【書籍第一巻発売中!】公女様の義腕騎士-元官僚、異世界でホームレスから成り上がる- 作:笹木ハルカ
「アオ・ポーレット……! 貴様がどうしてここに!」
「……どうしてもなにも、国王陛下に陳情すべき事情がありましたので」
同じように公爵閣下もいるのにアルフォンス第三王子は僕しか見えていない様子に見えた。国王陛下がまた盛大に頭を抱えている。
アルフォンス第三王子がリコッタの誕生日パーティで暴れてからちょうど五日ほどが経ったこところだが、これはかなり馬を飛ばしていたことを示す。相当慌てて戻ってきたらしい。
「いや、しかし……僕たちは街道を最短最速で戻ってきたはず……どうやって我々を追い抜いた!」
「魔鳥ですよ殿下。国王陛下には魔鳥と魔導師を主軸とした騎士団の設立を認めていただきました。今後の戦場ではこのあたりの戦力が重要になるかと思いまして」
嘘ではない。事実とも言い切れないけれど。
「第三王子殿下……いえ、
「兄上が元第二王子? ……どういう意味だ? まさか貴様がなにかしたのか!?」
「アル」
そう言って早足でずんずんと距離を詰めてくるアルフォンス王子。その前に国王陛下が割り込んだ。
「お前にもいろいろ聞かねばならんことと、話さねばならぬ事がある。ここで話すわけにもいくまい」
「父上、何を言うのですか! こいつは! アオ・ポーレットは!」
「お前が他人の婚約者を奪おうとしたことはとうに聞いておる! こんの恥知らずが!」
来て早々に国王陛下の雷が落ちている。国王としての威厳だとか息子の体面だとかのためにクローズドな場所で事を動かそうとしたにもかかわらず、陛下自身が一瞬でそれを翻した。かわいそうにアルフォンス王子。帰って早々王都が戦場のようになり、その理由も知らされないままで状況を理解して動けというのはまあ無茶な相談だ。
「そんなことなどしておりません! 僕はただ将来有望な魔導師になりそうな子を集めようとしただけで……!」
「殿下はリコッタ様を第六側室にと仰ったではありませんか」
とりあえずここは国王陛下に援護射撃。
「そのほうがその子ども達のためになるからだ! ただの学生とするよりも妾としたほうがその子にお金をかけられる!」
「でしたらなぜポーレット家の跡取りであるアオに対して剣を抜いたのですか? リコッタ様もそうですが、アオは間違い無く
「こいつが!?」
ポーレットさんの追撃にアルフォンス王子が僕を指さしながら驚いている。ポーレットさんは多分アルコールのせいもあってかなり目が据わっている。そしてポーレットさん、僕への評価は親馬鹿が相当入ってるはずだと指摘してはダメだろうか。ダメだろうな。下手するとこのままリコッタ共々王宮お抱えなんてルートが飛び出してきそうだ。
それはそれとして、ポーレットさんの言葉に呆然としているのは国王陛下だ。
「……で、あるか。『鉄血』は余の直轄騎士団の騎士団員でもある。その子どもに刃を向けたとなれば、それは余への攻撃に等しい」
少なくとも僕たちは国王陛下にアルフォンス王子が剣を抜いたことを話していない。直訴にくるほどの何かがあったとは知っていても、それがまさかそんな
「よりにもよって……いや、言うまい。身分や立場によらず、親にとって子は宝。そうも繕わなければならない目的を振りかざしたあげく、そのために子へ剣を向けたとなれば、親は激怒して当然。この惨状も納得というものだ」
濁した部分は『よりにもよって、バリナード家とレナ・ポーレットを同時に敵に回しよって』だろうか。
フレデリック王子が懸念していた通り、辺境というのは外部との接触も多く目が届きづらいため、反乱が起きる素地はあるだろう。特にバリナード公爵領の場合は領内に資金源となる鉱山があるし、外敵をはねのけるための自前の軍隊も持っている。一度火がついたら、鎮圧までにどれだけのコストと時間がかかるかは王家もわかっているはずだ。
だからこそ、そうならないように中央とのつながりを密にさせるのだ。そのために侍従長の親戚であるエリザベート・バリナードを公爵閣下に嫁がせた。また資金源となる封魔結晶を算出する鉱山を抱えるポーレット家に、王家の騎士団に所属する特級魔導師であるレナ・ホックリーを嫁がせたのだろう。
つながりという意味でいえば、リコッタを中央に隔離して人質とするのは有効だろう。だからこそフレデリック王子は幼女趣味のアルフォンス王子をけしかけた。うまくいかなくてもアルフォンス王子が勝手に国王の後継者レースから脱落するだけで、自身の進退には影響がないと踏んだ。
その結果、本来なら蚊帳の外になるはずの『レナ・ポーレットとその息子のアオ・ポーレット』の乱入を招き、王都で暴れ回るという地獄のような様相が生まれた。たった七人で王宮の正門をぶち破り、強襲が可能であることを示してしまった。
「……フレデリックやお前をそう育ててしまった儂の責任はとてつもなく大きいな」
国王陛下がそんなことつぶやいていた。
「結論だけ言う。アルフォンス、お前のしたことは、バリナード公爵家と我々ヴェッテン家の間に余計な軋轢を生んだ。フレデリックがけしかけたかどうかは知らないが、それでもお前の行為は王権の濫用であり、到底看過できるものではない。よって、銀盾騎士団の騎士団長の任を解くとともに、フレッチャー砦での謹慎を命じる」
「フレッチャー砦!? あの北の果てのなにもない孤島で一体なにをしろと! 吹雪と氷で海すら閉ざされて、半年以上は砦から出られないような場所で帝国軍と戦えとでもおっしゃるのですか!」
「謹慎といっておろうが! 余がよいというまで砦から一歩たりとも出るな。余の後継が誰になろうと、お前のことは引き継がん。余がくたばる前に謹慎が解けることを女神にでも祈っておれ」
「そんな……!」
「いうまでもないが、フレッチャー砦は女子禁制だ。お前自慢の側室たちを連れ込むことは許さん」
「父上ぇ! あんまりです! それはあんまりです!」
側室を連れ込めないと聞いた瞬間絶叫するアルフォンス王子。ポーレットさんとリコッタが恐ろしいほど冷ややかにアルフォンス王子を見ている。フレデリック王子に比べると王権を剥奪されていないだけかなりの温情だと思うのだが、そんなことをアルフォンス王子は知らない。
「トマス、重ね重ね余の愚息どもが申し訳なかった。ここまで考えなしに育ててしまったこちらに全責任がある。アルについては北の果てで余の信頼できるものに性根をたたき直してもらう。本来はこちらが伏して頼み込まねばならないことだが……」
「いえ……教育という意味ではこちらも申し訳なく……」
いきなり僕とリコッタのはしごも外されたが、せめて痛み分けにもっていく必要があるのだろう。このときばかりは公爵閣下も国王陛下も同じ親の顔になっていた。
「今日は夜も遅い。トマス達も公邸に……といっても、吹き飛んでおったな。城の客間を空けさせるからそこで泊まるがよい。賓客と同じ扱いをさせることをここに保障しよう」
そういって踵を返す国王陛下。アルフォンス王子が泣きながらそれを追いかける。僕らはそれを見送ることになった。ここからもっと長引くと思ったが、さすがは国王陛下、そうなる前に話を畳んでくださった。これ以上身内の恥をさらしたくないというのが本音だろうか。ともかく国王陛下はありがたいことにこちらの味方と見て良いだろう。
ともかく助かった。……これからこちらもイベントが控えている。
「……リコ。アオもだ。我々も少しばかり話し合う必要があると思うが」
「はい、とと様」
「僕も同じ考えです。閣下」
二人揃って無茶をして心配をかけたのだ。素直に怒られるしかあるまい。
†
翌日。
公爵閣下に今回の僕らの行動の危険性を洗い出され、一つ一つ確認をするかたちで進行したお説教は、案外あっさり終了した。おかげで睡眠時間も確保でき、リコッタも僕も元気いっぱいである。説教大会の最中も『リコッタってここまで肝が据わってたっけ』と思う程、落ち着いて対応していた。公爵閣下もリコッタが勢いで決断したわけではないことがわかって、責めるに責められない状況になったのも大きいらしい。
『リコもアオもそんなに急いで大人になってくれるな。というより、そんな大きな責任を勝手に背負おうとしてくれるな。それは私とエリィ、そしてレナの仕事だ。二人とももっと親を信用してくれ』
公爵閣下のその言葉には素直に謝ることしかできなかった。信頼しているつもりなのだが、結局僕は好き放題暴れ回っただけなので、何も言えない。
もっと何も言えない状況になっていたのがハリエットだった。リコッタの希望もあったとはいえ、超至近距離で無指向性の火属性の魔法を発動させ、リコッタを空中に打ち上げた。……少なくとも、護衛としては失格どころの話ではない。僕もハリエットには怒りたいところだったが、ヴィクトリアさんに懇々と詰められているハリエットを見ると、そんな気も無くなってしまった。
それでもハリエット曰く『リコッタ閣下とアオがちゃんと前を向いてくれるならこれぐらい安いもんよ』だそうだ。……ハリエットの荒療治は路地裏のスタンダードだったわけではなく、ただ単に彼女が豪快なだけだと思えるようになってきた。
そしてその気持ちに整理を付ける余裕もなく、さっさと仕事が積み上がっていく。朝日が昇ってからすぐに被害状況の把握と街道や堀の復旧作業があるのだ。少なくとも公邸については公爵家の持ち物なので、こちらで算出するしかない。公爵領への戻りは翌日にして、今日一日は原状復帰と今後の動き方の整理にあてることになった。
僕はポーレットさんやミネットと一緒に原状復帰支援にあたることに。……といっても、肉体作業は無理なので、魔導術でアシストすることになる。
ここで大活躍なのはやはりポーレットさん。特級魔導師で得意なのは土属性。こういう土木作業は得意なのだという。一瞬で堀が元通りになり、あっという間に原状復帰が進んでいく。昨日ドンパチした警衛隊の皆さんが『つくづくとんでもねぇ』とつぶやいていたのを聞いたが、その通りだと思う。
「アオもすぐにこれぐらいできると思うわよ?」
街道の石畳がひとりでに修復されていくのを眺めながらポーレットさんに言い返す。
「母上、僕は発散系の魔導師です」
「そんなこと言ったら私だって収束系だけど、風の魔導でバドたちのアシストできるから、一緒だよ」
バドは魔鳥でポーレットさんの愛騎だ。たしかに僕の風の魔導のアレンジで魔鳥の速度を上げてかっ飛ばしていたけれども。
「そうかもしれませんが……」
「ものは試しだから、アーノルドさんやアイリスさんとの特訓のときにいろいろやってみましょう。ミネットも、ね?」
「わ、わたしもですか!?」
驚いた様子のミネット。
「魔道具の起動だけじゃなくて、しっかりと使い方を学べばいろいろできることも増えるから。それに……きっとミネットには必要になるわ」
「ご主人さまが……そういうなら……!」
「うん。一緒に頑張りましょうね」
魔導術特訓の日程も詰めなければいけない。いろいろと考えないといけないことがどんどん増えるな。
「あれ? でもちょうど対空防御案草稿の提出がそのころのような……」
「安心して。そこはトマス閣下と私で行って、アオとハリエットちゃんは登城しなくてもいいように調整済み。私と閣下なら頑張ればビュンビュンって日帰りできるわけだし。アオは学生するのも仕事のうちなんだよ」
なんかいろいろ裏で動いてくれていたらしい。
「アオは学生で子どもだから失敗したっていいの。ちゃんと挑戦して、ちゃんと失敗していかないと」
「……こんな大事になる前に、ですか?」
「ははは、大事になったのは私たち大人のせいもあるから言いっこなしだけど、そうね。ちゃんと息抜きしながらやっていきましょう?」
「はい、母上」
いろいろと思うところはあるが、とりあえずうなずいておく。
「はい、これで終了! 街道もなんとかなったし、あとは帰るだけだね」
「本当は観光もできればよかったんですが……」
「また今度来ましょう? こうなると、私も何度も王都に来ないといけないみたいだし。落ち着いたら、ねっ?」
ポーレットさんが笑ったタイミングで遠くから走ってくる人影が見えた。
「アオさまー!」
リコッタが走ってくる。その後ろからヴィクトリアさんがやってきているということは、お城で事後処理をしていた公爵閣下チームも一段落ついたようだ。
「リコッタ様」
飛びついてくるのを、半歩だけ下がって受け止める。昨夜の肝が据わった凜々しい雰囲気はどこへやら。いつも通りのリコッタだった。
「これでわたくしたちの街へ、シェフィードに戻れますね」
「そうですね。……本当にいろいろ大変な五日間でした」
「リコッタも頑張りましたよ?」
リコッタは僕の方にずいっと頭を差し出してくる。少々気恥ずかしいが、そう言われると頭をなでるしかない。
「はい、ありがとうございます。リコッタ様」
そう言いつつ、厳重に撫でる。
アルフォンス王子と揉めてから、なんだか僕はずっと空回ってばかりだった気がする。
「……アオ様は」
「はい?」
「アオ様は、大丈夫ですよ、きっと」
何が、とは聞き返せなかった。それより早くリコッタの手が僕の髪に伸び、青い髪を梳く。少々どころではなく気恥ずかしい。
「ふふっ。じゃあ私も!」
ポーレットさんの手も伸びてくる。控えめに手を伸ばしてきたのはミネット。こうなってくると頭をなでられているというより、もみくちゃにされているという感覚に近い。
「ちょ……やめてください! 人の目もありますし!」
「わたくしは気にしませんわ! ねっ、ポーレットさん!」
「うんっ!」
「僕が気にするんです!」
そう言うも、なんだか優しく笑うリコッタを見て、言い返す言葉に詰まってしまった。……きっと、惚れているってこういうことなんだろう。
「アオはひとりぼっちじゃないんだから、ちゃんと頼って、ちゃんと頼られないと、ねっ?」
「そうですよ。わたくしが、リコッタがついてますっ!」
にぱっと笑うリコッタ。僕も精一杯笑って見せる。
「それじゃあ、いっしょに戻りましょうか。みんなで」
ということで、王都弾丸ツアー編終了です。
……これ、7万字でやろうとしてたってマ?(10万字強)
次回からは少年編最終章となる(予定)の魔導術強化合宿となります。
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