ゴールドラッシュ 作:switch2外れた
評価者が90人を超え、評価者のバーが1つ折り返しました。めちゃくちゃ嬉しいです。ありがとうございます。もっと評価ください(強欲)
ジャンヌダルクは精神疾患だった、という俗説がある。どうやらこれは根拠の薄いものらしいが、その真偽はさておき。超常的な感覚──所謂第六感に従った行動は、狂気による行動と区別が難しいのは事実だ。
論理の外で自らの行動を定める者は、即ち狂人でなくてなんであろう。その点において、優れたトレーナーは皆狂気を抱えている。
狂気と才気を区別するものは何か?
それは
重ねた勝利の数だけが、己が正しさを証明する。踏みつけた弱者の数が、己が才気の証である。
だから、常ならば薬物中毒の狂人でしかないその少女は、しかし名だたる強者の一人に数えられた。
だから、優れたトレーナー同士のバトルは、狂気の
どちらの狂気が才足るか。
どちらの狂気が最たるか。
どちらの狂気が──災、足るか。
もっともそんな戦闘哲学も、血に通う薬剤が呑み溶かし流してしまうのだけれど。
▽▽▽
重なる指示は一つ。しかし当然、飛び交う技はその限りではない。
「"じゃどくのくさり"!」「"リーフストーム"」
特攻の下がったシャンデラと交代で現れたドリュウズが紫の鎖を受け止めた。次いで二体のキラフロルが放った"パワージェム"の掃射をリーフストームがなんとか相殺──その間隙を埋めるゲンガーの"ヘドロウェーブ"を、"でんじほう"が散らす。
蠢くベトベトンが"ふういん"を使った。記憶から技構成を探るに、恐らく"くろいきり*1"を封じる目的。
シロデスナを椅子代わりに、壁役のサーフゴーを立てて俺は言った。
「たぶん1分もないよ」
「大丈夫!すぐ迎えに行きますよぉ!」
威勢よくモモンが応え、トウコはただ目を細めた。1分もない、というのはもちろん、ギーマがこの車両に辿り着くまで。
援軍が来れば不利になるモモンにとっても、単身での勝負に拘ったトウコにとっても、それがタイムリミットになる。
「"シャドーボール"!」「"リーフストーム"」
シャンデラが復帰し、今度はシビルドンが下がる。加えて呼び出したオノノクスの隣で、ドリュウズが手を掲げて攻撃をぐーんと高める。"つるぎのまい"だ。
モモワロウとゲンガーの息を合わせたシャドーボールを、"あまのじゃく*2"によって最大威力を発揮したリーフストームが呑み込む。しかし大きく威力を減じたそれは相手に到達するより先に消耗しきった。最後列のキラフロルがメテオビームを充填するのが見える──オノノクスが一歩、前進した。
「"メテオビーム"」「"リーフストーム"」
繰り返される指示。
あのトウコが
文字通りの返す波を、
オノノクスが一歩前進する。
「5秒経過」
漏れた言葉に思わず乾いた笑いが浮かぶ。まだたったの、というべき時間であり、もうそんなに、とも言える時間。
モモンとそのポケモンは──ドーピング込みとは言え──俺やトウコと
激しく、烈しく、劇しい。端から見るだけで息の詰まるような応酬の中で、両者はそれでも無駄口を叩く余裕を見せた。
「邪魔をしないで下さい!貴方も友達になりましょう!」
「絶対に嫌。私
「恥じるべきは情熱ではなく冷徹!愛の力は無限で無敵なんですよ?!」
「しつこい。うるさい。勝ってから言いなよ」
「確かに!貴方の死体の方が聞き分け良さそうです!」
メテオビームの充填の隙にトウコが攻め立て、それを凌いだモモンが発射と共に攻め手を代わる。いつしかゲームじみたターン制に近づくそんな攻防も、しかし長くは続かない。
互いのポケモンに蓄積したダメージは徐々に脱落者を生み──そしてジリジリと、一歩ずつ。
オノノクスが前進している。
「20秒経過」
「「いい加減ッ……」」
声が重なる。
「倒れろ!」「倒れてください!」
定型の攻防が崩れる。放たれた邪毒の鎖をオノノクスが躱し、そのわきをすり抜けて奔るリーフストームとオーバヒートの合わせ技が、鎖を呑み込んだ先で二重のヘドロウェーブに阻まれた。
無数の大技の余波を受け、時に自らに迫る技を相殺しながら進んだオノノクスが、また一歩、前進する。
お互いに一歩も引かず──だからそこは、
「"ハサミギロチン"!」
斧が掲げられた。悪あがきのように前に出たモモワロウが身を丸める──
「──"まもる"」
思わず口角が吊り上がった。
命中率なる概念は現実になく、しかし命中不安だった技は、この世界においても不安定である。
それは技を放つ前に大きな隙を生むからであり、技を放った後にも大きな隙を生むからだ。
このタイミングで、もっとも消耗の少ないオノノクスが大きな隙を晒したなら、それは致命的なミス足り得る。ゆえにこの"まもる"は確かに有効で──だがあり得ないはずだった。
そんな技があるのなら、もっと切るべきタイミングがあった。例えば最初のオーバーヒートを消耗なく凌いでいれば、ベトベトンが落ちるタイミングはもっと後だったはずだ。
そうでなくとも、あの激しい攻防の中"まもる"という手札があったなら、戦闘をもっと有利に進めることができた。
にも拘わらず、ここまで温存した。はっきり言って論外の立ち回り。しかし──理論なき行動が生む、不合理な勝ち筋、それこそが
だからこそ、笑わずにはいられない。
なんて──なんて
本物の怪物は、そんな小細工を踏み潰す。
頭を
「──は?」
不愉快な轟音。車体が半ばから
俺は笑みを深くして、サーフゴーを走らせた。バカみたいにあっけない結末。トウコといるとそういう場面に事欠かない。だから俺は彼女が大好きなのだ。
「えっ嘘っ」
切り離された残骸が、こちらと完全に分離するまでの僅かな時間。モモンは必死で跳躍し、遅れてその背後に滑り込んだモモワロウが鎖を伸ばす──そのすべてを、黄金の体が阻んだ。
タイプによる無効で鎖が掻き消える。モモンの軽い体はあっさりと弾かれた。無数の金貨で構成された体は重たく、退かすことなど不可能な上に、文字通り掴み所もない。
伸ばした手が、一握の金貨だけを握りしめ──
「あっ」
──落ちていく。
「すっ──捨てないで!」
何事か、
「……半分の時間もいらなかったかあ。流石だねトウコちゃん。にしてもありゃ、流石に死んだかな」
すぐに遠くなっていく景色をしげしげと眺めながらそんなことを言えば、トウコは妙に神妙な顔で言った。
「……私は君のエースだからね」
また曖昧な笑みでそれに応えれば、電車に急ブレーキが掛かる。どうも車掌が洗脳から解放されたらしい。
俺が危うく落ちそうになった体をサーフゴーに支えて貰うのに対し、トウコは一人立ち小揺るぎもしない。真の強者は体幹も強いようだ。
それからすぐにギーマが戻った。手短に話し合い、ここから先は"そらをとぶ"でも十分だろうという結論に至った。
きっと事態の終わりは近い。ウォーグルの背に相乗りして、そんな予感に頬を弛める。浮わついた気分で過ごす空の旅は、どうしてかいつもより清々しい。
そしてもうしばらくの時を経て──大過なく、俺たちは目的地に到着した。
ポケモン世界なのでここから理屈を付けて実は生きてました!することも可能。なので"生死不明"だと思ってください。
そろそろ一旦の最終話が近いため、次回更新はちょっと間が空く可能性が高いです。気長にお待ちください。