【書籍第一巻発売中!】公女様の義腕騎士-元官僚、異世界でホームレスから成り上がる-   作:笹木ハルカ

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くらいくらいもりへ

「エルジック卿もポーレット卿も私の妹が申し訳ございません」

「いえ、ローズさんたちのせいではありません。今回のホストは僕と母上で、ここはオーストレスのフィッツロイ男爵領です。領主の僕に責任があります」

 

 青い顔でローズさんが頭を下げてくる。とはいえこの状況になると取れる手が限られてくる。

 

「ジャンさん!」

「このあたりの森に詳しい者たちへ声をかけました。取り急ぎホフマンをお連れしています」

 

 ジャンさんがそう言って防寒装備の大男を連れてくる。さっと膝をついたので、慌てて声をかけて立ってもらう。ホフマンさんと顔をあわせるのは初めてだけれども、徴税記録で名前を見たことがある。

 

「顔を上げてください! かしこまられるとこちらもやりにくいですし、今回はホフマンさんのお知恵を借りることになります。無礼だとか一切気にしませんので」

「お、おう……なら領主様のお願いということだから、それに甘えてやらせてもらう。ニコラウス・ホフマンだ。ソバ農家と毛皮猟師をしてる」

「東三線のホフマンさんですよね? テンの毛皮を納めてもらった……」

「おっ、『水男爵』に覚えてもらっているとは光栄だ」

「水男爵?」

 

 初めての称号に首をかしげる。

 

「お前さんだろう、広水連の発起人」

「あぁ……それでですか」

 

 広水連といえば、オーストレス広域水利連絡会のことだ。ここの城の前の持ち主であるアーロン・フォリオの大義名分を潰すためにむりやりでっち上げた組織なのだが、なんとか今も回っている。

 

「あれのおかげでインゲンやナスが好調だし、ソバもかなり安定してる。堆肥の計画生産の話もお前さんからだとそっちのジャンから聞いてる。あのクソだったアーロン・フォリオの後釜だっていうからどんな奴かと思ってたんだが、お前さんのおかげでここの農家は大助かりだ。で、下流の『トマト男爵』ことタンジー卿にならってうちのフィッツロイ男爵殿は水男爵ってわけさ」

「ありがとうございます。農業はこれからの男爵領、ひいてはポーレット子爵領の生命線になる産業ですので」

「おう、普段支えてもらっている分、これくらいは恩返しをせにゃな。で、お嬢さんが一人軽装で森に入ったかもしれないってことだったが」

 

 会話が本題に着地する。

 

「はい。行方不明なのはフリージア・ミルさん。そちらにいるローズさんの妹さんで、身長は同じくらいです」

「つまり金髪で背の高いネーチャンをこの森から探し出せってことだな。……気温も低い。太陽が出ているうちに探し出さないとコトだぞ。最近はこの寒さでもクマが出る。夜に襲われたら地獄だ」

「なんとかなりますか?」

「なんとかなる。というより、なんとかする。うちのバカ息子にそこらの男連中をかき集めさせてる。水男爵がお呼びだと触れて回らせているからざっと四〇人は集まるはずだ」

 

 四〇人体制……かなりの規模だ。感極まった感じのローズさんが驚いている。

 

「私たちのためにそんなに……」

「みんな毛皮狩りをしている連中だ。山歩きは慣れてる。集まり次第班を分けて捜索させるが、いいよな領主様?」

「助かります」

「助かるもなにも、名領主への恩返しだ。俺ぁ船に乗ったことなんてないが、あれだ。『大船に乗ったつもりで』ってやつだ、ちゃんとふんぞり返っててくれよ水男爵殿」

 

 僕の肩を叩いてホフマンさんが出て行く。入れ替わるようにエプロン姿の女性がひょっこり顔を出す。

 

「あの、ジャンさんお呼びで……って、その子はもしかして領主様?」

「ミランダ。お呼びだてしてすいませんでした。アオ様、紹介します。こちらはミランダ・アスコットさん」

「アスコット……アスコット……あ、東一線で道具鍛冶をされているアスコットさん?」

「えっ、なんで……」

「城の補修の時にいろんな金具を直してくださったと報告にあったので。その奥さんですよね」

 

 そんな会話をしているとジャンさんに頭をなでられた。

 

「はい。そして彼女の作るスープは絶品なのです。……アオ様、城のキッチンを開放していただけませんか。捜索に出る男達は身体を冷やすことになります」

「! もちろんです。食料庫も開けましょう。必要な食材や調味料があれば使ってかまいません」

 

 さすがジャンさん、炊き出しの手配を平行で進めようとしてくれたらしい。

 

「助かります。ミランダ。ホフマンから今一気に話が回っていると思いますが、今からアオ様のお客様の捜索があります。身体を温めるためにも、貴女のスープが必要です。大鍋いっぱいのスープを用意してくださいませんか」

「えっと……いつものスープしかつくれませんが」

「いつものスープがよいのです。野菜も干し肉もたっぷりあります。お願いできませんか」

「まあ……いつものでよいなら……」

「お願いします。キッチンへはヴェラに案内させます。人手が足りないならどんどん呼んで構いません。日当はお支払いしますので」

 

 ジャンさんが後方をがっちり固めてくれている。

 

「なんだかお使いから返ってきたら大事になってるんだけど、何事?」

「ハリエット!」

 

 買い出しから戻ってきたらしいハリエットにリコッタが向かっていく。ハリエットへの説明はとりあえずリコッタに任せることにして、僕の方も準備を進める。領内をある程度測量しているとはいえども、さすがに森の中までは詳細な地図はない。最悪でも僕は上空への脱出というウルトラCが使えるのでなんとかなるところはあるだろうが、山に入るならそれなりの装備がいる。

 

「アオ」

 

 ポーレットさんに声をかけられる。

 

「はい、母上」

「一応聞くんだけど、お城で待っとくつもりは無いのよね?」

「やらずに後悔するより、やって反省したほうがいいかなと」

「……ほんとうにそういうところばかりセディに似てくるんだから」

 

 セディというのはポーレットさんの旦那さんだったセドリック・ポーレット子爵のことだ。

 

「森の中は他の生き物の気配も多いし、フリージアさんの魔力を追おうにも、極端に魔力の多いリコッタ様やアオみたいに魔力を探知できるわけじゃないわ」

「でも、僕たちが頑張らない理由にはならないでしょう?」

 

 そう言うとアーノルドやマハマが頷いてくれる。アイリスもワンテンポ遅れてだが頷いてくれた。

 

「危ないことはさせませんからね」

「もちろんです」

 

 ポーレットさんにはそう返す。

 

「じゃあ、助っ人を呼ぼうかしら」

「ハリエット? 助っ人って?」

 

 そういうと、ハリエットはにやりと笑う。

 

「驚くわよ。きっと」

 

    †

 

「いや、いやいやいや……ハリエット。確かに驚いたけどさ。なんで? なんで連れてきてたの?」

「それはこっちの台詞ぴょん……ボクだってこんな山奥で追跡(チェイス)させられることになるなんて思ってなかったぴょん……」

 

 助っ人と呼ばれて登場したのは、いつぞやの王都でやり合った首狩りウサギのラピィだった。一応騎士団の徽章は腕に巻いているものの、他のリコッタ警衛隊の面々のようにメイド服などではなく、そこらの田舎にいてもおかしくない平民の格好をしている。

 

「いや、最近リコッタ閣下の周りが物騒だからね。公爵閣下から『あの騒動で公爵家に身柄が渡ったやつらのうちで使えそうな奴は引き抜いていい』ってお許しがでてたのよ。で、一八〇年の労働刑か聖ディアナ騎士団で奉仕活動をするか選んでもらった結果がこれよ」

「だからって元々暗殺対象のガキ……でッ。閣下の安全確保に使われるとは思ってなかったぴょん」

 

 ハリエットにしばかれながらも文句をたれるラピィ。白い目をしているのはアーノルドだ。

 

「アオ。おまえさ。本当に王都で何をしてきたんだ?」

「だからクーデター未遂の後始末だって」

「それで暗殺者を送られてるのは百歩譲って納得するとしても、その暗殺者を身辺警護の裏取りに使うのはあまりに肝が据わってないか?」

「それは僕じゃなくて公爵閣下とハリエットに言ってくれ。この件については本当になにも知らなかったんだよ」

 

 なんだか妙な司法取引があったっぽいことだけがわかった。

 

「安心して。あの時のラピィは金銭目的で参加してた犯罪者集団への依頼を請け負っただけあって、リコッタ閣下にもアンタにも恨みは無かったことは裏取り済だし、保険は山ほどかけてる」

「とはいえ親に連絡を取るのは話が違うぴょんよ……」

「文句言わない。なんならアンタの給金は満額出してるわけだし厚遇なんだからね」

 

 ぶつぶつ言っているラピィを無視してハリエットが続ける。

 

「ラピィは文字通り鼻がききますし、魔力を元にしたチェイスも得意としています。こういう場面では使えるかと。閣下、よろしいですね?」

 

 ハリエットがリコッタに話をふると大きく頷くリコッタ。リコッタの警衛隊なので、別任務に出すには本人の同意を得ておく必要があるのだろう。

 

「もちろんです。お願いしますね、ラピィ」

「……承りました」

 

 ハリエットに睨まれて渋々といった雰囲気でラピィは返事をしている。僕は彼女にあまりいい思い出はないが、それでもフリージアさんの見つける手立ての一つになるなら飲み込むべきだ。

 

「なんか……アオ、お前やたらと北方部族に縁があるよな」

 

 アーノルドに呆れられる。そういえば首狩りウサギのことを聞いたのもアーノルドからだった。

 

「なんでだろうね。まあ……うん」

「そーいやミネットさんが見えないけど。こういうときには真っ先に動いてくれてそうなのに」

 

 アーノルドにそう言われるも、僕は首を横に振るしかない。

 

「ミネットはちょっとこの場所に因縁があってね……ポーレット家の本邸のほうにいてもらってる」

「そうなのか」

「まあ彼女にもいろいろあるからね」

 

 フォリオ家の奴隷だった彼女にとってこの場所は苦い記憶しかない。彼女にしては珍しく視線が揺れたので、半ば無理矢理だが対応を外れてもらった。あまりこのところお休みをあげれていなかったので、一週間の休暇を申し付けたのである。

 

「無い物ねだりをしてもしょうがない。できる範囲で、できるだけ多く手を打とう」

 

 森の中の精細な地図はない。かなり大げさな配置になったけれど、後でこれが笑えればいい。

 

「準備ができ次第捜索に入りましょう。ラピィ。信頼しているよ」

「……ふん」

 

 どこか不満げに鼻を鳴らすラピィ。思いは複雑だ。それでも僕はきっと信じるべきだ。




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