【書籍第一巻発売中!】公女様の義腕騎士-元官僚、異世界でホームレスから成り上がる- 作:笹木ハルカ
「なるほどねぇ……レナちゃん、アオ君をうちの子にしちゃだめ?」
「ダメです」
僕の青写真をざっと見たコルト姉さんはそんなことを言っている。
「……できそうですか」
「特注の一点物ならできるけど、量産を前提とするならかなり難易度が高くなる気配しかしないわね。……とりあえず大まかな外枠だけ今作ってみるけど」
「え? 今からですか?」
「本当に外見だけよ。アオ君の言うような機構は今から考えるから見かけ倒しになる。なにか今の時点で問題ありそう?」
「いえ、そんな簡単にできるのかなって……」
「あら、舐められたものね。……できるわよ。レナちゃんも手伝ってくれるわよね?」
「もちろんです」
コルト姉さんはそう言って黒板に手をかざす。その直後、強烈な魔力が皆の髪を持ち上げる。
「……っ!」
「この黒板そのものが魔道具か……っ!?」
ハリエットが目を見開いたまま固まっている。
「シャルロットの教え子ってことで信頼して見せるけど、同業他社にバラしたら殺すから♡」
「バラしたくてもバラせませんよ。見えるところが本質じゃないですし、バラしたところで生半可だと死人が出るだけじゃないですか」
シャルちゃん先生が呆れた様子。強力な土属性の魔導の気配。この術式は……。
「ポーレットさん、これは……」
「王国随一の魔導具師でありながら、どこのギルドにも属さずに特注の魔道具の生産を請け負う『発明家』、コルト・レミントン=ブローニング博士。その仕事の心臓部の
「いえ、そうではなく……この術式は、ポーレットさんの」
「うん。私がコルトさんの魔法を解析して魔導術に落とし込んだの。それをコルトさんが術式として外部に固定していつでも使えるようにしたのがこの黒板。こうする前は建物一つに収まらなかった位の複雑な描画の集合体だったから」
やはり、ポーレットさんの術式の癖が出ている。チョークの粉が空中で塊に変わり、それが変形していく。
「すごい……!」
目を輝かせているのはアイリスだ。こういう術式理解は僕たち魔導術入門組の中ではアイリスが頭一つ抜けて理解が早い。
「チョーク……というより、消石灰をつかって組み立ててるのか」
「なんというか、とんでもないな……」
アーノルドも唸っている。これはあれだ、石材を固めて形作る強力な3Dプリンターだ。
「どうしてこんな便利な物があるのに普及しないんですか?」
「これで作った試作品はどうしても脆いからね。今のところ消石灰しか原料に使えない。これで作った物をベースに他の素材、木とか鉄とかで作り直すにはまた別の手段が必要で、試作品にしかならないの」
ポーレットさんがそう言って前に出る。
「コルトさん」
「ん、形としてはこんなところね。後は任せた。置換までやっちゃって」
「任されました」
ポーレットさんが空中に浮かんだままの試作品に触れる。白い粉を押し固めたようなそれが一瞬だけ光った。火属性の魔法。
「……なるほど石灰サイクルを高速で起こしてるのか」
「アオ君?」
シャルちゃん先生に首をかしげられるが僕にはそれに答える余裕がない。おそらく消石灰を加工して形を作り、二酸化炭素と反応させて石灰石に戻している。確かに漆喰がここまで普及しているのだから、当然消石灰は使われているし反応用の炉もある。仕組みそのものは単純なのかも――――。
「!?」
……と思っていたのだが、次の瞬間には本当に金属に変わっている。作り直すには別の手段が必要と言っていたが、ポーレットさんは土属性の魔導でまるごと置き換えてしまった。木製の想定のところも既に木に置き換えられている。木は水属性じゃないのかと思うが、もはやポーレットさんの魔導は意味不明の領域に突っ込んでいるので気にしていられない。
「すごいです……ね……」
なんとコメントして良いのかわからない様子で当たり障りのないコメントを残すリコッタ。一応万が一に備えていろんな術式を発動できるように構えているらしいハリエットの緊張がここまで伝わってくる。それだけの綱渡りをしているのかもしれない。
シャルちゃん先生がそれを見て口元だけ笑った。目元が笑っていなくて本当に怖い。
「みなさんは真似しようと思っちゃ絶対にダメですよ。コルトさんも魔導師認定試験を受けに行けば一級は確実に取れる実力者です。その人の魔法を特級のレナ先輩が知識をフル活用してなんとかコントロールできるように落とし込んだのがソレです。生半可で手を出すと色々吹き飛びます」
「……ちなみに手を出すとどうなるんですか?」
アーノルドが怖い物見たさで切り込む。
「安易に真似したら指が飛ぶとか失明するとか、そんな生優しいレベルの事故ではすみません。いくら先生でもさすがに『生徒の残りカス入りモルタルの処理』なんてごめんですから、よい子もわるい子も絶対に手を出さないように。いいですね」
シャルちゃん先生に念入りに釘を刺される。真似したくても真似できるかこんなの。全員がほぼ即座に頷いた。
「……っと、こんな感じかな」
魔導術の奔流が収まってポーレットさんの手元にその試作品が降りてくる。
「杖……」
「にしては変な形だけど」
アーノルドに突っ込まれる。まあ、初めて見る形だろう。少なくともこの世界にはまだない形のはずだ。
やっぱりコルト姉さんの名前に引っ張られてしまったところはあるかもしれない。長さは一メートル弱、だいたい九〇センチといったところ、木製の柄には握り、それが金属製の機関部と接続され、先の方まで伸びている。
言っちゃなんだが、ポーレットさんには恐ろしく似合わない。
「まさかこんなに早くできるとは……これがちゃんとできるまで数年かかる想定だったんですけど……」
そう。僕がリクエストしたのは、小銃スタイルの魔道具だった。西部劇で出てくるようなライフルをイメージしていたのだが、この速度でこれが出力できるのであれば、もっと複雑な造形もいけるかもしれない。
ポーレットさんから試作モデルを受け取る。ずっしりとした金属の重さが両手に掛かる……それを肩で感じる。義肢越しだと木の感触はわからない。
「……あれ、もしかして銃身にいくつか描画仕込まれてます?」
「うん、とりあえず風の魔導のベースだけね」
ポーレットさんがニッコリ笑う。つくづく恐ろしい。ポーレットさんに説明した想定仕様はすくない。僕のつたない説明でここまで精度が出せてしまうのか。
「魔鳥に騎乗した状態で使うなら、魔鳥の術式に干渉しない指向性と安全距離を稼がないといけない。私がバドに乗る時にも使う術式だからもう魔導術化してあったの。それを組み込んである。……あとは身体の周りの空気圧調整あたりは常時発動になるかな。かなり高いところまで飛ぶつもりだろうし、それも追加で刻んどこうね。あと高速度域で雲を吹き飛ばすやつも」
「あー……あれですね」
「元はアオの術式だし、アオが使う分には問題無いと思うけど」
いろいろ魔導術を平行発動しっぱなしになるから、いろいろと心配だけど、その術式の保持を魔道具が代行してくれるのだから、道具というのは偉大だ。
「そうなると安めのやつでもいいから封魔結晶でも仕込むことになるかしらね。……その位置で握るなら、柄の方を重くしないとバランス悪いだろうしそっちに仕込むか」
もう改善案がポンポン飛び出してくる。それを聞きながら誰もいない方向に銃口を向けて構えてみる。ストックを右肩につけ、前へ向ける。
「えっと……なにか革紐みたいなのあります?」
「あるわよ♡ それのグリップに巻くの?」
「いえ、銃床……木のこことここを繋ぐように結んで構えた時に肘で突っ張れるように……」
「じゃあ、これくらいの長さかしらね。レナちゃん、ここに金属の紐掛け作れる?」
「こんな感じかな」
あっという間に二点式スリングが完成する。なんだこの改良の早さ。
「確かにこれだけ大型の魔道具なら術式を仕込みやすいし、片手でも扱えそうね。狙いも付けやすそうだし。……問題はアオ君の言う『適宜術式の切り替えが可能な回転式術式変更機構』……これは少々手間ね。強度がどれだけ出せるかによるかしら」
試作品ではただの円筒の塊として造形されている機械部の話だ。魔導術を前提にするのであれば、火薬による火傷を心配せずに扱えるリボルバータイプの弾倉は有用だし、そもそも魔導術の描画を切り替えるのが目的だから戦闘中のリロードという概念はほぼ存在しないはず。リボルビングライフルタイプの魔道具が扱い安いはずだ。
「強度……強度ですか」
「これだけ長いと槍みたいにも使うでしょ? 機械部を守りつつ軽さと両立するとなると……」
そう言いつつ黒板型の魔道具を再起動するコルト姉さん。こちらもモックアップが一瞬でできあがる。サイズは想定の三倍ぐらいの大きさだけど、ほぼイメージ通りというか、前世の回転式拳銃の機械部そのままの形が出力された。
「で、多分こんな感じになるんだろうけど、この樽を回して、内筒に仕込んだ術式を選択して発動させるわけね……。六個くらいは術式を仕込みたいわね」
「できれば術式を仕込むカートリッジと樽を分離できるようにして、カートリッジの組み替えで術式のプリセットを変更できるようにしたいんですけど……」
「となると……この樽に筒を詰め込む感じか。これはアレね。術式と一緒に封魔結晶を仕込んどいて、破砕時の臨界出力を術式に叩き込むなんてこともできそうね」
「……あの、コルトさん? 村一つ消し飛ばしそうな出力をアオ君に叩き出させるつもりですか?」
シャルちゃん先生がブレーキをかける。まあ正直できるかできないかで言うと、たぶんできる。できるし、銃の使い方として一番近いのはそれだろう。
「大丈夫大丈夫、そんな出力を求められるような事は無いし、そんなことをひょいひょいできる術者は早々いるわけないでしょ」
その言葉に皆僕から目をそらす。アーノルドやアイリス、シャルちゃん先生に逸らされるのはまだ納得ができるし、リコッタやポーレットさんはそうしてくるのはもう諦めたけれど、ハリエットにまで目をそらされるのは納得がいかない。君は王都の目抜き通り一つ壊滅させる勢いで水蒸気爆発を引き起こし、リコッタを空中に打ち上げた犯人だろうハリエット君。
「……え、なに? アオ君前科持ち?」
「少なくともアオ様は一度片腕を吹き飛ばす勢いで魔法を放っております」
「初めての魔法ですし、リコ様の危機でしたし、加減なんてする余裕がどこにもなかったんですよ。それ以来どこも吹き飛ばしてないじゃないですか」
「一カ所でも吹き飛ばした時点で普通はもうダメなんです」
最近のリコッタは本当に容赦がない。僕に言い返す術がないのでここは素直にごめんなさいだ。
「……安全機構はバチバチに組んでおくわね」
「よろしくお願い致します」
カーテシーまでしてお願いするリコッタ様。そこまで僕は無茶をするように見えるだろうか。
「ともかく、こっちの機械部をこのサイズに入るようにすればいいわけね。やるわよ」
「よろしくお願いします。術式まわりは母上と相談ですね」
「任せて。アオの力を安全に最大出力で出せるようにするから!」
「レナ先輩もアオ君に村一つ消し飛ばさせるつもりですか!」
なんだかんだいってシャルちゃん先生も僕が高出力を出すことは疑っていないあたり、僕の強みはそこにあるんだろう。シャルちゃん先生に心の中で詫びつつ僕は曖昧に笑ってみせる。
昨日、日本のことを思い出したせいか、どこか日本人スタイルの振る舞いが増えた気がした。
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