リコリス △ ハート^3   作:多聞町

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第11話 海鳴の風、家族の肖像

 心地良い風が、初夏の海鳴の街を優しく撫でていた。東京の喧騒とは違う、どこか穏やかで懐かしさすら感じさせる空気。その街の一角、駅前商店街の中ほどにある、ロッジ風の外観が印象的な喫茶店『翠屋』に、たきなは足を踏み入れていた。

 

「いらっしゃいませ」

 

 カウンター奥から、制服姿の女性が声をかけてきた。黒髪で鋭利な印象を持たせる美貌。その横から、すかさず笑顔を浮かべた茶髪に眼鏡を掛けた女性が現れる。

 

「いらっしゃいませ。お席はこちらで大丈夫ですか?」

 

 テーブル席を指し示す彼女。

 だが、たきなは、彼女から漂う何とも言えない只者ではない空気に、静かに目を細めた。

 

 ──恭也さんと同じ匂いがする。御神流……いや、それだけじゃない。優しさと凛々しさを併せ持つ気配。なるほど、これが高町家の家族か。

 

「あ、お姉ちゃん。大丈夫だよ、この人はお客さんじゃなくて、家の用事で来てるの」

 

 たきなの後ろから顔を出したなのはが、そう告げる。その後ろには、すずかが車椅子を押すはやて、アリサ、フェイトも並んでいる。小学生組の賑やかな声に、なのはの姉も、もう一人の店員も柔らかく微笑む。

 

「そっか、なのはの知り合いなんだね」

 

 その言葉に、思わず息を整えた瞬間だった。

 

「あら? こんにちは。おひとりですか?」

 

 厨房奥から、もう一人現れたのは──年齢を感じさせない柔らかな雰囲気と、少女のような可憐さを併せ持つ女性。

 

 ──この人が、高町家の母……桃子さん。

 

「……ええ。あの、少し、お話をしたくて」

 

「えっとね、お母さん、お姉ちゃん、忍お姉ちゃん。この人、たきなお姉ちゃん。東京から来たんだって」

 

「そうなの? なのはのお友達? なら大歓迎よ」

 

 厨房から出てきた女性──お母さんと呼ばれたその人が、柔らかな微笑みを浮かべた。

 たきなは僅かに身を固くする。だが、それもすぐに自然な礼儀作法へと変わる。

 

「……初めまして。井ノ上たきな、と申します」

 

「まあ、わざわざ遠くから。私はなのはの母の桃子です。こちらは美由希」

 

「なのはの姉の美由希です、よろしくね」

 

 茶髪のメガネっ娘が、明るく自己紹介する。だが、たきなはそこに、一瞬で読み取れない武道家の気配を感じた。

 

「こちらは、月村忍さん」

 

「こんにちは。月村忍です。そこにいる、すずかの姉で、ただの店員です♡」

 

 黒髪の美人の挨拶。冷たい印象を与える容貌に反し、なんとなく茶目っ気を感じさせる物言いだ。

 

 たきなは改めて全員に頭を下げた。店内は、昼過ぎの喫茶店らしい穏やかな空気に満ちている。ウッドのテーブル、暖かな色合いの壁紙、丁寧に磨かれたカップとソーサー――どこか懐かしさすら感じさせる空間だった。

 

「で? どういったご用件でいらしたのかしら」

 

 あらためて、といった風で、桃子がそう尋ねてくる。

 そのとき、背後の扉が開いた。

 

「わー、思ったより混んでないな」

 

「今のうちにお茶してこー!」

 

 制服姿の学生たちが数人、わいわいと入ってきた。テーブル席が次々に埋まっていく。

 

「あらら、少し賑やかになってきたわね……」

 

 桃子が軽く困ったように笑う。美由希と忍も手早くカウンターに戻り、オーダーの準備を始める。

 そうこうしているうちに扉が再び開き、制服姿の女子学生たちがさらに大挙して流れ込んできた。店内は一気に騒然となる。

 

「ごめんねー。いつもは、ここまで混まないんだけどね。今日は珍しいな……」

 

 カウンター席に落ち着いたたきなに、美由希が少し話しかけていく。

 

「わー、すごい人……」

 

「早めに帰った方がよさそうやな」

 

 はやてが苦笑交じりに呟き、他の小学生組も頷く。フェイトも小声で「また今度遊ぼうね」とたきなに囁き、アリサと共に店を後にしていった。すずかも忍と二、三言葉を交わすとはやてを押して出ていく。

 

「私も、とりあえず宿題、片付けてくるね」

 

 殿のなのはも、そう言うと元気に店を飛び出していった。

 

「うわー、忙しくなりそう……!」

 

 美由希がエプロンを直しながら店内を見渡す。たきなはしばし迷ったが、意を決して口を開く。

 

「あの……お手伝いさせていただいてもよろしいでしょうか」

 

「え?」

 

「実は……喫茶店で働いた経験があります。多少は役に立てると思います」

 

 たきなが静かに告げると、桃子はぱちぱちと瞬きした後、ふわりと微笑んだ。

 

「それなら助かるわ! じゃあ、お願いしてもいいかしら?」

 

 たきなは深く頷いた。

 

 

 

 

 翠屋の扉に取り付けられた小さなベルが、客の出入りのたびに忙しなく鳴っていた。

 

 夕方に近い時間帯とはいえ、店内は賑わいの最中にあった。ホールを軽やかに行き交う美由希が注文を取り、厨房では桃子が素早くコーヒーを淹れたり、パフェを仕上げたりしていく。カウンター席の脇では、制服姿のたきなが手際よく配膳と下膳を繰り返していた。

 

「お待たせしました。本日のケーキセットです」

 

 運ばれたケーキと飲み物を前に、客が嬉しそうに頷く。その笑顔に、たきなはわずかに目を細めた。

 

(……リコリコの店員経験が、ここで役に立つとは)

 

 こうして一般客の前に立つのも久しぶりのような気さえする。ここ数日は、店で接客した実感がなかった。恭也がいなくなり、落ち込んでいたからでもある。

 けれど今、たきなの動きは迷いがない。周囲の流れを読んで動き、次に必要な作業を先回りしてこなしていく。自然と身体が覚えていた。

 

「美由希さん、五番テーブル、追加のドリンクです」

 

「ありがとー、たきなちゃん! 助かるよー!」

 

 美由希は笑顔で応じつつも、三番テーブルの追加オーダーを桃子に伝えて厨房へ向かう。桃子も手早く対応しながら、ちらりとカウンター越しにたきなの様子を見やる。娘を見守るような優しい眼差しが注がれていた。

 

 さらに、店の奥から忍がホールへと現れる。時折厨房を手伝い、時には会計を捌き、ホールの動きをさりげなく補佐していく。たきなの働きぶりを一瞥し、彼女は小さく微笑んだ。

 

「……器用な子ね」

 

 ぽつりと呟いた声は、忙しさの波に紛れて誰の耳にも届かなかった。

 

 

 

 

 やがてピークはゆるやかに収束し、活気に満ちた店内も幾分落ち着きを取り戻していく。客席の片隅では、先ほどまで満席だったテーブルが空き、静かな空間が戻りつつあった。

 

「たきなちゃん、ありがとうね。助かったわ」

 

 厨房から出てきた桃子が、カウンター越しにたきなへと柔らかな笑みを向ける。

 

「いえ、お役に立てたのならよかったです」

 

 たきなは僅かに頭を下げる。心地よい疲労感が心と体に残っていたが、それが嫌ではなかった。任務の緊張とはまるで異なる、穏やかな充実感がそこにはあった。

 

「じゃあ時間だし、私はここで上がるねー」

 

 忍が軽快にエプロンを外し、更衣室へと向かっていく。そのすぐ脇で、たきなは棚にグラスを戻していた。

 ふと、忍が歩みを緩め、たきなにだけ聞こえる小さな声で囁いた。

 

「……恭也君は一筋縄じゃいかないから、頑張ってね?」

 

 たきなは、一瞬息を詰まらせる。

 

(……気付いている? まさか)

 

 だが、忍は軽く片目をつむってウインクすると、そのまま更衣室の扉を閉めた。

 

 しばらくの後、迎えに来たすずかと一緒に、忍は店を後にしていった。穏やかな夕日が、その後ろ姿を照らしている。

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 たきなの胸の内は、静かに波打っていた。

 軽やかなベルの音とともに出迎えられたこの店──翠屋は、思っていたよりもずっと家庭的な空気に満ちていた。東京で日々立ち入る喫茶リコリコとは、また違う温もりがある。

 

 喧騒のピークは既に過ぎ去っていた。先ほどまで目まぐるしく往来していた客足も一段落し、店内には落ち着いた空気が流れている。カウンターの奥では、桃子が静かに食器を洗っていた。ホールの片隅では、美由希がテーブルの後片付けをしている。

 

 たきなも、制服のまま自然とその作業に加わっていた。元々、喫茶リコリコで接客の経験があった彼女にとって、ホール業務は初めてのことではなかった。きびきびと手を動かし、効率よく皿を片付けていくその様子に、美由希は感心しきりだ。

 

「ほんと、手際いいねぇ。うちでバイトしない?」

 

「……今はちょっと難しいです」

 

 思わず苦笑いが漏れた。

 こんな風に穏やかに働けるなら、それも悪くはないかもしれない。だが、今はまだ──。

 

 そこへ、元気な声が店内に響き渡った。

 

「ただいまーっ!」

 

 くるりと入口の方を振り向くと、なのはが駆け込んできた。

 

「おかえり、なのは」

 

「おかえりー」

 

「ただいま! 宿題、終わったよっ」

 

 にこにこと笑うなのはが、まるで陽だまりのように明るかった。その姿に、たきなは少しだけ緊張が解けていくのを感じた。

 

「戻ってきたよ、たきなお姉ちゃん!」

 

「そうね」

 

 なのはは人懐っこくたきなに駆け寄り、その隣にぴたりと座った。小さな手がテーブルにちょこんと乗る。

 美由希も自然に隣の席へ腰を下ろす。こうして、いつの間にか三人が並んでいた。厨房の奥では、桃子が静かに作業の手を止めると、こちらにゆったりと歩み寄ってくる。

 

「ねえ、たきなちゃん」

 

「……はい?」

 

「今日は、どうしてわざわざ海鳴まで?」

 

 穏やかな声だったが、その奥にはどこか探るような響きが含まれていた。たきなの心臓が、どくん、と一つ大きく跳ねる。

 この質問に、どう答えるべきなのか。たきなは一瞬だけ言葉を探した。けれど、すぐに決心する。ここで嘘を重ねても、きっと彼女には通じない──そんな予感があった。

 

「……恭也さんを、探しに来たんです」

 

 美由希の眉が少し上がり、なのはが興味津々といった様子でたきなを見つめる。

 素直に打ち明けると、桃子は小さく頷いた。その目は、柔らかくも何かを見透かすようだった。

 

「ふうん。恭也に、何か用事が?」

 

 問われるたび、たきなの心は波立つ。リコリスであることは明かせない。でも、偽りで塗り固めることもしたくない。慎重に、慎重に言葉を紡ぐ。

 

「ええと……わたし、東京で喫茶店の店員をしています」

 

「喫茶店?」と美由希が問う。その表情は言葉とは裏腹に、得心がいったというものだった

 

 たきなは小さく頷く。

 

「そのお店に……恭也さんが、たまにお客さんとして来てくれていました。最初はそれだけでしたけど……少しずつ、お話をするようになって……」

 

 彼の存在は、最初は単なる常連だった。けれど、何度も顔を合わせ、少しずつ言葉を交わすうちに、距離は自然と縮まっていった。

 

「それから、いろいろと助けていただくようになりました。……本当に、たくさん」

 

 あの時のことが蘇る。千束とともに、銃弾飛び交う戦闘の只中で、幾度も彼に救われた日々。けれど、それを正直に話すわけにはいかない。

 

「でも、わたしは……恭也さんの力になれていたのか、自信がなくて」

 

 無意識に手が膝の上で握られる。指先に力がこもる。なのはも大きな瞳でたきなを見つめ、静かに耳を傾けている。

 

「むしろ、迷惑ばかりかけて……足を引っ張っていたんじゃないかって、何度も思いました」

 

 言葉を継ぐごとに胸が締め付けられていく。

 けれど──。

 

「やっと……やっと少しだけ、恭也さんの助けになれたと思えたときがあったんです。でも、その矢先に……突然、お店に来なくなってしまって」

 

 声がかすかに震えた。自分でも驚くほど、胸の奥から言葉が溢れてくる。これが、ずっと心に引っかかっていた想いなのだと今さらながらに気づかされた。

 

「友達が……彼のことを調べてくれて、翠屋が実家かもしれないと教えてくれました。それで、今日ここに……」

 

 ようやく言い終えたときには、ほんのわずかに肩が上下していた。張り詰めていたものが、少しだけ緩むのを感じた。

 

 沈黙が訪れる。桃子は微笑を崩さず、たきなをじっと見つめていた。その眼差しは温かく、しかしどこかで彼女の本質を静かに測っているようでもあった。

 

「……なるほどね」

 

 ぽつりと漏らす桃子の声は、まるで全てを包み込むようだった。それは、たきなの肩の力をさらに解いていく。まるで、長い旅路の末に辿り着いた港に灯る光のようだった。

 

 

 

 

「そう……たきなちゃんは、とても真っ直ぐな子なのね」

 

 優しい声音に、たきなは小さく頷く。だがその胸中は、さっきまでの会話で幾度も自分の素性を誤魔化した罪悪感と、恭也を想う気持ちで渦巻いていた。

 

 そんな彼女の様子を見て、桃子は少しだけ表情を緩めると、ふと視線を落としながら口を開いた。

 

「……せっかくだから、うちの話も少ししようかしら」

 

 唐突な提案に、たきなは少し驚いたが、すぐに頷いた。美由希も静かに頷き、話の続きを促す。

 

「ねえ、たきなちゃん。恭也に家族のこと、どこまで聞いているの?」

 

「妹さんが二人いることと……お父さんのことは、少しだけ。六年前に、横浜で起きたテロに巻き込まれて亡くなったと……」

 

 そこまで話しながら、たきなは言葉を濁す。真実は知っている。しかし、それは今は口にすべきことではない。

 

「……そう。あの子も少しは話してるのね」

 

 桃子は静かに頷いた後、柔らかな笑顔を浮かべたまま続けた。

 

「でもね、私は恭也の本当の母親じゃないの。……継母なのよ」

 

「……え?」

 

 思わずたきなの唇がわずかに開く。完全に想定外の事実だった。彼女の中で、恭也の家庭像はぼんやりとしか描けていなかったが、まさかそんな複雑な事情があるとは思いもしなかった。

 

「士郎さん──恭也のお父さんは、幼い恭也を連れて修行の旅に出ててね。そんな時、わたしと出会ったの。そうして、わたしたちは家族になった。色々あったけど、いまはこんな風に……ね?」

 

 桃子が微笑みを向けると、美由希も頷いて口を開く。

 

「私もね、実は恭ちゃんの従妹なの。お父さんの妹、つまり私の母の兄が士郎さんで──事情があって、今は養子として引き取られてるんだ」

 

 その穏やかな口調に、たきなはまたも胸がざわつくのを覚えた。

 

「そうだったんですね……」

 

「で、そのあとに生まれたのが、なのは」

 

 紹介されたなのはが、元気に手を挙げる。

 

「はーい、たきなお姉ちゃん、よろしくね!」

 

 小学生らしい屈託のない笑顔に、たきなも自然と微笑み返す。

 温かい──その一言が、自然と胸の内に浮かんだ。

 

「……とても素敵なご家族です」

 

「ありがとう」

 

 桃子が柔らかく微笑む。そのままふと視線をたきなに戻すと、少しだけ含みを持たせた表情に変わった。

 

「それで……たきなちゃんは、恭也のこと、好きなのよね?」

 

「っ……!」

 

 予想もしていなかった直球に、たきなの顔が一気に紅潮する。

 

「そ、そんな……い、いえ……その……」

 

「わかりやすいなぁ、たきなちゃんは」

 

 美由希がくすくすと笑い、なのはも嬉しそうに頷いている。たきなは俯きながら、思わず耳まで赤くしてしまう。

 

 ──どうして、みんなこんなにあっさりと……。

 

 困惑しつつも、たきなの胸には、ほんのわずかに嬉しさが混じっていた。

 

「でもね、そうやって恭也を心配してここまで来てくれるだけで、私たちは十分に嬉しいの」

 

 桃子はそう言いながら、少し表情を曇らせる。

 

「恭也はね、一応この家には帰ってきてるの。でも、いつも遅くまで修行ばかりしてるのよ」

 

「修行……?」

 

「御神流の鍛錬ね。色々思い詰めてるみたいで……」

 

 窓の外を見やると、すでに日は落ちたのだろう。群青色が茜色の空を染め始めていた。

 

「今頃は──おそらく士郎さんのお墓にいるんじゃないかしら」

 

 桃子の言葉に、たきなは自然と息を呑む。

 父の墓前で、何を思っているのだろうか──。

 

「……お墓の場所を、教えていただけますか?」

 

 たきなの声は静かだったが、決意を滲ませていた。桃子はすぐに頷くと、美由希に目配せをする。

 

「もちろんよ。ここから歩いて三十分くらいはかかるけどね。きっと、あなたの足なら、そこまではかからないんじゃないかしら。途中からは、一本道だから迷わないと思うし、美由希に送ってもらうといいわ」

 

 振り向こうとするたきなの背を、美由希がぽんと軽く叩く。

 

「道案内としてはともかく、護衛としては要らなそうだけどね。ね、お母さん」

 

「そうね、恭也と同じ匂いがするし」

 

「え……」

 

 桃子のその発言に、たきなは戸惑う。だが、桃子は微笑みを返してきた。

 

「こんなわたしでも士郎さんの妻で、恭也の母親よ。ある程度、何をしているかは分かっているわ」

 

 たきなは瞠目した。

 

 ──この人たちは、分かっていて私の話を……

 

 その様子を見ながらも、桃子は一歩前に出る。

 

「──お願いね、たきなちゃん。あの子のこと、支えてあげて」

 

「……はい」

 

 短く、しかし力強く返事を返したその時だった。

 

「お兄ちゃんのこと、お願い!」

 

 なのはがパッと顔を上げ、真っ直ぐな瞳でたきなを見つめる。

 

「たきなお姉ちゃんだったら……きっとお兄ちゃんも心を開いてくれると思うの!」

 

 その言葉に、たきなは胸が熱くなるのを感じた。自分が恭也にとって何かの助けになれるのなら──。

 

「……必ず、会ってきます」

 

 玄関のドアを開けると、ひんやりとした夕暮れの風が頬を撫でた。

 たきなはゆっくりと歩き出す。

 

 ──今度こそ。恭也さんと向き合うために。

 

 

 

 

 そんな彼女の背を見送りながら、なのはは静かに思う。

 

(──忍お姉ちゃんでもダメだった。でも、たきなお姉ちゃんならきっと……)

 

 胸の中でそっと、兄の幸せを祈りながら──。

 

 

(第11話 了)





 忍はとらハ原作(リリなのでも?)では月村家に恭也を婿として迎え、娘ができることも確定しているキャラですので、意味深に登場させてみました。本作でも、おそらく原作をなぞるような事件でも起きて絡んだのでしょう。ただし、夜の一族とかいうオカルト設定はリコリコ世界に馴染まないとして切っていますので、その余波で結ばれなかったのでは?
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