【書籍第一巻発売中!】公女様の義腕騎士-元官僚、異世界でホームレスから成り上がる- 作:笹木ハルカ
入学式の前日、バリナード城に呼ばれることになった。制服が届いたらしく、記念にリコッタの肖像画を描くとのことで、なぜか僕まで呼ばれてしまった。ミネットは宿で留守番してもらい僕だけ登城することになった。
なったのだが……
「……なんでポーレットさんまでいるんですか?」
「トマス閣下にお呼ばれしたからです。それに、私もアオの制服姿をちゃんと見たかったんですもん」
そんなことを言うポーレットさんは、普段のズボンスタイルではなく、きちんと正装のドレス姿である。淡い緑色のドレスに赤い大綬の帯をかけている。……ポーレットさん、騎士団に所属してたのか。貴族は義務としてどこかの騎士団に一つ以上所属しないといけないらしい。とても失礼な感想だが、ポーレットさんに騎士は似合わないと思う。
「それとも、アオは会いたくなかったですか? 私は会いたかったですけど」
「……会いたかったですよ、もちろん。だからといって……わぷっ」
「もう、かわいいんだから!」
頭ごと抱きしめられる。苦しい。降参のつもりで腕をタップしたら窒息寸前で解放された。
「それにしても……本当に似合ってるよ。制服」
「ちょっと派手で目立ちませんか、これ……!」
僕はその場で腕を軽く広げてみせる。くるぶしまである純白のマントの裏地は濃い青。このマントは隠しボタンなどで固定されており、両腕を垂らすと、左半身がマントに隠れるようになる。逆に右半身はマントを肩にかけて、裏地の青色と黒い制服が見えるように調整されている。黒いスラックスのサイドにも同じ青色の線が入っている。開襟のジャケットはボタンのほかに、白い腰ベルトで締めるスタイルだ。学年が進んで武道大会で優勝したりすると、このベルトに剣を提げられるらしい。
普通の生徒ならマントは基本黒色で、グレイフォート学院の生徒のことを親しみも込めて『カラス』と呼ぶらしいのだが、
これでも十分派手なのに、ケピ帽とでもいうべきか、円柱型の胴体に鍔がついた帽子をかぶることになる。これも
それに僕は学年首席ということで、右肩には青い飾緒を付けなければならないという。初学年は入学試験の1位が、それ以外は前年度の最優秀者が着用必須とのこと。しばらく大変そうだ。
「でも似合う似合う! せっかくの晴れ舞台だもの、きれいに描いてもらわなきゃね」
話を聞くと、リコッタが僕と並んだ肖像画も欲しいとリクエストしたらしく、ならいっそのことということでポーレットさんにも声をかけたとのこと。二つ返事で飛んできたポーレットさんもおめかしして、僕と並んだ絵画を描いてもらうらしい。僕単独のものとリコッタと二人のものも作るし、それとは別にリコッタ単独やリチャード様を含めた公爵ファミリー勢揃いのものも当然作るので、今日だけで6枚も肖像画の下絵を描くというから、画家も大変である。
ポーレット家に飾る2枚はもちろんポーレットさんがお買い上げ。ポーレットさんと僕が描かれたものは、執務室の壁にデカデカと飾るととても楽しそうに語られた。相当恥ずかしい。
「アオ様! ポーレットさん! おまたせしました!」
入ってきたのは一緒に写ることになるリコッタ様。当然彼女も制服なのだが、なんと膝丈のプリーツスカートである。子どもとはいえ公女様にそんな丈の短いの履かせていいのかと思うが、いいらしい。
「どうですかっ!? 似合いますかっ!」
リコッタがその場で回ってみせる。セーラーブレザーとでもいうのだろうか。ジャケットの襟をセーラー襟に置き換えたようなデザインで、グレーに近い黒のジャケットはよく似合っている。ハリエットのときといい、なんだかこのあたりの制服はアニメみたいだ。
たぶんその印象は真っ白のクロークのせいで強まっているように思える。ひざ丈のマントのようなクロークは、男子生徒用と異なり、着るとすっぽり身体が隠れるデザインだ。これにベレー帽をかぶるのが正式で、真っ白だとどこかてるてる坊主のようにも見える。
正直、かわいいと思ってしまった。なんというか、小動物感がましたと言うか、なんというか。
「よ、よく似合ってます」
「リコッタ様も白がお似合いです。髪とよく映えて……」
きちんと言語化して服を褒められるポーレットさんはすごい。僕には無理だ。
「アオ様もよくお似合いです!」
そう腕を取られる。触覚がないはずなのにどこかくすぐったい。
現実逃避で視線を逸らしたら、ちょうど画家さんらしい男の人が公爵閣下と入ってくるところだった。右手を胸に当てて敬礼をする。
「うむ、堂々たる着こなしだ。アオ、少し筋肉もついたか」
「お陰様で。今日はお招きいただきありがとうございます」
「なに、娘のためだ」
そんな会話を交わしていざ肖像画作成タイムだ。椅子に腰掛けたリコッタの後ろに僕とポーレットさんが立ってスケッチ。どうやら1枚だけ下書きをして、それを分割したりいろいろするらしい。直立不動でずっといなきゃいけないなんてこともないらしく、談笑しながらのスケッチだ。それを公爵閣下は満足そうに眺めている。
そういえば、リコッタと僕が揃って公爵閣下の前でフリートークをするのははじめてかもしれない。制服のこと、教科書のこと、寮のこと。基本的にはリコッタが話してきて、僕が応える形で会話が進む。いまだに気を使うが、少しずつ慣れてきた。
そんなことをしてるとあっという間にスケッチ終了。ひと月ちょっとで完成品を持ち込んでくれるらしい。僕には関係ないんだけど。完成品を見ることができるのはたぶん年末だ。
「さて、レナもアオも少しいいか?」
「もちろんです」
画家が退出してすぐ、公爵閣下に声をかけられる。その手にはビオネッタさん経由で渡してもらった直訴状がある。
「リコは……」
公爵閣下がそこまで言ったタイミングで僕の腕を掴んで背中に回るリコッタ。僕を盾にする姿勢だ。
「わたくしも同席しますわ」
「……退屈かもしれないが」
「とと様とアオ様のお話ですもの。一つも退屈なんて感じません」
「……アオもそれでいいか?」
つくづく公爵閣下は娘に弱い。僕が言えた口じゃないけど。
「公爵閣下に支障がなければ構いません」
「わかった。では、リコも同席して良い。ついてきてくれ」
この格好のままか。というより場所を変えるならほかに誰かいるのだろうか。ついていくと、ポーレットさんが耳打ちしてきた
「アオ、何をしたの?」
「オーストレスにも封書を送ったのですが、届いていませんでしたか?」
「入れ違いかな……私はなにも」
そう言われてちょっと考え込む。もともとポーレットさんはこの場にいない想定で動いていたから、同席そのものには、あまりデメリットもない。このまま進むのがいいだろうか。
「話すと長くなるので、公爵閣下との場でお話しします」
ポーレットさんはどこか不安そうというか、不服そうだが、一旦納得してくれたらしい。僕たちは公爵閣下の先導で面会室に到着。
中に待っていたのは二人の男性と、その対応をしていたヴィクトリアさん。……記憶違いじゃなければ、男性うち一人は肖像画で見たことがある。もう一人は会ったことはないはずだが、どこかでその顔に覚えがある。どこだろう。思い出せない。
「待たせたなアーヴィング、ウィズもお待たせして申し訳なかった。紹介しよう。この子が新生オーストレスのフィッツロイ男爵、初代男爵になるアオ・ポーレットだ。非公式ではあるが、リコの許婚第一候補だ。かなりのやり手だぞ。アオ、彼はアーヴィング・チャップマン、公爵領の宰相を任せている。こちらはシェフィード市市長のウィズ・ファルマン」
やはり、一人は宰相だった。公爵領における実務を取りまとめる実質的な最高権力者だ。もう一人は公爵家からの信任をもってこの城下町を管理する市長。権限を持つ人間をきちんと集めてくれた。
公爵閣下に届けてもらった僕の書類はちゃんと効いたわけだ。
「はじめまして、チャップマン卿、ファルマン卿。アオ・ポーレットでございます」
「閣下……あの提案書を、こんな子どもが……?」
「ウィズ、言ったはずだぞ。それとも、私が子どもだからと言って甘く査定をすると思うかね?」
「いえ……ですが、信じられません」
「彼の実力は本物だ。少なくとも、オーストレスの広域水利連絡会の発起人は彼だ。そうだな、レナ?」
ポーレットさんにキラーパスが飛んだ。
「ひゃ、は、はい! 女神ディアナと子爵の名誉に誓って申し上げますが、アオが構想を練り、規約案の作成や水資源管理の素案を組み立てた事に間違いありません」
ポーレットさんの宣言を聞いて、ファルマン市長はよろよろと机に手をついた。かろうじて立っているといった様子だ。チャップマン宰相は、真顔で僕を見ている。振り返れないが、ポーレットさんが後ろでワタワタしてるのを感じる。
おそらく、チャップマン宰相は僕のことを聞いていたが、ファルマン市長には伏せていたな。サプライズ好きだ、公爵閣下。
「君がヴィクトリアを通して出してくれた提案はすでに二人に見てもらった。ウィズはこの提案をまとめた男爵を政策顧問として招聘させてくれと昨日からうるさくてね」
公爵閣下はそういう。ファルマン市長はどこかまだ信じていないようだ。その紫がかった目の色がどこか記憶の奥底に引っかかっている。どこだろう。
「……確認ですが公爵閣下、僕の情報についてはどこまでお話しされていますか?」
「謀反を企てたフォリオ家の陰謀を暴き、その功績をもってフィッツロイ男爵を下賜した農業政策に明るい新興貴族がいると伝えていたが、何か問題があったかね」
「……ありませんが、年齢については?」
「必要がなかったから連携しなかった。君も年齢で甘く見られたくはあるまい?」
農業は専門じゃないし、年齢を考慮してくれと言いたいところだが、ここで楯突くのは悪手だ。
「はい。こちらの意を汲んでいただきありがとうございます」
掛けようかと促され、ロの字型に組まれた会議机へつく。リコッタが公爵閣下の隣ではなく、僕の席の側に座りたがって一悶着あったが、なんとか公爵閣下の方に座ってもらった。僕の隣のポーレットさんは居心地が悪そうである。
公爵閣下は僕を見る。ぞっとするほど冷たい目だった。
「さて、アオから預かった提案書……『硝石生成工場の設置について』だが、君はいったい何をする気だ?」
また新しいことが始まります。作者の知識量が追いつかない……!
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