ゴールドラッシュ   作:switch2外れた

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 アンケートへのご協力ありがとうございます。大勢は決したようですが、一応期日まで残しておきます。

 ※秘伝技に関して極端な捏造設定があります。今更ですがご留意ください。


ダブルアタック その④

 

 屋上から数えて3階ほどが半壊し、未だ瓦礫の雨が降り注ぐ中に身を滑らせる。

 咄嗟に砲撃で相殺したか、何らかの防御手段でもあったのか。手持ちのポケモン──インテレオンにブロスター、それからニョロトノ──こそ負傷していたが、雨下の歩み(アクアステップ)本人は未だ健在だった。

 ピンクのレインコートにこれまたピンクの大きな傘を差した、近年のイッシュならどこでも見かける、いかにも”パラソルおねえさん”*1と言った風貌の女だ。当世風のファッションの割に、表情、あるいは顔つきは、この街に相応しい。荒々しい──あるいはどこか暗い──獣のような。

 

「”みずのはどう”!」

 

 ウォーグルから降り立った瞬間に襲い来る攻撃を、現れたジャローダが受け止める。不安定な空中でないなら避ける必要すらない。能力(ステータス)差とタイプ相性による傍目にもわかりやすい完封。女は呻く。

 

「このッ……バケモン女が!」

 

「……幾つか質問に答えてくれるなら、大人しく帰ってくれていいけど」

 

 無礼な物言いに眉を顰め、しかしトウコは穏やかに声を掛けた。ジャローダはその視線に少し力を込めるだけで女を無力化できるし、そうでなくても、もはや勝負は付いている。

 しかしその態度が女の逆鱗に触れた。激しい怒りを隠そうともせず叫ぶ。

 

「舐めんなッ!テメェの派手な攻撃のおかげで!俺のインテレオンはもう()()()()()圏内なんだよボケッ!」

 

「視野が狭い」

 

 女の激情に、トウコが返したのはたった一言。返事とも呼べないような呟き。

 

「くたばれッ!”ハイドロ”──」

 

 言い終わるよりも早く。天井を”すりぬけ”て落ちてきたシャンデラが、女の後頭部に”シャドーボール”を叩き付けた。

 

「──ごがっ」

 

 間抜けな悲鳴を最後に女は沈黙した。死んでもおかしくない一撃だったが、生きているらしい。

 とは言え頭部の負傷。怪我の大小に依らず派手な出血が伴い、焦りを見せた手持ちポケモンは、それでも主人に侍ることを選んだ。

 

 ”げきりゅう”の発動した、即ちひんし寸前のインテレオンが、決死の思いで指先を突き付けた。

 ブロスターがその隣に立ち、ニョロトノが女の体をなんとか持ち上げる。

 

「……はぁ」

 

 トウコはため息を吐いて、指を突き付けた──

 

「”でんじほう”」

 

 ──自らの()()()

 無音で迫るイキリンコに、腕に絡みついたシビルドンが向かい合う。弾速の遅く当てづらい”でんじほう”は、しかし腕の照準補助と至近距離によりイキリンコを正面から捉えた。当然、その一撃で勝負は決する。

 

「……今のは、ちょっと本気だったな」

 

 呟き目を細める。撃墜されたイキリンコが、地上近くで群れに回収されるのが見えた。

 襲撃はこれで終わりらしい。最後に必死で撤退するインテレオンたちをチラリと見て、トウコはそれに背を向けた。

 びしょ濡れの服の八つ当たりをしたところで、雨が早く止むわけでもない。

 

「結構待たせちゃったな……」

 

 置いてきたエイの方でも起きているだろう戦闘は、恐らく既に終わっている。となれば雨宿りしてもよかったのだが、しかし早く戻れば片付けぐらいは手伝えるだろう。

 打ち付ける雨の重さと反対に、トウコは気軽な調子でビルから跳んだ。

 

 

▽▽▽

 

 

「遅れてすまないね」

 

 ポケカフェの跡地にギーマがやってきたのは、雨が止んで暫くしてからのことだった。

 

「タクシーは幾らでも捉まったんだが、『雨の降っている方に向かう』となるとどうしてか断られて……どうやらそれは、賢明だったようだが」

 

 ぐるりと回した視線が捉えるのは、先端の半分ほどが削れたビル。通りを一望どころか行き来できるようになったカフェ。窓がなくなり、冷房も切れたにも拘らず涼しい、氷柱まみれの店内。

 そしてこれだけの騒動に、未だ警察の姿は見えない。呆れかえるほどの──それでいて懐かしい──暗がりの匂いに、ギーマは薄く笑った。

 

「お互い巻き込まれなくてよかったよ。また天気が崩れる前に、さっそく話し合いといこうか」

 

 

▽▽▽

 

 

 ゴールドラッシュという現象は、単に金鉱山があればいいという訳ではない。それに群がる人々と、それによる経済の活性化こそがその本体。そして、俺たちの利害はその点で一致した。自らに敵が群がらないようにしたい、と考える俺と、ゴールドラッシュの解消を目指すギーマ。

 だから話し合いは穏やかに進んだ。自己紹介の直後、いきなり本題に入っても問題ないぐらいに。氷漬けの部屋でのアイスブレイクを経験できなかったことは惜しむべきかもしれないが。

 

 ともかく、ギーマの主張も要求も簡潔だ。

 

「ゴールドラッシュの原因となる技を”ひでんわざ”に認定したい」

 

「慎重な言葉を使う人は好きだよ。一応、秘伝技ってなにか聞いてもいいかな」

 

「もちろん。と言っても、一般に知られている以上のことはないさ。野生においてはともかく、わたしたちの隣人(パートナー)として暮らすポケモンには、必然、ある程度の制限を課す必要がある。人間と同じようにね」

 

 それは、例えば人混みで火を出すなとか、凶器を振り回すなとか、その程度のことだ。それらは法的に制限があるが、”わざ”の一つ一つに可否を定めたりはしない。”ひのこ”を覚えるのに免許が必要なら、ポケモンバトルなんて文化はとっくに廃れていただろう。

 しかし例外もある。それこそが秘伝技。ゲームにおいて言うなら「フィールドで使える技」である。車のように、周囲の人々を巻き込みかねない”なみのり”や”そらをとぶ”に代表され、あるいは周辺地形に影響する”いあいぎり”に”かいりき”。重篤な事故を引き起こしやすい”ダイビング”に”ロッククライム”など。

 

「社会の中で暮らすなら、人もポケモンも完全に自由ではいられない。それは、その中で暮らすすべての人々のために──公共の利益のために、というヤツさ」

 

 内容も相まって、そう語るギーマは学校の先生のようだ。それにしては胡散臭いが。

 

「誰もが自由に空を飛べば、交通網は混乱し、数多の事故が起こるだろう。波乗りに免許が必要になった背景には、水ポケモン使いと輸送船の痛ましい事故が何件も潜む。活発なトレーナーが切り開いた木々が社会問題として取り上げられたのは、ほんの半世紀前のことだ」

 

 「そして」ギーマは言葉を切った。大事な台詞の前振りとして。

 

「無限の(きん)を生み出す技があるのならば、それに掛かる制限はこれらの比ではないだろうね。バトル外での使用には厳格な監視が必要になる。当然、それを使えるポケモンとトレーナーには常に。それを嫌うなら、技を忘れてもらうことになる。君には理不尽に思えるかもしれないが──」

 

「──まさか!善良な市民として、四天王サマがそう仰るなら否やはないよ。もちろん俺としては、うちのコにそんな大それた力はないと言うしかないけどね」

 

「ありがとう。そう言ってくれると気が楽だ。ああもちろん、噂は所詮噂だった、と判断できたなら、その時はなんの処置も必要ないとも。そして、いざ必要になるのだとしても安心して欲しい。損害補償年金というものがあってね」

 

 言いながら差し出された紙束をぱらぱら捲って目を通す。と言っても、マスターからギーマの用件を伝えられた時点でこの制度が絡むことは分かりきっていたし、内容は既に把握しているので、ほとんど形だけ。

 俺は紙束を閉じると、これみよがしに呻った。

 

「なるほど、なるほど。うーん……」

 

「なにか不明点でも?」

 

「不明というより……不満かな。厚かましくて恐縮だけど……」

 

「構わないとも。言ってくれ」

 

「なら遠慮なく。少なすぎないかな?」

 

「ふむ……」

 

 ギーマはその言葉の続きを促すように、考え込む様子を見せた。どうせ想定済みだろうに。

 

「そっちとしては、無限の富を見積もってる訳でしょ?この年金の計算式に仮に∞を代入したとして──でも支給額には上限があるじゃん。生活に困らないだけは貰えるみたいだけど……()()()()?ってのが正直な感想だよね」

 

 「というかむしろ──」勿体ぶって言葉を切り、指さして続ける。

 

「そっちもそう思っちゃうんじゃない?本当に()()()()の補償で、大人しく従ってくれるのかって」

 

「……確かに一考の余地はある。一概に”ひでんわざ”と言っても、何分前例のない話だ。既存の制度で対応するには無理がある。なら──そうだな。一応、なにか要求はあるかい?」

 

 用意された台詞に違いなかったが、さも今考えた風にギーマは言った。

 

「使いっ(ぱし)りとは言え、事が事だからね。多少の権限は任されているとも」

 

 ここが本題だ。たぶん相手もそのつもりだろう。

 とは言え、さして大それた要求をするつもりはない。金が欲しければもっとやるべきことがあり、権力が欲しければもっと尻尾を振るべき相手がいるから。

 欲しいのはささやかな人脈だ。ただし「信頼できる」と前置けば、この街では入手困難になる。

 

「そうだな……学者さんに伝手が欲しいかな」

 

「ほお。学者」

 

「うん。異世界、ハイリンク、ホワイトフォレスト、あとは──神話、とか。この辺りに引っ掛かる研究テーマの人に伝手が欲しいかな。ま、あとで候補者リストでも送ってよ」

 

「……ああ。わかった」

 

 返答の後に僅かな沈黙を置いて、ギーマはこう切り出した。

 

「……ブラックシティ(この街)の七不思議に、不協和音(シンクロノイズ)という──」

 

「──はは」

 

 わざとらしい、乾いた笑いでそれを遮る。

 

「ギーマさん、俺は慎重に言葉を使う人が好きだよ。だから、()()()()()()使()()()()()()()()。一応聞くけど、興味本位って理由じゃダメ?」

 

 動機を話すつもりはない。という含意を正確に読み取り、その上でギーマはそれを許した。「降参」と言いたげに肩をすくめて、微かにヒリついた空気を払拭するように笑う。

 

「……悪かったよ。理由はまあ、学者先生には話してくれ」

 

「もちろん。ありがとう」

 

「それで、他に要求は?ああそれから、この対価についても何か契約書でも作ろうか?」

 

「ないし、要らない。繰り返すようだけど、軽率に言葉を使う人間は嫌いだ。そんな奴との交渉なら破綻した方がいい」

 

「その信頼を裏切らないように努めるよ。さて、善は急げだ。もしよければ、さっそく”技忘れ”のところに行こうじゃないか」

*1
イッシュ地方では前述のファッションが流行しており、こうした装い、あるいはこうした装いの女性を”パラソルおねえさん”と呼んだ。という独自解釈。





不協和音(シンクロノイズ)
 隣り合う世界との混線現象。あるいは単なる集団幻覚。
 ブラックシティでは以前から、「この世界とよく似た異世界」に関して証言するものが度々現れている。典型的なのは「ブラックシティの位置には、本来ホワイトフォレストという地域があった」というもので、また変わった例では、ソウリュウシティのジムリーダーが──(コピペミスでここから先は存在しないようだ。)

 ※この小説が2章、3章と続かない限りこれ以上は本文に登場しない予定です。一話の(ハイブ)も同様に、意味深なだけの言葉だと思ってください。
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