【書籍第一巻発売中!】公女様の義腕騎士-元官僚、異世界でホームレスから成り上がる-   作:笹木ハルカ

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今回は別視点です。


決着はすぐにつく

 ジョバンニ=クタバール冒険団の団長であるジョバンニのような冒険者にとって、あの男爵は上得意様だった。

 

「だが、こんな急な依頼をされてもよぉ」

「そうぐだぐだ言うなウッソ。これも必要なことだ」

 

 この大陸から冒険者という役職が廃れて久しい。人が生きていける程度に都合の良い未開拓地(フロンティア)がほぼなくなったからだ。文化的侵略(かいたく)ができない土地にわざわざ金を出す物好きもいないし、未知との遭遇という浪漫も開拓した土地を我が物とできる実利もなくなってしまったから、冒険者にもうまみがない。

 

 故にこの国、この大陸における『冒険者ギルド』とは、『日銭を得るために命を換金して危険なお仕事をやるしかない、一発逆転を狙うギャンブラーの巣窟』となった。新大陸にいくだけの予算を確保した奴や予算なんて無くても向こうで自活できるような()()()()()()冒険者はとっくに新大陸へ行っているからだ。

 

 だから、ヴェッテン王国国内で活躍する冒険者は二極化が進んだ。新大陸を夢見て旅費が貯まるまでの腰掛けとして所属する若年層(ルーキー)か、安全圏でしか仕事ができない落ちこぼれだ。彼らは、控えめに言って後者だった。だからこそ、一発逆転を夢見ている。

 

「それにしてもすごいよなぁ。よりにもよって公女様の偽物を騙るなんてよぉ」

 

 依頼主である男爵の言うことには、公爵公女を亡き者にし、成り代わろうとして失敗した者たちがこの街道から脱出するらしい。偽物であるから、これが他の領地に出る前に始末してその首を持ってこいというのが今回の依頼だ。偽公女の首さえあればいいとのことで、後は好きにできる。女を切らしている奴も多いから、結構酷いコトになるだろう。

 

 そんな『便宜』をはかってくれる依頼主は貴重だ。そういう意味でもあの男爵とは良い関係でありたい。できればしっかりお金も落としてほしいところだが。

 

 子爵軍の本隊が出払っている今、傭兵として冒険者を使うしかない子爵領の市民には同情を覚える。あの男爵は、奴隷の管理役である使用人すら冒険者上がりを使っているらしい。

 

「でもこれで偽物を討ち取れば報奨ももらえるだろうし、新大陸に行く夢も……!」

 

 そんなことを口に出しているウッソ。それに被るように蹄の音が響いてきた。周囲に潜んでいる仲間にも合図。

 

「……室内灯を消してるな。情報通りだ」

 

 ジョバンニが吹き矢を構える。馬車は四頭立て。先頭の一頭に吹き矢を当てて暴れさせる。

 

「きゃっ!?」

 

 御者が慌てて沈静化させる。それは行き足を止めることだ。

 

「……御者が女?」

「いいから押さえるぞ! 女だ女ぁ!」

 

 飛び出したウッソが御者を押さえ込む。足さえ止めさせたらこっちのものだ。ジョバンニは海賊刀(カトラス)を手に馬車の扉を蹴り破る。見かけだけは豪奢で、窓にガラスまではまっている。

 

「……本当にアオ様の言うとおりになってしまったではありませんか」

「あ?」

 

 扉を蹴り破った先には、ロングスカートのメイドが一人。

 

「そのなり、冒険者でしょうか。まったく、フィッツロイ男爵も使用人ぐらい選べばよいものを」

 

 男爵殿の名前を知っている? なんで言い当てられた?

 

 というより、なんで。

 

「偽公女がいねぇ……!?」

「なるほど、そうやってそそのかされたのですね」

 

 完全に止まった馬車。メイドが立ち上がる。スカートの裾を持ち、すっと一礼をする。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ふわりと裾が広がる。直後、頬骨に衝撃。蹴り込まれたと認識した瞬間には土の地面に蹴り落とされている。

 

「誰の許可があってリコッタ様の馬車に足をかけているのですか。あまつさえ武器を持ったまま絨毯に上がるなど。……もはや未遂とは言えませんね」

 

 なにが起った。蹴られたところもそうだが、目の奥、頭の中心が痛い。死にそうなほど痛い。物が二重に見える。

 

「ビオネッタ。()()殺してはなりませんよ」

「はいっす、ヴィクトリア姉様。姫様の馬車にこんな不届き者の血など一滴たりとも吸わせるもんっすか」

 

 ジョバンニがくらりとする頭を無理矢理持ち上げると、ウッソが声も上げられないまま締め上げられている。あの変な語尾の御者の女、ウッソの額を片手で鷲づかみにして吊り上げてやがる。最初の「きゃっ」は演技か畜生。

 

「団長!」

「アホカイネン! 出てくるな!」

 

 そうジョバンニが叫ぶがもう遅い。馬車から降りてくるメイドと部下の目が合ったようだ。まるで手品のように短刀が飛び出す。

 

「ビオネッタ、掃除が必要なようです」

「承知っす」

「まったく、ファイフ公爵領への行脚に続き、リコッタ様がこうも狙われるとは」

「いいじゃないっすか。今回は()()()()こちらに引っかかってくれたんすから」

「えぇ、戦わずに負けるなどというあんな屈辱はもう二度と……右側はビオネッタに預けます」

「はいっす。ヴィクトリア姉様もご武運を」

 

 ジョバンニの反対側、道の脇の藪まで投げ飛ばされるウッソ。ぎゃっ、という声はウッソのものではない。あそこの藪にも人を隠していたが、そいつにクリーンヒットさせやがった。

 

「ごきげんよう……公女様のお印を足蹴にしておいてまだなんとかなるかもとか考えてるおめでたいクソ野郎共」

「いきなり口調が乱れてるっすよー。まぁ、姫様もいないからいいっすけど」

 

 金属が擦れる音。御者を務めていたメイド――――ビオネッタが籠手を鳴らした。

 

「告げる。こちらはバリナード公爵領常設騎士団が一つ、聖ディアナ騎士団の第一公女付特別警衛班である。貴様らは今、バリナード公爵家第一公女であられるリコッタ・バリナード様のお印に刃を向けている。三つ数えるうちに武器を捨てぬ限り、聖ディアナ騎士団の職権をもって、即刻この場で切り捨てる。……それ以降の降参を聞き入れるかどうかは保証しかねるが、それを理解した馬鹿野郎だけ掛かってこい」

「お、おい! 皆武器を置け!」

 

 ジョバンニは気がついて慌てて指示を出すが、皆顔を見合わせている。間に合わない。それもそのはず、彼らは単純に知らなかったのだ。知らないことは理解できない。

 

 聖ディアナ騎士団。

 

 公爵領が公に抱える騎士団は複数あれど、女神ディアナの名を冠する聖ディアナ騎士団は公爵家を専門に警衛し生活を支える特別な騎士団だ。その騎士団が守るのは公爵閣下を含む公爵家とその名誉。それを脅かすものであれば、その場で直接の排除が許されているほどに強力な組織である。喧嘩を売っていい相手ではない。それが騎士としての格を持たないメイドであってもだ。

 

 ジョバンニ=クタバール冒険団の人員は三五人。対する相手は見た目だけならばメイド二人。ジョバンニは気がついたが、事情を察せない奴らは『勝てる戦い』だと踏んでしまう。

 

 ジョバンニが必死に声を掛けたが、遅かった。何人もが『団長であるジョバンニは、女に殴られていじけたのだ』と甘く見た。こちらはこれだけ人数がいるのに、何を怯えてるのだと嘲った。新大陸には女よりも恐ろしいモンスターがわんさかいるのに、女に怯えてなにができると侮った。

 

 それに、ジョバンニとウッソを(にえ)にしたデモンストレーションも、見た目だけならとても穏やかなものだった。ヴィクトリアに蹴られたジョバンニは、眼の奥にある眼窩を骨折しただけであとは鼻血が出ているぐらいだ。一発やられた位でこんなことになるなんてと、見ていた部下は勘違いしてしまった。蹴られた本人は、折れた骨が視神経を圧迫したせいで物が何重にも重なって見えている。この状況では剣を振るうことなんてかなわない。

 

 だから勘違いを正すタイミングを逃した。そうして逃したまま砂時計が落ちきる。

 

「勧告終了。バリナード公爵領に栄光あれ」

 

 戦闘は二分も掛からず終了した。

 

 

 

    †

 

 

 

 オーストレスは標高も比較的高く、春とはいえ夜の地下牢は底冷えする。拝借した鍵で地下牢の扉を開ける。さすがは子爵家。地下牢も手入れされていて、音はあまり立たない。

 

「こんな寝台に毛布……罪人に手厚いねぇ」

 

 オーストレスのポーレット邸で使用中の地下牢が一つだけであることはわかっていた。そして、目標がそこにいることも。毛布を頭まで被っている。まだ子どもの影。かわいそうだとは思うが、奴隷だから仕方が無い。

 

「自決できないお前が悪いんだ。恨むならお前自身と男爵を恨めよ」

 

 ナイフを振り上げ、突き立てる。正確には突き立てようとした。

 

 突き立てようとしたが、刺さらなかったのだ。感覚としては、金属を刺したような、そんな感覚があった。

 

「はい、そこまでです!」

 

 かけられたのは女性の声。振り返ればそこで腕を組んでいる子爵領の領主、レナ・ポーレットがいた。

 

「い、いつから……」

「最初からです。気づけないなら魔導師を名乗るのはやめた方がいいですよ冒険者さん。それとも、魔導具に魔力をつぎ込むのが専門ですか?」

 

 レナ・ポーレットは手元に光を集めて、消した。

 

「……認識阻害魔法」

「もう解析は終わってますので魔法ではなく魔導術です。仕組みは単純。空気中の水蒸気を上手いこと調整して光を屈折させるだけ。屈折量に限界があるので、明るいところだと使い物になりませんが、こういう場所ならいいですね」

 

 レナ・ポーレットはそう口にして笑う。

 

「くそっ……!」

 

 レナ・ポーレットに向けてナイフを投げつける。レナ・ポーレットは避けもしなかった。ナイフは彼女を突き抜け、壁にぶつかり甲高い音を立てた。

 

「なっ……!?」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 隠れていたのに姿を現したのではない。何もないところに幻影を生み出していたのか。本人はどこに。一歩踏み出した直後に衝撃。風の魔導? 壁に叩き付けられた後、なにもできずにへたり込む。

 

 レナ・ポーレットは収束系の魔導師で、発散系の発動は苦手だったはず。何の反応もなくこんな高速で魔導を発動できるわけが。

 

 動こうとしたら今度は空気に真上から押しつぶされた。地面に叩き付けられ頭を持ち上げるコトすらかなわない。身体が数十倍に重くなったみたいだった。

 

「……高いんですからね、この義肢」

「な、なんであの亜人奴隷じゃなく、お前が……」

 

 確か、レナ・ポーレットに付き従っていた不気味なガキだ。どうやらこのガキが魔導術を発動しているらしい。そいつは身体を起こし、サイズの合ってない甲冑の胴部を外しながら口を開く。

 

「硬いベッドのほうが寝やすいんですよ。……それに、あの子、ミネットにはきちんと証言をしてもらわないといけませんから」

「ま、まて。なんであの亜人の名前を知ってる? あれには、ちゃんと」

「ちゃんと沈黙の掟(オメルタ)をかけたのに?」

 

 レナ・ポーレットの声。足音が聞こえ、鉄格子の向こうから見下ろしてくる。風の魔導術が強まり、指先一つ動かせなくなる。動かれると困る相手。つまり、この子爵が本物だ。

 

「次があったらちゃんと術式を難読化した方がいいですね」

「難読化……そんなことが」

 

 息を吸うにも苦労する圧力に抗い、なんとか声を出す。

 

「できますよ。魔法解析ができる魔導師なら常識です。知られては都合の悪い知識もたくさんありますから」

 

 さて。と声がして鉄格子の向こうでしゃがみ込むレナ・ポーレットが見えた。

 

「これから、貴方にも魔導術を掛けます。眠るように意識を失うでしょうが、命に別状はありません。貴方はこれから、眠っている間に知っていることを答えてしまいます。例外なく、です。魔導で強制的に聞き出すので、貴方の意志は関係ありません。……だから、もし雇い主と約束しているとしても、約束を破ったことにはなりません。貴方が話そうとして話したことではないんですから」

 

 レナ・ポーレットは、淡々と告げる。

 

「……では、おやすみなさい。良い夢を」




哀れジョバンニ=クタバール冒険団

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