【書籍第一巻発売中!】公女様の義腕騎士-元官僚、異世界でホームレスから成り上がる-   作:笹木ハルカ

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同級生に声をかける

「寝不足?」

「ちょっとね」

 

 朝ご飯として昨日のごちそうスープの残りをのんでいると、僕の様子に気がついたマハマにそう聴かれた。さすがに事実通りに話すわけにはいかないので曖昧に返す。昨夜の騒動の後、僕には満面の笑みで『許しませんので、許すまで頭をなでてください』と言ってくるリコッタ閣下を厳重に撫でるという仕事があったので実際寝不足である。ついでにミネットやハリエット、果てはポーレットさんの頭も厳重に撫でることになったので状況に拍車がかかった。

 

 朝からポーレットさんはシャルちゃん先生と一緒に昨日の熊の後始末に出るとのことでここにはいない。食堂には僕らと食事のサーブ役としてのミネット、そしてリコッタの護衛としてハリエットがいるだけだ。

 

「さすがのアオでも陞爵騒ぎの後に爆睡できる胆力はなかったか!」

「アーノルド、なんでそれで嬉しそうなんだい?」

「いやぁ。ちゃんと俺たちと同じ人間なんだなと思ってさ」

 

 なんだかんだでアーノルドのこのさっぱりとした性格にかなり救われているので、それに文句をつけるのはやめにした。

 

「アーノルドは元気そうだね」

「あのなぁ。午前中から模擬戦して特級魔導師のスパルタトレーニング受けて熊さん討伐からの陞爵騒ぎだぞ。朝まで爆睡だったぜ」

「さっきの話と矛盾してないか?」

「してないぞ。俺に陞爵の話が来たわけじゃないし、元から俺は父上にホランド伯を継げと言われてきているからな。お前が子爵で俺が伯爵だとお互いやりにくいだろうし良いことずくめさ」

 

 アーノルドの父親のホランド伯爵は公爵領の南部で帝国に接する防衛線を抱えている。長男の彼は当然その伯爵位を継承することになるから、昨日の騒動で、僕らがその時まで生き残っていれば、お互いに伯爵で同格になることがほぼ内定したことになる。

 

「でもすごいことだよ。アオ君の頑張りが認められたんだから」

 

 アイリスがそう言ってくれる。まだフリージアさんとはギクシャクしているみたいだけれど、少なくともローズさんとは話せるようになったらしいから、アイリスも一歩前進だ。

 

「だな。アイリスほどじゃないが、アオは自分を過小評価しているところがある」

「そうは言うけどさぁ……」

 

 リコッタまでうんうんとうなずいているので僕の旗色が悪い。そもそも昨日リコッタに過去と未来しか見ていないと怒られたばかりだ。ここまで多数に無勢なのだから、間違っているのは僕の方なんだろう。

 

「すごいかもしれないけど、これからが大変だよ。子爵としていろいろ考えないといけないし、ラピィに山の管理ちゃんとしろと怒られたばかりだし……」

「そもそもその歳で王立魔導研究所の分室長だろ? お前職業訓練学校の名誉校長もやってたよな? 本当に学生か?」

「それは国王陛下と公爵閣下に聞いてくれ……みんな僕をなんだと思っているんだ」

「アオ様はアオ様ですよ?」

 

 リコッタに首をかしげながらそういわれたので、心の中で「そういうことじゃないんだよ」とこじつつもありがとうございますとお礼を言っておく。

 

「それで、そろそろ聞いてもいいよな。アオ、お前は一体何をする気だ? いい加減はぐらかされるのは腹が立つぞ」

「……そうだね。昨日の勅命で公に動かさないといけなくなったし、できればみんなについてきてもらえると嬉しい。話すよ、こんどこそ隠し事なしで」

 

 ちょうど顔見知りしかいないこともあり、タイミングもいいだろう。

 

「段階的になるけれど、僕らが成人する一四歳になるころまでを目処に、新たなる王国騎士団が設立される。僕に設置が命ぜられた王立魔導研究所の分室は、その騎士団への発展解消を前提とした年限組織だ」

「……王国騎士団の新設?」

 

 アーノルドにうなずいて返す。

 

「魔導師と魔鳥『グラーフ』を基幹に据えた騎士団の設置提案が、『飛空魔導騎士団設置構想』という形で公爵閣下と母上の連名で国王陛下への奏上という形で上がった」

「ちなみに言い出しっぺは?」

「僕」

「だと思ったぜ。それが『殴り込み』の時の提案の中身だったってわけだ」

 

 やはりアーノルドの頭の回転は驚異的だ。これで七歳なんだから先が恐ろしい。コリンといい彼といい、この先僕は彼らに太刀打ちできるんだろうか。

 

「でも、体裁上はポーレット卿と公爵閣下の奏上なんだよね? なんでアオ君が研究所の分室長なの?」

「あー……」

 

 アイリスの質問に言葉を濁すと、リコッタがにっこりと笑った。

 

「それはわたくしとアオ様で元第二王子殿下とその部下のみなさんをタコ殴りにしたからです」

 

 アーノルドがむせている。スープには口をつけていなかったので、自身の唾かなにかだろう。あまりに乱暴な言い方だが、訂正するのもなんとなく違う気がする。

 

「……マジで言ってる?」

「誠に遺憾ながら」

「もとをたどれば、わたくしを攫えば父上やアオ様に言うことを聞かせられると勘違いした第二王子殿下の暴走が原因ですから、致し方なく、です」

「実際僕よりリコ様の方が活躍されてましたもんね。なんでハリエットに空中射出されて笑ってるんだと思いましたよ僕は」

「ラピィ相手にミネットと二人で戦うなんて無茶をするからです」

「もういい。もうおなかいっぱいだ。リコ様もアオも信じられないぐらい無茶をしたってのがわかったからもういい。そりゃあ暗殺者が送られてくるよ。というより、それだけやってなんでアオが処刑されてないのかわからねぇ」

「先に剣を抜いたのが第二王子殿下で、僕らが暴れるきっかけを作ったのが第三王子殿下だったからかな。母上も王宮の堀を埋め立ててるし、公爵閣下も銀弓騎士団の人員をかなり切り捨ててるし……」

「本当に皆さんよく無事に生きて帰ったな!?」

「国王陛下万歳だよ、ほんと」

 

 ともかくだ。とアーノルドが仕切りなおす。

 

「つまりアオはその騎士団の団長になることが決まっているわけだ。王国騎士団として箔をつけるなら、団長が男爵は確かに低すぎる。子爵でもギリじゃないか?」

「そうなのか」

「そうなんだよ。騎士団の主体は騎士だけど、それを率いるのは貴族じゃなきゃいけない。王国騎士団なら尚更だ。というより、王国騎士団でトップが王族じゃないのって百数十年ぶりじゃないのか?」

 

 騎士団の団長なら騎士だと思うのだが、思ったより貴族よりの世界らしい。いろいろと面倒そうだ。

 

「ともかく、アオは俺たちにそれに参加してほしいと」

「そうだね。みんなが来てくれるなら」

 

 そんなことを言うと吹き出すアーノルド。

 

「笑うところあったかい?」

「いや、傑作だなぁと思ってさ」

「傑作?」

「――――――俺を舐めるなよ、アオ・ポーレット。俺がそんな面白そうな話を聞かされて黙って降りるような腰抜けなわけないだろうが」

 

 ニカリと笑ったアーノルド。一瞬張った声色に心拍数が上がってしまった。

 

「そもそも俺が嫌だと言ったとしても父上は俺を蹴り込むだろうし、次期ホランド伯としても、国王陛下の肝いりの新設魔導師部隊なんて話に乗らないわけにはいかない」

「でも、話してよかったの?」

 

 不安そうなのはアイリスだ。周囲がすごすぎて勘違いしそうになるが、アイリスは一般市民階級である。

 

「もちろん。……それにどちらにしても、カネとヒトが動き始める以上はどうやったって隠せない。対帝国戦を考えるなら、相手を焦らせて無駄な対策させた方が、相手に資金を使わせられるしね」

 

 それに人材という側面だけを考えれば、ミル家の協力を得られるに越したことはない。ポーレットさんにもついてきてもらって、ミル家に挨拶に行くのも考えるべきだろう。

 

「なるほど……私も頑張る。リコッタ様は……聞くまでもないですよね?」

「アオ様の征く先が、わたくしのあるべき場所ですもの」

「ねぇ、アオ。僕はなんで?」

 

 唯一魔導師ではないマハマが首をかしげている。

 

「今回の研究所設置だけでもオーストレスのフィッツロイ子爵領は総力体制で臨むことになるだろうからね。君もお父さんのンシアさんも無関係じゃいられない。それにマハマは僕にない視点がある」

「アオにない視点?」

「一つの視点しか持てないと、それは必ず隙になるからね。いろんなところで君の意見を聞きたい。君が良ければ副官として横にいてほしいと思ってる」

 

 マハマも休みの日にはンシアさんの手伝いをしていることも多い。周囲を見て、必要な場所にすっと入っていける視野の広さは彼の武器だろう。周囲のサポーターとしてすこぶる優秀だ。

 

「そう言ってくれると嬉しいな」

「んじゃ、大体みんなついてく感じだな」

「言っておくけど、ほかに行きたい場所があったらそっち目指していいんだからね?」

「当然。でもお前のところが一番丸そうだぞ」

 

 それには苦笑い。ちゃんと彼らが後悔しないシステムを構築しないといけない。

 

 そんなタイミングで食堂の扉がノックされた。ミネットがすぐに確認し、ドアを開ける。

 

「シャルちゃん先生。おはようございます」

「はい。皆さんおはようございます。……皆さん朝ごはんはちゃんと食べました? 少しお話がありまして……」

 

 みんなで顔を見合わせる。なにかあったらしい。

 

    †

 

「え? 燃え尽きてない?」

 

 フィッツロイ城の裏門のそばにやってきたのは、獣臭の強い真っ黒な毛皮の山。

 

「そうなんですよ……アオ君の爆轟魔法で確かに死んだんですけど、毛皮は文字通り傷一つなく……」

 

 シャルちゃん先生はそんなことを言っている。

 

「本当にとんでもないものを相手にしてたんですね僕たち」

「中身の方はたぶん熱でやられたのかボロボロだったので、多分熱は通すんですけど、毛皮は残りまして……」

「えっと……それをどうして僕に?」

「多分加工すると結構いい値段する魔道具になりますけど、今回倒したのもレナ先輩とアオ君ですし、ここはアオ君の領地になるので、どうするかを決めるのはアオ君になります」

「あー……そうなるんですね。母上、どうしましょう?」 

 

 ずっと横でニコニコしているポーレットさんに話を振る。それはもういい笑顔をしている。

 

「魔道具にしましょうよ。ちょうどこの後お邪魔することになるんですし」

 

 ポーレットさんは文字通り最高のおもちゃを手に入れた子どものような顔をしている。

 

「じゃあ、そうしましょうか……」

 

 ここで破棄っていうと後が少し怖いので消極的賛成の意思表示。シャルちゃん先生がすっと横に寄ってきた。

 

「頑張って手綱握ってくださいね」

「シャルちゃん先生はついてきてくれないんですか?」

「ついていきますけど先輩の手綱なんて怖くて握れません」

「じゃあ僕にも無理ですよ」

「二人とも聞こえてるからね? 大丈夫。ちょっとだけだから、ちょっとだけ」

 

 初めて母親にあきれたかもしれなかった。




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