【書籍第一巻発売中!】公女様の義腕騎士-元官僚、異世界でホームレスから成り上がる-   作:笹木ハルカ

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第三部開幕です。よろしくお願いいたします。

直前でまたストーリーの変更が発生しました……頑張るぅ……


飛空魔導騎士団設置構想
なんとも華麗な登場


 この世界にアオ・ポーレットとして産まれてからの六年ちょっとで、人生というか、生活がガラリと変わってしまった日というのが三回ある。

 

 一回目は記憶もない頃だが、親に捨てられてホームレスになった日。

 二回目はバリナード公爵家第一公女リコッタ閣下を後先考えずに助けてしまった日。

 そして、三回目が三日前……お師匠様というか、幼なじみというか、暴君な姉貴というか……ともかくホームレス時代にいろいろ仕込んでくれた恩人のハリエットがメイド服を来て帰ってきた日である。

 

 ハリエットがサプライズ登場した後、クラスメートの質問攻めにあった。そりゃそうだ。いきなり年上のお姉さんが乱入してきて僕の姉を自称し、リコッタと仲良く話していたら嫌でも興味を引く。アーノルドからは『もう側室がいるのか、やるな』と感心されたがやめてほしい。側室を取れるほどの甲斐性があるとは思えないし、あったとしても自称姉を側室にするのはスキャンダラス過ぎる。もっとも、貴族にとっては子を残すのは義務なので、法律でこそ認められてないものの、側室を抱えるのは『嗜み』であるという。倫理的に本当に大丈夫かヴェッテン王国。

 

 まあともかく、そんなこんなでハリエットが戻ってきたことで、僕の評価が乱高下している。ただでさえ『上級生を決闘裁判でしばき倒した』、『公爵家長女の婚約者』、『公爵領史上最年少の参事官』などの評価がついた上で、なんかヤバい女を公爵家に縁故採用でねじ込ませたみたいな評価が出てきているらしい。僕だって知らないよそんな評価。

 

 しかもよりにもよって、聖ディアナ騎士団……公爵家直属の実質的な親衛隊所属である。公爵ファミリーには騎士団から護衛担当がつくことになり、リコッタの場合は第一公女特別警衛班がそれを担当。その団員は従者として振舞う必要もあることから、腕利きの戦闘要員であることは前提として、身の回りのお世話担当としても振舞う必要がある。つまり彼女たちは騎士としてもメイドとしても特殊な戦うメイドさんだ。

 

 そんな中の一人として帰ってくるとは予想だにしてなかった。……まあ、封魔結晶をリコッタからもらったりしていたようなので、おそらく公爵閣下やリコッタから強い要望があったのだろう。ちょうど半年前くらいにリコッタの弟にして長男のリチャード閣下がお生まれになり、彼が自由に歩き回れるようになると、そちらの警衛部隊の拡充もある。それを見越した増員ということだろう。

 

 それにしても……。

 

「ハリエットが、騎士かぁ……」

「なに、文句あんの?」

 

 僕の後ろ、馬車の御者台の方からめざとく声を掛けてくるハリエット。

 

 今日はリコッタの誕生日で、僕もお城のパーティーにお呼ばれしている……というか、宰相執務局の参事官として参加する公務なのだ。今日の業務はリコッタの後ろをついて歩き、情報の整理とタイムキープをすること。要は付き人だ。その役得もあって今は公爵家のリコッタ専用馬車に同乗している。向かいに腰掛けるリコッタ様は笑顔で沿道に向けて手を降っている。

 

 ハリエットは御者台の脇に立ち周辺警戒中。ハリエットの魔力が時折波長を変えて放出されているのが見えるから、目視だけでなく、周囲の魔導術のサーチもしているのだろう。

 

 御者台へと通じる窓越しにちらりと見ると、彼女の肩が見えた。銀色の髪が風になびいている。

 

「文句はないけどさ……」

 

 ハリエットは発散系の魔導師で確か今は二級魔道師だ。二級というと魔導師部隊でも中堅を張れるレベルらしい。まだ十三歳かそこらだから、若手としてかなり優秀といった部類なんだろう。……僕も偉そうに語っているが、ハリエットは少なくとも僕より強い魔導師だ。ポーレットさんやシャルちゃん先生を見慣れていて感覚が麻痺しているけれど、強い魔導師であることに違いない。

 

 まだ子どもの女の子がどこのギャングとも距離を取って浮いていた。そんな『不用心』な状況でも路地裏で生き残ってきたのにはそれなりの理由がある。礼節と教養とデリカシーと……あと、礼節を身につければこれ以上ない護衛となるだろう。

 

 ハリエットは礼節を気にする前に明日のパンと誰かのナイフを気にしながら生きるしかなかったから、礼儀作法やプロトコールなんて文字通り知らなかったはず。魔法学院でかなりマシになったのだろうが、リコッタと僕に魔導術を教えに来たときの振る舞いは、及第点すら怪しい状況だった。……まあ僕もそうだったし、リコッタが楽しそうだから周囲も目を瞑ってくれただけだ。

 

 だが、ハリエットが正式に公室お抱えになるなら話が変わる。それはもうきっちり振舞いを叩き込まれる。

 

「結局ハリエットは今日も会場は出禁なのかい?」

「出禁とは失礼な。適材適所って言ってよ。高台からの魔力監視も立派な任務よ」

 

 ハリエットの指導役は特別警衛班班長を解任されて余力のあるヴィクトリアさんだ。ハリエットが来てからまだ数日で、学校もあるから四六時中ハリエットの様子を見ているわけではないものの、見るたび見るたび正座させられてたり、水がたっぷり入って重そうな水差しを乗せたおぼんを持たされて部屋をひたすら往復させられてたり、まあ大変そうである。

 

「今に見てなさいよ。すぐにでもちゃんとリコッタ閣下のそばで警衛に入れるようになるんだから!」

「……頑張ってね」

 

 ハリエットがパーティー会場でサービングに入るのはしばらく先だろう。

 

「そうは言うけど、あんたも原因作った元凶なんだからね?」

「どういう意味?」

「どっかの誰かさんが路地裏の恨みを買ったせいでリコッタ様が死にかけた」

 

 ……そういう扱いになるのか、僕のアクションは。

 

「それで護衛の増強を目的に専属の魔導師を雇った……と」

「そ。同性で年齢も近い人間が武器無しで大立ち回りできるってのは貴重らしいよ」

「そりゃそうだろうけどさ」

 

 まあ、だからこそヴィクトリアさんがほぼつきっきりで鍛えているわけだ。早々に戦力化してもらわないと困るということだし、なによりリコッタ暗殺未遂事件は何度か起きている。

 

 僕の沈黙をどう捉えたのか、ハリエットがクスリと笑う。

 

「安心しなさいな、アオ。女子寮やお風呂はアンタの分まできっちりたん……じゃなかった、護ってやるからさ」

「いま堪能って言ったか?」

「言ってない言ってない」

 

 ハリエットはもう一度ヴィクトリアさんにボコボコにされたほうがいいと思う。

 

「ま、冗談はともかく」

 

 多分リコッタに聞かれないようにだろう。声のトーンがさらに低くなる。

 

「それに、何かあっても親すらいない私なら握り潰すのも簡単でしょ。これほど扱いやすい護衛はいないわ」

「閣下はそういうことはしないよ、きっと」

「その閣下はリコッタ様のこと? トマス様のこと?」

 

 僕は答えない。どちらにしても僕は答えられる立場にないからだ。

 

「……ま、相場よりもいい値段で()()()くれたわけだし、公爵閣下にもリコッタ様にも恩がある。それ相応の働きはするわよ」

「……なんというか、変わらないね。ハリエット」

「あんたもね、アオ」

 

 ハリエットの声からして、笑ったようだった。

 

    †

 

 お城の大広間には僕も初めて入った。……本来ならこの大広間より先に執務室やらリコッタ様の個室やらに入れている方がおかしいのだが、今更気にしていられない。

 大広間の造りは豪華絢爛。大理石をふんだんにつかった飾り柱に金箔で額装された巨大な肖像画。高い天井からは公爵領の旗や各貴族の旗が下がり、見上げるとひっくり返りそうだ。

 

 そんなところに百数十人がひしめくのだから、そりゃあ大変だ。こんななかでリコッタに一声かけようといろんな人が寄ってくる。その中でタイムキープをする必要があるので、僕は貸し出された懐中時計とにらめっこしつつリコッタについて行く。ちょうど今はメインの挨拶は終わって歓談タイム。リコッタの誕生日パーティといいつつも、これを機に遠方の貴族などと繋がる為のイベントでもある。ところどころに貴族の島ができているので、リコッタはそれをちょこちょこと周りながら挨拶をしていく。

 

「タンジー卿、ご無沙汰しておりますっ!」

「おお、リコッタ閣下もお加減がよろしいようで」

 

 恭しく礼をしたのはポーレット子爵領の配下にあるタンジー男爵。僕もオーストレスでの騒動以来久々に会う。義足に杖をついているものの、それでも振る舞いは武人そのものだった。

 

「その後はいかがですか?」

「すこぶる順調でございます。リコッタ様にもご覧頂いたトマトも無事実をつけることがかないました。来年にはおそらく献上できるほどに仕上がるかと」

「まあっ」

「これも公爵家の皆さまが賢明な判断をされているおかげであります。閣下にご挨拶いただいたオーストレス広域水利連絡会が中心となって、農業もようやく他領と見比べて恥ずかしくない程度には育って参りました。閣下の慧眼と献身に心から御礼申しあげます」

 

 うれしい報告だがタンジー男爵もリコッタも僕をチラチラ見てくるのをやめてほしい。タンジー男爵はリコッタへの挨拶にかこつけているものの、これは僕に『発案者なんだからもっと主体的に関われ』という圧じゃないか。したたかな男爵だ。

 

「ありがとうございます、タンジー卿。ですがそれは、オーストレスの皆さまのお力ですわ。是非とも誇ってくださいまし。いつか、取れたてのトマトをいただきにまいりますわ」

「それでは是非とも夏に。オーストレスの夏は冷涼で、避暑にはもってこいです。領民一同、心よりお待ちしております」

「リコッタ様、そろそろ」

 

 合間を見て僕から声を掛ける。頷いてくれるリコッタ。

 

「それではタンジー男爵、ごきげんよう」

「公爵領に栄光のあらんことを」

 

 挨拶をして去って行くタンジー男爵。

 

「……ふぅ」

「少しお水でも飲まれますか? 話しっぱなしで喉が渇くでしょう」

「いえ、大丈夫ですよ、アオさま」

 

 リコッタは気丈にそう言って笑ってみせる。……無理をしてるな、これは。

 

「いえ、僕も喉が渇きました。一緒にどうです?」

「……そういうことなら、よろこんで」

 

 挨拶に来る人達は大分落ち着いてきた。おそらくリコッタはお手洗いを気にして水分を取っていない。さすがに心配になる。

 

「あの……ポーレットさんは」

「来てますよ。あちらに」

 

 そう答えてパーティー会場の端に目を送ると、すぐに目が合った。緑色のドレス姿で小さく手を振ってくれた。リコッタが振り返しているが……あれは僕に向けてだな、たぶん。明らかにリコッタを視線で追っていない。

 

「あんな末席じゃなくても……」

「序列というものがあるのですし、近々たっぷり話す機会もあるので、遠慮しているのでしょう」

 

 そう答えつつ、寄ってきたメイドさん……ビオネッタさんから飲み物を預かり、リコッタに渡す。

 

「アオ様もどうぞっす」

 

 僕に差し出されたのは黄色いドリンク。……なにもなければミント系の緑色のドリンクが来るはずだが、トラブル発生のようだ。

 

「ありがとうございます」

 

 リコッタ様には好みだという柑橘系のドリンクが当たっている。僕もグラスを飲み干しさっとビオネッタさんに返す。受け取るときの指の動きで情報を把握。コードは二の三、不明な魔導術の使用の痕跡を確認、要警戒。

 

「ハリエットは?」

「東で警戒中っす」

 

 ハリエットは城の見張り塔にいたはずだが、既に動いているらしい。敵襲でほぼ確定だろう。こういうときの爆発力には信頼が置ける。ちらりと視線を送ると……ポーレットさんが消えている。おそらく、気がついて応援に出た。さっきの僕に手を振った意味は『いってきます』だったか。

 

「リコッタ様」

「アオ様?」

「少し早めに前に戻りましょう。時間が少々押しているようです」

 

 そう言うと素直ににこりと笑ってくれるリコッタ。フリルをふんだんにつかったドレスのおかげで、かなり丁寧にエスコートしなければならない。ゆっくり、確実に前へ。

 

 正面のステージまであと少しと言う場所で、強烈にハリエットの魔力を感じた。方向は後ろ。振り返ると同時にドン! という腹の底に響く音がした。……が、それだけだった。

 

「……なんでしょう?」

 

 リコッタが首をかしげている。

 

「さあ、きっと誰かがいたずらでもしていたんでしょう」

 

 そう言って笑ってみせる。一瞬だけだが、ポーレットさんの魔力も感じた。ハリエットの魔導攻撃のアシストというか、多分防御するようななにかを使ったのだろう。……おそらく正面の扉の向こうは酷いことになっている。

 

 明らかにまとう空気が変わっているのが貴族たちの三分の一といったところ。おそらく戦場を知っている面々だ。奥さんやお子さんを帯同しての参加者も多いので、父親の顔だった男爵や子爵が一気に戦場の顔になっている。その中でもぶっちぎりの怖さで臨戦態勢になっているのは……トマス・バリナード公爵閣下。今回のホストであるが、ここで閣下が飛び出すと誰の面子も立たないのでとりあえず押さえてもらうしかない。

 

「さあ、挨拶の準備をしましょう、リコッタ様」

「……はぁい、アオ様」

 

 騙されないぞ、という視線を僕に向けつつもリコッタはちゃんと従ってくれる。とてもありがたい。今晩はいろいろ言われるかもしれないけれど。

 

「――――――――トマス・バリナード、お覚……ごっ!」

 

 賓客の中からそんな声が飛ぶが、僕やリコッタが反応するより早く、周囲の貴族にボコボコにされている。みな安全のため帯剣をしていないせいで本当に殴り飛ばしていた。さながら集団リンチであまりに教育に悪い光景だ。お父様方はこの場には僕含め子どもがいることを忘れてないか。

 

「閣下」

「祝いの席でもこうなるか。今日はリコの誕生日だぞ。子どもの健康ぐらい素直に祝わせてほしいものだが」

「……同感です」

 

 僕はそう返しつつ、リコッタを背後に庇う。外の魔導反応も落ち着いているようだ。僕も魔力を一瞬だけ解放して周囲を探る。何人か驚いた様に僕を見てくる人がいる……たぶん、魔導術に明るい貴族なんだろう。

 

「……ん?」

 

 怪しいといえば怪しい反応があるが……ポーレットさんやハリエットが攻撃していないあたりは味方だろうか。

 

「アオ」

 

 僕の反応にめざとく気がついた公爵閣下が僕を見てくる。

 

「誰か来ますね」

 

 端的に答えて、一歩だけリコッタの方に戻り、僕を盾にさせる。直後にドアがバァン! と派手に開いた。

 

「バリナード公! 無事か!」

 

 臨戦態勢を取っていた僕だったが、公爵閣下がすぐに待てと手で合図。入ってきた相手はきっちりとした服装に何人か……ざっと目で追うと入ってきたのは九名、指揮官一人と八名一個班といったところか……引き連れている。男性にしては長い緑がかった髪を後ろで束ねている。男性で長髪となると、基本的には魔導師だが、それにしては身なりがおかしい。ゴージャスすぎる。年齢で言えば二〇代の前半かそこら……公爵閣下よりは年下といったところか。

 

 そんな年齢で公爵閣下を単純に「バリナード公」と呼べる相手は限られる。少なくとも公爵以上だが、儀礼称号で公爵が与えられる者はいない。そして……あの紋章は見覚えがある。グレイフォート学院には似た紋章が掲げられているし、王の寵児(キングス・スカラ)としての認定証には同じ紋章がある。

 

「アルフォンス・リンスター=ヴェッテン第三王子殿下、ご無沙汰しております」

 

 恭しく礼をする公爵閣下、アルフォンス王子は豪快に笑って見せた。

 

「祝い事があると聞いてな、飛んできたのだ」

 

 ……この王子、お祭り男かなにかか?




ということで、年内は週一回更新で原稿を回復させつつ頑張って参ります。

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次回 黙れよロリコン王子
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