ゴールドラッシュ 作:switch2外れた
高評価と感想とswitch2とお気に入りと現金をください(強欲な博士)
※ご指摘により同一人物の発言を複数の「」で区切っていた点を修正(05/28)
優れたトレーナーは言外に命じ、優れたポケモンは暗黙の裡に悟る。
俺は三流だが俺の手持ちは一流だ。故に、床に散らばった金貨が人の形に集ったのは、命令の一瞬前だった。
「”ゴールドラッシュ”」
人型がぶくうっと膨れ上がり、爆ぜるように金貨をまき散らした。じゃらじゃらぎゃりぎゃりと不愉快な金属音をまき散らしながら、男の全身を打ち据える。
あまりの勢いに打ち上げられた男が、どすん、と地に落ちた。襤褸と化した服の腹のあたりから、でろり、緑のなにかが零れ落ちる。
それはゴクリンだった。疑問符が浮かぶと同時、隣立つ相棒が文字通り
「イバン*1”みちづれ”か!初めて見たなあ」
「ならもっとビビれや!」
ポケモンに加え”とつげきチョッキ*2”でも仕込んでいたのか、フラつきながらも立ち上がった男が、毒吐いて距離を取った。
それと同時に現れる複数の闖入者。蹴破られたドアにマスターが悲鳴を上げる。
「それがご自慢の後ろ盾?」
「やれ!」
煽りに答えずそう命じ、男は自らもポケモンを放った。
新手は三人、手持ちはそれぞれヘルガーが一匹ずつ。如何にも悪の組織って感じ。そして男が繰り出したのは──
「──ムーランド!”かたきうち”!」
”かえんほうしゃ”を命じる声がその指示に重なる。思ったよりも作戦が練られているな。
初手の”みちづれ”でエースを強引に落とし、そこに補正の乗った”かたきうち”での追撃。さらに慢心なく数の有利を取った上での集中攻撃。
鮮やかだ。鮮やかだが──
優れたトレーナーは言外に命じ、優れたポケモンは暗黙の裡に悟る。
なんの言葉もなく、”とぐろをまく”巨体が俺たちを包んだ。
「護衛対象が喧嘩売らないでよ……」
ズドン!という音とは裏腹にシビルドンは小動もせず、当然そのトレーナーであるトウコにも焦りはない。
容易く受けきられ、しかしなんとかこちらにも影響を及ぼせた”かえんほうしゃ”の微かな熱だけが、今が鉄火場であることを思い出させる。
「それで、
泰然と、トウコはそう問うた。
「あ~……」
ほんの数瞬、考えを巡らせる。
敵の所属、襲撃のタイミングと規模。ままごとのような交渉で交わした内容と、
「うん。一人もいらないかな」
「おっけー」
言うが早いかシビルドンが下がった。一見して無防備に過ぎる判断は、しかし攻撃が飛んできていないという結果をもって示される。この間隙を図ったのだと。
無造作に放られたボールが開く。現れたポケモンは、やはりなんの指示もなしに技を繰り出した。
現実において複雑化したはずのポケモンバトルが、圧倒的な
ポケモントレーナーのトウコは オノノクスをくりだした!
オノノクスの げきりん!
ヘルガーは 倒れた!──ちょうどそんな光景が三度過ぎ去り、ようやく相手の対応が一手追いつく。
「ッ!ムーランド、”かたきうち”!」
トレーナーの指示に即応して懐にぶちかます。オノノクスがふらついた──”げきりん”終わりの混乱によって。
あまりにも無惨な光景に、俺は思わず顔を覆った。相手の男は一矢報いたつもりかもしれないが、決着を早めたに過ぎない。なにせ
またしても無言のまま為された指示によって、オノノクスが頭を──その、斧に似た頭を振り上げた。断頭台が刃を落とすように、
なんとなく憐れになって、俺はトウコの代わりに呟いた。
「”ハサミギロチン”」
ズドン、と音がして、それきりムーランドは沈黙した。
「いちげき、ひっさつ……」
呻くようにそう呟いた直後、男が倒れ伏す。心労の余りかと思ったが、他の面子も倒れてるあたりそうではないらしい。
「あ、”へびにらみ”」
「……『ビックリするから余裕ある時は技名も言ってね』って、覚えててくれて嬉しいよ」
弛緩したやり取りから戦闘の終わりを察したのか、マスターがカウンターから頭を覗かせる。
「……
指差す先は当然倒れ付した襲撃者たち。麻痺の痺れに呻く彼らも、戦闘不能になった彼らのポケモンにも、死者はいない。
『一人もいらない』という言葉はもちろん『殺してもいい』という意味だったが、『殺せ』とは命じていない。そしてトウコは平和主義なので、わざわざトドメを刺したりしない。
こうなると処理に困る。
「襲撃ぐらいどうせよくあったろ。今まではどうしてた?」
「リング運営の用意してた護衛の人たちがみんなトドメ刺すタイプだったからなぁ……死体は毒使いが纏めて溶かして、たまに出る生き残りは事務所に引き渡してた。たぶん
「一応言っとくが、ウチを事故物件にしたら殺すぞ」
「店と常連は共に死すべしってこと?愛が重いぜ」
冗談はさておき。殺すのは最後の手段にしたい。
俺とて以前は普通の日本人だったのである。そこまで人命を尊ぶ
「適当に痛めつけて通りに晒すかな」
そう決めて無警戒に歩み寄れば、麻痺により回らない舌で、それでも男が何かを喋った。
「こう、かいするぞ……」
「うん?」
「今、ここで……我々に、負けておいた方がマシだったと──」
顔を歪め、手を握りしめ、しかし男は立ち上がろうとするのではなく、ただ口を動かす。
「──後悔するぞ!」
「なんでこのタイミングで命乞いしたの?話聞いてなかった?」
「バカがッ……無限の富、いくら費やしても割に合う獲物だ。
「無限の富の
「は、は、ははは……」
顔を伏せ、男は引きつるように笑った。
「お前の頼る金の魔力は──信じる力が生んだんだ。それが自分に牙を剥くことだけはないだろうなんて、ハハ、存外……楽観的なんだな。お前」
「へぇ。負け惜しみは上手いもんだね。やっぱり、負けっぱなしの人生だとそうなるのかな!──ッと」
言いながら男の頭を踏みにじる。意味深な言葉は時間稼ぎのつもりだろうか。稼いだ時間でせいぜい首から上しか動かしていないなら全くの無意味だが。
男の思惑はさておき、俺らにリベンジを考えないよう。心と体に再起不能の傷を与えなくては。
「随分お喋りが好きみたいだし、顔は避けて足からにしようかな」
「ぐ、ぎっ……ぎひっ」
硬い床に顔を押し付けられ、それでも男は不適に笑う。
「ぎひひ……饒舌にもなる。なにせ
「だから殺さないって──「奥の手」──は?」
男がそう呟くと同時に、その体が不自然に跳ね上がり、俺の足を跳ねのける。
尻もちをついたまま唖然としたままの俺の視線の先。仰向けにのけぞった男の口から、紫の腕が突き出た。
「ご、おっ──ごおごごごおごおおごごごごごご」
「エイ!下がって!」
トウコが俺の襟元を掴んで自分の背後に押し込む。その間も、男の口から紫の煙が──腕を、胴を、足を、イタズラめいて弧を描く大きな口を象って──吐き出され続けている。男の部下たる三名からも同様に。
「あー。見覚えがありすぎる」
「このゲンガー、もしかしなくてもさ」
「
「
突然のことで焦ったが、ゲンガーたちは特にこちらに攻撃はせず、ただ室内を縦横無尽に飛び回っている。
ああいや、毒ガスをバラまきながらなので攻撃はしているのか。しかし俺は常に”しんぴのまもり”を張っているし、その影響を二人にも及ぼしたので害はない。
「おい、おい!なんだこの悪夢みてえな光景は!つかなに犯人と知り合いなのかよ!」
「さっき言ってた毒使いの元護衛だよ」
見るからに有害な煙を前に、姿勢を低くしたマスターが一人焦っている。下手人に一人だけ心当たりがないというのもあるだろうが、それ以上に、事が終わった後の店に悪影響がありそうなのが心配なのだろう。
「あー、マスター。あのさあ」
そして、その心配はまったく正しい。有毒のガスはゲンガーを撃退した上でも浄化に手間取るだろう。そしてなにより言いづらいことがもう一つ。言いづらいと言うかほんの数秒後には嫌でも思い知るので、具体的に警告する時間はない。
なので、先に謝罪だけ。
「ごめんね」
「は?」
このガスは可燃性だ。
小さな蕾のようなポケモンが、ふらり、ガスに紛れて入り込む。
恐らくどこか遠くで、たぶん誰かがこう呟いた。
「”だいばくはつ”」
毒使いちゃんが薬物中毒で腕が針の痕だらけなのを指して付けられたあだ名。呼ぶと怒る