【書籍第一巻発売中!】公女様の義腕騎士-元官僚、異世界でホームレスから成り上がる-   作:笹木ハルカ

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魔導の素質

 場所は変わらず訓練場。僕は車椅子からおりて、よく手入れされた土の地面に腰を下ろしている。これなら倒れた時も落差が少ないから比較的安全だ。

 

「……で、ここから何をすればいいの?」

 

 ハリエットはなぜかストレッチをしながら僕の方を振り向いた。

 

「姫様とあんまり変わらないけど、魔方陣に魔力を流して、つむじ風を起こして消費してもらおうかなって」

「……リコ様みたいに封魔結晶に魔力を貯めとくってできないの?」

「できるけど、今はストックがないからとりあえず魔導術で発散してもらう」

 

 ハリエットは落ちていた木の棒を取ってくると、僕の前で何か図形を書き始めた。

 

「これが、描画というやつ?」

「そう。一応私の専門が発散系だから何も見ずに書けるけど、勝手に真似して書いて発動させないようにね。あと、自力で書いた時は、私か魔導師の検図を受けること」

 

 そんな注意を受けている間にも、あっという間に図が描かれていく。フリーハンドで綺麗な正円を描けている。これは確かに訓練しないと描けないだろう。

 

「本当は手で触れるんだけど、アンタは手がないから、この図に膝が乗るような位置で正座しようか」

 

 そう言われて小さく頷く。ハリエットに後ろから抱えられるようにしてズリズリと前に進む。

 

「陣も消えて……ないわね。説明するけど、私が『やりなさい』と言うまで何もしちゃダメよ」

 

 その注釈が入るということは、手順を逸脱すると危険だということだ。

 

「魔力が見えてるだろうからわかると思うけど、陣に魔力を押し込むイメージで発動できるわ。効果としてはちょうど魔方陣のサイズの風の柱ができる感じね。上に風が抜けるから周囲の巻き込みには注意しなさい」

「了解」

「私はこの位置で姫様を守りつつ、様子を確認する。声をかけたり、私が手を振ったら魔力供給を止めること。自力で止まらなかったら後ろに転がるようにして、魔方陣から離れること。魔方陣から離れたら魔力供給も止まるわ」

 

 練習しましょう。と言われ、真後ろに転がる練習をする。それでも危ない時はハリエットが僕を魔導で後ろに吹き飛ばすらしい。

 

「それじゃあ、疑問点はある? ない?……それじゃあ、『やりなさい』」

 

 合図と同時に魔方陣に膝で触れる。自分の魔力は見えないが、なんとなく参考になる感覚はある。槍を投げる前、右手になにかが吸われていったあの時の感覚だ。

 

「お……」

 

 小さな渦が生まれるのがわかる。別にアニメみたいに陣が発光するとか、そういうことはないらしい。

 

(あれ、あの時みたいに上手く魔力が流れていかないな)

 

 なにかどこかでボトルネックが発生しているような感覚だ。前は手から魔力を送り出し、今は脚からだからだろうか。いや、おそらくそうじゃない。魔法から魔導術として落とし込んだ際のなんらかのステップが邪魔していると思うべきか。思うように魔力が流れていかない。

 

 それでも風が少しずつ大きくなっていく。周囲の砂埃がわずかに吸い込まれた。ここで砂を大々的にまき散らすのも良くないだろう。あまり大量に押し出すのは良くないかもしれない。

 

 リコッタが封魔結晶に魔力を注ぎ込む時に「加減が難しい」といったことを言っていたが、たしかにそんな感じだ、精一杯押し込んでも一定の量しか入っていかない感じ、なんとか処理を増したいが……。

 

「ストップストーップ!」

「ん?」

 

 ハリエットの声に処理を中断。念のため後ろに転がって物理的に距離を取る。ついでに横にも何回か転がってから脚の反動で起き上がった。

 

「なに?」

「姫様も姫様だけど、アンタもアンタだわこのおバカ! 姫様、ちょっと手伝ってください!」

「はい!」

 

 二人ともが駆け寄ってくる。なにがあったのかさっぱりわからない。

 

「アオ様! 大丈夫ですか!?」

 

 ぽてぽてと擬音が付きそうな感じで、でも顔は真剣そのもので駆け寄ってきたリコッタが僕の前で膝をつく。服が汚れるのも構わずにやってきて、こちらを見上げるように覗き込んできた。距離が近いので逃げようとしたら、後ろからがっちりと押さえてきたハリエットに邪魔される。

 

「姫様!」

「治療術、かけます!」

 

 そう言われ、ぎゅっと抱きしめられる。ドギマギする余裕もなく、足下に光の模様が現れた。円の中心はおそらくハリエット。つまり、ハリエットが何らかの魔導術を発動させた。

 

「よし、姫様の魔力なら整流が効く! そのままかけ続けて! 魔力の補填はこちらで対処する!」

「はいっ! いたいのいたいのとんでけー!」

 

 痛いところなんて無いんだけどなぁと思いつつそう繰り返すリコッタを見る。どうやら公女様にこうさせるようなことをしでかしたらしいということだけがわかる。

 

「お……? お、おぉ……?」

 

 なんというか、腹の中を見えない手でなで回されているような、触っちゃいけないところを触られているような感覚がある。

 

(き、きもちわるい……!)

 

 胃液が上がってくる感覚があるが、ここで吐くわけにもいかない。必死に耐える。

 

「よし、戻ってきた!」

 

 うれしそうなハリエットの声。僕は戻しそうですとは言えない。口を開けたら多分虹が出る。

 

「姫様、もう大丈夫です!」

 

 直後、腹の中の圧力がふっと消える。詰まっていた息が一気に吐けるようになる。

 

「おぉ……体が楽になった」

 

 そう口にしたとたん、げんこつが落ちてきた。

 

「でッ!」

「またどこか体を壊死させる気!? あんな高密度魔力を流し込んだら流路の細胞が吹き飛ぶ!」

 

 そう言われるが、なんとなく実感がない。

 

「……で、脚は無事?」

「ハリエットのげんこつの方が痛い……」

「あんな勢いで魔力を押し出す方が悪い。見た感じ出血はないけど、姫様の治療魔法でどこか違和感あった?」

「えっと……腹の中がうにょうにょしてる感じというか、内臓を触られている感じというか……」

「となると、魔力負荷による細胞壊死はなさそうか……内臓ってことは、今回の魔法じゃなくて、多分ホームレス時代の病気かなにかね。なんだかんだアンタ熱出すこと多かったし」

 

 ハリエットの声色が通常モードに戻ってくる。

 

「それで、なんであんなに魔力を一気に押し出したの?」

「リコ様と会ったときの感覚に比べてあまりに流れが悪かったから……」

「そんな勢いでやっちゃダメです!」

 

 リコッタは抱きついたままベソをかき始めてしまった。そうか、馬車を襲っていた山賊への攻撃の後、僕が意識を失っている間に右手が腐り落ちてるんだから、同じことになる可能性があったわけだ。確かにまずいことをしでかしている。ハリエットからの視線が痛い。

 

「なんで魔力の高次精製ができるのかとか、なんで高圧縮状態の魔力を放出して脚が吹き飛んでないのかとか、それ以前になんで陣を壊さずにあんな魔力を込められたのかとかいろいろ気になるけど、もうこの際何でもいいわ。とりあえず、そんな魔力を突っ込むもんじゃないからね。わかった?」

「……はい」

 

 リコッタ共々、魔導術の自主練をキツく禁じられて、今日の所の練習は終了となった。

 

 

 

    †

 

 

 

「なるほど……、つまり、リコもアオ君もかなりの特異体質ということだな?」

 

 練習が終了し、公爵閣下に謁見することになった。直接話すのは初日以来なので、一週間ぶりのご対面である。話題はやはり、僕とリコッタの魔導術のこと。

 

「はい。姫様は特に、かなりの量の魔力を日常的に体外へ放出する必要があります。拘束時間のことを考えても、封魔結晶に魔力を放出させるのが最適かと存じます」

 

 ハリエットってこんな言葉遣いできたんだと、どこか場違いなことを考えなから話を聞く。

 

「……封魔結晶の質は問わないのか?」

「高い方が好ましいですが、そこまで神経質になる必要はございません」

「ふむ……わかった。急ぎ手配する。ハリエット殿は引き続き、二人の指導を頼む」

「御意」

 

 そう言って一礼して下がるハリエット。僕も続こうとしたら、公爵閣下に呼び止められた。

 

「今の件にも関係するが、ポーレット子爵との面会の件を少し早めたいが、良いだろうか」

「構いません。……今の件に関係する、とはどういうことでしょう」

 

 分からないことは素直に聞き返すと、公爵閣下は頷いた。

 

「ポーレット子爵家が管理するオーストレス地方は山岳地帯で、封魔結晶の原料である白水晶の鉱山がある」

「なるほど。……都合が良い、ということでしょうか」

「その通りだ。ハリエット殿の話だと、君も魔力の放出が必要になるのだろう? であれば事情はレナも知っておいた方がいい」

 

 それは確かに道理だ。僕の腕のことや魔法や魔導術の扱いのことは知っておいてもらった方がいい。

 

「それにレナは土属性の魔法に優れた魔導師でもある。きっと君たちの力になってくれるはずだ」

「それは助かります」

 

 これから母親になってくれる人についての会話だが、どこか他人行儀になってしまう。合った事も無い人だから当然なんだけど、どんな人なんだろう。

 

「ん……君たち?」

「あぁ、避暑には早いが、寄宿学校への入学前にリコッタもしばらく同行させようかと思ってね。それに我が妻は出産を控えている。専念させるためにもリコッタをどこかに預けようと思っていたのだ」

 

 公爵夫人は妊娠中だったのか。どうりで一度も顔を合わせないはずだ。僕はホームレス出身でどういう病気を持っているかわかったものではない。神経質になるのもうなずける。

 

 それにしてもフットワークの軽い公爵閣下だ。これは僕を気にしているというより、ポーレット子爵との関係を維持したいということだろうか。何か裏がないかと疑ってしまう。リコッタが関わる以上そう酷いものではないはずだが、僕に話せないなにかがあってもおかしくない。

 

「リコもそれでよいか?」

「はいっ! アオ様とご一緒できるのがうれしいです!」

 

 それはそれとして、僕にべったりなリコッタ殿は公爵閣下的に大丈夫なのだろうか。

 

「では、明後日にでも登城してもらうように調整しよう」

 

 なんだか、色々と話が性急だが、断る理由がないので、素直に頭を下げる。

 

 ポーレット子爵、どんな人なんだろう。




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