ゴールドラッシュ   作:switch2外れた

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 次で最終回です。かなり短め。


わるだくみ

 

 複毒自殺(クロスポイズン)の襲撃から一夜明け、ギーマとの契約を果たし──と言っても対価の方はまた後になるが──別れた後、俺たちが向かったのはかつての職場。即ちバトルリングだ。

 

「お。スイッチあった」

 

 薄暗い室内。微かな月の光が埃を照らす静謐な空間を、無遠慮な人工の光で引き裂く。

 

「うーん。懐かしい景色だ」

 

「クビになってまだ2日でしょ」

 

「普段は裏手から入ってるからさあ。客側の景色ってマジで久しぶりなんだよね」

 

 カツカツと。感慨と共に受付を抜けて通路を抜けて、かつての職場を歩む。そう広くもない店内だ。すぐにリングへと通じる扉に辿り着いた。無駄に重たい扉を、躊躇いもなく押し開ける。

 

 事前に言い含めた通りトウコを待たせ、一人リングへと歩んでいく。

 

 観客はいない。ただし、向かいの客席にはズラリとドローンが並んでいた。

 対戦相手はいない。ただし、リングには一人のトレーナーと一匹のポケモンがいた。

 

「俺オーナーに呼ばれて来たんだけど。肝心の本人は?」

 

「死んだよ。俺が殺した──ま、分かってたろ?」

 

 答えたのはいかにもヤクザものといった風の男だ。ジャケット、シャツ、ズボンにネクタイから靴まで白く、そのリーゼントだけが一()真っ黒である。肩に乗せたイキリンコとお揃いの色合い。

 相変わらず、汚れの目立ちそうな格好だ。俺はその男──鳥突猛進(ブレイブバード)と呼ばれる傭兵の正面に進みながら言葉を返した。

 

「まあ正直ね。クビ宣告まではギリありえるかなーって感じだったんだけど」

 

「ハ!そうかよ。にしても薄情じゃねえか。ちったあ悼んだりしねえのか?」

 

「心が?それとも死を?」

 

「どっちでもいいが、どっちもねえみたいだな」

 

「死ぬのもそんなに悪くないよ。来世は強くてニューゲームかもだし」

 

「ハ!相変わらず楽観的な野郎だ──そのお気楽さが、テメエの首を絞めてんだぜ?」

 

 ようやく本題らしい。勝ち誇るように意味深な笑みを浮かべた男は、特徴的な「ハ!」という笑いをまた一つ。こう切り出した。

 

「疑問に思わなかったか?街のすべてが敵に回ったにしては、襲撃者が少なすぎる、って」

 

 一昨日から昨日まで、襲撃は計3回。モモンの操った一般人を除けば、たったの8人。名のある傭兵に限れば4人だけ。うち3人はリングと契約していた実質的な身内。

 この街すべてと呼ぶには、確かに少なすぎる。

 

「テメエのポケモンを利用したがるすべての人間にとって、ポケモンリーグは邪魔者だ。にも拘わらず、なぜギーマはああも順調にテメエに接触できた?調査の結果噂程度の情報しか掴めなかったポケモンリーグが、今になってテメエの身柄を抑えられたのはなぜだ?」

 

「疑問に思った、と言えば答えを教えてくれるの?」

 

「ああ。つっても、もう答えてるようなもんだろ──全部俺が仕組んだことだ」

 

 鼻高々に、男は言う。

 

「大変だったんだぜ?リーグの人間に──それも四天王への指示に関与できるレベルの人間にパイプを作るのは」

 

「ふーん……『なぜそんなことを?!』って聞いてあげようか?」

 

「チッ……最後までいけ好かねえ野郎だな。決まってんだろ。証拠が必要だったんだよ」

 

 最初の襲撃者に俺が言ったことだ。「噂話で動くほど、みんな楽観的じゃない」とかなんとか。もっともその後に、俺の古巣が噂を肯定することで、他の勢力を動かし得るだろうと推測した訳だが──

 

「──俺は所詮雇われの身だ。トップをぶっ殺して地位を簒奪したところで、信用までは付いてこねえ」

 

「だから()()()()が必要だったと」

 

 神秘たるポケモンの”わざ”を詳らかにする職人に、その情報を判断するのは四天王。俺や鳥突猛進(ブレイブバード)の証言など及ぶべくもない信憑性だ。

 ”ゴールドラッシュ”に経済を揺るがす危険性などあれば見逃すはずもなく、それ即ち、彼らがその技を消し去ったなら「その技には経済を変える力がある」と確定したも同然。

 

「”技思い出し”に根回し掛けられたって関係ねえ!一地方に一人しかいねえなら別の地方に!どこのも押さえられたんなら、いっそ身柄を攫えばいい!いくら費やそうと、どんな手間を掛けようと、()()()()()んだからな」

 

 散発的でやたら周辺被害の大きい襲撃は、俺を焦らせてそんな事実を悟らせないためだろう。あるいは気づいたところで、既に大事に至っていれば現状を変えようともがくのは必然。

 もはや手遅れに見える状況から、「もしかしたら解放されるかもしれない」となればどんなガバガバな手段だって魅力的に見える。

 

「さて。んじゃ種明かしも済んだトコだし、そろそろクライマックスといくか。ホントはもっと焦るなり絶望するなり派手なリアクションが欲しかったところだが……」

 

 向けられる視線に変顔で応えてみる。

 

「……強がりだけは変わらず一流みてえだからな」

 

「強がりに見えた?」

 

「見えねえから褒めてんだろ」

 

「自分の感覚を信じなくていいの?」

 

「信じてここに立ってる。んで、もう降りる道なんざねえ。()()()()()()()。背水の陣こそこの鳥突猛進(ブレイブバード)の本領よ」

 

 言ってこちらに手を伸ばす。その先に立つイキリンコが、気合十分に一声鳴いた。

 

「今から俺の相棒が、テメエに一撃ぶち込む。テメエの相棒に攻撃技が二つしかねえのは知ってる。一応言っとくが、コイツにシャドーボールは効かねえ」

 

 攻撃技二つとはつまり”シャドーボール”と”ゴールドラッシュ”。イキリンコはノーマル複合なので、迎え撃つなら後者しかありえない。もし後者を失っているなら──言うまでもない。

 

「つまり──」

 

「──相棒同士の一騎討ちだ。リングの上でテメエに勝って、華々しく幕を下ろさせてもらう」

 

「あのさあ、バトルリングは()()()()()()の舞台だよ?そんな制限なんて当然────受けるぜ」

 

 代わりの技だのポケモンだのを繰り出せばその場は凌げるだろう。ただしその時は、ドローン越しに見守る観客たちによって、今度こそ()()()と、あるいはもっと大きな相手と戦うことになる。

 選択肢などあってないようなものだ。

 

「バトルリング無敗のチャンピオン。人は俺を頂点(エース)と呼ぶ!なんでもありなら縛りもありさ。その挑戦、受けて立つぜチャレンジャー!」

 

「ハ!腹ぁ括ったかよ。遺言にしちゃあ悪くない文句だ。んじゃあ──受けてみろや!」

 

 互いに指を突き付ける。

 

「”ブレイブバード”!」

 

 迫る敵に。迫る終わりに。ほんの少しの感慨を胸に抱き、俺はいつも通りに呟いた。

 

「”ゴールドラッシュ”」





 最終話はもう書き終わっていますので、何事も無ければ明日の朝7時に投稿されます。一足早いですが、ここまでの応援に感謝を。感想やここすき、読了報告に高評価など、大変励みになりました。感想返信や後書きで度々触れた次章以降については、最終回の後書きをご覧頂ければと思います。

 ところで本当に今更ですが、ギーマさんの言った「ブラックシティではインフレが起きている」ってのが原作要素なの伝わってました?
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