脅威に見ていない証拠である。悲しいがこれが現実。

 

「アイさんも警戒は低め、キタさんはちょっと警戒を強めないと。ドゥラさんは何をするか予想できないから要注意、一番警戒すべきはバクシンオーさんで……」

 

 ブツブツと今後の計画を立てていくホッコータルマエ。ついでに今後の配信でまたトレーナーを呼び出すことを考えながら、彼女の時間は過ぎていった。




タルマエの膝枕とか絶対気持ちよさそう。
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