ゴールドラッシュ   作:switch2外れた

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 ババア戦決着の明文化とトウコちゃん側がどうなってたかの回です。なんかダレてきた。
 スペックで圧倒する戦闘ってコンセプトのせいでトウコちゃんのバトルめちゃくちゃ難産なんですよ。あとアクアステップの名前の由来絶対今回の頭にもってくるべきだった。


ダブルアタック その③

 

 "ドレインキッス"。ババアの首もとに絡み付いたキュワワーが、即座にその生命を吸い付くした。

 命無き肉体はしかし慣性のままに動き、生前の意思を一度だけなぞる──即ち、剣を振り切った。

 

 その途中で砕け散ったゆえに、俺に届いたのは破片だけだ。それも、体に振れるほんの数ミリ手前で"リフレクター"の威力減衰を受け阻まれた。

 並みの火力なら無いも同然に抑え込めるそのバリアは、腰に提げたクレッフィの展開したもの。俺が秘匿する切り札の一つ。

 

 この効果が現れる時は、つまり俺本体に攻撃が届いた時だ。それを成したのはほんの数人──1対1なら、ババアだけだ。

 もし最期の攻撃が間に合えばこの壁を突破しただろうか、と考えてすぐに否定する。"ひけん・ちえなみ"は追加効果の方が重要な、高威力とは言えない技。あるいはレジェアル仕様でもそれは同じだ。

 

 とは言えそれはババアの与り知らぬこと。もしかしたら、今際の際に俺をズタズタにする夢でも見ていたかもしれない。

 

「……走馬灯は見れた?」

 

 なんて言葉に、当然返事はなかった。

 

 優れたトレーナーというのはほとんど超能力者である。例えば言葉はおろかどんな合図も介さない以心伝心。天啓と呼ぶ他ない超直感に、予測の域を越えた()()()

 つまり言ってしまえば、人間の脅威とはそこにある。

 

 にも拘らず、ババアはそれを捨てた。だから死んだ。

 「走馬灯は見なかった」とか「今を見ていた」とかほざいていたが、見るべきは未来だ。初撃もそうして凌いだのだから。上がった身体性能(スペック)にはしゃいでる場合ではない。

 

「……ヒーリングシフト。優先度が3ないなら、素早さを競う土俵にも立てないよ」

 

 なんて言っても、その異常な素早さが「素早さを無視して相手より速く動く」という異常性なのか、単に「異常なほど素早い」だけなのか、一目で判別できるものでもない。

 まして"ドレインキッス"は本来先制技でもないのだ。この結末は、必然とも言えた。

 だから余裕ぶってたわけだし。

 

 ババアにトドメを刺し、失態を──本人がそう感じているだけだが──払拭したキュワワーが、花輪を揺らして誇るように踊る。

 反対にパオジアンはしおらしい。バラバラになった人形の側で、詫びるように身を伏せ唸った。

 

「あーあー。いいんだよパオジアン。俺は遊べって言ったんだ。楽しかったならそれでいい」

 

 「おいで」と呼ぶと、落ち込んだ様子はそのまま、しかし素直に近寄ってくる。

 語った言葉に嘘はない。元より「殺せ」という初めの指示は致命傷を与えた時点で達成し、そこでトドメを求めなかったのも俺だ。勝手に出てきた事以外に過失はなく──落ち着いた今はそれも"レッドカード"のせいだと気づいた。

 

 俺は労るように二匹を撫でた。キュワワーの小さな本体を指先で擦り、パオジアンの滑らかな体毛に手を通す。めっちゃ冷たい。

 羨むようにシロデスナが控え目に鳴いたが、雨が止むまで壁の任を解くわけにはいかないので、声をかけて宥める。

 右手が(かじか)んできた辺りで「ヨシ」と呟きそれを切り上げた。キュワワーが一鳴きしてしゅるりと俺の髪飾りに戻る。俺の頭を少しだけ撫でるその小さな手に微笑み──現実と向き合ってため息を吐いた。

 

「……片付け、しよっか」

 

 店内には建物や氷、その他諸々の破片が散らばり、床に壁、天井と場所を問わず氷柱が突き立っている。微かに積もった雪と霜で足元の状況は最悪で、装飾品は軒並み壊れるか凍りつくか。

 片付けを手伝ってくれそうな店員代わりのポケモン達は、騒動の間にみんな逃げ出したようだった。賢い限りだ。長生きするに違いない。

 

「とりあえず殺人の証拠を──」

 

 ババアの死体を見ながらそう言いかけて、ふと言葉を切った。

 削れたからか、あるいは元からこんなんだったか、随分と小さなその死体を。

 

 なんとなく。俺は言った。

 

「……まあ。アンタの剣は、()()()には勝ってたよ。だから──まあ、うん」

 

 なにせゴーストタイプなんてものがある世界だ。死人が化けて出ないとも限らない。だから弔い、というほどでないけれど。死体は遺してやれないし、墓を建てる仲でもないが。

 言葉だけは供えてやれる。

 

「悪くない生き(死に)ざまだった」

 

 

▽▽▽

 

 

 飛び出すと同時に首を傾げ、"ねらいうち"を躱す。

 周辺地形を把握していて、初撃の方向も確認している。加えて高層建築の多いこの街特有の地形が幸いし、射線は極めて限られる。当たる道理がない。

 砲手と狙撃手が別の場所に陣取るぐらいはしているかと思ったが、単純な行動であれ離れたポケモンに指示を出すというのは高等技術だ。そこまでの手練れではないらしい。

 

「ウォーグル、上昇」

 

 "みずのはどう"は爆発が着弾に伴うタイプの技。遮蔽物ごと攻撃できるだけの威力を考えれば、建物の陰を縫うより身を晒した方がいい。

 そう決めてビルの壁沿いを急上昇し、飛び越すと同時にウォーグルを()()()()()()()()()()()()

 

 瞬間、さっきまで身を置いていた空間を、二つの技が同時に駆け抜けていった。飛び退いた先の足元にウォーグルを呼び戻し、移動を再開。弾速の違う技を同時に着弾させる能はあるようだ。しかし現状総合して──

 

「──弱い」

 

 遠距離からの高火力──それも「距離の割には」という括弧付き──の強み一辺倒。それを発揮するための戦術こそあるようだが、圧倒的にトレーナーとしての技量が足りないタイプ。

 

「やっぱ陽動かな」

 

 無敗のチャンピオン、という称号はそう軽くない。エイはあれでこの街における絶対的な強者に数えられているのだ。無知な新人でも無鉄砲なチンピラでもない雨下の歩み(アクアステップ)が、この程度の強さで単身エイを狙うことは考えづらい。

 別に心配はしていないが、こうなると早く戻りたい──なんて考えが呼び水(フラグ)になったか、後数秒で狙撃手に到達しようかという所で、行く手を遮る無数の影が現れた。

 

 豪雨の中でも力強く重なるたくさんの羽ばたきの音。一様にこちらに敵意を滲ませる様子のその群れは、側にトレーナーの姿もないのに完璧に統率されているようだ。

 緑、青、黄、白。色とりどりの、しかし一種の鳥ポケモンで構成されたその群れに、トウコははっきり見覚えがあった。

 

「これでおばあちゃんも来てたらかつての護衛全員に襲われたことになるんだけど……元同僚相手に躊躇いとかないの?」

 

 答える声は当然なかったが、聞くまでもないことだ。あるいは一斉に放たれたその技が答えと言えた。

 

 ”ブレイブバード”。高速で迫るイキリンコを、ウォーグルは飛び上がって回避する。その後を追い、回避方向を限定するための高度なコンビネーションで飛ぶイキリンコの軌跡が、自由な空中に檻を描く。

 俊敏な動きで回避するウォーグルに振り落とされないようしっかりと掴まりながら、しかしトウコは単なるお荷物にはならない。時に自らの腕力で振り回すようにウォーグルを動かし、時に意図的に重心を偏らせることで軌道を捻じ曲げ回避に寄与する。

 技を外して一瞬気を抜いたイキリンコの一匹を掴み取り、迫る狙撃(ねらいうち)にぶち当てた。動揺で乱れた隊列は、しかしすぐに立て直される。

 

 ベテランの鳥使いでも青ざめるそんな高速軌道の中でも、トウコの顔色は平静で、内心に焦りもなく。

 

()()()だな……」

 

 そう呟いた。

 

雨下の歩み(アクアステップ)の方は恐らく本気。狙い撃ちも水の波動も発射頻度がおよそ一定。可能な限り連射させてるからだと見ていい。急所狙いが難しいとなればウォーグルに狙いを変える柔軟性もある)

 

 違和感を覚えるのはもう一方。イキリンコの群れ──ひいては、それを指揮する傭兵、鳥突猛進(ブレイブバード)

 

(技の軌道が甘すぎる。狙撃を差し込む隙間なんてものがある時点でおかしい。連携のためって話なら、そもそも高度を下げさせようとするはず。上空に追いやられているからこの線はない。しかも、前に見たのと()()()()が混じってる。私相手に新兵を出すわけがない。となると時間稼ぎ──でも、こっち側の人員が完全にそれを目的にするなら、雨下の歩み(アクアステップ)の狙撃が非効率だ。私を撃ち落とせないことが分かった時点で、できる限り到達時間を遅らせるように狙いを変えていて然るべき)

 

 砲、弾、鳥。自らの命を一撃で奪い得る攻撃の飛び交う中で、それを易々と避けながら、思考を巡らせる。

 

(お互いに目的が違うって感じだ。ただ連携攻撃の体は為してるから、恐らくは鳥突猛進(ブレイブバード)の一方的な裏切り──あるいは陰謀?)

 

 考える。考えて、考えて。類い稀なる直感も味方し、なにかに辿り着きそうになって──それを放り投げた。

 

(うん。()()()()()()な。これ戦術レベルじゃなくて戦略レベルの話っぽい。ならそれを考えるのは私の仕事じゃない)

 

 そうなれば残るのは、未熟者と手練れが手を組んでいる現状で、手練れの方が()()()()()()()という事実。

 ポツリと。知らず声が漏れる。

 

「うん。そっか──舐めてるな」

 

 雨下の飛行で冷え切った肉体よりも、ずっと冷たい声でトウコは呟く。

 そして、先ほど巡った思考をそうしたように──身を投げた。

 

 ウォーグルをボールに戻せば、すぐにその身が重力に引かれて落ち始める。一瞬前までウォーグルがいた場所を突き抜けた狙い撃ちと水の波動の余波を背中で感じながら、身を捩って下から突撃してくるイキリンコに向き合う。

 驚愕しながらもブレイブバードを発動して突撃するその小さな肉体を、()()()()()()()()()()()()()

 

 反動で体が移動した先で、突撃してきたイキリンコを今度は踏みつけて跳ぶ。上空から切り返した個体に肘を当て、横から突撃する個体を蹴り飛ばし──時折一瞬だけ自分のポケモンを呼び出して足場にしながら──空中を、()()()()

 

 ──理論上、確かに不可能ではなかった。

 例えば自転車で壁にぶつかれば怪我をするが、走りながら壁を撫でても怪我をしない。()()()()()()()()()()()()()()

 だから、自分に突っ込んでくる鳥の群れも、衝突を避けて触れ向きを逸らし、足場にすることも不可能ではない。あくまで理論上は。

 

 豪雨の中で、狙撃を受けて、落下しながら、明確に自らを狙っている、数も膂力も勝る相手に。なんて悪条件の中でも、不可能ではなかった。

 人知を超えた来歴の転生者にさえ、"化け物"と形容されるほどの才能は、馬鹿らしい理屈を現実に変える。可能なら、できる。レトリックのようなそんな理屈を。

 

 トウコは単純なアスレチックを越えるように移動を続け、狙撃の出どころまで辿り着いた。

 

 トレーナーの焦りを示すように狙撃の精度は壊滅的で、それでも止まない。逃げないのは何らかの契約ゆえか。あるいはプライドか。

 襲い来るイキリンコにもはや当初の勢いはなく、半ば義務的に単調な突撃を繰り返すのみ。恐らく、そのトレーナーは既に撤退へと思考を切り替えているだろう。

 

 トウコは一際大きく跳んだ。ほとんど直下から迫る狙撃を身じろぎ一つで躱してみせ、イキリンコの群れに突っ込む。

 闘志なく、それでも攻撃は続けていたはずの群れは、しかしちょうど、その瞬間に人一人分の隙を見せていた。遠方から状況を把握していたトレーナーは呆れたように笑ってイキリンコへ撤収を伝える。

 群れが命令を受けるより早くその中をすり抜けたトウコが、自由落下の勢いそのままに、足元に二つ、上空に一つボールを放る。

 一つはウォーグル。一つはシャンデラ。もう一つはシビルドン。ウォーグルがトウコを攫い、シビルドンは重力に引かれ──

 

「”ヘビーボンバー”」

 

 ──ビルが()()()()()





 アクアステップの名前の由来の下りを今回の頭にもってきて、その分ちょっと詰めてダブルアタック①の終わりにババア戦の冒頭を。②にババア戦の決着(今回の冒頭)をもってきた方が綺麗にまとまる感じあるんですが、正直どうせアクアステップの活躍がしょっぱいから変えなくてもいいかな感もある(ここすきズレちゃうし)
 のでアンケします。三日ぐらい。

※6/3追記
 期日を過ぎたためアンケートを削除。ご協力ありがとうございました。
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