ゴールドラッシュ 作:switch2外れた
同じキャラクターが喋っているのに「」で区切られているのが読みづらい。というご意見を複数頂戴したので今回から直してます。前回以前も順次対応する予定。
完全に癖なんで今後もし出てたらご指摘ください。
寒気を覚えた。指先が震える。吐く息が白い。
割れた窓から入る雨粒が、店の敷地を境に雪へと変じている。床を這う冷気は一面に霜を広げ、足元でくしゃりと音を立てた。
真冬のような寒さの中、表に出した狂喜と裏腹に、
研ぎ澄まされた感覚は機械的に状況を把握し、凪いだ思考は眼前の敵の脅威を証す。
微かな風に身を切るような痛みを覚える。まるで触れたものを凍てつかせ、
真夏に下りる冷気の帳。異様な寒暖差に霧が立ち込める──ゆるりと遊んだ尻尾が一筋、その白昼
寒災が、牙を剥く。
「殺せ。
鬨の声は同時だった。
「「”せいなるつるぎ”!」」
瞬時に”かくとうジュエル”を三つ砕く。膂力で勝るはずがなく、ゆえに技威力で抵抗──という理屈が追い付いたのは、鍔迫り合いの衝撃と同時だった。
尻尾に刀を打ち付けたとは思えない重たい衝突音。威力のみならず強度も増したはずの得物がミシリと音を立てる。
すぐさま手首を翻し、全霊でその一撃を流した。転ぶように身を倒し、歪な姿勢から体重を乗せた唐竹割──!
「お──らぁあああ!」
加速する思考と反対に、緩やかに流れる景色。間近で見るそのポケモンの牙は、折れた剣そのものだ。
伴って動く顔ではなく──ゆっくりと動く
▽▽▽
さほど血の匂いはなかった。見た目だけは酷く凄惨だが、身を斬る冷気の他に、痛みを思わせる感覚はなかった。きっと流れ出た端から凍り付くからだろう。
俺のやった事と言えば、二回口を開いただけだ。”せいなるつるぎ”と言っても敵が真っ二つにならなかったので、なんとなく”こおりのつぶて”と言ってみた。
すると至近距離で爆弾でも喰らったかのようにババアが吹っ飛んだ。老体をさらにガタつかせ、杖に似せた剣を、本当に杖として使うことで辛うじて体を支えている。色鮮やかなネックレスは、赤一色に染まっていた。
「まだ生きてるんだ。これも年の功ってヤツかな。まあもう死ぬけど」
煽ればくぐもった咳の音が返ってきた。トドメを刺すまでもないと判断して、何となく外に目をやる。
雨はまだ止まない。トウコが帰ってくるまでにこの冷気を何とかしないと、風邪を引かせるかもしれない。それにギーマが正当防衛に寛容なタイプでなければ、なにか問題になる可能性もあった。
面倒だな。なんて飛ばした思考を、か細い声が引き戻した。
「オラはよぉ……今、走馬灯ってヤツを
いつも以上に酷くしゃがれ、息も絶え絶えに紡がれる声は、しかし嫌な力強さがあった。
「だから勝てるって言いたい感じ?自分の人生が薄っぺらい可能性を探った方がいいと思うけど」
「ギヒっ……確かに、今この死合いに比べれば、オラの人生なんざ紙切れどうぜんよぉ」
傷を負い、血に塗れ、死に瀕し、膝を突き──それでもババアは笑って言った。
「だからよぉ……走馬灯なんざ見なかった。オラが見たのは今だけだ……今この瞬間だけが、ずぅーっと見えてた」
ゆっくりと、ゆっくりと。フラつきながら立ち上がる。
身を起こすごとにボロボロと落ちるなにかは、千切れた衣服の破片であり、千切れたアクセサリーの欠片であり、千切れた自らの肉片だった。しかしボトボトという落下音の中に、妙に軽い音が幾らか混じっている。
それは空の容器だ。元は錠剤が入っていたのだろう。ラベルは見えなかったが、中身に察しはつく。
スピーダーにプラスパワー。あとはクリティカットも入るかもってところ。つまりドーピング。
「モモンちゃんの影響?割れた窓を放置すると治安が悪くなるって言うけど、薬中も一緒かな」
「バカ言えや。あのガキが針の痛みも知らねえ頃から、これがオラの元気の源よ」
もしや
まあそれはさておき。
「……パオジアン。ババアが遊んでくれるってさ」
「おうさ。遊ぼうぜぇ……」
ババアの言葉に、しかしパオジアンは俺の顔色を窺う。
日頃閉じ込めているポケモンが、本意でないとは言え外で活動できる機会だ。それに「戻れ」と返すほど、俺は薄情でも愚かでもない。彼らは道具で、しかし怪物だ。手入れをするように、機嫌を取るに越したことはない。俺は言った。
「自由に戦っていいよ。俺は指示しないから」
言い切る瞬間には攻撃を放っていた。
それぞれが俺を
「辻斬りぃ」
破砕音は一度しか聞こえなかった。その一度だけで、全ての氷柱が打ち砕かれた──
尾を引く流星のように、青い光を伴う影が走る。その色でババアが選んだのが水タイプの技、つまりシェルブレードだとわかった。室内がこの粉雪じゃ怪しいが、雨の補正でも狙ったか。
光の軌跡が壁を駆け上がり、その行き先に氷柱が突き立った。ぐるりと青色の線がそれを取り巻くと同時にその一部が砕け、両者は空中へ──空気を踏みしめる、なんて事はどちらも流石に不可能なはずだ。
だからきっと、奔る青と連なる白が宙に複雑な図形を描き出したのは、放られた氷や
砕ける。砕ける。砕ける。消費したジュエル。放たれる氷の柱、礫。足場となる床に壁、果ては天井──そして、
いつだって破砕と消費を伴う
粉雪はいつしか赤く染まっていた。
ババアシャーベットだ、と言おうか迷って無粋なのでやめる。代わりにこう呟いた。
「こりゃ負けたな」
遊び過ぎだ。ボールに閉じ込められた抑圧の反動なら俺に責められた話ではないが。
それにしても異常なのはババアである。いくらドーピングしたとは言え、しかし所詮能力変化。身を削ろうと命を削ろうと、この世界でも変わらず上限は+6。
パオジアンは
命を削った程度で怪物に及んだ怪人は、しかし所詮は人である。やはり尾を引く流星のように──その輝きは、次第に薄れる。
その輝きが潰えるのと、軌跡から
落下する
俺は軽く首を傾げて、目線だけを背後に向けた。
「"秘剣"──」
ババアが剣を構えている。予想通りに。
この
ゆえに、ボロボロの体に鞭打った高速機動の中でも、嵩張る
それが勝利に必要なら、どんな重荷でも、延命に有効な手札でも。絶好の機会まで絶対に待つ。このババアはそんな人間だ。
だから勝利条件を見誤ったパオジアンは、もっとも致命的なタイミングで惹き付けられ敗北した──しかし問題はない。
俺はリングのチャンピオン
「──"千重波"ィ!」「"ドレインキッス"」
重なる声。アシガタナが
▽▽▽
珍妙な響きの横文字も、浮わついた通り名なんて文化も我慢できたが、自らの代名詞がそんな
人を斬り。物を斬り。
しかし仕方のないことだ。元より奥の手。秘中の秘。ましてや必ず殺す技となれば、その名が知れぬのはむしろ当然の道理。
故にその汚名を負い、微かな抵抗でババアと呼ばせた。本来の名など捨て去って久しく、荒事の世界に老婆など己一人。不都合はない。
──ひび割れた
愛用の得物は限界で、振り切れば砕け散るに違いない。頭髪から離れ最短距離で迫る怪物の速さは知っての通り。微かに残った生命力など容易く貪られるだろう。
しかし身を捨てて得た素早さは、その怪物の攻撃よりも先になんとか剣を振りきることを可能にするはず。
"ひけん・ちえなみ"。遠い記憶の──故郷のダイケンキが使っていた技だ。
現代に残る彼らと違い、その黒いアシガタナは酷く脆い。しかし同時に、比べ物にならないほど鋭かった。
強度を捨てて"きれあじ"を手にした彼らこそが、今や
ヒビが広がる。
老婆はまだ幼子の頃から、ずっと
怪物の武器を盗み、怪物の技を覚え、怪物の道具を奪って──ようやくその命に手を届かせてきた。
ヒビが広がる。
そんな女の誇り。そんな老婆の秘奥。それは当然、
ヒビが、広がり──砕けた。
「──秘剣・千重波ィ!」
剣の破片が散弾となって襲い掛かる。やった。
「あぁ?」
この緩やかに流れる世界の中で、どうしてコイツは普通に喋っているのだろうか。どうしてオラの体は、大人しくそれに答えようとしているのだろうか。
どうして──オラの技は、何時まで経っても届かないのだろうか。
「まぁ、悪くない夢だったぜ」
どうして、こんなに、ねむいのだろう──
「……
感想返しながらババア戦のハードルが上がっていくのを感じたので急いで書きました。ベタなオチですまんな。
あと戦闘描写難しすぎです。助けて。