ゴールドラッシュ 作:switch2外れた
主人公の見た目はかわいい系のSV主人公を適当に想像してください
※ご指摘により同一人物の発言を複数の「」で区切っていた点を修正(05/28)
俺はよくいる転生者。頭に最強系って着くタイプ。
やり込んだゲームの世界に転生して人生イージーモード。ただ俺の”もと”が縛りプレイ用のサブ垢だったせいか、トレーナーカードには
だから親しい友達には
リングってのは、俺が働いてる──訂正、
『真の絆は死地にある』が
俺はそこのチャンピオンをやってた。就任以来無敗で、なんなら選手登録から負けたことがない。
トレーナーとしてはぶっちゃけ雑魚だが、こっちにはゲーム時代からの手持ちがいる。6Vレベル100努力値マックス。圧倒的なスペック差は、『避けろ』の言葉すら不要にする。
勝って勝って勝ち続けた。無敗のチャンピオン”エース”とは俺のこと!グッズはバトル後の物販で!そんな感じ。
そんな感じの生活を続けて──たぶん2年ぐらい。この世界の暦にまだ慣れてないから怪しいが、確かそのぐらい。
勝ち過ぎて追放された。
「──っしゃあ!きのみジュース追加ァ!」
グラスを叩き付けてそう叫ぶと、お代わりに代わり蹴りが飛んできた。
「いーったい!」
「クソガキ、うちはキャバクラじゃねえ」
「堅いこと言わないでよ~せっかく貸し切りじゃん?」
「他に客がいないだけだろうが……悪かったなァ客足が遠くて!」
「わぁ情緒不安定」
店内の人影はたった三つ。俺と、俺の護衛。そして店主。
隠れ家的なバーを目指して設計されたこの店は、品揃えも中々悪くないし、料金も良心的。俺のお気に入りである。
ならなぜ人気がないのかと言えば、
落ちぶれたこの街で、真っ当に良い店であるここは浮いているのだ。だからこそ、俺たちのような爪弾き者が落ち着けるのだが。
「フフッ……」
「おっと悪ぃなトウコちゃん。騒がしくしちまって」
「別にいいよ。騒がしいのも嫌いじゃない」
「ほんっとにいいコだな。単なる護衛っつっても、成金のクソガキにゃあもったいねえぜ。つうかコイツリングもクビになったんだろ?ホントに縁切らなくて大丈夫かい?」
「クビじゃない。引退!不敗のまま引退して伝説になったの!」
「クビになったって散々愚痴ってたのはオメエだろが。アルコールもなしにヤケ飲みしやがって……」
「だあってさぁ~」
床に蹴倒されたまま、情動の命じるままに身悶える。思い出すのは職場のこと。
物理的に輝きまみれだった栄光の日々と、ほんの数時間前に受けた引退勧告について。
俺がオーナーと出会った頃、まだバトルリングは小規模で、未来の展望も明るくないような施設だった。
それを、俺という象徴的なスターがこの街でも随一の興行へと押し上げたのだ。
ファンサービスにグッズ展開、試合の組み方や試合内容そのものについて。バトルリングというお互いにとっての戦場を成長させるために、かつてはそのオーナーと夜通し話し合いを重ねたこともある。
それなのに、それなのに──
「──あのクソ野郎!」
「はぁ……とりあえず起きろよ。愚痴ならいくらでも聞いてやっから──っておいバカ、マジで起きろ」
「うぇ?」
ひょいとトウコちゃんに抱えられ椅子に置かれる。何事かと思えば、新しい客らしい。
俺ら以外にも常連はいるが、新規の客ってのは本当に珍しい。俺もこの店を独り占めしたいわけではないので、お行儀よく姿勢を正し、キメ顔でグラスを傾けた。
ここはオシャレなバーここはオシャレなバー。グラスは空だが、真の名店は雰囲気で酔わせるもの。問題ない。
そんな”じこあんじ”が通じたのか、入店した男は俺の隣に腰かけると、オシャレなことを言った。つまりこう。
「こんばんは。彼と同じものを頂けますか」
俺はそっとグラスを男から遠ざける。マスターは一瞬『やべっ』という顔をした。なにせ今のグラスは空で、さっきまでの中身はきのみジュース、アルコールはゼロだ。
迷った末に無難なカクテルを仕立てている姿を見て、俺と同じくその思考を理解しているトウコちゃんは隣で微かに肩を震わせている。
如何にもこの街の住人と言った風の、身なりと恰幅のいい男にマスターの即興は通じるのか。それを確かめるより先に、男が話を切り出した。
「静かで、悪くない店ですね……”リングチャンピオンのお墨付き”と銘打たないのは、やはりこの静けさのためですか?」
面倒ごとの気配。それも俺由来のものに、マスターが凄い形相でこちらに目を向けた。
それを努めて無視して──笑いそうになるからだ──空っぽのグラスを手慰みに、会話に興じる。
「なんだ、もしかして俺のファン?」
「ええ!実は今日の試合も見てました」
「そりゃどうも御贔屓に。『今後とも』って言えないのが
「ハハ。ではこの一杯を飲み終わる前に、是非そう言ってもらえるよう頑張らなくてはいけませんね」
「なんだよセールス?悪いけど、事務所通してないとサインしてやれなくてさ」
そして許可を出すべき事務所は既に抜けてきた。という含意を男は正確に理解し、その上で続けた。
「大丈夫ですよ。怪しい押し売りではありませんとも。事務所の許可は得ていますから。それになにより、
「……ふーん」
男は出された酒に手も付けなかったが、マスターはそれを見咎めることもなかった。ただ俺たちから遠ざかり、トウコちゃんの近くに寄って俺を睨んでいる。
もったいぶった前置きの割に、男は率直に本題を切り出した。
「あなたの相棒を売ってください。”おうごんのからだ”を持つポケモン──サーフゴーを」
「はぁ……」
ため息を一つ。唇を湿らせようとしたがグラスが空だったので、仕方なく簡潔に言った。
「
「おや、意外な……いえ失敬。こちらにお好きな金額を書いて下さい……一度言ってみたかったんですよ。これ」
そう言って小切手を差し出し、冗談めかして笑う男に、俺は思いっきりの嘲笑を含めて返した。
「そっちじゃなくてさ。いくら欲しいの?」
「……は?」
「卑しくも金に困って俺のポケモンに集りに来たんでしょ?だから、いくら欲しい? 貧乏人が夢見れるぐらいの額なら、別にポンとあげるけど?貧困による犯罪を無くしたかったんだよね~昔から」
言いながら、じゃらじゃら、じゃらじゃら。両手の袖からこれ見よがしに、金貨をカウンターに零してやる。
「ほら。両手いっぱいに好きなだけ、拾って帰りな。君のママにもよろしくね──おっと!」
男は零れ落ちる金貨を眺めるばかりで固まったままである。本当にもらっていいのか迷っているのかもしれない。いじらしいことだ。
このブラックシティに染まりきり、人の施しに素直に手を伸ばすことのできない、哀れな男の背を押すために。俺は彼の前言に乗った。親しみを持ってくれるといいんだが。
「
俺の煽りは男に手を出させるのに及ばなかったが、確かに怒りを買ったらしい。口角だけは笑みの高さに、しかし顔を強張らせ青筋を立てた男は、金貨の山を薙ぎ払った。
「足りませんね。こんなものでは」
「わーお無礼。欲張りだねえ」
「無礼は承知の上。ですがこの程度では、
「アハハ。『無限の富』?そんなデマに引っ掛かるなんて……ホントに俺の試合見てた?」
「ええ。たしかに拝見しましたとも。あなたの代名詞──”ゴールドラッシュ”なんとも惹かれる輝きでした」
「うーん。まあ、金貨をぶちまける攻撃。そりゃいくらでも
物理と特殊の違い。かつてのゲームにおいても基準がわからなかったが、この世界においては、一応の回答がある。
それは単純に、実体か非実体か。つまりは物質にエネルギーを込めるか、エネルギーをそのまま放出するか。
放出されたエネルギーは、いくら物質のように振舞っても、すぐに消耗しきり消えてしまう。”なみのり”の水、”りゅうせいぐん”の隕石、そしてもちろん、”ゴールドラッシュ”のコインも。
「バトル後に幾らかコインが残るけど、あれは技の
「なるほど。なるほど。悪くない欺瞞情報ですね。それで、おいくらですか?」
長々と説明してやった返答がこれとは、中々人を怒らせるのがの上手い男である。その愚かさに免じて交渉”ごっこ”に応じてやる。
「……ま、信じるも信じないも自由だ。ただまあ──そんなに評価してくれるなら、評価相応の値札がいるよね」
卓上の小切手を拾い、嫌味ったらしく見せつけながら、大きく『∞』の弧を描いた。
しかし、男は元々そんな回答を予想していたのだろう。先ほどまでの余裕のない様は成りを潜め、鷹揚に頷いた。
「たしかに、無限の富に値段を付けられるはずもありませんな。でしたら、金では買えないものと引き換えならいかがでしょう。例えば、家族、恋人、友人。あるいはそうですね──
「安全?」
「ええ。無限の富など、個人の手には余るでしょう。求める者は数知れず。皆が紳士とは限りません。お察しの通り、私はさるお方の使いですとも。だからこそ、いかがです?厄介事を手放して、ついでに後ろ盾を一つ。『
男は肝心の後ろ盾とやらの名前は出さなかったが、代わりに所属を明かす品を差し出した。
それは小さなバッジである。赤地に黒の水玉模様。テントウムシを模したバッジ。
「家族、恋人、友人。そして安全。金で買えぬすべてを約束しましょう」
「……うへぇ」
思わず呻く。そのバッジが示す組織の名は──あるいは悪名は──世間知らずの俺の耳にも届いていた。
名を
「
「ファミリー。あるいはハウスとお呼びください。それは私たちを揶揄する輩がつけた呼び名ですから」
カルトに似た成り立ちの、マフィアに等しい実態を持つ、世界で最も過激なファンクラブ。
「なるほどねえ。結構なビッグネームじゃん」
「お眼鏡に適いましたか?」
「いいや?俺、むしろ君らは嫌いなんだよね。結局のトコ、人間はみんな個人だろ。御大層な後ろ盾を誇っても──」
抓み取ったバッジを、ピンと弾き放る。それは男の肩にぶつかって床に落ちた。
「──飛んでくるバッジ一つ防げない。それとも、”いざ”となれば助けでも来るのかな?」
ここに来て、男はようやく挑発を買った。床に散らばった金貨が
「試してみますか?」
「お、おい……」
それまで巻き込まれないよう黙っていたマスターが、流石に声を掛けてきた。言わずもがな、『事を荒立てるな』の意だろう。
はっきり言って心外だ。俺はこの街では珍しい常識人。それゆえ社会から浮いているが、だからこそ信じて欲しいものである。
緊張した空気をほぐすように、俺はマスターに微笑んだ。
「安心してよマスター。俺にも良識はある。責任は弁えてるさ」
「あ、ああ。だよな……」
「もちろん。だから当然──弁償するとも」
「んなこったろうと思ったよ!」
言うが早いかカウンターに身を隠す。
それを尻目につい数時間前の引退試合をなぞって、俺はキメ顔でこう言った。
「”ゴールドラッシュ”」
続きはちょっとだけあるよ。プロットなんてねえよ。完結の見込みもねえよ