ゴールドラッシュ   作:switch2外れた

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 作者の名前は変え忘れたのではなく変える必要がなかったんです。悲しい。


ダストシュート その①

 

 裏社会の人間、などと言うと如何にもスレた感じがするが、なにせこの街の彼らは、傭兵に二つ名を付けてはしゃぐような人種である。

 そんな奴らだから当然「最強の傭兵は誰か?」なんて話題は酒の席での定番だ。

 

 年季が人気に繋がった貝刀乱麻(シェルブレード)。若手ながら戦果の大きい雨下の歩み(アクアステップ)。火力と射程と手数のすべてに優れる鳥突猛進(ブレイブバード)。今は亡きゆえに思い出補正の掛かる侵攻芳香(アロマミスト)に、正体不明のため期待が高まる鉄仮面(アイアンヘッド)その他たくさん(エトセトラ)

 傭兵ですらない俺の名を挙げる奴もいて、まあ盛り上がるだけに結論はない。

 

 だが、「最悪の傭兵は誰か?」なんてともすれば意味の分からない問いには、およそ結論と呼べる名があった。

 

 複毒自殺(クロスポイズン)。毒を以て人を制すと言って憚らないその女は、洗脳による人海戦術を得意とする。オマケに同業者を手駒にしたならば、その命すら厭わない。

 

 ()()()()()()()()()()とまで言われた彼女は──しかしこの日、確かに圧倒されていた。姿を隠し、一方的に消耗を強いてなお、誰の目にも劣勢は明らかだ。

 それを為したのは一人のトレーナー。即ちギーマ。その街限定(ローカル)な二つ名ぐらいしか持たない俺たちと違い、イッシュ全土にその勇名を轟かせる、ポケモンリーグ四天王が一人。

 

「キリキザン!"メタルクロー"!」

 

 回転し突貫するドリュウズを、キリキザンが迎え撃つ。”ドリルライナー”を強引に打ち破られて隙を晒したドリュウズに、キリキザンが突っ込んだ。

 

「"つじぎり"!」

 

 斬り伏せられたドリュウズが倒れる──寸前にそれを押し退けてリザードンが頭を突き出した。大口に湛えた火炎。"かえんほうしゃ"か"だいもんじ"か。

 判別よりも先に放たれた炎に、キリキザンを庇うようにサメハダーが翔る。

 

「"たきのぼり"!」

 

 火炎の勢いに打ち勝ったサメハダーが、リザードンの顔面にぶち当たった。たまらず怯んだその隙に、奔る白刃は再びの"つじぎり"。リザードンが崩れ落ちる。息吐く間もない攻防を潜り抜け、ギーマは大きく深呼吸した。

 その背後でリングマが大きく腕を振りかぶり──足元から飛び出した大鋏がその巨体を沈めた。

 

 振り返ることもせずギーマは叫ぶ。

 

「次!」

 

 現れたデンチュラが"エレキネット"を放つ。それをタイプ相性で無効化したワルビアルが返しの"げきりん"を──という大立回りを、ポッキー的なお菓子を食べながら観戦する。一般人相手とは言え連戦を続けてなお獅子奮迅の活躍。流石は四天王だ。

 

「受け止めろキリキザン!サメハダー"アクアジェット"──次!」

 

 連戦も始まって早々、5人目の相手がガントルを繰り出したところでギーマは普通のパーティも使い出した。技構成が普通なのにどうやって"ねこのて"でギロチンだけ出してるのか聞けば、どうやらバトルボックスの悪用──本人はあくまで活用と言ったが──らしい。

 ゲームだとボックスから出した時点で登録解除された気もするが、まあ現実だとボックスというのはどこかに実在する預かり所であって異空間ではないし、通信対戦なんて概念も存在しないので、そんな仕様もなくなって当然かもしれない。

 

「ズルズキン"とびひざげり"──次!」

 

 またギーマが叫ぶが、たった今倒れ伏したゼブライカが最後の1体だ。俺は気を利かせた。

 

「キビキビィ!」

 

 俺は叫んで立ち上がり、不愉快さか怒りか驚きか──筆舌に尽くしがたい顔のギーマを見て大人しく座り直した。

 平静を装って言う。

 

「今のでたぶんラスト。流石は四天王だね」

 

 たっぷり数秒経ってもギーマは黙ったままだ。

 

「い、いやーにしても、各駅停車を選ばなかったのは英断だったかもね。補充がなくて良かった良かった」

 

「…………そうだな。ところで、親玉の居場所に心当たりは?」

 

「予想だけど、まあ──」

 

 俺の声を遮って、トウコが言う。

 

「──先頭車両、ってのが相場じゃない?こういうのは」

 

「……まあ、そうだね」

 

「分かった。ならわたしは先に進ませて貰おう。悪いが、君たちは乗客の治療を頼めるか?時間は掛けなかったが、最初の数人は乗車前から毒を受けている可能性もある」

 

 傷一つないのに随分と余裕がなかったのはそれが原因か。しかし事前に言っておけば良かったが、それは完全に杞憂だ。

 

「洗脳効果と毒のダメージは二者択一(トレードオフ)だから平気だよ。『毒の効果が洗脳になる』って感じで」

 

「今日聞いた中で一番いい知らせだ。ならここで待っていてくれ。すぐに戻る」

 

「あ、ちょい待って一応。"こんらん"程度なら毒と両立できるから、キビキビ言ってない奴と万一出会ったら気をつけてね。自分のポケモンがそうなった時も。"ラムのみ"もっと要る?」

 

「大丈夫だ。ありがとう」

 

 言い残してギーマが隣の車両へと去るのを見送り、俺はトウコに目を向けた。

 

「んで、何で騙すような真似を?一応嘘じゃないけどさ」

 

 ()()()()状況の相場としては、確かに下手人は先頭に陣取るものだろう。しかし相手は複毒自殺(クロスポイズン)。あの女が、最後尾以外に居るはずがない。

 

「……頼りきるのも悪いでしょ」

 

「ふーん。ま、誰にどう()()のかは聞かないであげるよ」

 

 実際のところ、原作キャラが味方で、しかも事態の終息が近づいているものだから、気が弛んでいるのも確か。

 今のギーマは現実の人間だ。何もかも解決する銀の弾丸という訳でもなく、互いに信頼するための交流も足りていない。頼りきるなという指摘にも理はある──トウコにそんな考えはなかっただろうが。

 

「じゃ、代わりにいつも通り、トウコちゃんに頼らせてもらおうかな」

 

「任せて。私は君のエースなんだから」

 

 俺は普通にパオジアンをエースだと思っていたので──稼ぎ頭という意味ならサーフゴーだが──曖昧に笑って誤魔化した。

 

 

▽▽▽

 

 

 最後尾の車両にいたのは複毒自殺(クロスポイズン)ことモモン一人だけだった。とは言え取り巻きのポケモンが多いので、車内は余り空いているという感じがない。

 

 モモンはトウコと同年代の少女だ。派手なゴスロリにガスマスクを着けた、奇抜すぎて逆にベタみたいなファッションで、首元や手足までも薄手のレースで覆った、偏執的なまでに肌を見せない装いである。

 

 モモンは腕をパタパタと振って、慌てたように情けない声を上げた。

 

「こここ、降参!降参です!」

 

 最悪の傭兵と称された女は、さもか弱い少女のように、敗北宣言と同情を引く仕草を繰り返す。

 

「二対一なんて無理ですよぉ!一人でも手に負えないのに!っていうか私は反対したんですよ?でも逆らえなくて!ホントホント!ホントです!信じてください!降参!」

 

 二人して黙って見守っていると、モモンはとうとう床に座り込んで顔を──正確にはガスマスクを──覆った。

 

「へ、返事がない……!終わりだ。殺されるんだぁ……!えーんえーん!」

 

 放置してたらどうなるんだろうという好奇心に俺が逆らえないでいる中、トウコが一歩踏み出した。相変わらず無言のうちに、その側にジャローダを呼び出して。

 足音にモモンがチラリと目を向けると同時に一言。

 

「"リーフストーム"」

 

 一切の容赦ない大技が車内を吹き荒れた。

 

「ひいいぃぃぃ!」

 

 モモンは悲鳴を上げた──上げる余裕があった。

 瞬時に前に出たベトベトンの陰に隠れ、声音と裏腹に指示に動揺はない。

 

 トウコが二つボールを放った。同時にモモンの背後に咲く大輪の花(キラフロル)二つが光を灯す──

 

「──"メテオビーム"!」「"ヘビーボンバー"」

 

 即座にエネルギーが収束し──パワフルハーブ*1だ──その十字砲火が放たれる一瞬の隙にシビルドンが車内を大きく揺らした。照準を違えた二条の光が車体を切り開く。それに構わずシャンデラが打ち出したシャドーボールを、モモンが揺れに合わせて大きく身を投げ出すことで回避──その先を狙い澄ましたリーフストームの射線にベトベトンが飛び込んだ。

 

 揺れで宙に浮いた俺の体をトウコが抱き留める。そのために攻め手が緩まる──はずもなく。

 

 単身前に出たシャンデラが全身を撓ませる。顔を引きつらせたモモンが、咄嗟にそれを指さした。

 

「パワッ──いや防御!」

 

「”オーバーヒート”」

 

 二匹のキラフロルが壁になり、背後でベトベトンが体を目いっぱい広げた。瞬間爆ぜる炎──瞬間的に熱された大気が生んだ暴風に目を瞑る。目蓋越しでも目を灼く光に俺は慌てて叫んだ。

 

「いややりすぎ!電車壊れちゃうって……」

 

「ホント!ホントそれです!ていうか降参してる相手を攻撃するなんて法も人道も許さないですから!」

 

 やや煤け、しかし傷一つないモモンが便乗する。手持ちもダメージこそあれど欠けはない。事前にドーピングアイテムでも積んでいたのだろう。

 

「この妖怪野蛮女!アマゾネス!対話をしましょうよ対話を!」

 

 命乞いの体すら無くした挑発に、トウコは追加のボールを構えた。それを目で制して言う。

 

「対話っつーけど襲ってきたのモモンちゃんじゃん?ていうかなんで敵側なの?俺ら結構仲良くなかった?」

 

 断れなかった──なんてことはありえない。モモンは悪名だろうと名のある傭兵、権力も暴力も、ささやかな自由を保証するには十分だ。これがババアなら「敵が強い」というだけで参加の理由になるが、モモンはそんなタイプでもない。

 

「だって──私たち、仲良かったじゃないですか?」

 

 先ほどまでのコミカルな空気を一転させ、モモンは首を傾げた。

 

「仲良かった。仲良かったんです。仲良かったのに──私を置いていきましたよね?」

 

「いや俺追い出されたんだけど……」

 

「いいえ。だって私は雇われですから。エイくんの護衛がなくなって、だから私は自由の身でした。だから私を雇い直せば──いや、雇う必要もなかったんです。ただ声さえ掛けてくれれば──なのに!」

 

 見悶えるように頭を振った。ガスマスク越しでも、その視線の先は瞭然だ。

 

「連れて行ったのはトウコだけ!二人でしっぽり飲みに行ったりしてさあ──将来の話でもしてました?!」

 

 やけに消極的に戦うものだから、本気で話し合いに応じる気があるのかと思ったが、どうも恨み言をぶつけたいだけのようだ。そしていつも通り、騙り塗れの語り口だ。

 ()()()()()()()()()()()ゆえの、支離滅裂な言動。複毒自殺(クロスポイズン)の異名は、何も他人を自殺()()()からという由来だけではない。

 

「クビになった日の夜に襲撃掛けといて『捨てられたせい』は無理あるでしょ。もうちょっとそれらしい理屈なかった?」

 

「私が嘘を吐いたと?!酷いです……信頼は対話の大前提なのに!」

 

 泣き崩れるようにうずくまったモモンに、ふよふよと浮かぶ紫色のポケモン(モモワロウ)が近づき、その頭を撫でた。

 

「うう……ありがとうモモちゃん。ねえ、またワガママ言っていいかな」

 

 俺はため息を吐いた。モモンはマトモな時もある人間で、今日はやけに多弁なので()()()の日だと思ったんだが、たまたまアッパー系の()()が強かっただけらしい。

 そうなると会話なんてほぼ通じない。かなり便利な駒なので、味方にできそうなら本気で交渉に応じてもよかったんだが──これならもういい。

 

「めんどくさ……もう()()()()や。やっちゃえトウコちゃん」

 

「モモちゃん私、あの子が()()()!」

*1
消費すると溜め技を1ターンで放てるようになる道具





 毒で人を洗脳して自爆特攻させるのが得意です!本人も薬物中毒です!←これを「護衛」として雇う理由、なに?

 モモンちゃんのキャラは最後まで迷いながら書いてたのでここまでの話と矛盾あったらすみません……

モモンちゃんに(結果が反映されるとは限りません)

  • 生き延びて欲しい
  • 死んで欲しい
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