【書籍第一巻発売中!】公女様の義腕騎士-元官僚、異世界でホームレスから成り上がる-   作:笹木ハルカ

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友人達との語らいを

「アオ、体調はどうだ」

「見てわからないか?」

 

 なぜかお城にやってきているアーノルドにそう返す。その後ろに隠れるようにアイリスまで居るのはなぜだろう。

 

 ここはバリナード城内の東屋。お庭を散歩したり昼寝をしたりいろいろとリコッタ様にエスコートされてちょうどおやつ時。外で食べたいというリコッタのリクエストでここにいたのだが、衛兵に案内されてきた二人がものすごい生暖かい笑みを浮かべている。

 

「いや、リコッタ様にあーんされてたから自力でケーキを食べることもできなくなったかと……」

「そこまでではないんだけどね……」

 

 横のリコッタに口元をハンカチでグイグイ拭かれて言葉を切る。

 

「今日はアオ様を徹底的に甘やかす日と決めているのです。アイリスとアーノルドもどうぞ掛けて。お茶にしましょう? ヴィクトリア」

「はい、お二人の分もすぐにご用意いたします」

 

 ヴィクトリアさんが答え、メイド達に椅子を引かれて席に着く二人。そのまま丸いテーブルを囲むようになる。

 

「それにしても二人はどうしてここに……」

「わ、私はシャルちゃん先生に宿題を渡すように頼まれて……」

「俺は父上から『アオが謀反を起こしたから様子を見ておけ』って頼まれたからだな」

 

 それぞれから答えが返ってくる。アイリスはともかく、アーノルドの言い分には文句を付けたい。

 

「第三王子殿下がいきなりリコッタ様を連れ去ろうとしたから応戦しただけだよ」

「それを謀反って言うんだぜ。知らなかったか?」

 

 アーノルドはそう言ってニヤニヤ僕を見てくる。

 

「殿下には怪我もなく自らの意志でお帰り頂いたんだけどね……」

「なんで王族相手のアクションが『その場で応戦』なんだ。ファルマン先輩の時といい今回といい、首狩りウサギの血でも流れてんのか」

「なんだいその物騒なウサギは。それに僕が戦闘狂(ウォーモンガー)なら人の婚約者を、僕はおろかリコ様本人の許可すらなく目の前で略奪せんとするお方のことをなんて呼ぶんだい? 押し込み強盗?」

「アオ……お前マジで殺されるぞ」

「そんなことはバリナード公爵家が許しませんわ」

 

 リコッタがさらりとそう言う。……多分僕の見えないところで、エリザベート夫人からいろいろ言われたんだろうな、リコッタ様。

 

「ともかく、アオもリコッタ様も思ったより元気そうでよかった。表の衛兵の方が『お二人のご学友ということですので特別に』とか言ってたからどうなってるかと思ったんだが」

「あー……」

「ふふっ、アオ様は頑張り屋さんですからね。昨日もペンドルトン卿やセグレイヴ卿をこき使っていたんでしょう?」

「看過できない認識の齟齬があります、リコ様」

 

 僕はそう言うが誰も聞いていない。アーノルドがため息をついた。

 

「ペンドルトン卿ってあの方だろ、シェフィードの警衛部門のトップの。で、セグレイヴ卿は輜重部隊の偉い人だよな。本当に何やってんだ? 少なくとも男爵が顎で使って良い人達じゃないだろ」

「顎で使えと指示したのは公爵閣下だから文句は公爵閣下に付けてくれって言ってある。何やってるのって言われたら……そうだね、アーノルド流に言うなら『クーデター』の後片付けかな」

「後片付け……って、何をどうする気だ?」

「とりあえずいろいろ準備して、公爵閣下と母上で国王陛下に直談判に行ってもらうことになった」

「殴り込みかよ」

「大体準備はできたっぽいんだけど……調整役から外されちゃってね。今はチャップマン宰相と母上が多分最終調整中のはず」

 

 アーノルドがものすごく遠い目をした。

 

「アオ、お前マジでさっさと身の回り固めとけ。というかさっさと固めてくれ」

「どういう意味だ?」

「普通に暗殺されそうだし、俺もアイリスも他人事じゃないんだよ。特に俺はな」

 

 暗殺対象になっているとしたら、当然周囲に危険が及ぶ。リコッタの周囲がリスクを孕んだように、僕自身もそういう対象になりかけているということだ。

 

「わかったけど、アーノルドが特にってどういうこと?」

「昨日な、父上が俺に『学校を出たらポーレット子爵軍に従者として出すことにした』と一方的に言ってきた」

「!!」

 

 何かあれば頼りなさいと言ったホランド伯の言葉がリフレインする。

 

「待って、待ってよアーノルド。君は長男だろう。普通にそのままホランド伯領に戻るんじゃないのか?」

「元々他領で一兵卒として経験を積んでこいとは言われていたんだ。その行先をポーレット子爵領にしたみたいだよ。当初お世話になる予定だったパリス卿の所には今父上が頭を下げに行ってる。……父上はお前とお前の人脈に賭ける気だ。そのための糸として俺を使い始めている」

「……そこまでコリンの策がハマったか」

「逆に聞くがアレに飛びつかない領主がどこにいる? どんなに小さい村でも薬が手に入る仕組みだ。それを整備したという名誉が領主の手に入る。あのコリンは薬と信頼を金で買えるようにして売り出したんだ。金で解決できるならいくらでも金を払うさ。まともな領主ならな」

 

 コリンがやろうとしていたのは『富山の薬売り』よろしく薬箱を配りまくり、使用分を後払いとし、定期的に補充していく形の商売である。貧しい農村でも払える金額とするため領主に一定額の負担をお願いして導入を進める計画だ。誰でも消毒液と痛み止めを使えて、誰でも包帯が手に入る社会をつくる事ができる。

 

 ……というのが表向き。僕とコリンの主眼は定期的に薬売りの馬車が村々を巡ることによる情報収集網の構築にある。安くてよく効く薬を配って歩く『薬売りのコリン』という肩書き。それがあれば入れない屋敷も、歓迎されない村もない。誰と接触しても疑われない。どこを訪れても歓待されるし、金銭を持ち歩くことになるから武装した護衛を連れていても自然だ。――――情報工作担当者(ケースオフィサー)偽りの身分(フェイクカバー)としてこれほど都合の良いものはない。

 

 多少の賄賂もごまかせるだけの金を稼ぎ出し、目立つことで不信な点を埋もれさせる。なんならそれでも嗅ぎ回る奴らの尻尾を掴める。そう言ってコリンは彼自身を売り込んできた。そしてそれを僕が買った。

 

 買った以上は最高のパフォーマンスを発揮してもらわないと困る。そのためのアクションを取り始めたばかりなのに、想像以上の深さまで刺さってしまったようだ。

 

「そうか……そこまでか」

「前も言ったがコリン・フォルマルは本物のバケモンだ。そのバケモンが従う男なんて、もっと恐ろしい怪物と相場が決まってるもんだろ?」

「……まあ、怪物になってリコ様やみんなを守れるなら文句はないけどさ」

「いや、そこは文句を言ってくれ。付いてくこっちが保たない。俺だってお前の死体は見たくないぞ。だからさっさと落ち着けてくれ」

「考えておくよ」

 

 そう答えたタイミングでアーノルドとアイリスの分の紅茶が届いた。いけないいけない。僕とアーノルドで話しすぎた。

 

「もうっ、男の子どうし盛り上がってしまって、妬けちゃいます」

「すいません、リコ様。アイリスもごめん」

「ううん。なんか、二人とも大人だなぁって……」

「アーノルドほどじゃ」

「お前が言うかよ」

 

 ツッコミが入って、笑う。いったんここで仕切り直しだ。

 

「初めてお城に入ったけど……すごいんですね。私の家も大きい方だって言われたけど……」

 

 アイリスがキョロキョロしながらそんなことを言っている。

 

「自慢のお庭なんです。アイリスのご家族の話は初めて聞きましたね」

「ははは……一応魔導師の血筋なんです。姉様達は魔導学院に進んだんですけど……でも、私だけ落ちちゃって……」

「あんなにすごいのにですか?」

「すごくないんです。……私は、すごくなんて」

 

 リコッタが驚いている。アイリスは努力家で、この魔導術入門初級のメンバーで誰よりも知識量があるし、きっちり安全な魔導術を理論と知識で組み立てていける。それはすごいことだと思うんだが、上には上がいるらしい。

 

「すごい家族なんだね」

 

 こくりと頷くアイリス。リコッタがすっと席を立って、アイリスのそばに寄った。

 

「アイリスがすごいのは、わたくしもよく知ってますわ。だからそんなに卑下しないでくださいまし」

「ほら、バードン教官と同じこといわれた」

 

 アーノルドが肩をすくめる。

 

「何かあったのか?」

「聖節祭の時期に補習やるかもって話あっただろう?」

 

 アーノルドに言われてすぐにピンとくる。

 

「あったね。毒殺未遂や決闘裁判で色々授業が吹っ飛んだから……」

「そう、その話だ。で、選択授業の時間もつかって必修を終わらせることになった結果、選択授業が集中講義に切り替わった。……それを手紙でご家族に報告したらすごく怒られたんだってさ」

「どうして?」

「補習になるくらい悪いのか……って。授業がなくなったって言い訳はやめなさいって」

「あー……原因作った僕が言えることじゃないけど、理不尽じゃないかい?」

「シャルちゃん先生からもお手紙出してくれるって言ってくれたんだけど……姉様たち怖いから」

 

 いろいろ姉妹関係は大変らしい。僕は前世も一人っ子だったし、今世もそう。……いや、ハリエットが自称姉だから姉弟になるのか? ともかく、僕はちゃんとした『きょうだい』というものを知らない。

 

「気にしないっていうこともできるだろうけど、アイリスは気になるんだもんね」

 

 僕の声にこくりと頷くアイリス。……ここの四人でアイリス以外は長男と長女だ。きっとアイリスの気持ちを容易に理解するのは無理だろう。

 

(教育ママさん問題……既にこの世界でもあるんだなぁ)

 

 いろいろ期待されて、落ちて、ここに来たということなんだろう。……そもそも滑り止めで王立学院に入れるってどんなレベルを期待されてたのかは想像を絶するし、それに応えられなかったという恐怖は相当だろう。

 

「それに……そんな落ちこぼれが公女様と一緒はふさわしくないって……」

「それはご家族から?」

「姉様、から……」

 

 おっと……それはちょっと話が変わるぞ。

 

「ふふっ」

 

 笑ったのはやはりリコッタ。

 

「わたくしの友達はわたくしが選ぶのです。アイリスに離れられたら泣いちゃいますよ?」

「な、泣かれるのは、困り……ます」

「ごめんあそばせ。でもね、友達が困っていたら、手を伸ばしたくなるのです。もっとアイリスは自信を持ってもいいんですよ?」

「自信……なんてないよぉ」

 

 すでに泣きそうなアイリスに肩をすくめるアーノルド。

 

「いや、アイリスがそんなに下だったら俺の評価はゴミ以下になるんだけど」

「そりゃあ……ねぇ、間違い無く筆記試験は四人の中ではトップだしね……中間評定でトップ取れなかったの魔導術入門だけなんだけど、僕」

「そうなるとわたくしも……」

「待って待って待ってください! ごめんなさい! そういう意味じゃなくてっ!」

 

 両手を振ってわたわたしているアイリス。

 

「やっぱりそうなると、自信をつけること、だな」

 

 アーノルドが笑ってそう言う。

 

「何か良いアイディアがあるの?」

「そりゃあ、自信をつけるなら特訓に限るだろう」

「この脳筋男め」

 

 僕の返しに何が悪いとさらりと返してくるアーノルド。多分こいつ、イヴァンと会わせると大乱闘の後に友情が芽生えそうなんだよな。いつか試してみよう。

 

「でもまあ。正攻法ならそうかもね」

「そうだっ!」

 

 なにか思いついたらしいリコッタがくるりと振り返る。

 

「ハリエットに協力してもらいましょう! ハリエットは二級魔導師ですし、わたくしとアオ様のお師匠さんなんですし、アイリスと同じ発散系の魔導師だからいろいろと教えてくれるはずです!」

「……たぶんハリエットはOK出してくれると思いますけど、教え方の相性が絶望的なまでに最悪だと思います」

 

 ハリエットはどこまでいっても実践重視の感覚派だ。やればわかるでわかってしまうし、それを周囲に求めてしまうところがある。今のアイリスとは合わないというか、逆に追い詰めてしまいそうだ。……それよりも。

 

「じゃあどうしましょう……?」

「母上に頼んでみましょう。元々シェフィード側で行事が詰まっているので、休みのタイミングを調整すればいけるはず」

「えっ……! アオさんのお母様って特級魔導師じゃ……! そんなすごい人の講義受けていいんですか……!?」

「まずは母上とシャルちゃん先生に相談してからだね。多分問題ないとは思うし、あくまでメインの先生はシャルちゃん先生になるはずだから……少なくとも体裁上は」

 

 最近のシャルちゃん先生は『カリキュラムのストックがそろそろ尽きます……どうしましょう』と嘆いていたので多分乗ってくる。というか、アレを僕に聞こえるように呟いたあたりわざと聞かせたのだと思っている。なんだかんだポーレットさんはお世話好きだし、魔導術の話になるとかなり丁寧にかつ高密度な指導ができる。きっとアイリスには合っているだろう。

 

「それじゃあ、聖節祭に向けて色々と準備だな。俺ももちろん参加するぞ。というより、父上は絶対『是が非でも出ろ』って言ってくるから」

「ホランド伯はそうだろうね……」

 

 話の持っていきかたにもよるけれど、いろいろと準備が必要だろう。しっかり準備して、前に進まないといけない。

 

(……まずいなぁ)

 

 笑いつつもそんなことを思う。

 

 王宮に突っ込んだ後、下手に玉砕できなくなった。ちゃんときっちり片付けて帰ってこないといけない。




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