安易なネーミングですが、ほぼ適当です。その割に作中では超重要な役柄。
また、フキとサクラも登場。ファンDとそのパートナーは出演予定無しです。
リコリコメンバーにあてがわれたホテルの一室。
朝の光が、遮光カーテンの隙間から細く差し込む。簡素な造りの部屋には、仮設ながらも急ごしらえの作戦会議が組まれていた。白いテーブルの上には、ノートPC、タブレット、数枚の地図、そしてプリントアウトされた報告書の束。
「……間違いない。こいつは“シュピーゲル”だ」
恭也の声が静かに部屋を満たす。背筋を伸ばした彼の前に広げられた資料の一枚に、仮面の男のぼやけた後ろ姿が映っていた。
黒ずくめの装束、マントの内側にだけ走る血のような赤。そして、沈黙を好む殺意。
「姿、戦闘スタイル、そして身体能力。昨夜の実態から総合的に判断して、確定だ」
クルミが隣で頷く。彼女の操作するタブレットには、裏世界の闇に埋もれた記録が何件も走っていた。
数年前、中央アジアの小国で要人暗殺。西欧では国防大臣の首元を刃で裂き、逃走した。
共通しているのは、目撃者の証言がほぼ残っていないことと、銃器を一切使っていない点だった。
「名前はコードネーム、“シュピーゲル”。実名、国籍、年齢、性別、すべて不明。十五年ほど前から活動を開始しているようだが、裏社会じゃ既に伝説みたいなもんだよ」
「“シュピーゲル”って、“鏡”って意味だよな?」
「そうだ。奴は、変装も得意で、対象を生き写しにするそうだ。そこから来ている」
「御神流の剣士を……二人も殺してるっていう話は、本当なの?」
クルミの問いに続き、千束の声が室内に響いた。
その眼差しには、好奇心よりも警戒の色が濃かった。膝に手を置き、前傾姿勢のまま、じっと恭也の顔を見つめている。
「本当だ。六年前。場所は横浜。俺の知る限り、当時現役の手練れだった御神流の剣士二人が、同日にやられている。おそらく遭遇戦じゃない。計画的な待ち伏せだったはずだ」
「六年前……横浜……これか? 爆弾テロが起きてる。それも、盛大に」
クルミが素早くPCで検索。画面を恭也に見せた。
彼は言葉は発さず、頷いた。
たきなは、ソファの背凭れに寄りかかりながら、無言で恭也の言動を見ていた。
昨夜、自分たちが相対したあの漆黒の影。異様な静けさと、無機質な殺意。銃声の中でも冷静に間合いを計り、風のように間合いを詰め、あまつさえ自分の動きどころか、恭也と千束の連携にさえ対処してきた。
(あれが、そんなに……)
「じゃあ、恭ちゃんは? 因縁とか……復讐心とか、あるの?」
千束が問うた。わずかに顔を傾けながら、いつも通りの軽さを残した声色で。
だが、その瞳は真剣だった。ミカと一緒にいた頃から、何度も命のやり取りを潜り抜けてきた者の視線だ。
「ない」
即答だった。
「俺には、奴と直接の因縁は無い。奴に殺された二人とも、共に任務に当たったこともないからな。当時、俺はまだ中学生だったし……ただな」
恭也は視線を床に落とし、右手で資料をひとつ抜き取る。
それは、昨夜の現場で採取された、靴の接地パターン。御神流の初動を完全に見切ったかのような動き──それは偶然ではなかったという証拠だった。
「奴は御神流の動きそのものに、いや、“奥義”にすら、ある程度の“対応”ができる。つまり、型と技を読んで動いてきてる。今後、同じ条件でやり合うなら、俺一人で相手をする」
「えっ?」
思わずたきなの声が漏れる。
言葉の意味がわからないわけではなかった。だが、それを口にする彼の声があまりにも静かで、強く、そして遠かったから。
「冗談言わないでよ。たきなだって……私たちみんな、あいつの前に立ってたんだよ?」
千束が間を割って叫ぶように言った。
だが恭也は、それを制するように小さく首を振る。
「命のやり取りで、未知の剣技にさえ対応できる奴が相手なら──今の段階で共に戦わせるわけにはいかない。お前たちは、俺の動きを見てからでいい。……これは俺の領分だ」
言葉に温度がないわけではなかった。むしろ、誰よりも冷静に事態を見ているがゆえに、その静けさがひどく遠く感じられた。
(……まただ)
たきなの胸の奥が、ぎゅう、と強く締め付けられた。
前もそうだった。敵に対して、真っ先に前に出るのは恭也だった。
昨夜、同等の連携ができた千束でさえ……まず自分が戦う姿を見せてからでなければ、戦場へと入れなかった。
それは、きっと──
後ろを守るためだけじゃない。仲間を本当の意味では巻き込まないためだ。自分の命で、仲間の命を測っている。
(なのに……どうして。どうして、私は何も言えない)
立ち上がった千束が何かを言おうとしたとき、たきなは目を伏せた。
胸の内で小さく息をつきながら、ただ、自分の指先を見つめることしかできなかった。
夜。昨夜とはまた別のホテル。リコリコメンバーにあてがわれた部屋。
二日目の警護を終えた千束たちは、内調のメンバーと交代後、休憩に入っていた。
室内には、気だるげな静けさが漂っている。
その静寂を破るような電話の振動音に、ミカが顔を上げた。
携帯端末に表示された発信者を確認し、彼はすぐさま応答ボタンを押す。その指先が、ごく僅かに緊張していた。
「……私だ。何かあったのか」
応答直後、相手の声にわずかに眉をひそめる。
「……なんだって? 姫の動きが、もう……?」
抑えた声での短いやり取り。
受話器越しの報告に、彼の顔が徐々に険しくなる。
数分後、室内にいたメンバー全員に、ミカが状況を端的に伝える。
「緊急の連絡があった。……“姫”の動きが、敵に筒抜けだそうだ」
その場が一瞬、凍りついた。
ミズキがグラスをテーブルに置く音だけが、不自然に大きく響く。
「明日、“姫”は昼前に霞が関に向けて移動する。目的地までは首都高上を移動の予定だ。レインボーブリッジ経由のルートになる。そのタイミングを狙った襲撃がある可能性が高いとのことだ」
「……本気で、橋の上で、仕掛けるつもり……?」
千束の声に、浮かれた調子は一切なかった。視線は真っ直ぐにミカを捉えている。
「その可能性は否定できない。政府側は事の重大さを鑑み、DA本部と内調の共同作戦とする方針だ」
「大規模作戦、ってわけね……それにしても、時間がない」
ミズキの目が、自然と恭也へ向けられる。
彼は既に、次の展開を読み切っていたかのように、静かに腕を組んでいた。
「それで……私達の配置は?」
千束が問いかける。
ミカは一瞬、視線をたきなに向け──すぐに答えを口にした。
「たきな、君はまだ万全とは言えない。明日は千束、ミズキと共に車両警護を担当してくれ。“姫”の直掩任務だ。クルミも同行する」
「……わかりました」
頷くしかなかった。
身体が完調でないことは自覚している。判断としては妥当──それでも。
(……違う。私が、やりたいのは……)
声に出すことはできなかった。
彼の名前を、その場で呼ぶ勇気はなかった。
ミカが続ける。
「高町くんは、DA東京支部の春川フキとの合流を依頼された。共に橋上の配置へ」
「へぇ……フキとねぇ」
ミズキの茶化すような声が、妙に耳についた。
(……フキ……?)
無意識に握った拳に、力がこもる。頭では理解している。必要な配置。最も戦闘能力が高く、臨機応変に動ける彼が、主戦の援護に回るのは当然だ。
けれど。
(なんで、私じゃないの……)
自問は誰にも聞こえなかったはずだった。けれど、千束が隣でちらりとたきなを見た。
だけど、言葉はない。ただそのまま、そっと視線を落とすだけだった。
言葉がなくて、たきなは助かった。言われていたら、きっとどう答えていいか分からなかった。
(恭也さんと、一緒に行動できるって、思ってたのに……)
期待していたのだ。彼の隣に立ちたかった。足並みを揃え、共に戦いたかった。その姿を、見てほしかった。
それがフキ。たきなが命令違反の廉でリコリコに転属させられる前、東京支部でバディを組んでいたファーストリコリス。
千束のような、一種超常的な能力は持たないものの、自分もよく知る、実力者。そして──女だ。
(彼女と、二人きりで……?)
心臓が一度、ぐっと締め付けられた。嫉妬──そんな言葉を頭に浮かべたくはなかった。でも、それ以外にこの感情を説明する語彙が見つからない。
彼のことを信頼している。それは確かだ。だけど、それでも──。
(あの人が、恭也さんをどう見るのかなんて、分からない)
昨夜の、千束と恭也の、見惚れるような連携が思い出される。
──あれがフキなら……
それでもフキなら、同等の連携をしてしまいそうで……
(……いやだ)
心の奥で、知らず囁いていた。
──彼の隣にいるのは、自分であってほしい。
その矛盾が、たきなを押し潰しかけていた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
東京湾岸の空は、今にも雨が落ちてきそうな鉛色に沈んでいた。
その下で、東京臨海副都心青海地区にある政府関連施設の駐車場に、一台の黒塗りのセダンが静かに停車していた。
車内にいるのは、たきな、千束、ミズキ、そして黒のウィッグをかぶり上質なドレスワンピースで身を包むクルミ。急遽、姫の影武者として変装を施されたのだ。
外部からの視線を完全に遮断するスモークガラス越しに、緊張と沈黙が流れていた。
「ボクを影武者に、なんて本気かよ……? 一応、これでもお前らに匿ってもらってる身分だぞ?」
「まあまあ……、なにかあっても、ちゃんと守るからさ~」
「姫の影武者なんて、クルミぐらいしかできないもんね。身長的に」
ぼやくクルミに、とりなす千束と軽い口調で返すミズキ。
たきなは何も言わず、窓の外の鈍い空を見つめていた。
何かが起きる──そんな予感だけが、胸の奥を淡くざわつかせていた。
そして、そんなたきなの雰囲気が伝染したのか……
「でもまあ、やっぱり、こういう待機って……性に合わないな」
運転席に座るミズキが、重いため息を吐きながら呟いた。
たきな達が待機している駐車場から北北西に2km強。鋼鉄製のケーブルに吊られた橋梁上では、DA東京支部から派遣されたリコリスの本隊が配置されていた。
さらに、別動隊が小型高速艇に乗り込み、第六台場東側の海面上に待機。橋の下から支援可能な位置にスタンバイしている。
完璧な配置。……のはずだった。
襲撃は、まだ可能性の段階であるため、交通規制は歩道部を除き、行われていない。
その、今はリコリス以外、無人の歩道。台場北側主塔の迂回部。車道からは見えづらい、その位置に橋梁配置班のリーダー、春川フキはいた。もちろん、橋梁班の指揮のためである。
そんな彼女の傍らには、バディである乙女サクラが待機している。
そこへ、彼女たちの今回のサポート役──高町恭也が現れた、
フキは、ニヤッと笑う。
「久しぶりだな、高町」
フキの声には、懐かしさと、わずかな警戒が混じっていた。
「半年ぶり、くらいか」
恭也は感情の波を見せず、穏やかに応じた。
言葉は少ないが、互いの存在を確認するには十分だった。
「……フキさん、この人と知り合いなんですか?」
二人のやり取りに、サクラが怪訝な顔を向ける。
「まーな。少し前に、ちょっとだけ組んだことがある」
「へー……って、それってすごくないですか? この人、内調でしょ? そんな人と任務行ったって……」
フキの脳裏に、過去の記憶が甦る。
あのとき──香港。
DAからの非公式任務。内調が極秘に掴んだ情報により、敵性勢力が香港に潜伏していると判明。なぜか、フキを名指しでの協力依頼だった。だがリコリスに正規の出国手段はない。そのことを指摘すると、内調から迷いなく差し出されたのは身分証とパスポート、そして航空券だった。
「これで、君は“公式”に国外任務に就ける」
そのときすでに、内調は彼女が国外へ行くことを織り込み済みだったのだ。
香港の街に降り立ったフキは、迎えに来ていた男と落ち合った。
高町恭也──それが彼の名。
コードネームも所属も明かされなかったが、その眼差しと気配だけで、只者ではないと悟らされた。
敵性勢力のアジトは、その立地環境が複雑だった。
カップルを偽装して侵入、夜陰に紛れての強襲。
銃撃、格闘、逃走。
フキが壁一枚隔てた敵の背後をとろうとした瞬間──恭也は単身で突入し、五秒とかからず制圧していた。
(あのときの、動き……)
フキは、その光景を目に焼き付けたまま帰国した。
任務終了後、何事もなかったかのように、彼は無言で去っていった。
「……変わってないな」
「そっちもな」
わずかな沈黙。だが、互いの距離感は、すでに分かりきっている。
そのとき、彼らのイヤーピースに、かすかな通信が届いた。
『──こちら楠木。最新情報を共有する。今回の襲撃は、ここ最近頻発した爆弾テロおよび軍用兵器の密売・使用、これらと一連の流れと見て間違いないことが判明した。すべては、この会合を狙った布石だったと考えられる』
沈痛な声色。それが、事態の重さを物語っていた。
『……我々DAは、内調の情報操作の一環に組み込まれていた。その意図はともかく、事実として情報は確かだった。後手に回った責任は私にある』
フキは眉をしかめた。
言外に楠木の悔しさがにじんでいる。
「……つまり、私たちは最初から踊らされてたってわけっすか?」
サクラの問いに、恭也は静かに首を振った。
「いや。俺は最初から、こうだろうと踏んで動いてた」
彼の瞳に、一切の迷いはない。
「やっぱり……あんたは、最初から分かってたってことなんだな」
フキの口元に、どこか安堵を含んだ微笑が浮かぶ。
嵐の前の静けさ。
戦端が開かれるまで、あとわずか。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
端末に『ラジアータ』が解析した、爆弾の設置位置予想図が届く。
フキの声が、インカム越しに響いた。
『第五班、第六班は上層を。第七班は下層に入って。橋桁の裏側、センサーで探って。時間がない、急いで』
緊張が、まるで潮のように満ちていた。レインボーブリッジ。その巨大な人工構造物は、今や国家の命運を乗せた舞台だった。
その上層道路、歩道、下層道路、作業用通路、すべてにリコリス達が分散していた。警戒、警護、そして爆弾の捜索。目に見えぬ危機は、いつ牙を剥くか分からない。
『信号解析チーム、そっちはどう?』
『反応無し。起爆信号らしき波長も今のところ感知してない』
フキの問いに、応答が返る。だが、それは希望ではなかった。発見できていない、という事実が、かえって焦燥を煽る。
その頃、東京臨海副都心青海地区にある会場──指定された要人搬送拠点では、既に準備が整いつつあった。
「姫、準備が整いました」
「はい。ありがとうございます」
警護官の声に、柔らかに微笑みながら姫が立ち上がる。だが、彼女の纏う空気には、明らかな緊張があった。
たきなは、その様子を見ながら、無意識に唇を噛んでいた。
(……自分は、ちゃんと守れるのか)
傷はまだ完全に癒えていない。立ち回りにも制限がある。もし再び、あのシュピーゲルが姿を見せたら──
ホルスターの銃を無意識に押さえていた。体調を考え、ベストは補強されている。だが、やはり戦闘には無理が……
「たきな、大丈夫?」
千束が声をかけてくる。無邪気な笑み。だが、その目は鋭い。
「……大丈夫」
「ふーん? でもさ、今日、恭ちゃんはフキと一緒なんだよね〜?」
たきなの心が、少し揺れた。
「それが何か?」
「ううん。なんでもないけど〜。あの二人、上手くやれてるのかね~?」
千束の言葉に、胸がズキリとした。
(……どうして、千束だけじゃなくて、フキのことまで)
昨夜のどす黒い感情が蘇る。それを見つめる自分自身が、何よりも恐ろしかった。
(嫉妬してる……? 私が?)
自分の心の底に巣食う、どうしようもなく幼稚で、独占的で、醜いもの。
そんなもの、千束に対して感じるだけで十分だったのに。
千束とフキ。二人の間に挟まれて、恭也はどこか遠くに行ってしまう気がした。どれだけ努力しても、届かない場所へ。
(でも……私だって……!)
「姫が乗車します。リコリコの皆さん、よろしくお願いします」
「はいっ。じゃ、出発するわよ」
意識を現実に引き戻したのは、ミズキの声だった。四人は車へと向かう。
レインボーブリッジの巨大で複雑な構造。
ズームアップして、各部個別の構造を見ても、やはり複雑。
専門の職員が見ようとも、やはり死角は多い。
四角い、小さな箱が取り付けられている。
橋の付属品とはとても思えない、異質な存在感の箱。それが、いくつも……
海上保安庁の東京湾海上交通センター。
今、そこは静かに、だが騒然とする気配を放っていた。
「羽田空港沖より台場方面へ向け、リベリア船籍の貨物船が航行中。事前の申請計画と異なります。進路異常、応答なし。現時点で国交省から接舷許可は下りていません」
「不審船と断定せよ。直ちに巡視艇を差し向け、場合によっては排除措置も許可する」
「本庁に詳細を連絡しろ!」
レインボーブリッジに向け、不審な貨物船が近づいていた。
橋の一角の暗闇の中、ほの暗いヘッドランプが灯った。
ゴルフバッグに偽装したバッグから、ライフル銃を丁寧に取り出す、怪しい影。
標的は、もちろん──
そして。
最も注意の薄い、橋桁の最下段──その鉄骨の影に、ひとつの黒い影。
全身黒装束。外は漆黒、内側が真紅のマントが、風にたなびく。
──シュピーゲル。
その存在に気づく者は、まだ誰もいない。
その頃──レインボーブリッジの上空を映す航空写真が、作戦本部のモニターに映し出されていた。湾岸警察、DA本部、内調の回線が一時的にリンクされ、情報共有がなされる。
台場と芝浦を結ぶ巨大な吊橋。日本経済を支えるその一角。そのため、不確定情報では自動車交通を完全封鎖するわけにはいかない。ただ、いつでも通行止めをする準備は整っていた。
歩道は封鎖中。警備関係者の姿こそ無いが、橋の各所にリコリスの影が散っていた。風に揺れる彼女たちの髪、鋭く走る視線。どこかに仕掛けられているはずの爆発物を捜索。
『それっぽい物影、見つけた。座標送る』
『了解、確認する』
無線のやりとりが、切迫していた。
最初に見つかった爆弾は、橋の主塔付近に取り付けられた小型のもので、時限式と見られている。処理班が手を出すまでの時間稼ぎとして、作業用ドローンを使っての先行確認が始まっていた。
そして──
東京臨海副都心青海地区の要人搬送拠点。
今まさに、たきな達を乗せた車が発進しようとしていた。
影武者のクルミを囮として、姫が乗車する車に数分先行。
「たきな、車内の確認終わった?」
「はい。問題ありません」
千束の確認に、たきなは淡々と応じたが、その声音には熱がこもっていなかった。
(あの人の隣に、立ちたかった。わたしの願いは、それだけだったのに)
胸の奥で疼く想いを抱えたまま、彼女は静かに後部座席へと乗り込んだ。
黒い車列がゆっくりと、レインボーブリッジへと走り出す。
そして、その先には──国家の命運を賭けた、戦いの火蓋が切って落とされようとしていた。
(第6話 了)
今回はレインボーブリッジ編の前編。
後編は24時間後に更新予定です。