【書籍第一巻発売中!】公女様の義腕騎士-元官僚、異世界でホームレスから成り上がる-   作:笹木ハルカ

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お買い物デート

「それでは、少し休憩しましょう」

 

 アテンドをしてくれているヴィクトリアさんに促されて喫茶店に入る。事前に連絡がはいっていたのか、店内の貴賓室みたいなところが確保されていた。……ここに窓はない。投石対策だ。当然、僕たち以外に人はいない。公爵公女の安全確保のためには仕方のない措置だろう。

 

「ありがとうございます。……採寸というのは、あんなに疲れるものなんですね」

王の寵児(キングス・スカラ)ともなれば、それ相応の品格を求められますからね」

 

 ヴィクトリアさんにそう言われつつ席に着く。高級な椅子に白いテーブルクロス。慣れてきたというべきか前世を思い出してきたというべきか悩むが、違和感なく受け入れられるようになってきたのは確かだ。

 

 それでも、疲れるものは疲れる。

 

 生活が変わるということだから、お金が掛かるのは当たり前といえば当たり前なのだが、行く先々でとんでもない額の値札がついているのを見てしまった。これらを入学時に払える家庭か、王家に払ってもらえるほどに優秀でなければ教育は受けられない。この世界における教育はまだまだ贅沢品だ。

 

 だけど、奨学金制度の王の寵児(キングス・スカラ)があるので、僕もリコッタも財布を出す必要がない。入学許可証を見せると必要なものを店員さんがまとめて用意してくれるし、待ち時間には冷たい飲み物がサービスされるし、購入した荷物は基本的に寮に運んでもらえるという好待遇。

 

 だから思ったより楽に終わるかと期待したが、そうは問屋が卸さない。採寸は僕がいないとどうにもならないし、腕周りは義肢の関係で身長に比べてゴツいので、特別に調整してもらわないといけない。最終的にはリコッタの採寸を終えた店の女性オーナーが飛んできて追加でいろいろ確認された。

 

 そんなこんなで、気疲れしてしまったのである。

 

「どこにいっても王様みたいに扱われる……」

 

 その扱いの良さというか、あまりのちやほやぶりに僕は辟易している。けろっとしているリコッタがうらやましい。これが貴族か。安易に憧れたら痛い目をみるのだと今さらながら考える。

 

「まあ……リコッタ様とご一緒ですからね……」

 

 ミネットが僕と同じような遠い目をしている。本当はミネットにもヴィクトリアさんにも席について休んでもらいたいのだが、お店の方の目がある状況なので、そういうわけにもいかない。それぞれの主人のそばに控えてもらうことになる。まあ……ミネットのご主人様は僕ではなくポーレットさんであるのだが。

 

「さすがバリナード公爵家のお膝元……人気者ですね」

「リコッタ様ですから当然です」

 

 ヴィクトリアさんが胸を張る。どこか気恥ずかしそうなリコッタが口を開く。

 

「ちょうどリチャードが生まれたのもありますし、とと様もお祝いということで恩赦や減税を打ち出したそうです。たぶんそのせいもあります」

「リコッタ様がお生まれになったときもそれはもう華やかな空気になったものです。今回もそれにあやかっていろいろな催しをしようと商人達が躍起になっているそうですよ」

 

 戦争の火種がずっと燻っているこの公爵領で、こういった手放しで喜べそうなイベントは貴重なのだろう。そんな情勢のなか入学準備のためという名目で公爵家の長女が街中を練り歩くのだから話題にもなる。

 

「それにしても、リコ様の後ろからついていっただけの僕まで同じ待遇になるのは予想外でした」

「それはそうですよアオ様。アオ様も王の寵児(キングス・スカラ)なのですから」

 

 リコッタにそう言われるが、僕はやっぱり腑に落ちない。王の寵児という大仰な名前がついているが、それは奨学金制度であって、成績がいいから偉いというわけでもないだろうに。

 

「どういうことです?」

王の寵児(キングス・スカラ)は、王国が庇護すべき人材だと国王陛下がお墨付きを与えるものです」

「はい」

 

 リコッタが人差し指をぴっと持ち上げて楽しそうに説明をする。伊達メガネとかも似合うかもなぁと、そんな関係ないことを考えた。

 

「その扱いは当然、王の家臣としてのものになります」

「えっと……つまり?」

「今日のアオ様とわたくしの扱いは、男爵や公爵の長女としてのものではなく、王の寵児(キングス・スカラ)としてのものなのです」

 

 それってそんなに重大なことだろうか。どうも腹落ちしない。難しい顔をしてしまっていたのか、ヴィクトリアさんが補足してくれた。

 

「リコッタ様の言うとおりです。グレイフォート学院の教科書や制服を販売するには王家の免状が必要です。そこで万が一にも王の寵児(キングス・スカラ)を蔑ろにしたと王宮の耳に入ってしまったら、免状の剥奪はもちろん、もう二度と王国内でまともな店を開けなくなる可能性すらある一大事。ですからリコッタ様とアオ様の扱いは一律に王家への扱いと同格でなければならなかったのですよ」

 

 ……こうなるなら、適度に手を抜いておけばよかったか? なんて、できもしない選択肢を考えてしまう。有名になると動きづらいことこの上ない。

 

王の寵児(キングス・スカラ)は、制服着用時において専用外套……男子ならば白のマント、女子ならば白いクロークの着用が許されます」

 

 クロークというのはマントのようなものらしい。着丈がマントよりわずかに短いマントらしい。……それはマントで良くないか? と思わずには居られないが、伝統らしいので仕方がない。

 

「この『許される』というのは、王の寵児(キングス・スカラ)として学校に在籍する限り、その外套を()()()()()()()()()()()()ということです」

「はい」

「そして、グレイフォート学院の生徒は、原則として校外に出るときは制服を着用しなければなりません」

「…………ヴィクトリアさん。これまでの話を勘案すると、僕はこの先四年間ずっと今日のような扱いを受け続けるから諦めろと仰ってます?」

「はい。慣れていただければと」

 

 さらりとそういうヴィクトリアさんに僕はくらりとする。

 つまり、それにふさわしい振る舞いを四六時中維持し続けろということだ。貴族になるというのはそういうことだと頭ではわかっていても、事実として突きつけられると結構重たい。

 

「…………なんというか、勘違いしそうになりますね」

「勘違い……ですか?」

 

 リコッタが首をかしげてきいてくる。

 

「敬われているのは国王陛下であって、王の寵児(キングス・スカラ)という身分であるということです。向けられた敬意は自らの能力によるものではないということを本当に意識しつづけなければ、自分が壊れてしまいそうです」

 

 その観点を見失い身分や職権に溺れた結果、自分で自分の首の周りに真綿を詰め込んでしまうのだ。そうして静かに窒息し、墜ちていく。大人でもそうなって自沈していく人は多いのに、そうなりうる状況に六歳そこらの少年少女を晒すのは結構なスパルタだな、グレイフォート学院。

 

「……そう、ですね。アオ様の言葉でわたくしも目が覚めました」

「リコ様?」

「ポーレットさんもアオ様も、身分という(ふるい)を通さずに頑張っていらっしゃるのに、いつかポーレットの家名をいただくわたくしが、それに甘えてはなりませんね」

 

 ……なんだか重たい決意をされたぞ。どう話を着地させよう。

 

「まあ、僕やポーレット卿は貴族として異端でしょう。ですがそれが公爵閣下や国王陛下にとって必要な力になると信じています。……異端であると知ってなおそれを貫くのはきっと大変でしょう」

「でも、アオ様はそれをなそうとしている」

「はい」

「ならば、わたくしも通るべき道ですよ、アオ様」

 

 この子本当に六歳児か?

 

 リコッタはやさしく僕を見る。言うべきことは言ったということだろう。

 

「……おみそれしました」

「ふふっ、これでも、公爵家の長女なのです」

 

 いつかこの子に勝てるんだろうか。そんなことを思っていたらケーキが運ばれてくる。たっぷりと砂糖を使った甘ったるいケーキ。たぶん高級だし、物珍しい部類なのだろうが、僕にはちょっと甘すぎる。無糖の紅茶があって良かった。

 

「美味しいですね」

「はい」

 

 にぱっという擬音がつきそうな笑みを浮かべるリコッタ。甘すぎるけど、まぁ、いいか。そんな判断をしてしまう僕は、たぶん甘いのだろう。

 

「そうだ、アオ様にお渡ししたいものがありまして」

 

 おやつが終わったタイミングで、リコッタにそう声をかけられる。

 

「なんでしょう?」

 

 席を立って回り込んでくるリコッタ。僕が立とうとしたら小走りでこちらにやってきて、その小さな手で椅子に戻される。

 

「目を、瞑っていただけますか?」

「? はい」

 

 言われた通り目を瞑ると、細い紐のようなものが顔にあたる。たぶん、ネックレスのような何かを首にかけられた。

 

「……」

 

 なぜか、そこで暫く間が空く。

 

「……リコ様?」

「ひゃっ!? ど、どうぞ目を開けてくださいっ!」

 

 ゆっくり目を開けると、想像よりも遠くで真っ赤になってるリコッタ様。口元を隠すようにしていた。待て、本当に何があった。

 そしてミネット、なぜ君まで口元を覆ってこちらを見ている。あとヴィクトリアさんは目を逸らさないでほしい。

 

「……封魔結晶?」

 

 首元に増えている丸い結晶を手にとる。ほのかにだが、リコッタの魔力が感じられる。魔力飽和体質の治療に使ったものだろう。

 

「……アオ様に、持っててほしくて」

「あ、ありがとうございます。大切にしますね……」

 

 ものすごく間抜けな返事をした気がする。

 

 どうしよう。こっちはなにも用意してない。

 

「……本当は僕も何か用意できていればよかったんですけど」

 

 ポケットを探る。リコッタも使えて、今手元にあるものというと、これくらいしかない。

 

「なんだか、交換みたいになっちゃいますね」

 

 渡したのは歪な六角柱の形をした封魔結晶だ。僕はリコッタみたいに魔力が多いわけでもないので、あまり魔力も充填されていない。僕の魔力の気配はちゃんと確認しようとしないと読み取れないほどだ。

 僕が渡した封魔結晶は紛失防止のためにチェーンはついているが、男物のデザインでリコッタには似合わないだろう。こんどリコッタに似合うチェーンを買って付け替えてあげよう。というより、そのあたりで勘弁してもらわないと僕がしんどい。

 

「ありがとう……ございます……! た、大切にします!」

 

 大切そうに包み持つリコッタ。そういえばこれまでリコッタに何かをプレゼントするということはなかった。お世話になっているんだし、もっと気を使わないといけない。

 

「そういうところですよ、アオ様」

 

 ヴィクトリアさん、さっきからなんなんですか。どういう所なんですか。




プレゼント交換って……いいよね

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