【書籍第一巻発売中!】公女様の義腕騎士-元官僚、異世界でホームレスから成り上がる-   作:笹木ハルカ

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武器を手に入れよう

 オーストレス市街の外れ、鉱山区域にほど近い場所にソレはあった。築年数はそこまで経っていないだろうに、かなりボロボロな一軒家だ。……これ、構造的に無事なのだろうか。結構怖い。

 

「コルトさーん! こんにちはー!」

 

 ポーレットさんがドアを開けてそこから叫ぶ。僕ら特訓組+シャルちゃん先生とハリエットはポーレットさんの後ろで待機だ。

 

「はいはいはーーーい! 待ってたわよレナちゃーーん♡」

 

 その声を聞いてものすごい勢いで顔をしかめたのはハリエット。……ドスの効いた男性の猫なで声というのは、なんというか、こう、慣れない。そう慣れないのだ。

 

「あらっ、カワイイ魔力のお友達がいっぱいっ♡」

 

 ドアの奥から現れた巨体を見た時の感想も『なんかすごい』だった。このご時世で蛍光ピンクの染料なんてどこで手に入れたのか。それで染め上げられたボレロにスカートのせいで全身目に毒というか、一人だけ世界観が違う。スタンド使いと言われても納得などしたくないがしてしまいそうだ。

 

 スカートの裾から覗く足は筋骨隆々で男性のそれそのもの。おそらく剃ってから日数が経ってちょっと伸びたすね毛が男性っぽさを変に強調しているのもいろいろ目に毒だ。

 

「この子たちがヴェラの伝えてくれた見込みのある子たち?」

「はい。この子がアオで、後ろの子たちが今ポーレット家でお預かりしている彼の学友たちです」

 

 家主の男性が僕をまるで品定めするように見る。

 

「はじめまして。……えっと、おねえさん、で良いですか?」

「んまっ♡ もちろんおねえさんで良いわよっ。アタシはコルト・レミントン=ブローニング。コルト姉さんって呼んで!」

 

 なんだそのあまりに()()()()()()()な名前は。この方も僕の同類じゃないだろうな。

 

「ねぇレナちゃん、アタシのことアオ君に教えてた?」

「いえ、()()()()教えてないですよ」

「なるほどねぇ、頭いいわねこの子。気に入ったわ」

 

 僕は遠慮したいですとは言えない雰囲気。あと約束通りってなんだ。

 

「それじゃ、中に案内するわね。久々のお客様だから張り切っちゃうわよー!」

「あ、その前にコルトさん。ちょっとお見せしたいものが……」

 

 ポーレットさんが呼び止める。くるりと振り返る家主改めコルト姉さん。

 

「なあに? いい素材でも見つけた?」

「それが……」

 

    †

 

「んま――――――っ♡ マジックベアの毛皮! しかもこのサイズ! 鑑定しないとわからないけど、これ相当上物よね。普通に王宮の博物館送りになりそうな代物だけど、どうしたのこれ」

 

 超ハイテンションなコルト姉さんが腰を文字通りくねくねさせながら荷馬車の前で絶叫する。

 

「えっと、成り行きで狩り出すことになりまして……」

「は? 狩った? マジックベアを?」

 

 急にドスを利かせるのはやめてほしい。

 

「レナちゃんったら冗談上手いんだから。いくら特級魔導師だってこんな大物を簡単に狩り出せる訳が……」

「えっと……とどめを刺したのは私ではなく……」

 

 ちらりとこちらをみてくるポーレットさん。このタイミングで僕を見るのは本当に勘弁願いたい。

 

「え? この子?」

「とどめを刺したのは確かに僕ですが、それができるようにちゃんと炉を立ててくれたのは母上ですし、その前にそちらのハリエットがかなり削ってくれていたのでできただけです」

「ちょっとアオ!?」

 

 ハリエットがつっかかってくるが黙殺。

 

「……ふふん。そっちのカノジョもいい魔力してるじゃない。覚えたわよハリエットちゃん♡ これからも末永くよろしくね♡」

「アオ後で覚えときなさいよ……」

「ともかくです。コルト姉さんならこれの鑑定や、買い取りができるかなぁと思いまして」

 

 そう言うとコルト姉さんの目元が鋭くなる。商談のフェーズに入ったことを察してくれたらしい。

 

「……えっとね、アオ君。確かにアタシなら鑑定はできるけど、鑑定したところで今のご時世まともに買い取れる人はいないわよ。価値がつきすぎて」

 

 コルト姉さんからの回答はなんとなく予想ができるものだった。

 

「そうですか。……そういえば先ほど博物館にとか仰いましたもんね」

「そうよ。だけど魔道具の創り手としては飾っておくにはもったいない」

「ですよね! やっぱりコルトさんもそう思いますよねっ!」

 

 なんとなく納得する。ポーレットさんと気があうはずだ。

 

「……道具にすると価値が下がるのですか?」

「価値の定義次第かしら。これだけ大型のマジックベアを狩り出した事例はかなり少ないはず。狩人として、もしくは騎士としてならこれにはさみを入れた瞬間に価値が下がる。魔道具屋としては、このまま埃をかぶせるなんて愚の骨頂ね。毛皮が泣くわ」

「魔導師としてはこの意味不明な耐久力の術式を魔導術に落とし込む絶好の機会ですからねっ! これを見逃してなにが魔導師ですかっ!」

「母上落ち着いてください」

 

 過去一エキサイトしているポーレットさんを抑える。

 

「そもそもこれをアタシの所に持ち込んだということは、道具として作り直してほしいという事だと思うけど」

「もちろん、それはそうです」

「言っておくけれど、はさみを入れたら最後、毛皮としての価値は半分以下になるわ。アタシとレナちゃんの鑑定書をつけて王宮にでも献上すれば、色々便宜を図ってもらえるかもしれない代物よ。それでも道具にするのね」

「生憎ながら僕も母上も王宮への直通ラインを既に確保していますし、これ以上波風を立てる必要も無いので」

「レナちゃん、なにしたの?」

「……いろいろあって私は伯爵に、アオは子爵に叙されまして」

「レナちゃんの周りほんといっつも愉快極まるわよね。あなたの膝元に工房構えて正解だったわ」

 

 どうやらポーレットさんはこの人と結構長い付き合いのようだ。

 

「それじゃ、これの素材提供ということで使う分だけ受け取るわよ。工賃もそれでオマケしてあげる。で、使えなかった分は戻すから他の人に渡すか、うちと付き合いのある魔法素材の問屋に繋ぐからそこと話すのがいいかしら」

「ありがとうございます」

「で、アタシに何を作ってほしいの?」

 

 にやりと笑うコルト姉さん。僕も笑い返す。

 

「この毛皮で……正確にはこの毛皮の仕組みを応用して、彼女に合う外套を作ってほしいんです」

「わたくしにですか?」

 

 首をかしげるリコッタと目が合う。コルト姉さんはわずかだが目を細めた。

 

「外套ねぇ……でも事情はなんとなく察した。この子の魔力を遮断できる手段が必要ってことね」

「ご賢察の通りです」

 

 それをきいてぽんと手を打つハリエット。

 

「考えたわね。……確かにこの毛皮で閣下をくるんでしまえば、魔力の追跡はほぼ不可能になる。非常時に魔力を追跡(チェイス)されるリスクを減らせるってわけね」

「閣下? ってことはこの子……」

「はい、バリナード公爵家第一公女のリコッタ・バリナード閣下です」

 

 そう言うと本当に合点がいったらしく、ニッコリと笑うコルト姉さん。

 

「そういうことね。いいわ。作ってあげる。成長途中だろうし、サイズも何パターンか用意しておくわ。素材を多めに使うけど、いいわね?」

「もちろんです。贅沢に使ってください」

 

 即答すると呆れた様子のアーノルド。

 

「お前、ポーレット卿の手綱を握るんじゃなかったのかよ」

「元手になるものが既にあるなら話は別だよ。資産は活用してなんぼだからね」

「早速金遣いが荒いぜ」

 

 ため息が聞こえたので振り返るとシャルちゃん先生だった。

 

「本当に先生は心配です。そんなところまでレナ先輩に似なくていいんですよ」

「あらシャルロットじゃない。相も変わらずちんちくりんね。小さすぎて気づかなかったわ」

「これは! 種族的なものなんですっ! コルトさんはご存じでしょうっ!」

「はいはい、そんな風に地団駄踏むからいつまでもお子さま扱いが抜けないのよ?」

 

 来なさい、と案内されて今度こそ工房に足を踏み入れる。わずかだが下水のような匂いがする。

 

「……なめし剤の匂いですか」

「あら物知りね♡ そう、裏の別棟に加工場があるの。さすがにそこには通さないから安心して」

「閣下」

 

 ハリエットが指を鳴らす。風の魔導が閃いて匂いが払拭される。……正確には匂いの元になっている空気を遮断したが正しいのだろう。ガスマスク代わりの魔導が既に存在しているとは初めて知った。

 

「……なるほど」

「アオ?」

 

 いろいろ思いつくことはある。そのあたりを整理しながらコルトさんについていくと、工場(こうば)と札の掛かった部屋に入る。

 

「さて、……レナちゃん」

「はい」

「ここなら誰にも聞かれないわ。あんな上物の品を寄せておいてコートを作ってほしいだけじゃないわよね」

「……やはりコルトさんにはバレちゃいますか」

「年上を舐めちゃだめよ。なんだかんだいって貴女の倍は生きてんのよ」

「えっ」

 

 声を上げてぎろりと睨まれているのはハリエットである。少なくとも四〇歳越えには見えない。公爵閣下より年上ということになる。

 

「話はアオから」

「……それもこの子絡みなの?」

「というよりもこちらが本題でマジックベアの毛皮は本当に想定外だったんです」

 

 ポーレットさんが苦笑いでそう言う。目で促されたので、僕が話を切り出す。

 

「本当は僕やリコ様に魔道具を見繕ってもらうつもりだったんですが、事情が変わりました」

「事情って?」

「長期かつ大型の依頼です。場合によってはコルト姉さんのお知り合いにも声をかけていただくような案件となります」

 

 そう言うときちんと表情を消すコルト姉さん。

 

「何をさせたいのかしら」

「魔鳥に騎乗しての使用を前提とする魔導補助具の開発及び当該魔導補助具の量産体制構築に向けたコンサルテーションを依頼します」

「……本当に事情が変わるわね。量産? バカみたいなコストが掛かるわよ」

「承知しています。本件にあっては来年度の王立魔導研究所予算に計上見込みです。来年度の予算執行までの暫定予算としてトマス・バリナード公爵閣下より金貨一五〇枚が供出されます」

 

 チラリとポーレットさんの方を見るコルト姉さん。そして、リコッタのほうを見る。バリナード家の人間がいる場所で公爵名義の空手形は切れないと即座にのみ込んだようだ。

 

「本気と見ていいわね?」

 

 そう問いかけた先はポーレットさんだ。

 

「はい。ポーレット伯爵領としても本件を始めとした魔導研究は最優先事項です。アオの言葉通り、この件は王国の予算での執行となりますので、必要であれば国王陛下直筆の勅書もご用意できます」

「断ったら国賊扱いじゃないのそれは」

「コルトさんができなければ、他の誰にも依頼できない難易度の物になる可能性が高い案件です。私が魔導術についてウソをつけないことは、コルトさんもご存じですよね」

 

 そう言って笑うポーレットさん。

 

「それにコルトさんは断りませんから」

「どうして?」

「私と同じタイプの人間ですから」

 

 それを聞いたコルトさんはしばらくポーレットさんを見つめてから、吹き出すように笑った。

 

「レナちゃんもこんな搦め手を使うようになったのね」

「いろいろ大人にならないといけない事情ができちゃったんですよ」

「アタシはレナちゃんのことを子どもだなんて思ったことは無いわ」

 

 そう言ってコルト姉さんは腰に手を当てる。

 

「レナちゃんの依頼じゃなければ追い出していたわ。レナちゃんの信頼とアオ君の度胸を買って話を聞くことにする。……それで、アオ君の頭の中で開発イメージはついてるの?」

「可能かどうかはわかりませんが、一応」

 

 うなずいたコルト姉さんは、工場の中央に巨大な黒板をテーブルのように置いた。

 

「聞かせてちょうだい」

「はい。……チョークをお借りしても?」

「もちろん」

 

 コルト姉さんに倣って僕もチョークを手に取る。

 

 名前に引っ張られている気しかしないが、イメージはある。




いつぞやのジョバンニさん以来のふざけ方かもしれない。

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