ゴールドラッシュ 作:switch2外れた
前回アンケートの結果より、台詞冒頭の字下げは今後も廃止します。前回以前も順次対応予定です。ご協力ありがとうございました。
まだまだ執筆初心者ゆえ、単純な形式のことで度々ご迷惑をおかけしてすみません。今後ともよろしくお願いします。
最新作からのプレイヤーには信じがたいことだろうが、昔のポケモンは技を忘れさせたり思い出させたりするのに専用のNPCの元まで赴く必要があった。
現実となったこの世界ではつまり、特定の職人がいなくては、技を思い出させることはできない。そして、この職人というのは地方ごとに一人いるかどうかという希少さで、だからこの職人に話を通しておけば、特定の技の使用禁止というのは意外と簡単にできる。
もっとも、わざマシンになっていない、などの条件はあるが。
忘れさせる方はわざマシンでも使って上書きすれば簡単にできるのに、それでも職人に頼るのは確実性を重視するゆえだろう。
忘れさせたフリをして隠すとか、ほぼ同じ効果の技があることを秘匿するとか、姑息な手段はいくらかある。しかし習得技をすべて開示させられる"技忘れ"の職人なら、そんな抵抗も無視できる。
「んで、その"技忘れ"の職人はどこに待たせてるの?」
俺の質問に、なぜだがギーマは得意気に笑った。
「ふふふ……君、
「ん?なんで急に……ってああ。宿の方ね」
この世で最も安全な宿。
利用するには招待状か、類い稀なる幸運、あるいは知恵が必要になる。
俺は前者を持っていて、つい昨日も利用したばかりだ。それぐらい安全だと分かってなければ、流石にあんな呑気はしていない。
「しかし、となると結構遠いね。こりゃまた襲撃とかあるかも……」
「遠い……?徒歩でも20分ほどだろう?そんな時間で襲われる不安が?」
「ん?」
お互いに首を傾げ顔を見合わせる。ちょっと考えてすぐに思い至った。
「もしかしてマスターから紹介状もらった感じ?」
「そうだ。まさか誤解でもあるのか?」
「まあ、うん。あの人実際使ったことはないからなぁ」
だからこそ、その位置に関するセキュリティは非常に厳しい。特に新参の客に対しては。
「あそこって、出るのは緩いけど入るのは厳しいんだよ」
チェックアウト時にある程度自由な場所まで送ってくれる、というだけではない。
客室の窓を自由な何処かの窓に繋いで、その窓から外に出ることすら可能なのだ。
しかしこれが入室となると話が変わる。ホテルへ行くためには"ドアマン"の連れ歩く特別な"スケッチ"を覚えたドーブルに頼まねばならない。一時的な外出からの帰還だろうと、常連からの頼みだろうと例外はない。
加えて──
「──ドアマンの位置は毎日変わるんだ。俺は会員だから次の位置を教えてもらったけど……」
「……聞いても?」
「えっと……ほとんどライモンに近い位置だね。こっからだと電車で7、いや8駅かな」
「それは……」
ギーマは少し沈黙した。恐らく、ホテルで待つ職人の方に出てきてもらうことも考えているのだろう。
しかしその職人は極めて貴重な人材で、技忘れも──技の一覧や効果を確かめることも考えれば──数秒で済むような用ではない。
加えてこの街の治安の悪さは、今この場所の惨状が証明している。
迷った末に、ギーマは自衛能力を有するこちらでリスクを負うことに決めたようだ。
「……まあ、行くしかないか」
心底嫌そうに、顔を顰めギーマは言った。
▽▽▽
平日午後、それも退勤ラッシュの時間に被らないタイミングだったので、車内は随分と空いていた。
それでも10名近くは乗っていたので、残念ながら端の席は空いていない。仕方なく真ん中の辺りに座れば、ギーマがその正面に立った。
ちょっとした威圧感に眉を顰め、しかし文句を言うほどではないので代わりにこう言った。
「ギーマさん足長いね」
「ああ。ありがとう。でいいのかな?」
「褒め言葉に聞こえたなら……?いや嫌味でもないけど」
「私も足長いよ」
「……うん。そうだね?」
トウコには褒め言葉に聞こえたらしい。しかし張り合うところではないだろ。あるいは俺への嫌味か。
そんな気まずい一幕の間にも、乗客がまばらに乗り込んでくる。最後に俺たちの反対の席に男が座ると、ドアが閉じた。
ガタンと一度大きく揺れて、電車が動き出す。さて今度はちゃんとした話でも振った方がいいだろうか。なんて考えて──ッダン!と大きな足音が、それを断ち切った。
向かいの席の男が立ち上がっていた。ツンと天井を向いた顔は、「今まさに天啓を授かりました」って感じの夢見がちな表情。
不審者に対し瞬時に緊張した車内の空気も、警戒して腰を落とすギーマにも目をくれず、男は叫んだ。
「
ニワトリの真似でもするように、脇に手を当て腕を上下に。陽気な足踏みが車内を騒がせる。
乗客の殆どが無言のままに車両を移っていく。叶うならそれに倣いたいところだが、無意味なのでしない。俺はため息と共に、むしろより深く座り込んだ。
「これは……わたしたちの客か?」
「客ってか刺客ね。こんなんでも」
うんざりした顔でそう言い合うギーマと俺に、同じ表情のトウコが聞く。
「……もうパパっと倒しちゃっていい?」
「いや、ポケモンバトル仕掛けてくるまでは待とう」
俺の言葉にギーマは瞠目した。
「バトル……?
「無関係な相手を巻き込むことのリスクを承知してるんだよ。だから一般人が
とは言え複数同時に手持ちを繰り出したりはするので、
「その言い分から察するに、彼は被害者で、本当の襲撃者は──」
「──
解説する間も、男は奇妙な踊りを続けながら移動する。距離を取ってこちらに向き直り──開いた間合いは、ちょうどお互いがポケモンを繰り出せる距離。
「キビィッ!」
一声鳴いて、男は3つのボールを鷲掴みにした。
トウコちゃんがそれに応えるべく立ち上がろうとして、ギーマがそれを制した。
「ここは任せてくれないか?
「それに、君たちは加減が苦手そうだ」と小声で続ける。
とは言え面倒事を請け負ってくれるなら大歓迎だ。なぜかギーマの言葉をガン無視で俺の目を見つめるトウコを手招いて、俺は気楽に声を掛けた。
「じゃ、お言葉に甘えて。頑張れ~」
「ご声援どうも」
ギーマが男に向き直る──その時点で、いつの間にか三匹ものレパルダスが足元に侍っていた。
俺が早業に口笛を吹く──よりも早く、対する男がボールを一息に放り投げた。同時に猫たちが一鳴きすれば、足跡のようなマークが宙を翔る。
「"ねこのて"*1」
敵のポケモンが降り立つ。その周辺の床に着弾した足跡が──三つの
敵に行動の猶予すら与えず、大口を開けたそれらが勢いよく閉じる。ガチガチガチィッと噛み合う刃のすべてが敵を捕らえた。
なお流石に両断なんて事にはならず、締め付けられたポケモンは戦闘不能に留まった。その様子を見てギーマは満足げに声を上げる。
「
「ねこのてパ*2かあ。ギャンブラーらしい……いや逆かな?」
技の固定によって乱数の要素を減らし、試行回数をもって安定を図るそのパーティ構築は、ギャンブルを嫌うゲーマーの思想とも言える。むしろギャンブラーの美学に反しているのではないだろうか。
「そこんとこどうなの?」
「単純な話さ。分の悪い賭けは嫌いじゃないが、勝つのはもっと嫌いじゃない」
俺はヘタクソな口笛を吹いた。
「良い
冗談半分に、"ラムのみ"を放り投げる。
「おっと。これは?」
「
「なら彼に──」
「──いや解除する方が不味いよ。パニックになられても困るし。さっきも言ったけど、一般人ならバトルが終われば解放されるから」
俺の言葉を証明するように、ポケモンをボールに戻した男は、変わらず
入れ替わるように叫びが上がる。
「キビーッ!」
それまで沈黙を貫いていた乗客の一人が立ち上がり、踊りだす。
ズンズンと足を踏み鳴らしながら移動し、ギーマさんに対峙した。両手いっぱいのモンスターボールは、今回は4つある。
「まさか──残った全員
ぐるりと巡らせた視線の先、座ったままの乗客たちは皆、不自然に沈黙を保っている。
「まさか!」と言って、俺は笑った。
「たぶん乗客全員が
「……あいにく経験がなくてね。それはなんとも言えないが──」
「キビーッ!」と叫んで、OLらしき乗客の女がボールを投げた。
「──この街は嫌いだ。レパルダスッ!」
ポケマス履修してないから原作の少ない台詞で妄想するしかなく、ギーマさん喋らせるたびに苦心してます。トウコちゃんはほら、主人公って人それぞれの解釈が許される感じあるから……
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