【書籍第一巻発売中!】公女様の義腕騎士-元官僚、異世界でホームレスから成り上がる- 作:笹木ハルカ
時間はいくらか巻き戻る。ちょうど晩ご飯を食べ終えた頃だった。
席を囲んでいたのは僕とリコッタ、ポーレットさんに公爵閣下の四人。ヴィクトリアさんとミネットが僕たちの食事を下げているころ、窓際で待機していたハリエットが窓の外をチラリとみて口を開く。
「……囲まれてますね」
「王宮の兵士も質が落ちたな。本隊は新大陸だろうから仕方ないのかもしれんが」
公爵閣下はそう言って、腰に剣吊りを付けている。……閣下の本領が二刀流というのは今初めて知った。確かに剣が二本あるなとは思っていたが一度に二本とも吊るのは予想外だ。
「パフォーマンスでしょうか」
僕がそう聞くとにやりと笑う公爵閣下。
「だろうな。我々は第二王子殿下に相当嫌われたらしい」
「嘆かわしいことです」
僕はそう言いつつ膝に乗せていた白い布を机に置く。
「……閣下、挑発に乗るべきではありません」
「相手が帝国ならそうだろう。だが今回は第二王子殿下が相手だ」
「尚更です。僕たちは目的を達しました。第三王子アルフォンス殿下の封殺に成功し、同時に国王陛下とのダイレクトラインを構築した。ここでこれ以上波風を立てるべきではないと本官は愚考いたしますが」
はじめて「本官」なんて一人称を使った。あくまで
「もちろん平時ならばそうだ。だが、何者かが武装し、我が領の管理下にあるこの公邸が囲まれたのだぞ。もはやこれは有事だ。飛んでくるのがハエなのかドラゴンなのかわからぬうちに、ドラゴン対策を手放すのは愚の骨頂とは思わんかね」
「ならば張り子を全力で撃ち墜とさんと手の内を晒すのは間抜けのすることです」
「アオ」
ポーレットさんに窘められるがここで引くわけにはいかない。
「閣下、あくまでパフォーマンスなのです。向こうが踏み込んだ時点で向こうの大義名分が崩れ去ります。ここでこちらから動いて反王国のレッテルを貼られる訳にはいかないのですよ。それに国王陛下の意志を無碍にするほど第二王子殿下も阿呆ではないでしょう」
「その阿呆だからこうなっておるのだ」
僕の知っている政治じゃない。第二王子ほどではないけれど、公爵閣下も結構直情型というか、直接的な解決策を望んでいるところがある。
「……嘆かわしいことです。本当に」
公爵閣下の中での第二王子殿下の評価が地に落ちているのはわかるが、僕には何をそこまで毛嫌いしているのかがわからない。悪意を隠しもしない意地の悪い人ではあるが、損得勘定はできそうな人だ。だったら御する方法はいくつもあるはずだ。必要なのはコントロールだとは想うのだが。
素直に聞いて返ってきた答えはシンプルだった。
「第二王子殿下はとてもプライドが高くてな、それを守るためならば何でもできるお方だ。督戦王なんて呼ばれたこともある」
督戦ということは味方を後ろから切り伏せたとか公開処刑とか、そんなところだろうか。
「人を頼るのが上手く人心掌握に長けた王太子殿下がいてこのままでは王位につくことはない。第二王子殿下の得意分野は軍事にあったのだが、魔導師として才能を開花させた第三王子殿下が戦功をあげてしまって長所が吸収されつつある」
「……それであればなおのこと、対帝国で公爵領を引き込みそうなものですが」
「言っただろう。プライドが高いんだ。あくまで頼られて仕方なく動いたというポーズが欲しいのさ」
「そこに私たちで戦力強化の案を国王陛下に奏上したものだから、話を飛ばされたと思ったのでしょうね」
ポーレットさんにそう言われて、僕も考える。
「……それで我々を攻撃したところで、対帝国の戦線維持には寄与しないはずですが」
「そうなんだけどね……」
ポーレットさんが苦笑い。
「新大陸に王太子殿下が総督として赴任してからずっと
「だとしても、こちらから動くのは得策ではないかと」
「安心したまえ、アオ。なにもこちらから仕掛けるわけではない。踏み込んできた所属不明の賊を、王国の推奨通り捕縛または排除するだけだ」
「……どこに安心する要素があるのですか、閣下」
僕の考えがまとまる前に公爵閣下が話をまとめてしまった。これを反逆の兆しありと取られないことを切に願う。
「ともかく、動く理由は向こうが提供してくれた訳だ。……問題はアオとリコをどこからどう逃がすかだが」
「ですね」
ポーレットさんが同意してこっちを見る。
「謁見の時の様子からして、おそらくアオに執着してくると思います」
「そうなるとリコッタも危険だな」
「なぜですか?」
会話に割り込んだのはリコッタだ。
「アオの動きを封じるには間違い無く
それを言われるとかなり痛い。痛いがそれは公爵閣下も同罪だろう。後で文句をつけよう。
「対魔導師戦となったらこの公邸ごとぺしゃんこにされる可能性があるから早く逃がしたいのだけれど……」
僕の不満など素知らぬ顔で物騒なことを言うポーレットさん。天気を好き放題できるポーレットさんが言うと説得力がある。
「囲まれているところで突破するのは厳しいか……」
「魔鳥で空に逃げる手も……すいません、ないですね。目立ちすぎてそれこそ敵を招きそうです」
そう言うとしばらく間が落ちた。
「可能な限り迅速に二人を脱出させたいが……ここまで露骨に囲まれていると確実に初動でバレるだろう……目立つ手段はナシだ」
「……目立ってよいではありませんか」
「ハリエット」
口を挟んだハリエットをヴィクトリアさんが窘めている。
「止めなくて良いヴィクトリア。……ハリエットはアオに生活と規律を
「では、お言葉に甘えます」
ハリエットが窓の外に眼をやりながら口を開く。
「アレは陽動でしょう。少なくとも明日かあさってには私たちはここを出て公爵領に戻るのに、ずっと包囲して軟禁する意味が無い。今晩中に攻撃が来ます。それがどのレベルかはわかりませんが、まず間違い無く攻撃が来る」
「うむ、私も同じ見解だ」
公爵閣下が頷く。それを確認してハリエットは窓の外を親指で指し示す。
「アレがパフォーマンスっていうアオの意見も合ってるとは思うけど、こっちの手出しを待っているというよりは、向こうの攻撃の準備が整うまでの時間稼ぎでしょう。あからさま過ぎるほどに見え見えな包囲はココに私たちを閉じ込めておきたいなにかがあるから」
「何かって何だね?」
「それはわかりません。……ですので、確かめましょう」
公爵閣下相手にとんでもない事を言い始めたハリエット。
「どうやって?」
「ですから、目立つ方法で離脱すればよいのです。閣下とアオをまとめて封殺したいのであれば、姫様を狙う可能性が高い。ですので、攪乱しつつ離脱します。戦力を分散させるのです」
「ハリエット、そうは言うけどさ」
今度は僕が窘める番だ。リコッタを囮にするのはハイリスク過ぎるというか、僕の心臓に悪い。
「僕はともかく、リコッタ様を囮に使う気かい?」
「いや、囮はアオにやってもらう。少なくともここにいる人で路地裏での生存率が一番高いのはアオ、アンタよ。言っちゃ悪いけど、この夜の街で追いかけっこになったら閣下もレナ様も目立ちすぎる。そもそも組織化してない素人相手に戦うのは戦場とは全く違う訳で、そこで閣下やレナ様のアドバンテージは活かせないし、姫様は言わずもがな。すぐに潰されます」
怖い事を言い切るハリエット。……というより、囲んでいる相手を素人と断定している。ハリエットからしたらなにか断定するに足るものがあったんだろう。
「陽動には陽動で対応しましょう。……少なくとも閣下は私をそのために呼んだと思っています」
ハリエットが首元から封魔結晶を取り出した。
「姫様の魔力が詰まった封魔結晶はこれとアオの持っているもの、そして今姫様の魔力放出に使っているものの三つ。そして、アオの魔力が詰まった封魔結晶は姫様が持っているものが一つ。……暗闇で特定の人物を騙るなら、魔力による同定をしてくる可能性が高い」
「……なるほど、封魔結晶から魔力を発散させることで欺くのか」
「はい。その役目はアオと……レナ様にもお願いできませんか」
ハリエットがポーレットさんを見る。
「レナ様なら、ご自身の魔力を完全に遮断した上で、安全に封魔結晶を動かせるはずです」
「なるほどね……リコッタ様を守るなら、確かに有効ね」
ポーレットさんの声が少し堅い。
「でも、私がやるのはいいけど、アオが危険な目に遭うのは困っちゃうかな」
「大丈夫です。アオなら」
「なぜそう言い切れるの?」
「私がそうあれるように仕込んだからです」
僕はハリエットに相当信頼されていたようだ。まあ、昔は肥だめに突き落とされたり煙突掃除で大変だったりお情け配給の取り合いで一緒に戦ったりといろいろ仕込まれたのは確かで、それで死ななかったのも確かだ。
「街角で生き残ることにかけては、アオほど長けた人物はいません。私はそれを肌で知っている。それだけです、レナ様」
ポーレットさんが僕を見る。僕は頷いた。
「……わかりました。今回はハリエットちゃんを信じます」
それはそれとして、と前置きをしてポーレットさんが振り返った。
「ミネット。ちょっとこっちへ来てくれる?」
「はい。ご主人さま」
ミネットがポーレットさんの側にトコトコやってくる。
「ちょっと首輪触るからね。――――――
詠唱が始まり、すぐに止まる。
「一時的にミネットの行動制限と魔力制限を一部解除しました。また、ポーレット家の使用人の業務として実施するアオ・ポーレットの警備に必要と認め、武装の所持と魔導術の無制限での使用を許します」
「無制限……よいのですか?」
「やろうと思えば、私やアオにだって攻撃できるわ。でもミネットはそんなことしないでしょ? アオの事、頼むわね」
どうやら僕の知らないところで、ミネットには枷がはめられていたらしい。というより、あの身体能力で全力じゃなかったのか。これは本当にリコッタの警衛とかそっちの方が向いてるかもしれないぞ。
「かしこまりました。ご主人さま」
「決まりだな。……ハリエット。君が指揮をしろ。我々はどう動けばいい?」
このあたりの思い切りの良さはさすがだし、それに臆せず頷くハリエットはなかなかとんでもない。
「アオと姫様に執着しているのであれば、閣下が即時に傷つくことはありません」
ハリエットのいうことはもっともだ。少なくとも汚名をしっかり着せるなら手続きがいる。その時に責任を取るべきバリナード公爵には生きていてもらわないと困るからだ。
「ですので、この公邸の守りをお願いします。アオと姫様を探すなら、二人の位置が確定できるまでは戦力が分散するはずです。時間稼ぎをお願いしたいです」
「つまりは公式の窓口としてしっかり相手をしろということだな。無茶を言ってくれる新入りだ」
「ならば私から指揮権を引き上げてください」
「……アオが誰に似たのかよくわかったぞ。良かろう。引き受けた」
そこまで僕はハリエットに似ているだろうか。影響を受けたことは確かだが。
「陽動として……というより、遊撃役としてヴィクトリア姉様とレナ様のペア、アオとミネットのペアが動いてください。互いの位置は封魔結晶にある姫様の魔力で特定できるはずです」
「ではわたくしは……? とと様とお留守番ですか?」
不満そうに声をあげるリコッタ。置いてきぼりは嫌ですという意志が声色にこれでもかと滲んでいる。
「いえ。姫様は私とバレないようにここから脱出していただきます」
「脱出……どうやって、です?」
首をかしげるリコッタににやりと笑ってから、なぜか僕を見るハリエット。
「アオ、地図は覚えてる?」
「覚えてる」
王宮に行ったメンバーでこの王都の精細な地図を閲覧している。三時間かけて頭に叩き込んだから、王都内の全ての通りの名前と位置、あとはざっくりとした土地の高低差ぐらいならば把握している。
「第十二リングの西あたりに妙に道が入り組んでいる場所があるのはわかるわね?」
「西部二十三地区のことかな? 第十二から十三リングのブッチャー通りから聖パリオ通りまでの六区画。たぶん区画整理に失敗した古い地区だ。王都ができる前から集落だったんだろうね」
「そうそう。そこのこと」
僕が即答すると目を剥くヴィクトリアさん。持ち出しができなかったのだから脳に叩き込むしかないのだから覚えただけだし、ハリエットができているんだからそこまで特殊な技能じゃないだろう。
「さすがアオ」
「地形図で見ても谷になってて排水がマズそうだから覚えてた」
「じゃあそこから西に向かうなら何がある?」
「排水西幹線。おそらくだけど、昔の川を直線化して排水路として整備した。第十八リングまでは蓋がしてあって暗渠に、その先からは開渠になってる。……ハリエット、まさかと思うけど」
「そのまさかよ」
ニヤリと笑うハリエット。
「地下下水道経由で姫様を包囲網の外まで誘導する」
確かに地下水道の地図は提供図の中にあった。魔鳥の維持の関係で清潔な水を確保する必要があるから、開示を要求していたのだ。ハリエットはそれを覚えていたらしい。
「ということで、アオとポーレットさんには地上で思う存分暴れてもらって、包囲網を離脱したタイミングで合図を送る。そこまでいったら再包囲される前に逃げ切る」
「……本当にそうなったら、レナと私で第二王子に猛抗議することになるな。ヴィクトリア、リコとハリエットの合図があったら、魔鳥でリコとアオを連れて離脱しろ」
「承知いたしました」
閣下が話を畳みに入った。
「それでは各々準備に入ろうか。私はいいとして、レナとアオは準備があるだろう」
そう言われて頷く。同時にポーレットさんが立ち上がり、下げられる前のワインボトルを手に取った。そのまま口をつけ、一気に呷る。
「……ぽ、ポーレットさん?」
「今から王子様に楯突くんですよ? そんなこと、シラフでできるわけないじゃないですか」
白いシャツの袖口が汚れるのを気にせずぐいと口元を拭くポーレットさん。にやりと笑う公爵閣下。
「久々のレナの本気が見れるな。安心したまえ。あれぐらいの量でレナは潰れんよ」
「……そうですか」
恐るべしポーレットさんの肝臓。それとも魔法でアルコールの代謝を底上げしているんだろうか。アルコールで判断を誤ってくれなければそれでいいのだが……。
「僕の方も準備しますが……頑丈な棒というか、槍みたいなのがあるといいですけど、リコ様のふりをするなら持ち込めませんしね……」
「護衛として私がアオさまの分の武器を持ちます。これくらいの棒があればいいですか?」
そう言ってミネットが示したのはちょうど六〇センチくらい。
「そうだね。それぐらいがいいかな。とりあえず頑丈な棒があると助かるけど……」
「それならこれでどう?」
ポーレットさんが詠唱ナシでちょうどそれくらいの金属棒を虚空から生成した。……土属性の魔導術だろうが、ちょっと待ってほしい。なんだ今の魔導術は、描画はどこに消えた。
「やり方は今度教えるね?」
「……ありがとうございます。重さもいいですね。使わせてもらいます」
素直に受け取って、頷く。ミネットにそのまま渡すことになった。でもこの長さなら外套で隠せそうな気もする。試すためにも外套を羽織ってみないと。
「アオ、ちょい待ち」
取りに行く前に呼び止められる。止めてきたのはハリエット。
「なに?」
「姫様のフリをしてもらわないといけないからね。とりあえず、全部脱げ」
は?
†
「高いんですからね、この制服! 血とか刃物とか引っかけないでくださいよ!」
そう言いつつ相手の刃物を躱してその肘を横から殴りつけて叩き折る。これで二人、ミネットの方は多分三人だから半分は無力化しただろうか。路地裏での戦闘はいい。数の有意をかなり打ち消せる。
とりあえず借り物の制服を汚さないようにとか考えていたけれど、そんな余裕はない。僕の予想は大外れで、ハリエットと公爵閣下の言うとおりの大騒動になった。
頼むからきちんと『政治』をしてくれよ第二王子殿下。そうしてくれてれば『バリナード公爵家の第一公女(七歳)は十名以上のごろつきをしばき倒せるらしい』なんて風評を流さずに済んだのだ。実際に暴れているのは女装した
外套のクロークに、シャツにスカート、なんなら靴下までが彼女からの借り物だ。本当にパンツと靴以外はリコッタの服。着替えたタイミングだとまだリコッタの熱がほのかに残るような状況で制服交換と相成った結果が
僕は不満だらけだが、戦闘になった以上は仕方が無い。相手の着地点が見えないが、なんとかしていくしかない。
反撃予定地点に到達するまで追っ手側も僕をリコッタだと思って追ってきたようなので、ここでもハリエットの博打は大当たりだったことになる。……非常に面白くないが、戦闘が面白くないことはいいことだと思う。
そう納得したことにして、とりあえず目の前に集中する。追っ手は十人以上いて、リコッタを押さえたかったことは確定だ。リコッタを手中に収めて何を交渉する気なのかは知らないが、ともかく、リコッタを鍵に公爵閣下と僕を押さえ込みたかったというのは予想通り。地下をゆっくりとすすむリコッタの魔力反応を見るに、地下は無事そう。
……ちょうど今盛大にポーレットさんの魔力が放たれたのだが、本当に大丈夫だろうか。一瞬だがものすごい出力の魔力が王宮の方向に照射されたぞ。何をしているんだポーレットさん。酔いが回って暴走していないことをわりと本気で祈る。
頭の中で整理しつつ肘を壊した男の脇腹に肘鉄を叩き込み直して沈めると、ちょうどすぐ目の前で魔力反応。
「汝眠れる獅子を……」
「遅いっ!」
とりあえずやる気の無い魔法の詠唱を始めた相手の膝を真正面から蹴りつけて詠唱を切らせる。なんだその長ったらしい詠唱は。というより、そんな悠長に構えていられる位に魔導師は後方職なのか?
そんなことを思ったあたり、僕の頭はちゃんと戦闘に集中できていない。非常に良くない。良くないのに、なんでこれで僕もミネットも追い詰められていないのか理解に苦しむ。相手にしているのは本当に第二王子の騎士団か? 陽動のために安く兵士を買い叩いたのだろうか。これが精鋭と言われたなら本当にこの国は滅びかねないぞ。これでは『王国から独立しろ』と叫びたくなるのも心情としては理解できてしまう。
(こんなところでクリストフの気持ちを理解するとは、ねっ!)
まあ、そうしたところで地獄しか待っていないので選べないが。
「ひ、退けっ! 増援をはやく……!」
「ミネット!」
僕の上を飛び越えて前に出るミネット。相手の顔面にミネットの靴が突き刺さる。蹴られた相手の頬骨はおそらく酷いことになっただろう。……頼むからすぐに病院に掛かってくれよ。放置されたら死人が出るぞこれ。
そんなことを思いつつ僕は反転。ミネットが相手をしていた大男の懐に飛び込む。相手は殴ってこようとしたようだが、体格差がありすぎて向こうは攻撃しづらいだろう。そのまま掌底を下から顎に叩き込む。義腕は便利だ。掌底が外れても、僕の指が折れるとかそういうことは気にしなくていい。
「ぎゃっ!?」
ちょうど僕の親指が顎に掛かったらしい。死ぬほど痛いだろうが、襲ってきたのはそっちなのだから許してほしい。
そのままの勢いで相手が倒れる。それを跨いで奥へ。ミネットが僕の二歩後ろに飛んできて背後を守ってくれた。メイド服で良くやると思う。僕には無理だ。
「さすがミネット。……初めて会った時、本気じゃなかったかい?」
「……お腹も減ってましたから」
「なるほど。それじゃあミネットが裏切らないようにたっぷりのシチューでも用意しなきゃ――――――――ねっ!」
ちょうど正面から飛び出して来た相手を蹴り飛ばす。目の前は排水西幹線の暗渠で、道になっている。かなりの広さがあって、直線に開けた空間。
「ブランカたちと合流して次の段階に……!」
僕の言葉がそこで途切れる。正確にはそこで切るしかなかったのだ。横に飛び退く。僕とミネットの間に、僕よりもさらに小さい影が墜ちてくる。本当に墜落するといった表現が似合うような速度だった。
「み、つ、け、た、ぴょーーーーーーん! オマエがボスの言ってた変な魔力のクソガキだぴょん!」
語尾がうるさい上に、あまりに高音過ぎて耳にキンキンくる声だ。ウサギ耳が頭上から長く飛び出している。ミネットなどよりも獣感が強いというか、足回りが完全にウサギそのままだ。なのに二足歩行してくるし、身体のサイズにしては不釣り合いなほど胸が出ている。前世のソーシャルゲームだったり海外のアニメ映画でこんなマスコットが居た気もする。だがそんな印象も斧のような骨切り包丁を両手に持っているせいで台無しだ。両手の斧の柄どうしを鎖で繋いだような形の獲物はインパクトがあるが、きちんと使えるのかそれは。
「首狩りウサギ!? どうして王都なんかに!」
ミネットが叫ぶ。なんだその物騒なウサギは。聞いたことがあると思ったらアーノルドの悪口を思い出した。あれは
「その首はこのボク、ラピィがもらい受けるぴょん!」
「……なるほど、いよいよ
ミネットに持ってもらっていた武器としての金属棒を受け取る。
恨むぞハリエット。信頼してくれているのはうれしいけど、結局命がけだ。なんとか切り抜けるしかない。
マスコットっぽいウサギが強いの、なんかいいよね?
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